14.大災害とクラウド

一昨日、富士通グループが昨年12月に竣工させた最新型設備を持つ横浜データセンターを見学した。もともと、この見学は、この度の東北関東大震災が起きる前から予定していたものだったのだが、こうした大震災が起きた後の見学は、これまでとは全く異なる視点で見ることになった。このセンターは、情報セキュリティ格付けランクで17段階中最高の「AAAis(トリプルA)」を付与されているだけに見るからに堅固な陣容を誇っている。

昨年、同じランクの格付けを持つ、富士通の館林のデータセンターを見学したときには、正直に言って、その堅牢なセキュリティの仕立てを見ながら「ここまでやるか? ちょっとやりすぎじゃないの?」という、多少批判的な感想を持ったものである。しかし、今回の横浜データセンターは、さらに館林以上の様々な仕掛けが施されているのにも関わらず、「世の中は何が起きるかわからないから、このくらいやらないと駄目なんだろうな」と全く真逆の感想になった。

こうした変節をきたす私の感想も身勝手なものだが、あれだけの大災害を経験すると世の中の見方や考え方は180度変わってくる。実際、3.11大災害以降、こうしたデータセンターに自社のIT設備を移管する、いわゆるクラウド商談の引き合いは大変活発で、隣接の空き地に建設予定だった第二棟の建設計画を早めないと、今後の旺盛な需要に応えられそうもないという。お客様が、そうしたクラウドへ移行する機運を高めているのは、災害によるIT設備を自分で所有することのリスクを肌身で感じたからだけではない。その大きな心配は停電である。多くの、お客様のIT設備は、落雷などによる電源の瞬断に対しては、無停電電源装置によって、そのリスクを回避しているが、毎日起こる2時間、3時間の停電となると話は別である。しかも、その停電は、来年夏まで続きそうだというのだから、もうパニックになっている。コンピュータシステムは一度電源を切ると、今度は、そう直ぐには立ち上がらないからだ。

このAAAクラスのデータセンターとなると、給電電源は2系統持っており、ある変電所が落雷で駄目になっても、瞬時に、もう一つの変電所側に切り替えれば事なきを得る。普通は、二つの変電所が同時に配電不能となるような大規模停電は滅多に起きることはない。ところが、今回の東京電力の計画停電では、66KVの特別高圧給電を受けている大口ユーザは漏れなく停電対象になるのだという。要は一般家庭より遥かに切りやすいからだ。だから躊躇なく、二つの給電系統を同時に切られるわけだ。幸か不幸か、この横浜データセンターは稼動開始からまもなくして、普通には滅多に経験しない大停電を毎日経験することとなった。そして連続72時間運転可能な自家発電設備を、毎日のように頻繁に稼動させている。図らずも、稼動開始3ヶ月にして、既に自家発電装置稼動のプロとなってしまった。

大災害は、形のあるものだけを破壊するだけに留まらない。今回は、津波で戸籍情報を失った自治体もある。多くの家庭で家族の大事な思い出が詰まったアルバムをも失った。これは、お金では買えない貴重な財産である。世の中、あり得ないことが起きる。早速、私も、デジタル化しておいた家族写真をクラウド・サービス会社の貯蔵庫に放り込んだ。多分、その貯蔵庫は日本でなくアメリカのサーバの中にあるのかも知れない。そしてIDとパスワードを二人の息子にメールで送っておいた。こうすれば私が死んでもアルバムを引き出すことができるだろう。

今回の大災害は多くのインフラを破壊した。道路や橋、鉄道だけでなく、ITインフラも、それが置かれていた建物と共に破壊された。銀行のATMやオンライン端末、商店やレストランのPOS端末など、日常の生活の中に、いかに多くのネットワーク機器が使われてきたか、改めて思い知る。そして、今、あちこちの被災地で、普通のパソコンや携帯電話を使って、その機能を代替しようという試みがアグレッシブに行われている。平常時であればPOSやATMと言った専用機器の便利さを、パソコンや携帯電話といった、ありものの汎用機で代替するなど、とても耐え難いことではあるが、こうした非常時には、そんな贅沢は言っていられない。そういえば、未だ社会インフラが整っていない新興国では、携帯電話を金融決済の手段に使っている。グラミン銀行のように、多数の貧者をクライアントに持つ銀行では、先進国で通用する通帳やカードは役にたたない。しかし、携帯電話だけは世界中、どんなに貧しくても、皆が持っているからだ。

ひょっとすると、この先進国と新興国との比較において、一体、どちらが先進的なITシステムと言えるのだろうか。冷静に考えると、携帯電話さえ持っていて、もちろん、しっかりとした本人認証を前提として、あらゆる決済が出来てしまうのならば、従来使われていたITインフラは、何の意味があるのかということにもなってくる。今回の大災害の経験は、世の中の仕組みを全てガラガラポンと置き換えることにより、本来徐々に進展するはずだったクラウドシステムを一気にITインフラの主役へと推し進めてしまうかも知れない。そうした新たなイノベーションにより、日本全体が再び活気を取り戻すことを願う。

コメントは受け付けていません。