150   ブラジル旅行記   (その4)

リオの6月は南半球だから真冬にあたるが、平均気温は26度、昼間は30度近くにも なるが、朝晩は16度近くまで下がり過ごしやすい。あの有名なリオのカーニバルが開 かれる1月は、ちょうど真夏になるが、それでも34度くらいで、その暑さは日本の夏 とそれほど変わらない。ドバイやムンバイのように、気温が50度まで上がるようなこ とはない。緯度は、丁度南回帰線上で、北半球で言えば台北くらいと思えばよい。 雨も適度に降り、極度の乾燥地帯でもなく、極めて過ごしやすい気候である。

その上、ブラジルは石炭、石油、鉄鉱石などの鉱物資源にも恵まれ、適度な降雨もあり 緑も多い。広大な耕作地にも恵まれ、食料の心配をすることもない。極度に地下水に 依存したアメリカの農業が、いずれオガララ帯水層に蓄積された化石水が枯渇すると 同時にだめになったときに、世界の穀倉地帯は、このブラジルとロシアしか残されてい ない。中国の農業も、今や、殆どが化石水に依存することになった。こうして考えると、 まさに、21世紀に世界の超大国となる資格は、資源という観点から見れば、中国より も、このブラジルの方が遥かに可能性が高い。

にも関わらず、ブラジルの評価が、それほどに高くないのは、私は、やはりブラジルの 治安の問題が非常に大きいと思う。治安の問題が大きいと、駐在員を現地に送るにして も二の足を踏む。結果として投資に対して消極的にならざるを得ない。この治安の問題 さえ解決されれば、ブラジルは21世紀の真の超大国になることは間違いないだろう。

ブラジルにおける治安を危うくしている最大の要因はファヴェーラ(ブラジル特有のス ラム街)である。一般的に欧米では上流階級者や富裕層ほど高い所に住む。ところが、 リオデジャネイロでは丘の上にファヴェーラがある。そして、リオではファヴェーラの 人口は、総人口の4分の1とも言われている。ブラジル政府は近年、不法占拠者として 、このファヴェーラを強制的に撤去し、その跡地に公営の集合住宅を建てている。この 旧ファヴェーラから追われた人々は、さらに山奥に、もっと巨大で、さらに恐ろしいフ ァヴェーラを築いてしまった。政府の意に反してファヴェーラは拡大の一途をたどって いる。そして、私たちは、意にそぐわず、その巨大な山奥のファヴェーラに足を踏 み入れてしまった。

3日間の国連のグローバルコンパクトのコンファレンスが終了したあと、3日間の本会 議の間に1日だけ空きがあったので、皆で、リオの観光ツアーに行くことにした。特に 予定もしていなかったので、ホテルに置いてあったパンフレットのいちばん上のメニュ ーを申し込んだ。マイクロバスで7時間、料金は270レアルであった。翌朝、オンボ ロのマイクロバスがホテルの玄関にやってきた。参加者は10人ほど、全員、Rio+20の ために世界中からやってきた人たちである。日本人、韓国人、アフリカ人で白人が 居ないのがちょっと気になったが、いつものように「まあいいか!」という調子で気軽 に出発した。後で分かったのだが、欧米人たちは知っていたのだ、このバスツアーの危 険さを。

だから決して「まあいいか!」では済まなかった。まず、何も差し置いて、リオ最大の 観光スポットであるコルコバードの丘に向かうのだが、この丘に向かうには、一般的に はダウンタウンから登山電車に乗っていくらしい。ところが、このオンボロバスツアー は電車の料金が高いせいなのか混んでいるせいなのかわからないが、バスで険しい山道 を直接登ってコルコバートの丘に向かうのだった。当然、先述のファヴェーラの中を通 って行く。昼でも薄暗い鬱蒼とした森の中に、ファヴェーラはあった。汚い、本当に酷 いバラックだ。中には、大昔に建てられたお金持ちの邸宅のような建物もある。しかし 、今や朽ち果てた、その建物の中に何家族か同居しているようでもある。本当に人が住 んで居るのかとも思われるが、時折、人影が見える。

山道は舗装もされていないので、デコボコである。その道を昼間なのにライトを点けて バスは全速力で疾走する。ときおり、木陰の間から、眼下にリオの街が垣間見えるのだ が、一旦停止もせずに、運転手はひたすら疾走する。とにかく、流石にガイドさんだけ は英語を話すが、一度止まったら大変危険な目に合うから目的地までは一切止まらない と警告する。とんでもないバスに乗ってしまったと後悔しても、もう遅い。しかし、お蔭様 でリオ最大の、しかも最も怖いファヴェーラの実態をこの目で見ることが出来た。人間 万事塞翁が馬である。

ブラジル最大の観光地であるリオで、これほど英語が通じないということは、他の都市 では想像もつかないほどだ。なにしろ、きちんとしたイタリアンレストランで「ワイン リストを下さい」と言っても一切通じないのだから、他の単語などは全くだめである。 これはきっと英語力だけにとどまらないように思う。若い人たちがファヴェーラに入ら ないで済む方策、そして若い人がファヴェーラから抜け出す方策は、きっと「教育」 だ。麻薬取引以外の職業に就くための職業教育が絶対に必要である。

そして、日本以外で、専門職として技能を身に着けるには英語は絶対的な基本である。 例えば、コンピュータ技術の解説書は世界中で日本語と英語しか存在しない。つまり 日本以外では、英語が出来ないと専門技術は一切身につかないというのが常識である。 ブラジルがもっと成長するためには、その貧困と格差の問題を乗り越えるには、若い人 達にきちんとした英語教育を施さないとだめだ。逆に言えば、英語教育だけで、ブラジ ルのあらゆる問題が大きく前進し、解決されると思われる。この大きな可能性を秘めた 21世紀の超大国が、本当の意味で超大国になるために一番必要なことは、英語教育を 含めた人的資源の開発である。

コメントは受け付けていません。