149 ブラジル旅行記 (その3)

今から20年前の1992年、ブラジルのリオデジャネイロで開催された 「環境と開発に関する国際連合会議」(俗称:地球サミット)は 世界172ヶ国から首脳を招き、各国のNGO、NPO含めて4万人が集結する 国連史上最大の会議となった。そして、この会議で歴史的な「リオ宣言」 が採択され、今日の環境問題の骨格をなす「気候変動枠組条約」と 「生物多様性条約」が提起された。

その10年後、今度は南アフリカのヨハネスブルグで、この地球サミット の第二回目が開催され、最終的には、「ヨハネスブルグ宣言」が採択さ れたのだが、もはや、既にこの時期から先進国と開発途上国との格差を 巡る対立問題が顕在化し、実質的には何の進展も見られなかった。この会議 の事を批判する人々は、「Rio+10ではなく、Rio-10だった」と辛らつな 表現を隠さない。

そして、今年、2012年は、このヨハネスブルグの地球サミットの経験 から、先進国、途上国共に共感できるための、下記の3つのアジェンダ を組んで成功に万全を期した。即ち、第一番目は人口爆発と資源制約の 問題、第二は貧困と格差の問題、そして、三番目は幸福度の定義に関す る問題であった。1992年に大成功を収めた地球サミットの開催地である、 リオに再び戻って、Rio+20として世界の環境問題を、もう一度問い直そ うという国連の懸命の努力にも関わらず、今回、結果的には歴史の残る ような成果は一つも出せなかった。

リオで20年前を知る人の話を聞くと、まず街の様子が全く違うのだと 言う。20年前のリオの市街地の空き地と言う空き地が、NGO、NPOの人た ちが設営したテントで溢れかえったというのである。それに比べれば、 まず本会議の前に現れる、こうした市民団体の勢いのなさが、この会議 の成功に大きく影響するのではないかと言っていた。

さて、なぜ多くの環境活動に関わるNGO、NPOは、今回、このRio+20に参 加しないのだろうか?いや、参加しないのではなくて、参加できないの だ。世界のNGO、NPOの活動は寄付金の依存するところが大きいわけだが、 こうした社会貢献活動への寄付金は、その殆どが金融セクターから出さ れている。特に、地球温暖化防止に伴うCO2削減運動に関して、金融 セクターは高い関心を持っていた。CO2を新たな通貨とした金融取引 の可能性に期待したからである。その金融セクターが、今や米国だけで なく欧州までもがボロボロになってしまったので寄付金どころではない。 多数のNGO、NPOは、リオに来たいのに、お金がなくて来れなかった。

日本の野田総理は、国会運営上からも参加は無理だと思われていたが、 直前になってオバマ大統領、メルケル首相といった欧米経済の主人公が 欠席となると、もう会議は締まらなくなる。もともと、先進国と途上国 の対立があるなかで、この2大巨頭が出席しないとなれば、もう何とし ても合意を纏めるのだと言う切迫感はなくなった。深刻な欧州経済危機 の中、環境問題どころではないメルケル首相が欠席を決めたのは理解で きるとしても、アメリカのオバマ大統領の欠席はなぜなのだろうか?

アメリカは今年、大統領選挙の年である。そして、オバマ大統領が 先頭に立って推進している「アメリカ製造業の復活」は、どうも順調に 進んでいるように見える。その最大の原因は、もちろんシェールガスで ある。今や、アメリカはエネルギーコストが最も安い国の一つとなった。 このためエネルギーコスト依存度の高い業種から、目覚ましい速度で 復活を遂げている。しかし、このシェールガスについては、欧州は将来 地下水を汚染すると言う環境問題から開発を避けている。当然、アメリ カでも、この危惧はあり、一部に採掘反対運動が起きている。この最中 に、下手にRio+20で、このシェールガス問題を取り上げられたりしたら、 まさにオバマ大統領の選挙戦に大いに響くというわけだ。

そして、一番驚いたのが、ブータンから提案された「幸福度の再定義」 である。爆発する人口に対して絶対的に不足する資源問題を解決するに は、GDPに代わってGNHを政策目標にしよう と言うブータンの提案は、先進国の中では一定の評価もあったと思う。 しかし、途上国は全く納得しない。自分たちの生活レベルを先進国 並みに向上するには、絶対的なGDP成長を政策目標にしないとダメだと いう強い信念があり、ブータンの提案にはこぞって猛反対をした。

翻って欧州に戻ってみれば、このたびの欧州経済危機は何もしなくても 電力需要、ガソリン需要は大幅に下げる。スペインなどは若者の50% が失業しているわけだから、エネルギーを消費する場所すらない。日本 だって、現在の景気低迷が続けば、2030年までに、黙っていても、 13%の電力需要は減ると言われていた。現在、円高や電力コスト高騰 で、国内産業の空洞化は一層加速しているので、さらに電力需要は減る。 環境問題の観点からすれば経済危機は、まさに好ましい環境とも言える。 こここそが環境問題のパラドクスである。

従って、単に省エネ、CO2削減が出来れば全てよしというのは、環境 問題だけに関わっている人たちの論理であって、地球上の70億人の人 類の生命を守るには何がベストか?という議論は、そう単純ではない。 あのチェルノブイリに設定された広大な立入禁止区域は、今や、動植物 の楽園となっていると聞く。環境を汚す最大の要因は、人類の存在そのものであり、 人類が毎日生活していること、それ自体が環境破壊だと言うことを示している。

だから、我々は、「人類の幸せの追及」と「環境破壊の防止」とを、 上手に折り合いをつけていかなければならない。企業も利潤の追求をし ていかない限り事業の継続はできない。だからこそ、環境活動は単に CSR活動として行っていくだけでは持続性がない。環境活動を本業の 中で、利潤を得る活動と一体化して追求していかない限り、きっと長続 きしないだろう。

欧州経済危機は、これから世界経済に大きな影響を与えざるを得ない。 そして地球温暖化のせいだと思われる、荒くれだった異常気象は世界の 食料を間違いなく大きな危機に陥れる。こうした人類存亡の機に際し、 より現実的なレベルで環境問題を話し合う場が、この「Rio+20」の反省 の上にたって、いち早く設定されることを願う。

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