本日の13時30分から記者会見を行うということで、公表のお許し が出たので、私が一昨年から参加した規制制度改革分科会エネル ギーWGの様子について、このカラムでお話をしてみたい。
一昨年より、内閣府・行政刷新会議の配下にある規制制度改革に 関する分科会でエネルギー分野を中心に担当させて頂いてきた。 一昨年初めて、この分科会に参加して時は、正直言って『なぜ世間で は当たり前と思えることが、こんなにも七面倒くさい理屈をつけ て簡単には出来ないように規制しているのか?』と疑問に思ったもの である。多分、過去に、こうした規制の網を潜り抜けて悪事を働 いた者が沢山居たので、二度とこうした悪事を起こせないように 法律で雁字搦めにしたのではないかと想像する。
日本は、既に1000兆円の借金があり、今後は、国のお金を投資し て産業を振興させるという手段が、もはや思うようには取れない 状態にある。さすれば、お金のかからない方法、即ち、民間の創 意工夫ややる気を喚起させるための規制緩和しか、この日本の国 を再生させる道はない。ああ、しかし、官僚と言う人たちは、な ぜ、こうも一度決めた法律を変えることに消極的なのだろ うか? いかに、現行法を変えないで済むか、規制緩和の要求を 退けるかと言うことに、ありったけの知恵を絞って抵抗する。
委員の方々の多くは大学の先生たちで、こうした官僚とのやりと りには慣れておられて忍耐強く攻めていく。私のように、直ぐに 激情に任せて逆上するようなことは滅多になされないのである。 『こうした作業は、もう私には向かない』と思っていたら、昨年 の後半になって、また、この規制制度改革分科会のエネルギーW Gに参加させて頂くことになった。一昨年と昨年との大きな違い は、あの3.11大震災と福島第一原発事故である。これは、自 分が、もはや、こうした作業に向くとか向かないとか言っている 場合でないことを強烈に自覚した。やるしかないと思ったわけで ある。
私は、経団連の産業政策部会を取りまとめさせて頂いているが、 元々、日本企業は5重苦(為替、税金、環境(CO2)、労働規制、 貿易自由化)を抱える母国日本で製造していたのでは激しいグロ ーバル競争には勝てないので、日本脱出を加速していたわけだ。 そして、この大震災・福島原発事故を経て電力の安定供給、及び 電力価格という2つの大きな課題を加えて7重苦となった。 これまで、何とか日本に生産拠点を残そうと考えていた多くの 企業ですら、この電力問題で一気に海外移転に踏み切っている。 いや、むしろ、この電力問題は、既にあった5重苦以上の大きな 問題として捉えている企業が極めて多いことが大問題である。
今回の規制制度改革分科会エネルギーWGでの作業の中心は、 将来原子力発電に替わるべく期待をされている再生可能エネルギー 事業を促進することを妨げる規制について見直しを迫るもので あった。もちろん、今すぐに規制を緩和しても明日から再生可能 エネルギー発電が動き出すものではないが、今、決めないと永遠 に日本は電力の安定供給に関する解を見いだせないことになる。
ああ、それなのにである。確かに、各省庁とも一昨年とは異なり 、何とかしなくてはという心情は読み取れる。しかし、議論の結 果は依然として頑なである。『小水力は河川に流れている水を取 水するわけじゃあないのだから水利権とは関係ないでしょ!許認 可じゃあなくて届け出だけにしてください。』と言っても一向に 首を縦に振らない。
まあ、それだけ、過去に水を巡る争いは、血を流すくらい大変だ ったのだろう。白洲次郎が東北電力の会長になっても東京電力か ら猪苗代湖の水利権を取り戻すことは出来なかったのだから。 それにつけても、あの日本より平坦で、殆ど水が流れない、あの ドイツでも小水力発電所は5000箇所もある。これから、ドイ ツを何度も引き合いに出すが、ドイツは再生エネルギーに関して は世界で一番の先進国である。
次に、地熱発電である。日本は世界で有数の地熱発電資源大国で ある。しかも、世界の大型の地熱発電所の殆どは日本製である。 ああ、それなのに、肝心の日本国内では、国立公園法と温泉法の 縛りで、地熱発電所は殆ど開発されていない。なぜなら、日本の 地熱発電所の立地適地は、殆ど国立公園内にあるからだ。そして、 この未曽有の国難に際しても、環境省の自然公園課の態度は立派 である。『尾瀬沼を開発から守ったのは日本の厳格な環境行政だ。 何としても国立公園内に地熱発電所は作らせない。』と職務に 忠実な方で、全く話にならない。
最後に取り上げたいのが、木質バイオマス発電に使う屑となった 木質バイオチップの産業廃棄物からの適用除外である。どうも、 有価で購入されないものは、廃棄物という定義になって、簡単に 処理や移動ができない代物となる。じゃあ、1トン1円でどうだ !仮に値段をつけても、運賃よりも購入価格が安いものは逆有償 と言って有価とは認められないらしい。従って運賃以上の値段で 買ってもらわないと発電資源として利用できないわけだが、そん な高い値段で木くずを買っていたら誰も発電事業をする人はいな い。
また、ドイツの例を引き合いに出すが、ドイツでは冬の暖房の半分 まで木質バイオチップで賄っている。しかも、その熱で発電まで しているのだ。いわゆるコジェネである。木質バイオチップは再生 可能なので幾ら燃やしてもCO2排出にはカウントされない。そんな CO2削減の便利な仕組みをドイツの人たちは有効に使っているの である。(もちろん木質バイオを燃やせば実際にCO2は出る)
ところが、環境省の言い分は、現在、木質バイオマス発電をやっ ている人たちからは、そんなクレームは出ていないと言う。それ は、そうだろう。規制緩和の要求を出している人たち、つまり困 っている人たちは、今、やっていない人たちである。今、やって いる人たちからヒアリングしたって全く無意味である。
まあ、そんな感じで、日本の官僚は与えられた職務には極めて忠 実で厳格な仕事をする。その職務さえ全う出来れば、日本の美しい 自然を守ることが出来れば、日本が潰れたって、失業者がいくら 出ようと関係ない。少なくとも私にはそう思えた。そうした官僚 のセクショナリズムを覆すことが出来るのが『政治主導』である。
今回は、それが最後で働いた。岡田副総理、中塚副大臣の強い 意志で、103項目の多岐に関わるエネルギーに関する規制緩和 が出来上がった。もちろん、その裏では、先ほどから非難してき た霞が関の官僚の方々が、最後には『これじゃあ、日本は潰れて しまう』と『職務には不忠実』になることを覚悟されたからに違 いない。今回、最終フェーズにおいて力を発揮された、岡田、中 塚両大臣と、その要請に応じられ決断された主管官庁の方々に 心から感謝をしたい。
そして、最後に日本の産業界を代弁して、さらに二つの点を要望 したい。一つは、今回の規制緩和で再生可能エネルギーの開発に は大きく拍車がかかることだろう。それで、将来の電力の供給 不安はだいぶ解消される期待が出てきた。しかし、産業界の電力 に対する懸念は、供給の安定性と、もう一つ、電力価格である。 日本には電力を大きなコスト要因とする産業が多岐にわたっている。
今の日本の電力コストは韓国の3倍である。それが、今回の原発 事故で、さらに値上げされると聞いている。これでは、日本の製 造業の日本脱出は止まらない。日本の電力を高止まりさせている 各種規制の見直しが必要である。例えば、日本の光ファイバーを 中心とするブロードバンド固定網における通信コストは世界一安 い。これは、まさに競争政策の結果である。同じことが電力に関 して出来ないのか?それが出来なければ、日本の製造業、雇用は 大きく破たんする。
もう一つは、霞が関の官僚が清水の舞台から飛び降りる覚悟で 一大決心をした規制制度改革も、最終決定権を持つ地方自治体の 首長がOKを出さない限り、全くの徒労に終わってしまうことで ある。これまでも、そんな例を幾つも聞いている。本当の意味で 保守的なのは、霞が関の中央官僚ではなくて、地方の首長や官吏 である。ここで、地方が積極的に腹を括ってリスクを取らない限 り、日本の再生可能エネルギーの推進、ひいては地域の産業や、 雇用の拡大は一歩も先には進まない。