中国のCCTVを見ていたら、北京で大気汚染問題で政府に対する抗議デモが行われている映像が飛び込んできた。デモのプラカードには、PM2.5の文字がある! え! PM2.5って何だろう??と思ったが、そんなことは皆の前ではとても恥ずかしくて言えない。何しろ、私は、ここ3年も各種環境セミナーで偉そうに講演をしていたのだから。
早速、社内の環境技術部門の方からPM2.5問題について教えて頂いた。私だけが聴くには余りにもったいないので、ここで少し書いてみることにした。既に、よく御存じの方には全く無駄なので、このカラムは読み飛ばして頂けるとありがたい。
もともと、PM2.5のPMとはParticulate Matter(微粒子状物質)のことで、2.5は2.5μmで人間の髪の毛の直径が100μmだから、その40分の一という極めて微小な物質である。従来、大気中の環境汚染はPM10(10μm以下)の微小物質で測定されていたが、PM10では肺胞の奥まで入っていく微小粒子までの測定は正確には出来ないとして新たにPM2.5(2.5μm以下)という定義で環境規制がなされるようになった。米国では1997年に制定、日本では2009年にようやく制定されたばかりである。中国では2016年に制定される予定となっている。
PM2.5 は肺胞まで侵入し、肺がんや重度の気管支炎に繋がる恐ろしい物質である。このPM2.5の北京での汚染濃度を北京の米国大使館が独自に測定を開始し、それを発表した数値が中国政府の公表値と大きく違っていたことから、先の大規模なデモに繋がる騒ぎになった。しかし、中国政府の名誉のために言えば、中国政府は決して嘘を言っていたわけではなかった。中国政府はPM10の値を公表していたのだった。中国政府は民衆の抗議を受けて、今年の1月21日から北京のPM2.5の値を毎日公表しているが、この数値は、北京の米国大使館が公表している値と殆ど同じで一致している。
さて、北京のPM2,5の値は、汚染の6段階の中で最も深刻な重汚染で全ての人の屋外での活動を禁止する必要がある汚染となっている。しかも、この物質は極めて小さな微粒子なので、普通のマスクでは呼吸器系への侵入を防止することが出来ない。この北京のPM2.5は、どのように生成されているかを、北京市は、今年1月に発表している。自動車由来が22%。石炭発電が17%。粉じんが16%。塗装など工業噴射が16%。農村のわらの焼却が5%。他省からの越境が24%と分析していて原因は多岐にわたっているから、対策はそう簡単ではない。
そして、実は、このPM2.5は衛星から測定することができるのだが、中国が圧倒的に濃度が高い。特に、北京や上海など大都市ほど濃くなっている。あとは、砂漠地帯が非常に高い。つまり、自動車の排ガスや石炭火力のばい煙などの人工的な生成だけでなく、黄砂のように自然発生的なものも含まれている。だから、中国は2重にPM2.5の汚染濃度が高くなってしまうわけだ。一方、日本では、九州から瀬戸内海に渡る西日本だけが汚染レベルの下から3番目の軽度汚染となっていて東日本は汚染されていない。これは、西日本に重化学工業が集中しているからなのか、あるいは中国に近いからなのか、それは未だ分かっていない。
中国は確かにPM2.5の汚染濃度では世界一高いわけだが、多分、日本でも1970年代は、同じような状況ではなかったかと言われている。中国は、その経済発展があまりに急速だったため、その対処措置が遅れて後手後手に回ってしまった。しかし、それにしても、今の北京の状況は、人々が安全に暮らせる状況ではないほどの深刻な汚染である。何しろ北京は中国の首都である。中国政府の早急な対応処置が望まれる。そして、北京のPM2.5汚染に関しては、日本も決して無縁ではない。もし、西日本の汚染の原因の中で、中国からの越境が想定されるのであれば、日本の中国への全面的な協力が必要であろう。
最後に、喫煙とPM2.5問題との関係を述べたい。これだけ深刻な北京の大気を毎日吸うことをタバコに換算すると、一日タバコ6分の1本分に相当すると北京政府は公表している。つまり、一日20本のタバコを吸う方は、北京の大気に含まれるPM2.5 の120倍の汚染物質を肺に入れていることになる。タバコというのが、どれだけ深刻な環境汚染につながるか、そろそろ真面目に議論する必要がある。先進国の中で室内での全面禁煙を法制化していないのは日本だけである。