124 若者の就職難 その2(ITが消滅させる職種)

未だサービス業が十分に発達していない新興国や途上国で高学歴者が就職で苦労する というのは理解できるが、世界で最もサービス業が発達したアメリカでも 高学歴者が希望する職業に就くことが困難だと言うのは、一体どういうこ とだろうか? サービス業は、もはや高学歴者の雇用を新たに生み出す魔 法の杖ではなくなったのだろうか? 答えはYESである。

英国で始まった産業革命は、製造業を家庭内手工業から大規模な工場による 製造業へと変えていった。その結果、多くの農業従事者が工場労働者へと変 化し、新たに「ブルーカラー」と呼ばれる職種を作り出した。その後、欧米 の先進国の産業構造は製造業主体からサービス業主体へと移っていく。 そして、そのサービス業で働く人々の職種を総じて「ホワイトカラー」と呼 ぶようになった。

2011年2月17日のWSJ(ウォールストリートジャーナル)は、その1面に次の ようなタイトルの記事を掲載した。「テクノロジーが消滅させる職種は有料 道路の通行料徴収員だけではない」という記事である。実は、この日の前日、 2011年2月16日は、IBMが創業100周年を記念して開発した人工知能コンピュー タ「ワトソン」が米国が誇る二人のクイズ王を完膚なきまでに破った歴史的 な日であった。この記事でWSJの記者が言いたかったことは、「蓄積した記憶 を頼りに行うゲームでは、もはや人間はコンピュータには勝てない」という ことであった。

WSJは、この記事の中で、「これまで、職業は『ホワイトカラー』と 『ブルーカラー』に分類されてきたが、これからは『Creators』と 『Servers』に分類し直される。」と述べている。ここで言う『Creators』 とは、今までにないものを生み出す職業、画家や作曲家などの芸術家、建築 家、コンピュータプログラマーや服飾デザイナーなど、新たなものを創造す る職業のことらしい。一方、『Servers』は、その名のとおり単なる、命令 されたことだけ忠実に行うという『召使』的な職業のことを言うのかと思え ば、それがとんでもない話に発展する。

WSJが言う、『テクノロジーによる絶滅危惧職種』には、医師、弁護士 、金融トレーダーまでもが入っている。そう言えば、最近の証券取引は殆ど がコンピューターによる自動取引だと言う。長期の投資が不透明な中で利ざや を稼ぐには短期取引、それも一日の中で何度も同じ銘柄を取引するような 瞬間芸は、とても人間業では出来ないだろう。医師も、ゴッドハンズを要する ような外科医ならコンピュータも真似できないが、各種検査データから最新 の医学研究成果を参考にして、病気を判断する仕事なら人間より『ワトソン君』 の方が有能であるとWSJは言っている。つまり、将棋や囲碁のプロが次々と コンピュータに敗戦していくさまは、棋士達だけにとって脅威なのではなく、 ホワイトカラー全般にとって他人事では済まされないということだ。弁護士だ って同様、裁判における弁護士の戦いは単なる法律解釈ではない。過去の膨大 な判例をどう参考にするかが弁護士の腕と言われているが、もし、それが本当 なら、過去の膨大なデータ照会なら、もはや、その仕事はコンピュータにお任 せだ。絶対に、人間に負けることなどあり得ない。

それが本当かと疑いの向きは、もっと卑近な例で、航空機の座席予約を考えて みれば良い。20年以上も前に、一枚の航空チケットを発行するのに一体何人 もの人々が関わっていただろうか? しかし、今は、どうだ。携帯電話から、 一人の人の手も煩わせることなしにチケットを手に入れることが出来る。航空 機チケットの予約販売業務に携わっていたホワイトカラーの人たちは永久に職を 失ったのだ。

Brian Arthurが唱える収穫逓増の新経済によれば、こうしたITが生み出した デジタル経済の規模は1995年にインターネットが始まって以来、年率2.4% の比率で拡大し、2025年には現在の実体経済と同じ規模に成長するという。つまり、 現在の世界経済規模と同じ規模の経済が人手を介さず、全く無人で運営される というのである。

当然、このITテクノロジーを駆使したデジタル経済は、これまでホワイトカラ ーの独壇場だった高学歴者の仕事場を次々と奪っていく。つまり、サービス 事業自体は拡大するだろうが膨大な高学歴者の雇用を吸収する職場ではなく なってくるということである。時価総額8兆円の超大企業となったFacebookは 一体何人の従業員で構成されているかを知れば誰しも唖然とすることだろう。

先進国も途上国も、今後は一層高学歴者が増えていくことは間違いない。 そして、その知恵を活かしていく仕組みは、これまでの社会構造、経済構造の 延長線上には存在しないということである。いや、むしろ現在のホワイトカラ ーの仕事は、これからどんどん減っていく方向にあると思った方が間違いない。 さて、次に、どのようにしたら、今後増え続ける高学歴者を社会全体で活用 しながら人々が幸せに暮らせる豊かな社会が築けるかを考えてみたい。

コメントは受け付けていません。