今朝、国会運営が山場を迎えている中で、民主党の実力者である仙谷由人衆議院議員を お招きした、田中直毅さん主催の朝食会に参加した。冒頭、仙谷さんの、現在の日本及び世界が抱える危機の 認識について語られたので、ここに、その一部を、ご紹介したい。
私自身は、このお話を伺い、仙谷さんが、既に数十年も政権を担当されていた政界の 老練なリーダーであるかのような錯覚を覚えた。仙谷さんには、大変失礼ながら、優秀な政治家は 政権を担当することで、ここまで成長されるものかと驚くとともに、いくら優秀な政治 家であっても、一旦政権から脱落すると、まさに、木から落ちた猿と同様、何を言って も犬の遠吠えにしか聞こえない虚ろな話しか出来なくなるまで堕落してしまうのだとも 思った。一方で、せっかく政権をとり、千載一遇の機会を得ながら、相変わらず、 「マニフェスト」なる、政権を取る前の全く無知な状態で作った稚拙な作文を、相も 変わらず守ることしか頭にない愚鈍な輩も沢山居るので、やはり民主党は、トータルで 見ると、いつまでたっても烏合の衆でしかない。
さて、ここからが仙谷さんの今朝の語りである。
「私は、田中直毅とは昭和39年に一緒に大学に入った同級生で、今年は67歳になる。 (ちなみに、仙谷さんは大学在学中に司法試験に合格しており東大は中退されていて 卒業はしていない。)思えば、我々は良い時代に生きてきたもんだとつくづく思う。 日本は、直近の20年間ですら、政府に全てのツケを回して、それなりに豊かに暮らして きた。企業と家計の借金を全て政府に肩代わりさせてきたからだ。
だから、企業も国民も何でも政府に頼りすぎる。しかし、もう、これ以上政府に頼れる 時代ではなくなった。昨年、我々は東日本大震災、原発事故という大変な状況に遭遇したが、この 日本は、先の戦争で700万人を死なせ、広島と長崎を原爆で壊滅的に破壊されても、 自助努力で奇跡的な復興を果たしてきた。それが、どんなに凄いことだったか、今更な がら先人の苦労と努力には頭がさがり、心から尊敬せざるを得ない。
今、日本の産業が危機に瀕している。一例として製薬業界の例を挙げると、今国会で 決める診療報酬改定では薬価調整で5,000億円を捻出し、それを病院運営に付ける ということを決めた。財務省は、さらにジェネリック薬品で2,500億円下げろと 言ってきたが、それでは製薬業界が立ち行かなくなると悲鳴を上げてきた。それで、 私は、これまで製薬業界は、どれだけの税金を払って日本に貢献してきたのか教えてく れと財務省に要求したが、それが直ちに出てこない。結局、各社の決算報告書を集めて 積算するしかなかった。日本の税務当局は、どの業界が、これまで幾ら税金を納めて くれたのか全く把握していないのだ。
それによれば、製薬業界は毎年2,000億円の税金を納めてくれている。一方、 日本の花形産業である、自動車と電機の全てを足しても、リーマンショックの影響も あるだろうが、年1,000億円しか納めていない。それで、財務省には、これ以上 製薬業界を苛めるなと説得をした。その調査で驚いたのは、日本の花形産業が、ここ まで凋落したということだ。為替の問題や、新興国の台頭もあるだろう。それでも、 花形産業が、ここまで苦しくなるとすれば、他の産業は推して知るべしだ。今日の日経にも出ていたが、 日本企業の海外からの配当収入が1兆円を超えた、そして貿易収支は大幅な赤字に 転落している。これは、日本企業が、どんどん日本から出て行ってる証拠であり、 日本の雇用が、どんどん失われているということに他ならない。政治家としては、 この動向を何としても食い止めなくてはならない。
さらに追い打ちをかけるのが欧州の経済危機だ。欧州の銀行が、巨額の投資を南米や アジアにしたために欧州経済が空洞化しておかしくなったとも言われている。日本の 金融界はなますに懲りて静かにしていた分だけ助かったが、これからは欧州のことば かり言っていられない。日本の財政危機は、欧州危機をそのまま再現するかも知れない。 1000兆円の借金残高と毎年170兆円の国債発行が危機の根源だ。日本の長期国債 は95%が国内金融機関、5%が海外金融機関が保有していると言われているが、まず 、この95%分だって、いつまでも今のような低金利で発行できるわけがない。現に、 短期国債を中心に既に外資が動き始めている。いざとなれば、この外資が保有する5% が日本国債全体を揺り動かすことだって大いにあり得る。
社会保障と税の一体改革を早急に推し進めることは、こうした危機に対する担保の設定 である。欧州の金融危機がアジアを襲った時の備えもしなくてはならない。マスコミは 殆ど気が付いていないが、第二次補正の時に外為特別会計の限度額設定を165兆円か ら195兆円に積み増しをしている。最近、日韓、日中での共同での市場介入、さらに ドルの相互融通を話し合って決めた。また、ASEAN向けにもチェンマイ・イニシア ティブの運用をスムースに行うための限度額積み増しである。
金融と並んで喫緊の課題は電力問題である。安くて良質な電力を安定的に供給することは 産業育成の基本である。電力の価格、安定供給問題が損なわれれば、製造業の海外流出 は、さらに一層加速される。地域独占の企業が値上げの「お願い」とは何だ!結果的には 値上げの「押し付け」にしかなっていない。東電改革、原発の再稼働問題は先延ばし出来ない 問題である。電力問題は、既に金融問題にまで波及している。東電だけでなく、日本の 全ての電力会社が、現在社債を発行できなくなっている。まず、東電を始めとした各電力会社は 3月に決算を迎える。今の状態では決算すら出来ない。そして、東電は6月に株主総会を 迎える。私は、弁護士だったから訴訟処理が、どれだけの人を必要とするか判っている が、官僚も政治家も、この点が判っていない。原発事故災害被災者との何万件もの訴訟を裁 く能力は、この日本には弁護士側も裁判所側にも整っていない。
そうした緊急課題を抱えながらも国会は解散追求が主題で緊迫感がない。今日の昼に第4 次補正を可決させたかったが、多分、夜半、あるいは徹夜になるかもしれない。一般には、 3月危機と言われているが、特例公債法案も含めて、これまでの経験から、なんとかなる と思っている。予算及び関連法案をめぐる攻防では、3月危機は解散なしで何とか乗り切る。 解散は、マーケットに悪いトリガーを与えかねない。海外のヘッジファンドは、こうした 日本の政治リスクの隙をついてくる。自民党も公明党も良く考えてみれば、解散して自公 で仮に衆議院で過半数を取っても、参議院では過半数を取れないから、衆議院で3分の2 を取らない限り、今のネジレ現象が解決するわけではない。
ここで、大阪から出てくる第三勢力がキャスティング・ボートを握る可能性があるわけだが、 問題は、この勢力に、どれだけの「財政規律に対する意識」があるかである。欧州経済危機 で各国が真剣に話し合っているテーマが、この問題だからだ。今や、世界中のどの国でも、 財政問題と経済問題は不可分である。何でも政府を頼りにする日本では、この財政規律の 問題があまりに軽く見られている。
こういう話ばかりしていると暗くなるが、良い話だっていくらでもある。ASEANや アラブの国々から日本への問い合わせが、最近際立って増えている。いわば、第二次Look East である。その中には、新幹線の話、原発の話も含まれている。あれだけの失敗をした日本 だから、逆に、他のどの国よりも安全に違いないという考え方である。アメリカでも 、日本の失われた20年は、決して他人ごとではないと思い始めてきた。この日本の失敗は、世界中の人々にとって貴重な体験で あり、欧米の人たちが、まさに自分たちが同じ危機に瀕しているのだという自覚の現れである。こうした 日本の再認識、日本への期待を政治が裏切ってはならない。
少子高齢化を問題にするときに、日本の80%以上の高齢者はすこぶる元気なんだという 前向きな考え方が、どうして出来ないのだろうか?最近の健康調査によれば、日本の高齢者の肉体 年齢は明治時代より15歳近く若返っているという。私も、67歳。昔なら、よぼよぼ の爺さんだ。しかし、今日の会議では未だ「若造」に見える(笑)。ぜひ、皆さんも、 日本と言う国の信用を維持するために、ご協力願いたい。」
と、仙谷さんのお話は以上でした。かつて社民党党首の福島瑞穂さんの上司で、左翼系の 弁護士だった仙谷さんは、いつの間に、自民党の総裁より遥かにしっかりした現実主義の 論理で私達に迫れるようになったのだろうか? 地位が人を変える、地位が人を成長させ るのかも知れない。それでも同じ民主党の中には、もっと立派な地位についても、さっぱ り成長できない人が居たのは本当に残念だった。