97 ミッションヒルズCC

香港経由で深圳のミッションヒルズリゾートに行った。その中にあるミッションヒルズCCは全12コース、合計216ホールを擁する世界最大のゴルフ場である。もちろん、私は、ここにゴルフだけに来たのではない。富士通中国が、在中国の日系企業12社のTOPを招いて勉強会を開いた。私も、ここで講演をさせて頂くと同時に、お客様にも講演を頂き、中国から見て世界がどう動いているかなど、一緒に多くを学ぶことが出来た。そして、翌日はレッドベターコースという平常時のスコアを軽く10以上は超えるという難コースに挑戦した。アメリカのゴルフ愛好家が難コースを好むのに対して、一般的に日本のゴルファーは難コースを嫌う。お客様の中には、途中で怒って帰られる方もいるそうだ。しかし、さすがは中国でビジネスをされておられる方々のメンタリティーはアメリカ気質だと見えてゴルフも含めて全て挑戦的である。不平を仰る方は一人も居なかった。もちろん天気も良かったし景色も抜群に美しかったこともあるだろう。以下、この勉強会及び経由地の香港で見聞きした話をご紹介したい。

まず、日本の代表的なメガバンクの中国代表の方から、最近の中国の経済動向について、お話を伺った。リーマンショック後の景気高揚策として中国政府が投じた4兆元(約60兆円)も殆ど発注済みとなり、この後の施策が待たれていたが、このたび、「保障住宅制度」として広さ50-60平米の低所得者向け住宅を1000万戸建設する計画が発表された。この住宅は一部分譲も含まれており、その販売価格は、殆どコスト渡しで日本円に換算して360万円くらいだと言うので、総額36兆円、現在の為替レートで言えば3兆元規模になるのだろうか。低所得者向け住宅として分譲もあるというのが興味深いが、口の悪い人は、抽選に当選したら直ぐに転売してしまうのではと噂している。北京や上海で行われている自動車のナンバープレート発行の抽選も、本当に公正に抽選しているのかと市民は不満を言っているので、この分譲住宅も少し臭い話になるかも知れない。それは、それとしても、中国政府は、この3兆元という巨額の投資を、これから国民の大きな不満につながるかも知れない格差是正のために使おうとしていることは確かである。

そして、マテハン(搬送コンベアライン)の世界的大手企業から伺った話は、世界中で景気の悪い話の中で中国とアメリカ市場だけは、すこぶる景気が良いのだという。そして、アメリカと中国では投資目的が全く違う。つまり、中国市場での商談の殆どはネット通販の配送センターだという。今、中国ではネット通販が物凄い勢いで伸びている。ひょっとすると小売店舗網が中国全土を覆いつくすまでにネット販売の方が先行してしまうかも知れない。そして、このネット販売の信頼性を高めるために殆どのネット通販にはチャット機能が用意されており、友人と一緒に買い物をするような、あるいは店員と対面販売するような感覚で買い物が出来るしかけになっている。一方、アメリカでのマテハン投資は純粋な製造工場だという。オバマ大統領の輸出倍増による雇用拡大政策が、単なる掛け声倒れにはなっていないという証明でもある。先日、アメリカの失業率が何年ぶりかで9%を下回ったのは、そのためかも知れない。

TPPによってアメリカに日本の農業を滅ぼされると恐れている人達がいるが、アメリカの本当の真意は製造業の輸出拡大にある。農業は、これ以上、増産しても雇用を増やさないし、世界中の天候不順で別に日本に売らなくても何処にでも売れる。そして、この中国とアメリカのマテハンの使い方を見ると、これまでの常識と大きく違ってきた。中国はサービス業の高度化に、アメリカは製造業の復活に大きな投資をしていることがわかる。世界は、常に、これまでとは違った方向に絶え間なく動いている。何年か前に聞いた話をいつまでも同じように話しているとトンデモないことになる。

しかし、香港は何で、こんなに賑やかで華やかなのか? もちろんクリスマスシーズンということもあるだろうが、それだけだろうか? まず、物販という面では、Appleの香港直営店がiPadの売上でダントツ世界一になったのだという。原因は、中国本土からのまとめ買いだ。一人で何ダースも買っていくのだという。理由の一つは、中国で買うと偽物を掴まされるからだというが、本当の理由は米ドルにペッグした香港ドルが人民元に対して下がっているという為替の問題と、もう一つは消費税がゼロだということだ。従って、広州からは新幹線で、深圳から中間層が自家用車で皆、香港に買い物に来る。これでは、広州、深圳の高級デパートは商売にはならない。交通インフラの発達が地方都市の消費経済を破壊するというのは、日本だけの事ではない。

香港の景気が良いのは、物販はほんの一部で、大きな要因は金融だ。今や、香港はアジアのスイスとなっている。中国を含むアジアの富裕層の節税対策の拠点となっている。架空のお金で利ザヤを稼ぐロンドンやニューヨークの金融ビジネスと異なり、香港は富裕層のリアルなお金を扱っているのでリスクが全くない。そして、顧客は金融エージェントに対して投資利益など誰も望んではいない。密かに安全に預かっていてくれれば、それだけで十分だ。この2-3年でHSBCがダントツ世界最大の金融機関になったのも頷ける。HSBCは富裕層に向けて3人までの共有名義の口座開設を香港でサービスしているので、日本の資産100億円以上の富裕層は、殆ど皆、このHSBCの口座に資産を移していると言う。お祖父さんと、息子と孫の3人で一つの口座を共有すれば、遺産相続など関係ない。民主党が、今さら、富裕層向け相続税課税強化など講じても、もう時既に遅しである。今や、夫婦で密かにエコノミークラスに乗って、せっせと現金を香港に運んでいるのは資産数億円クラスのプチ富裕層だけだと言う。

そんな中、香港きっての老舗ホテルであるペニンシュラーでは、中国人が大好きなフカヒレを出さなくなった。ヒレだけ取って残りを全て捨ててしまう中国のやり方が残酷だという欧米の動物愛護団体の非難があって、それに応じたという。最近は欧州でもフォアグラの作り方が残酷だといって食べないのだとも言う。もはや、香港は中国であって中国ではない。むしろ中国人の富裕層は、この香港の1国2制度の旨みを十分に享受している。2045年と言われる香港の中国本土統合は、さらに延びそうだ。むしろ韓国が済州島を1国2制度化して香港の繁栄を模倣したいと準備している。国の経済の繁栄を考えるには富裕層を排除するよりも利用した方が余程うまく行くと言うわけだ。中国も韓国も本当に強かである。

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