458    コロナ禍収束の中で再起動を目指す

昨秋、「2022年再起動する社会」という本を上梓した。2022年の半ばになれば、コロナ禍もいよいよ収束して世の中が再び正常化するだろうと思って書いた本である。どうやら、私達は2年半の苦しみから解き放たれて、そうした流れに乗れそうである。しかし、この2年半の間の世の中の変化は非常に大きいものがあった。しかも、今後はロシアのウクライナ侵攻がさらに変化を加速するかも知れない。人々の「これから世の中はどうなるのか?」という不安も一層大きくもなっている。

コロナ禍の前には年間50回くらい行っていた私の講演活動も、ようやく今年の3月くらいから会場に集まられた聴衆の方々に対面でお話するという、これまでのスタイルでできるようになった。コロナ禍の約2年の間では、講演依頼の件数も少なく、しかもオンライン講演が主体だった。やはり聴いて下さっている方々の面々が直接見えないまま、お話をするというのは私のスタイルには合わない。聴いて下さっている方々のお顔を見ながら話ができるのは本当に嬉しいし、やりがいもある。

最近の私の講演内容はコロナ禍で大きく変化した世界のデジタル化に対して、どのように対応したらよいかという話である。この度のコロナ禍は、「移動」や「対談」をしないという大きな制限を私たちに課した。これは、本来、ビジネス世界において致命的な制約である。こうしたハンディを乗り越えるために世界中の経営者はデジタルを駆使して乗り越えることに巨額のデジタル投資をした。かつて、中国で深刻なパンデミックとなったSARS感染の中で、アリババ創業者の馬氏は従業員の家を回ってパソコンとモデムを配った。この措置によってアリババはAmazonに並ぶEコマースの雄となった。まさにSARSはアリババ創業のきっかけとなったわけである。

今回のコロナ禍においても、2020年12月から2021年1月までに各社のテレワークによる在宅勤務へのシフト率は平均5割から平均7割にまで急激に増加した。私の友人である、経営TOPは、本当に在宅勤務が出来ているのかと心配になって本社のオフィスに見にいったそうである。実際に、オフィスには従業員は誰も出勤していなかった。それでも、会社は毎日、今まで通り、殆ど何の支障もなく動いている。彼は、「これは一体なんなのか?」と思ったそうである。まずは、「これまで都心に高い賃料を払って立派なオフィスを構えている価値はあったのだろうか?」という疑問と、「日本でも本社の管理業務というのは欧米のようにアウトソーシングできるのではないか?」という考えが頭に浮かんだというのだ。

この度、旅行や飲食など多くのサービス業がコロナ禍で苦しんだ一方、多くの大企業が最高益にも匹敵する利益をあげている。その要因は、いくつかあるが、コロナ禍の移動制限が旅費や交際費の削減で年間100億円以上もの経費節減になったと言われている。さらに、購買部門が対面作業からオンラインに切り替えたことにより多数の取引業者と交渉が出来て、しかも対面ではないのでシビアな評価が出来たことで、従来比で大幅なコストダウンが可能となったというのである。さらに、海外で建設した多くの巨大プラントの点検や修理も国内にいる設計技術者がヘッドマウントカメラを付けた現地作業員を指示することで簡単に作業できたというのである。

従来、そんなことが出来るのかと不安に思っていたことが、他にやりようがなくてデジタル技術を駆使して試してみたところ、思いの外、うまく行ったというのが実感らしい。先ほど述べた管理業務のアウトソーシングは欧米では当たり前に行われていることだが、日本では、「会社に来ないで、そんなことが出来るのか?」ということであまり普及していなかった。一方で、在宅勤務で出来た仕事は、「どうして在宅で問題なく出来たのか?」ということも、よく調べてみる必要がある。一般的に、よく言われていることは、管理業務の半分以上がデータの再入力だというのである。その再入力作業は、システムを再構築すれば、不要な業務である。

さらに、コロナ禍以前のシリコンバレーでは、AppleもGoogleも在宅勤務を推奨してこなかった。しかし、これらの企業も、さすがにコロナ禍では在宅勤務に切り替えたが、今年の3月からGoogleは基本的に出勤することを標準とした他、Appleはワクチン接種者には昨年から出勤を求めている。一方で、シリコンバレーにおいてのテレワーク勤務はコロナ禍でH1Bビザ発給が減った分を現地採用のリモート勤務で補う形で利用している。元来、国土が日本の20倍と広大なアメリカでは、サンフランシスコからニューヨークまで飛行機で5時間、時差が3時間もあるので、全社員が一堂に集まって全体会議など非効率であり、テレワークは半世紀以上の歴史がある。こうしたテレワーク先進国の働き方を日本企業も素直に学んだほうが良い。

一方で、少子高齢化が進行している日本では相変わらず深刻な人手不足が続いている。こうした人手不足問題を解決するためには、AIやIoTなどのデジタル技術を用いて現場の業務改善を行えば、むしろ現在企業が抱えている人員では労働力余剰になると私は思っている。しかし、現在、日本の多くの企業で「現場のデジタル化」が出来ていない。それは、どの企業でも「デジタル人材」が足りないからである。多くの企業では、全社に共通のシステムを開発するIT部門を持っている。しかし、今や、人手不足を解消するためのデジタル化は「現場のデジタル化」が求められている。この作業は、現場の作業プロセスを熟知したデジタル人材だけができる技である。

従って、こうした現場の人たちに、いかにデジタル技術を学ばせるか?が最も重要な戦略となってくる。「そんなことは出来ない」と言っていたら、いつまでも現場の効率化は実現できない。あるいは、そうした現場の効率化に興味があるデジタル人材をキャリア採用するという手もあるだろう。一体、なぜ現場にデジタル人材が重要かと言えば、現場のデジタル化は頭で考えたように一気に上手く行くとは限らない。何度も、何度も、改善を繰り返しながら目標に近づいていく。そのためには、長い期間、その作業に従事しなくてはならない。こうしたデジタル人材が日本には少なすぎる。その原因の一つには、経営トップの意識の問題がある。こうした「現場のデジタル人材」には、その任に然るべき給与を与える覚悟が必要である。

そうは言っても、学生時代にAIやIoTを学んできたというデジタル社員は、今の日本企業では殆ど皆無だろうと思われる。だから、日本企業でも欧米の企業と同じく、社内人員を再教育するしかない。別に、一堂に集まって集合教育という形ばかりではない。欧米では、社員自身が、会社から付与されたライセンスを用いてオンライン教育動画を教材として就業時間外で自己学習している例が非常に多い。昔の欧米企業は、すぐに辞めてしまう社員に教育しても無駄だという意識が強かった。しかし、今では、こうした社員のリスキリング(再教育)が社員の愛社精神を高揚しているということが経営者へのアンケート結果が出ている、

日本企業で、こうしたリスキリングを行っているのは30%くらいだが欧米では60~70%にまで上昇している。さらに、この社内教育で身につけたデジタル技術を用いて現場で成果を出した社員の給与体系は従来と変えていくというインセンティブは絶対に必要である。コロナ禍を超えて躍進する企業は、これまでとは様変わりした現実を直視し、それに適合した新たなビジネスプロセスを生み出すデジタル社員を養成することが最も重要なテーマになるだろう。企業を支えるのは「人」であり、その「人」にどう投資していくかが問われることになる。今回は、コロナ禍の収束が見えてきた中で講演させて頂いている話の一節をご紹介した。少しでも、お役に立てれば幸いである。

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