439   2020年を振り返って

2011年3月11日、私は講演先の青森で東日本大震災に遭遇した。自分が生きている間に、1,000年に一度という未曾有の大災害に会ったことに大きなショックを覚え、この日記を書き始めたきっかけにもなった。来年は、この大惨事から10年を迎える。まさか、その前にCOVID-19という、14世紀のペスト大流行以来の700年ぶりの世界的パンデミックに出会うとは思わなかった。14世紀に欧州を恐怖のどん底に陥れた第二次ペストも中国大陸起源だったというから因縁も深い。発生源の中国では人口を半減させるほどの猛威だったらしい。

「COVID-19はインフルエンザと同じようなもので恐れることはない」という人もいるが、とんでもない話である。日本では、COVID-19が猛威を奮っている中でインフルエンザは殆ど発生していないし、飲食業界の人たちの話ではノロウイルスによる食中毒も全く発生していないという。それだけ、多くの人が感染予防に努めている中で、COVID-19だけ感染が拡がっているのは、その感染能力がいかに強靭かを示している。おそらく「三密」を守れば安全という神話もCOVID-19には通用しないのではないかと思われる。

ペストはヨーロッパで1348年から1420年まで70年間もの長き間に断続的に続いたので、裕福な貴族たちは感染防止のために街から離れた過疎地に「別荘」を建築した。これが「別荘」の起源だと言われている。ペストから逃れて生き残るためには、十分なお金が必要だった。それでも、イングランドやイタリアでは総人口の8割が死亡し、全滅した街や村も数多くあったという。こうなると社会構造が壊れてしまうため、もはや大金を持っていても何の役にも立たないことになった。社会は富裕層だけでは持続できないという良き教えだろう。

今日の日本では医療関係者の努力によって致死率は低く抑えられているが、格差社会の底辺で暮らしている人々は、毎日、普通に生活していくだけでも大変な状況に追い込まれている。アメリカも同様だが、COVID-19禍は、従前から存在していた課題をあぶり出している。アメリカも、日本も、COVID-19がこれだけ猛威を奮っているのに株価は高騰しており、株価から見る限り景気は十分に高揚している。この株価高騰がトリクルダウンで国民全般に恩恵をもたらしているかと言えば、はっきり言ってNOである。COVID-19は、こうした現実社会の矛盾を嘲笑っているようである。

政府は企業の倒産を、いかに防ぐかに注力しているようだが、企業は倒産しても需要が再び戻れば、いくらでも再生できる。大きな問題は、やはり個人だろう。特に、普段から困窮している人ほど、このCOVID-19禍で酷い目に遭っている。その上、女性に偏って皺寄せが起きている。こうした方々を個別に救済する方が、企業を救済するより遥かに優先順位は高いはずだ。人は、一度命を失ってしまったら、もう二度と元には戻れない。

それにしても、私自身の体験からも、今年は年初から異常なことの連続だった。実は昨年末から喉に異物が出来た感覚があった。親友が咽頭癌になったことも影響していて神経過敏になっていたのかも知れない。耳鼻科の医者に行ったら異常がないが、もっと奥を調べるなら胃カメラやCT検査を受けるべきだと進言され、年明けに、その検査を受けた。結果は、全く異常がなかったが、喉の痛みも治らない。さらに、詳細に検査して頂こうと思っているうちに、COVID-19の感染拡大が起きて、それどころではなくなった。

それで、少しでも喉に優しくしようと思い、近所のチェーン薬局に行ってマスクを買いに行ったら、店員同士で、既に都内の店舗では既に中国人観光客の買い占めで在庫が払拭していると話しているのを聞き、早速、60枚位入りのマスクを6箱買ったのが、未だに役立っている。それでも、カミさんのために小さいサイズのマスクを探しに行ったが、毎朝、薬局に行って行列に並んでも「今日は入荷なし」と言われ、うなだれて帰ることばかりだった。

その後も、全てが異常続きである。取締役会は全てオンラインに、講演会は次々と延期や中止になった。私は現在、3社の社外取締役をしているが、それぞれの会社でオンライン会議のシステムが異なりZOOM, Teams, Blue Jeans(A T &T)と、全く違うので当初は戸惑った。しかし、慣れれば、それなりについていける。それでも、やはりパソコンに付属しているカメラやマイクを使うよりも、専用のWebカメラや外付けマイク・スピーカーを使った方が品質は良いので専門家の意見を聞き高品質のものを購入した。自分が発言するとき以外は、マイクはミュートにしておく方がマナーとしては好ましいことも、今回学んだことである。

それにしても、オンライン会議はリアルより遥かに疲れる。3時間も続けていると頭痛がひどくなる。発言の機会をタイミングよく捉えるのも難しい。脇に置いたiPadで資料を見る視線とPCで会議場を見る視線が異なるのも疲れる原因かも知れない。さらに、リモート参加者の機器環境が悪く音声が聞きにくいことにもフラストレーションが溜まる。映像はボケていても気にならないが、音声が聞きづらいのは勘弁してほしい。

いわゆる会場で集客するタイプの講演会は、殆ど全て延期や中止となった。例外は、九州地区の経済同友会での講演だった。その地域では感染状況は落ち着いていて、緊急事態宣言も解かれて初めての勉強会の開催となったらしい。しかし、私が東京から参加することには不安があるというので、自宅からオンライン講演とさせて頂いた。私から送った画面をホテル会場の大スクリーンに投影して頂き、音声も中継して頂いた。こうして、受信側で、それなりのサポートをして頂ければリモート講演も全く問題なくできることもわかった。

大学での講義や企業内研修では、全く問題なく自宅からオンライン講演が出来る。2台のPCとビデオカメラさえあれば、Blackmagic社製のATEM Mini Proというビデオ編集機によって、自宅からプロ並みの講義映像を送ることができる。まさにYouTuberになったような気分である。会社をリタイアしてから身近に教えてくれる人も居ない中でも、ありがたいことにSNSで教えを乞えば親切丁寧に教えてくれる方が何人もいる。要は、やる気になりさえすれば何でもできる時代になった。

そして、今年、一番残念だったのは、20年以上も毎年続けていたシリコンバレーツアーが、とうとう途絶えてしまったことである。シリコンバレーはCOVID-19禍だけでなく、大規模な山火事にも遭遇した。いずれもテクノロジーだけでは、簡単には解決できないことばかりである。「人類は、もっと真摯に生きろ」という自然の深い教えなのだろうか。

 

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