2019年の訪日外国人観光客数(インバウンド)は合計3188万人と初めて3000万人を超えた。内訳は中国が959万人(30%)、韓国 558万人(18%)、台湾 490万人(15%)、香港 230万人(7%)と東アジアだけで合計70%となる。さらに、タイ、フィリピン、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナムといったASEAN勢で349万人(11%)と東アジアとASEAN諸国を合わせると合計80%にまで及ぶ。この経済効果は4兆6000億円にも達する。これが2020年には、ほぼゼロになるのだからCOVID-19禍がインバウンド経済に及ぼす影響は計り知れない。
日本のインバウンド3188万人を世界的に見ると、1位のフランスが8940万人、2位のスペインが8277万人、3位のアメリカが7961万人と続き、日本は英国の3631万人に続いて、堂々11位にまで駆け上がっている。さて、日本はどうして、このように急速に世界に冠たる観光国家になったのだろうか? 世界が急に日本の魅了に注目したというのだろうか? しかし、よく見ると日本のインバウンドの大多数が東アジア、東南アジアからの観光客で占められている。
ところで日本人の可処分所得は1997年をピークに年々減少し、2019年にはピーク時より13%も減っている。一方、東アジア、東南アジアの人々の可処分所得は1997年と比較したら4-5倍にまで伸びている。ということは、彼らから見たら日本の物価が非常に安く見えるのだ。今まで手が出なかった憧れの日本が、急に身近に感じられて、よし行ってみようということになったのだろう。つまり、世界の中で、日本だけが可処分所得が落ちている。その結果、物価はどんどん下がり、デフレが進行し続けている。2013年以降、アベノミックスで株価は上がったが、賃金と物価は下がり続けている。
安部首相と共にアベノミックスを推進してきた日銀の黒田総裁は異次元の金融緩和によって年率2%のインフラを目指したが、殆ど効果無く日本のデフレは進行し続けている。経済評論家は、大変ご不満のようだが、国民は安堵して胸をなで下ろしている。なぜなら、給料が下がっているのに物価だけが上がったら暮らしはますます苦しくなる。万が一、黒田日銀総裁の思惑通りにインフレが進行すれば、大衆は怒り狂い日本中で暴動が起きるだろう。つまり、アベノミックスの金融政策は失敗したからこそ、国民は毎日何とか食いつないでいる。
今の日本では、こうした事実を冷静に認識している企業だけが、静かに順調に業績を伸ばしている。今回のCOVID-19禍で、多くの企業が苦しむ中で、以前からデフレを組み込んで好業績を上げている企業がにわかに注目を浴びている。その代表が、ワークマンとニトリである。消費者は日常性を大事にして清潔な普段着を求めている。晴れ着は、もはや着ていくところがない。老人から若者まで、皆、生活の全てにおいて「コスパ」を求めている。最近、発表された「GUコスメ」も、きっと成功するだろうと私は思っている。年率で30%近く落ち込む日本経済。人々の可処分所得の落ち込みは、多分、それ以上になるだろう。それでも人々は工夫をしながら強かに生きる。
しかし、街を歩くと、ドイツ製高級車のシェアが驚くほど増えたような気がする。極端に言えば、街中を走っている車はドイツ製高級車と軽自動車だけと言っても過言では無い。多分、この人たちはアベノミックスの恩恵を受けて、株の値上がりで大儲けしたのだろう。しかし、多くの人々は、家賃と水道光熱費、食事代を支払うだけで精一杯だ。こんな中で、Go To トラベル、Go To イートと言った政府主導のキャンペーンにどれだけの人が乗るだろうか。もはや、経済を活性化して企業業績を上げればトリクルダウンで人々の生活が豊かになるという循環経済の思想は、COVID-19禍では当てはまらない。
家電量販店では今夏エアコンが爆発的に売れた。それは、エアコンは贅沢品ではなく、生命維持装置となったからだ。少し前までは、マスクや消毒用アルコールも並んでも手に入らなかったし、今でも体温計、使い捨て手袋やウエットティッシュは簡単には手に入らない。人々は、お金は無くても生きるために最低限必要なものは買う。しかし、娯楽や教養にまでお金を使う余裕はもはやない。だから、音楽や舞台など芸術文化面での支援は政府が直接行わないと将来への命運は危うい。
そうだ。COVID-19禍は戦争なのだ。今、起きていることを、戦後すぐに生まれた自分の人生の記憶と重ねると、よく理解できる。しかし、あの時はドイツ製高級車を乗り回しているような経済的に豊かな人々の姿はなかったような気がする。皆が貧しければ、いくら貧しくても幸せである。やはり、人々を苦しめている最大の問題は格差の拡大に違いない。