367 アマゾンがホールフーズを買収

ネット通販の巨人、アマゾンが高級食品スーパーのホールフーズを137億ドル(1兆5千億円)で買収した。この記事は、私にとって、いろいろな意味で感慨深い。それは1998年から3年間にわたるアメリカ駐在生活においてホールフーズは毎日通っていた食料品店だったからだ。私が住んでいたアパートがあるクパチーノ市は、アップルの本社もあり、シリコンバレーでもどちらかと言えば高級住宅地であった。ホールフーズは、その自宅から300mからしか離れていない所にあったからだ。

ホールフーズが他の大手食品スーパーより価格が高いにも関わらず、いつも繁盛していたのは、あくまで「食の安全」に拘っていたからだ。例えば、多くのアメリカ市民は遺伝子組換作物など全く気にしたりはしない。それにも関わらず、ホールフーズは遺伝子組換作物が含まれた商品は一切販売していなかった。また、野菜や果物はパック詰めしないで1個単位で量り売りしてくれるサービスもやっていた。これは効率から見たらとんでもない手間を発生する。しかし食材廃棄問題の観点から見ても、特に単身赴任だった私からしてみれば、必要な量だけ買えるのは大変ありがたかった。

今、アメリカの生鮮食品業界で妙なことが起きている。貧困者が多く住むスラム街から八百屋など生鮮食品を売る店が消えたと言うのである。つまり、アメリカで起きている貧富の格差は、生鮮食材を買って家庭で調理するという習慣をなくしてしまったのだ。彼らは、政府から支給されるフードチケットでファストフードを買うのが精一杯だからだ。つまり、生鮮食品は、もはや中間層以上の生活にゆとりがある世帯の購入品となってしまった。アマゾンは、こうして高付加価値商品となった生鮮食品に注目したのだろう。

もう一つ、私は若い時に大手食品スーパーの仕事で半年ほど、現場に常駐したことがあるが、驚いたのは生鮮食品が鮮度を保つために30%近く廃棄されていることだ。つまり、仕入れと販売をもっと効率よくやれば、さらに値下げできるし、利益率も上げることもできる余地があるということだ。そうした、諸々のことがアマゾンを生鮮食品市場に参入するきっかけになったのだろう。

それにしても、本や衣料品と異なり生鮮食品の搬送は厄介である。そうした中で、アマゾンは日本でも東京都内から生鮮食品を扱うアマゾンフレッシュを開始した。ヤマトですらクール宅急便では相当に苦労されてきた。しかも、現在、ヤマト自身も宅配ビジネスに関しては人出不足で悩んでいて、アマゾンとヤマトの価格交渉も熾烈な戦いの中で、アマゾンは、この新ビジネスをどう拡大していくのだろうか? もう、だいぶ前だが、ヤマト運輸の社長をされた都築さんとお会いした時に「アマゾンとの関係は、今後どうなるのでしょうか?」とお伺いしたことがある。都築さんは、「多分、将来、アマゾンは自分で宅配業務をやるでしょう」と仰ったことが、今でも忘れられない。

それにしても、アマゾンの積極的な事業領域の拡大は、一体、どこから来るのだろうか? アマゾンの創業者であるペゾスはキューバ移民の子供である。しかもペゾスは生まれて直ぐに両親は離婚して彼を捨てた。そのペゾスを引き取り育てた養父もキューバからの移民であった。やはり、裕福なアメリカの家庭で育った若者とは最初から覚悟が違うのだろう。ネット通販の本屋を始めたのも、アメリカではバーンズ&ノーブルが全米でチェーン店を展開していて独占していた書籍市場が一番難しいので、本から始めたのだという。

ペゾスは、まず、ネット販売で不可欠なインフラであるIT投資よりも倉庫を作ることに大金を使った。ネット通販で最も重要な投資は倉庫だと思ったからだ。この辺が、他のIT創業者と全く違うところである。ペゾスはバーチャルよりリアルなビジネスを優先したのだった。しかし、売り上げが拡大して来ると脆弱なITインフラが次々と問題を起こす。そこで、ペゾスは、二度とITインフラが原因となる障害を起こしてはならないと部下に無制限の投資をするように命令する。その結果、アマゾンのクラウド能力は、アマゾン以外の全てのクラウド事業者の総合計を超えるほどの過剰なインフラ能力を持つに至った。

この過剰なITインフラを使ってアマゾンは世界を席巻するクラウドサービスであるアマゾンウエブサービス(AWS)を開始した。もともと、赤字を全く気にしないペゾスの強引な戦略はAWS事業で60回以上の値下げを断行し、競争者を次々と駆逐した。それでも、価格が安いだけのAWSの信頼性はどうなのか?という不安は誰もが持っていた。それを覆したのが、アメリカ政府の国防総省商談においてアマゾンがIBMを破って獲得した「アマゾンショック」であった。最近、日本でも三菱UFJ銀行が基幹システムにAWSを導入すると発表するところまで来ている。そして、AWSは、今や、アマゾンの稼ぎ頭になった。

さらに、アマゾンは米国で人工知能を内蔵し会話ができるAIスピーカー「Amazon Echo」を、この7月から発売し、近々日本語版も発売する予定だという。一方、Googleも「Google Home」も、今夏よりアマゾン対抗としてAIスピーカーを発売する。人工知能と言えば、Googleが一歩先を進んでいて、この勝負はGoogleが勝つように見えるが、私は、そうは思わない。なぜなら、Googleは、実にいろいろな分野に着手し、多くの話題を提供しているが、今もGoogleの利益の殆どは広告から得ていて新規事業は全く成功しているとは言えないからである。

一方で、アマゾンは、最初から純粋なIT企業というより、リアルな業態で事業拡大し、後からITを付加している。今後、アマゾンは、Amazon Echoを利用して、これまでITリテラシーが乏しくネット通販に親しめなかった人たちに参加させる機運を高めることになるだろう。買い物難民は交通手段が乏しい地方だけではない、高齢化に伴い都会でも買い物難民は増えていく。きっと、Amazon Echoはアマゾンの生鮮食品ネット通販を支えることになるだろう。

ただ、ネット通販の先進国であるアメリカで何が起きているか?は、やはり気になるところである。今、アメリカではショッピングモールが、どんどん潰れている。例えば、スポーツ用品の店は、もはや、街では殆ど姿を見ないという。最も取り扱いが難しい生鮮食品までもがネット通販で行われるようになると、リアルな店舗でしか買えないものは一体何が残るのだろうかという不安もある。街を歩きながらのショッピングは、誰でも楽しいものである。お店が全てなくなったら、私たちは、どこへ行けば良いのだろうか?

コメントは受け付けていません。