364  シリコンバレー最新事情(1)

今年のGWは9連休だったが、毎年、この時期にシリコンバレーを訪問しているので相変わらず私は連休とは無縁である。日本から一緒に同行して頂いた方々には大変申し訳ないと思うが、この世界屈指のイノベーション地帯を歩き回ることに9連休を潰すだけの価値は十分にある。私も、人前で偉そうに講演などしている立場から、少なくとも年に1回は、この地を訪れていないと話にならないという危惧がある。そして、今年は、いつもと違うジャンルの話を沢山聞くことができた。

そうした具体的な話をする前に、まず一般的な話をしたい。ご存知のように、世界最強のイノベーション聖地であるシリコンバレーの破壊力は移民に大きく依存している。Appleはシリア移民の子、Googleはロシア移民の子、シリコンバレーから少し離れるが同じ西海岸のシアトルの巨人Amazonはキューバ移民の子が興した企業である。この3社が、アメリカの株価上昇の大きな原動力になっている。それにも関わらず、トランプ大統領は移民制限を重要施策としているのだが、驚くことに、このトランプ大統領の移民制限政策をカルフォルニア州以外の米国の殆どの地域の人々は支持している。

つまり、イノベーションによって富を蓄積しているのは、全米でも、このシリコンバレー地区だけである。Amazonの創業者であるペゾスは、ビルゲーツを抜く勢いとなった。このように大富豪に上り詰めた人々の中には移民の2世、3世が多く含まれている。日本と同様に、アメリカも「やっかみ文化」で、他人の成功ほど面白くないものはない。つまり「移民がたくさん来るから俺たちはいつまでも貧しいのだ」と思っている白人が沢山居るのである。彼らは、古き良きアメリカの誇りを今でも持ち続けて居るので、トヨタやホンダが自動車工場を建設しても、そこで汗水流して働こうなどとは全く思っていない。だから、勤勉な移民は、ますます豊かになり、怠惰な白人はますます貧困になる。アメリカの新たな分断は本当に深刻である。

一方、シリコンバレーの勢いは一向に衰えることを知らない。クパチーノのアップル新本社やサンフランシスコのセールスフォースタワーなど大規模な建設があちこちで起きている。建物は、どんどん増えるのに道路は全く増えないのだから、深刻な渋滞は日常化している。さすがに、金曜日だけは、通勤に疲れ切った人々が自宅でテレワークするせいか、道路は休日並みに空いている。しかし、こんな活況の中で厳しい移民制限が行われると、シリコンバレーの原動力は間違い無く毀損する。今回、いくつかのスタートアップを訪問して話を聞いて見ると、そのための対策がすでに始まっているような気がしてきた。もはや、シリコンバレーに住む人たちだけでは、小さな会社ですら成り立たないようである。例えば、研究開発はロシアや東欧、ソフトウエア開発はバンガロール、ハードウエア開発は深圳へと、シリコンバレーから世界各地にアウトソーシングをしないと完結出来なくなっている。

そして、もう一つ、シリコンバレーの発展に寄与しているのが潤沢な資金である。新興国から行き場のない膨大な資金がアメリカへ流入しているので、優秀なスタートアップはベンチャーキャピタルを選別するようになった。つまり投資したくてもスタートアップから断られる時代になったのである。優秀なスタートアップは急成長するので、何段階にも渡って巨額の資金需要がある。その需要に間断なく資金を供給し続けられる立派なファンドでないと彼らも困るのだ。投資意欲さえあれば、いつでもスタートアップから歓迎され、彼らの話を聞けると思ったら大間違いだ。

今や、シリコンバレーは中途半端な気持ちで話を聞きに行っても、誰も相手にしてもらえないと思った方が良い。シリコンバレーのスタートアップが、忙しい時間を割いて真剣に議論をしたいと思っている相手は、一緒に協業できるパートナーか、彼らの商品を売るディストリビュータか、あるいは最終顧客になる可能性を持っている人たちである。特に、人工知能は基礎研究の時代から応用開発の時代に突入しており、人工知能を使って何をするかが重要となってきた。もちろん、それはスタートアップにとって重要な企業秘密であり物見遊山の訪問者に見せたり話してくれるわけがない。

自分たちは何者であり、今、どういうビジネスをしていて、どんな技術を持っているかを述べて、これから、こうしたビジネスをしたいと思っているので、あなた方と、こういう形で協業をしたい。こうした具体的な提案が出来ないと、シリコンバレーのスタートアップは簡単には会ってくれない時代になった。シリコンバレーだけで、年間17,000ものスタートアップが起業して、成功するのは5本の指だけあるか?という厳しい競争に、毎日、命をかけている連中には、今、日本で盛んに行われている「働き方改革」の議論など全く理解できないと思われる。

グローバル競争に勝ち残るには、誰もがやっていることと同じことをしたらダメだ。もし、世界との直接対決を避けてのんびり幸せに生きていきたいと望むならば、誰も考えないようなことをするか、誰もしたがらないことをするしかない。さて、貴方に、その覚悟は本当にあるのだろうか?

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