昨日の東京都知事選挙で圧倒的多数で勝利した小池百合子さん。私は、個人的に小池さんを存じ上げないが、たった一度だけ二人だけで、ご一緒したことがある。もっと正確に言えば、小池さんと二人だけで座った机の向こう側のTV画面には、その時のデンマーク環境大臣コニー・ヘデゴー女史が居た。
この年、2009年12月にコペンハーゲンで開催される予定の第15回気候変動枠組条約締約国会議(COP15)の議長を務める予定のヘデゴー女史は、成功させるために年初から懸命の活動を行っていた。私が、ヘデゴー大臣から代官山のデンマーク大使館へ呼ばれた理由は、12月のCOP15本会議の半年前に、世界のビジネス界の首脳を招いて、CO2削減のための経済人会議を開催するので、それに参加するよう私に要請することだった。
なぜ、私が、その場に、呼ばれたかを想像すると、2009年当時、私は毎年ダボス会議に参加していて、欧州では、それなりに名前が売れていたことと、また富士通の欧州総代表を務めていたことが関わっていたのかもしれない。当時の富士通欧州は、従業員35,000人、売上高1兆5千億円と、富士通の歴史上最盛期だったからだ。
デンマーク大使館に着くと、大型TVスクリーンの前に机が用意されており、椅子が二つあった。そこに登場したのが、小池百合子さんである。前年の2008年に自民党総裁選挙に出馬し、将来の総理候補とまで言われた、小池さんが目の前に現れたのには本当に驚いた。そして、あのTVで見る勇猛果敢な戦闘モードの小池さんとは全く違う、礼儀正しくて、お淑やかな女性だったからだ。それから、楚々と、小池さんが、カバンから机の上に出されたのは、可愛らしい筆箱と自筆と思われる数枚の英文資料だった。
私なぞは、全く原稿も用意せず、ぶっつけ本番で、直接、ヘデゴー女史とやりとりするつもりなのに、小池さんは、流石、準備万端で会議に望まれるのは偉いなと感心した。この方は、十分に周到な準備をしてから戦闘モードに入る方なのだと、この時に思った。しかし、ヘデゴー大臣とのTV会議は終始和やかに進んでいった。
ヘデゴー大臣と小池さんは、コニー、ゆり子とファーストネームで呼び合う仲で、お互いに尊敬し合う同士のような雰囲気だった。お互いに環境大臣を経験し、ヘデゴー女史は、COP15の議長として成果を挙げれば、次にデンマーク首相に就任するという暗黙の了解が、デンマーク政界にはあったようである。その意味で、日本で最初の女性総理大臣候補No1だった小池さんと、ヘデゴー女史は、首相になるという目標を共有されていた。
その後、ヘデゴー大臣が主催され、私も参加させて頂いた、世界ビジネス環境会議は、ゴア元米国副大統領、潘 基文国連事務総長を始めとして、多数の世界のグローバル企業のTOPが参加されて大成功だった。その会議のランチで、私は、世界最大の風力発電機製造会社であるデンマークのベスタス社のCEOや、インド最大の電力会社であるタタ電力のCEOと同じテーブルになり、有益な話を沢山させて頂いた。その意味で、この会議に招待して頂いたヘデゴー女史には、本当に感謝している。
しかし、12月に行われたCOP15の本会議で議長を務めたヘデゴー女史は、中国の妨害で全く成果をあげられなかっただけでなく、先進国の中で、あらかじめ筋書きが作られていたとの新興国からの告発を受けて、無念にも議長を途中で交代させられた。このCOP15で成功すれば、デンマーク首相になっていたはずの、ヘデゴー女史はデンマーク政界から引退せざるをえなくなった。しかし、その後、ヘデゴー女史はEUの環境大臣として、もっと大きな舞台で見事に復活することになる。
環境大臣から防衛大臣まで務めた、小池さんも、ヘデゴー女史と同じく、将来の総理大臣候補と言われながら、安倍総理の総裁選に敵対することで、もはや、その目がなくなったと言われてきた。しかし、この度、日本の総理大臣以上に世界から注目を浴びる東京都知事に就任することでリベンジを果たしたとも言える。
さて、世界から見た東京は3,500万人を擁する世界最大の都市と認識されている。コトラー著「世界都市間競争」では、世界経済は、もはや国と国との競争ではなくて、都市と都市との競争で勃興・没落が決まるとも論じられている。つまり、アベノミックスよりコイケノミックスの方が、より責任が重いという意味である。さて、小池さん、これからどうするか?