340  シリコンバレーから見える未来 (4)

数年前から、シリコンバレーでは「もの作り」への回帰が始まっている。その、「もの作り」の代表選手は、スペースXの創業者でテスラ・モーターのCEOを務めるイーロン・マスクであろう。このイーロン・マスクは、元々、ソフトウエア技術者である。まだ若い時に、ソフトウエア会社を起業して売却し、巨額の現金を取得した。それを元手にして、彼は、次に金融業に参入し、あの有名なPayPalの前身となる金融会社を設立した。

またまた、このPayPalで大成功を成し遂げたマスクは、いよいよもの作りの世界に入り、打ち上げ費用を大幅に削減するために下段部分が回収できる宇宙ロケットを開発するスペースX社を創業。次に、誰もが成功しないと思っていた電気自動車テスラで大成功を収めていく。シリコンバレーのフリーウエイを走っていると、あちこちでテスラが快走しているのを見かけることができる。このマスクに代表されるシリコンバレーの「もの作り」エンジニアが、日本の「もの作り人」達と決定的に違うのは、「もの作り」の基本がソフトウエアだと考えていることだ。

世界で初めてインターネットWebブラウザ「Netscape Navigater」を開発して巨万の富を築いたマーク・アンドリーセンが言った言葉 「Software is eating the World」は、「もの作り」に回帰したシリコンバレーの、あちこちで頻繁に引用されている。実際、テスラは顧客に納入されてからもソフトウエアのアップデートにより、どんどん機能が強化されており、少しずつではあるが、着実に自動運転への道を歩んでいる。将来は、このテスラとGoogleが、GMとフォードに代わって、アメリカの代表的な自動車メーカーになるだろうとも言われている。

一方、既にシリコンバレーのあちこちで自動運転の車を走らせているGoogle。緊急停止ボタン以外に、ハンドルもアクセルもブレーキもない車で、利用者は、両手を上げて得意そうに乗っている。Googleの自動運転車は、完全な順法運転なので、無事故無違反で絶対的な安全性を誇っていたが、日本でいう自動車学校の教習車という感じで走行するので、他の車のドライバーからは渋滞の原因になると評判が悪かった。そこでGoogleは、少し人間の知恵を入れようとソフトウエアのアップデートをかけたが、早速事故を起こしてしまい、急遽、元に戻したという逸話がある。こんなに素早いリコールも、いとも簡単に出来てしまう。

このように、ソフトウエアが中心の自動運転車は、いつでもソフトウエアの更新で機能が拡張されていく。さらに、重要なことは、他の自動運転車が公道で学習した、いろいろな経験や知識を、そのまま移植してもらえることである。Googleの自動運転車は、自身が走行しない間でも、他の車が勉強した成果を無償で貰って、どんどん賢くなっていくわけだ。

先日、イーロン・マスクが創業したスペースX社は、切り離した下段ロケットを逆噴射させて、見事に海上プラットフォームに立った状態で着陸することに成功した。こんなことが出来るなんて、今までのロケット技術者が考えたことがあるだろうか? 元々、ロケット工学はローテクの塊である。ソ連が開発したソユーズが未だに現役で、アメリカのスペースシャトルの代わりを務めているのが、何よりも、その証拠である。ロケット開発技術の難しさには、宇宙空間には放射線が多いので、最先端電子技術が使えないということがある。

それでも、イーロン・マスクは、いくら宇宙空間は放射線が多くても、ソフトウエアは無関係なので、そこにはハイテクが使えると考えたに違いない。つまり、ソフトウエアがハードウエアの低い能力を克服したのである。日本のモノ作りは、とかくハードウエアに極端な精度を求める傾向にある。0.01ミリの精度を作り上げる匠の技術など、もて囃しているが、そんなに精度がなくてもソフトウエアを賢くすれば、十分にカバーできる可能性は十分にある。

もう一つ、シリコンバレーの人たちが考えている、「もの作り」のエコシステムがある。ハードウエアの試作も、ソフトウエアも、全て自分たちの手で作ってしまう、彼らは「これは、いける!」と思ったら、素早い量産化を目指して、すぐさま中国の深圳に飛ぶ。深圳の連中は、とにかく仕事が早い。しかし、仕上がりの精度は必ずしも高いものではない。シリコンバレーの連中は、そんなことは全く気にしない。仕上がりの悪さはソフトウエアでカバー出来ると考えているからだ。

しかし、手の早い深圳の人たちは、模倣をすることに関してもスゴ技を持っている。大事な、新製品の製造を、彼らに任して本当に大丈夫なのだろうか? 今や、シリコンバレーの連中たちは、そんなことは全く心配していない。なぜなら、その製品に内蔵されたソフトウエアは永久に進化するものと考えていて、常にアップデートかけて行くので、模倣品にも十分対抗できる手段を持っているからだと言われている。

シリコンバレーの発展の歴史を振り返ってみると、最初の原点は半導体であり、次にソフトウエアであり、今は、そのソフトウエアを内蔵した応用製品に変化してきている。そして、その応用製品の価値を決定する要素は、ソフトウエアである。全てのモノがインターネットに繋がるというIoT (Internet of Things)の概念は、むしろ全てのモノがソフトウエアで動いている、あるいは、全てのモノに人工知能が入って来ると考えた方が良い。まさに、「Software is eating the World」の時代が到来する。

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