339 シリコンバレーから見える未来 (3)

3年前にサンフランシスコへ行った時、「勉強のために、Uber試してみる?」と言われて、同僚と一緒にUberタクシーに乗ってみて、本当に感動した。高級車で、運転手さんのマナーは良いし、呼べばすぐ来るし、これは既存のタクシー会社は潰れるかも知れないと思ったが、今回、シリコンバレーのタクシー会社は本当に潰れていた。もはや、シリコンバレーの街中でタクシーを拾うということはできない。タクシーに乗りたければ、Uberに会員登録してスマートフォンから呼ぶか、ホテルのフロントから呼んでもらうしかない。

Uberが、これほど一気に普及した理由として、3年前は市当局に登録した個人タクシーしか利用できなかったのが、つい最近の規制緩和で、いわゆる個人の白タクまでが、Uberに開放されたからである。そのため、車の品質はプロの個人タクシーに比べて、多少落ちたかも知れないが、利用価格は安くなったので、普及は一気に広がった。それで、とうとうタクシー会社は潰れてしまったというわけだ。

利用分野を白タクにまで拡張する時に、Uberは、それまで利用者がドライバーを評価する一方向性の評価システムを、ドライバーが利用者まで評価する双方向性の評価システムに変更した。昔、ハイヤーの運転手さんから、「タクシーは、誰が乗ってくるか分からないから怖い」という話を聞いたことがある。白タクに挑戦する素人ドライバーも、きっと同じ恐怖感を持たれているに違いない。その時に、ドライバーも利用者を評価する手段があれば、利用者も自制して、そんなに酷いことはしなくなるということなのだろう。

この双方向性の評価システムというのは、Uberの凄い発案である。今、Uberは、Uber+ forXとして、タクシーサービス以外の、あらゆる個人サービスに発展させようとしているからだ。まず、最初に始めたのは、日本でも普及しているバイク便サービスである。人を運ぶだけでなく、モノも運ぶ、いわゆる宅配業務まで、Uberの個人サービスとして取り込むつもりである。当然、その延長線上には、お掃除、洗濯、料理、子守、介護など、ありとあらゆる個人サービスへと拡張されるものと推測される。

もちろん、日本でも、こうしたサービスを提供する企業は、沢山あるわけだが、Uber+forXは、個人が個人に対して直接サービスを提供するというところが決定的に異なっている。この時に、双方向性の評価システムが確立されていれば、利用者側は少々値段が高くても質の良いサービスを選ぶことも可能である。もちろん、値段さえ安ければ質を問わないというサービスを求めることもできる。そして、サービスの提供者側は、モンスター・クレーマーのような厄介な顧客を避けることが出来るので、派遣会社のような組織に所属して保護してもらわなくても、自分の好みで空いた時間にサービスを提供して、お金を稼ぐことができるというわけだ。

よくタクシー業は、失業時のセーフティーネットなので、いい加減に考えてはいけないという議論があるが、もちろん、それは極めて重要なことである。アメリカの富士通で働く現地従業員に聞くと、一時的に失業した友人たちとUberタクシーで出会うことが頻繁にあるという。アメリカ社会では、博士号(Ph.D)を持っている優秀な技術者でも、一時的に職がないというのは決して珍しいことではない。もちろん、失業はアメリカ社会では、全く恥ずかしいことでもない。自ら起業したスタートアップが倒産して、次の仕事が見つからないということもあるだろう。Uberタクシーは、彼らの就活時間の合間に、お金を稼ぐための絶好の機会を提供するセーフティーネットとして活かされている。

Uberは2011年に起業して、たった5年で時価総額6兆円に評価される超優良企業となった。この価値は、日本最大の旅客運送業であるJR東海を遥かに凌駕している。それでも、今、話題となっている自動運転車が普及したら、Uberの将来は、一体どうなるのかと思われるだろう。だからこそ、Uberはタクシー以外のサービスにまで事業範囲を拡大しつつある。そして、つい最近、Uberは、名門カーネギーメロン大学(CMU)の人工知能研究室に所属する研究者全員を引き抜いてしまった。Uberは、自動運転車が普及する将来のことまで、しっかり考えて抜いている。

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