268 施政権と領有権の違い

本日の日米首脳会談にてオバマ大統領が「日米安保条約第5条の適用範囲としてアメリカは尖閣諸島を守る」と宣言したことは、日本にとって大きな成果であった。しかし、こうした領土紛争に関してアメリカの態度は常に全くぶれていないことに注目したい。

オバマ大統領が話した内容を英語でチェックしてみると、日本の施政権配下(Japan’s administration)にある尖閣諸島(Senkaku ilands)をアメリカは守ると言っていることに注目したい。これは、まさに日米安保条約第5条で記述していることと全く矛盾しないが、ここで私たちが意識しないといけないのはアメリカ合衆国として、施政権(Administrative Power)と領有権(Sovereign Power)を、はっきり区別しているということである。

アメリカは英国の植民地から独立して以来、原住民であるネイティブアメリカン(俗に言うアメリカンインデアン)から武力でその領土を奪ってきた。従って、アメリカには歴史的見地から見た領有権(Sovereign Power)の存在を一切認めていない。アメリカは現在の実行支配領域だけを国家の領土とみなしている。それは、歴史的見地からの領有権を認めた瞬間にアメリカ合衆国の存在の正当性が失われるからである。

第二次世界大戦後、アメリカは沖縄を実行支配下においたが、この時でもアメリカは沖縄の領有権(Sovereign Power)を日本から奪ったとは考えていない。アメリカは沖縄の施政権(Administrative Power)を日本から奪ったのであって、アメリカにとっての沖縄返還とは、この施政権を日本に変換したに過ぎない。ここでもアメリカは尖閣諸島を含む沖縄に対する日本の領有権(Sovereign Power)については一切言及していない。

それでも、尖閣諸島を巡る日中の抗争が激しくなってからもアメリカの主要メデイアは、尖閣諸島をIlandsではなくRocksと呼んできた。つまり、これは島ではなくて岩であると言うのである。Senkakuが日中どちらの領土であろうとも、この岩を守るために若いアメリカ人の血を流すなどとんでもないと言ってきた。

同時に、これまで日本に集団的自衛権の行使を迫ってきたアメリカの日米安保関連族議員が、最近、一切集団的自衛権の話をしなくなったことにも注目したい。アメリカの世論が日本の保守派の強行姿勢には、もはや、ついていけないと言い出したのである。アメリカは日本の極端なナショナリズムのために集団的自衛権を行使させられるのは、もうごめんだと言っている。その意味でも、今回、オバマ大統領がSenkaku Ilandsと表現したことは、今の大方のアメリカの世論を考えると、相当に踏み込んでいると評価すべきである。

この背景には、アメリカ政府の中国の積極的な海洋進出に対する大きな懸念がある。こうした中国の攻勢に対しても、アメリカはもはや単独で対抗できる力を持っていない。この点でも、アメリカは日本に大きな期待をしている。日本人は、日本がそれだけの軍事力を持っていることを、もっと自覚すべきである。このたび、中国が進水させた空母「遼寧」はロシアから購入した中古品である。もちろん、中国は自国の最新鋭の技術を駆使した航空母艦を現在開発中であるが、日本は既に遼寧に負けない自国製の立派な空母を持っている。中国や韓国が指摘するように、このたび日本の海上自衛隊が進水させた最新鋭護衛艦「いずも」は誰が見ても立派な空母である。

さて、今回の日米首脳会談におけるオバマ大統領の声明をもっと深読みすると、日本は単に喜んでばかりはいられない。日米安保条約第5条と同じ文言が米韓安保条約第5条にも書いてある。この条約の内容に従えば、米国は竹島に実行支配権を持っている韓国に対して、もし日本が竹島に何らかの行為を行えば、米韓安保条約を適用下において日本と戦うということになる。そして、万が一、中国が武力によって尖閣を実行支配下におくようなことになれば、もはや日本には施政権がないわけだから、アメリカは尖閣諸島を守る必要はなくなることになる。

今回の、日米首脳会談におけるオバマ大統領の声明の内容にについて、この施政権(Administrative Power)と領有権(Sovereign Power)の違いをしっかり理解しておく必要がある。日本のマスメディアが丁寧に解説してくれないので、生意気にも世界的にはごく常識的なことを敢えてお話させて頂いたことをお許し願いたい。

 

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