264 インターネット・ガバナンス (その1)

私は、来週4月8日から東京で開催される日本・EU BRT(ビジネスラウンドテーブル)に参加する。日本とEUと毎年、交互に場所を変えて開かれる、この会議に参加してから、今年で早くも8年目になる。昨年は、あの憧れのパリで開催され会場はフランス外務省の迎賓館だったが、今年は東京の帝国ホテルでの開催となる。この会議の日本側共同議長を長らく務めてこられた米倉弘昌住友化学会長は、今年を最後に、来年から佃和夫三菱重工相談役に引き継がれることになった。

この会議の主旨は、日本とEUのビジネスリーダーが、一緒に、日本とEUの政府に共同提言を出すと言うものであるが、この数年間は、日本とEUの経済連携交渉(日・EU FTA/EPA)に関わることが主題となってきた。日本とEUのFTA/EPA交渉は既に最終段階に入って来ているが、日本と米国の間のTPP交渉と同様に、最後の詰めの段階に入るほどに困難さは一層増しており決して楽観を許さない状況にある。一方、EUも米国との間でTTPの大西洋版とも言うべき環大西洋貿易パートナーシップ(TTIP)を現在交渉中である。

国連配下のWTOで先進国と途上国との対立が一向に解決しない中で、世界の自由貿易交渉は、日本‐EU‐米国の3つの先進国間での三つ巴の交渉に焦点があたっている。こうした交渉の中で、お互いの対立点を明確化して、その打開策を見出すことももちろん重要であるが、お互いの共通の利益を確保するために、いかに両者で協調を深めて行動するかという議論はさらに重要である。日本とEUが共有する価値観は数多くあるが、その中でも、最もホットな議題の一つとしてインターネット・ガバナンスの問題がある。

元来、インターネットは自由でオープンな情報交流を目指して構築され、今日の世界経済の発展に大きく貢献してきたが、一方で、児童ポルノや麻薬取引、マネーロンダリングなど犯罪に絡む影の部分をどう排除するか? あるいは、悪意を持った攻撃、特に特定の政府組織や企業を狙ったサイバーテロを、どのように防ぐか?という課題を持っている。

こうしたセキュリティ確保という課題に関して日本・EU・米国を中心とする先進国と中国・ロシア・アフリカ・アラブという新興国・途上国が対立した立場にある。特に、これまでインターネットには関わってこなかった国連配下の国際電気通信連合(ITU)の2012年12月の会合にて、インターネットセキュリティ確保に向けて国際電気通信規則(ITR)の改正が議論された。これまで、ITUでの規則改定では全員一致が原則だったにも関わらず、先進国と途上国・新興国との激しい対立の中、異例の投票によって改正ITRが成立してしまった。現在、この改正ITRへの署名国は89ヶ国であるが、米国、EU、日本を中心とする先進国55ヵ国は署名を拒否している。この結果、ITUはインターネット・ガバナンスに関して完全に指導力を失ってしまった。

途上国・新興国が、インターネットを国家管理の中に置くと言う点で、これだけ一致団結しているのは、その政情不安定の中で、インタ―ネットに対する恐れがあるからとも言えるだろう。しかも、インターネットはグローバルとは言いながら、実際のネットワークは、物理的に、その国の領土の中を巡っており、インターネットの規制は国境の中で国家が自由に行えるという状況にもあるからだ。

そうした中で、多くの先進国は自由でオープンなインターネットを目指しているわけだが、先般の米国国家安全保障局(NSA)のEU各国の首脳にまで及ぶ盗聴問題のためにEUは米国に対して不信感が強まっていた。米国も、こうした欧州首脳を怒らせたスキャンダルに対応して、インターネットのIPアドレスとドメインネームを一括管理する非営利の民間団体であるICANNを米国商務省の管轄から外して、マルチステークホルダー化することを今年の3月14日に表明してきている。

来週から開催される日本・EU BRT(ビジネスラウンドテーブル)では、昨年末、日本の総務省とEU委員会通信ネットワーク総局とのICT政策対話でまとめられた結果を受けて、米国が表明したマルチステークホルダーによるインターネット・ガバナンスのあり方を共に支持していくことを表明することになるだろう。

国家の発展の過程において、課題解決のやり方は、それぞれの国で、さまざまであろう。先進国も、決して100年前から現在のような開かれた民主主義国家だったわけではない。しかし、あくまで、インターネット・ガバナンスの原則は、「基本的人権及び民主的価値観の重視」という基本を崩してはならない。この点で、日本とEUが共に、新興国・途上国との丁寧な会話を、今後とも持ち続けていくことは大変重要なことだと思う。歴史は民意を真摯に受け止めることができない国家が永く持続することは大変難しいことを教えている。

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