249 MOOCについて(その1)

MOOCとは北米の一流大学がやり始めて、昨年からブレークしはじめた無料公開オンライン講座(Massive Open Online Course)のことである。日本でも、今年2月に東京大学が米国のベンチャーが運営するMOOCプラットフォームであるCoureseraへの参画を表明し、同じく今年の5月には京都大学がMITとハーバード大学が、それぞれ30億円ずつ出資したNPOが運営するMOOCプラットフォームedXに参加した。このMOOCの動きは、世界中の大学関係者を震撼させるほどの勢いを見せ始めており、日本でも、こうした動きに合わせて日本版MOOCを運営するために一般社団法人「日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)が、来月1日正式に発足する。富士通も、幹事会社の1社として参加させて頂き、このたび、私は、その理事を仰せつかった。

JMOOCに対しては、「なぜ日本版が要るのか?」とか、「日本にはMOOCは馴染まない」といった批判も多くあるようだが、私は、それは間違っていると思っている。北米で津波のように大きな影響を及ぼし始めたMOOCを、ただ遠くから静観していて良いはずはなく、いかなるものかを自身で作ってみて、運用してみて、敢えて世の中の批判を受けるだけの覚悟が必要だろうと思う。

企業の立場から見ても、このMOOCがビジネスモデルとして成立するのかどうかという議論をするよりも、新しい高等教育の一つの萌芽として積極的に関わって行くべきだと思っている。これからMOOCが、どのような変貌を遂げていくのかは誰にもわからない。だからこそ、参加すべきだと思っている。GoogleもTwitterもFacebookも、始まった時は、一体誰が、今日のような確固たるビジネスモデルが成立するという確信を持っていただろうか。

大学関係者の間では、MOOCは大学教員の職を脅かすものだとしての警戒感が強くあるという。現に、あのサンデル教授の授業をMOOCとして導入しようとしたサンノゼ州立大学は教職員から訴訟を起こされている。しかし、この方針を決めたサンノゼ州立大学の学長は、こうした訴訟の動きに対して全く慌てるところはなかったそうである。元々、MITはオープンエデュケーションの一環として授業で使用する全ての資料を公開してきた。これは、21世紀の高等教育の在り方を見直す必要があるという大学側の切実な危機感からでもあった。常に世界大学ランキングの5位以内に入ってきたMITやハーバード大学らが、深刻な危機感を持っているとすれば、他の大学においてはもはや存亡の危機を遥かに超えている。

私達は、あの東大紛争で7カ月間も授業がない期間を過ごしている。それでも、教授たちは、こんな輩を長く学内において置いておくことは、大学のためにならないと、学生たちに、どんどん単位を与えて、3月31日には、卒業式も行わず、事務室で、学生証と卒業証書を交換するという形で、やっかいな学生達を全員追い出すことに成功した。私たちは、たいして勉強もしないで教授たちに追い出される形で卒業させられたわけだが、それでも、学会、官界、実業界で要職に就いている者はかなり多い。これを見ても、大学教育とは一体なんなのだろうと思うことがないわけではない。

そして、卒業して25年が経ち、東大紛争では、ご迷惑をかけた先生方を伊豆の川奈にお招きをし、感謝の心を込めて、改めて盛大に謝恩会を開いたのであった。その時の先生方の、お話は、私は、今でも忘れることが出来ないでいる。「私達教員は、あの時(東大紛争)に君たちが何を言っているのか、さっぱり理解できなかった。『東大を抜本的に改革しろ!』とか、『それが出来ないなら、東大なんて潰してしまえ!』とか、こいつら、皆、頭がオカシイのではないかと思っていた。しかし、今は、違う。君たちは正しかったのだ。あの時、東大を一度潰して、ゼロから作り直すべきだった。それをしていれば、このような惨状にはならなかった。東大は、今、瀕死の重傷である」と仰った。

今年、5月、EUの経済界、官界の方達と経済連携に関する会議をパリで行った。その中で分かったことは、現在のEUの方々の最大の関心事は雇用の問題ということだ。特に若年層の失業率の高さは社会の大きな不安定要因になるので、関心が高い。しかも、さらに困難な話は、大学を卒業した若者の失業率は大学に行かなかった若者のほぼ2倍であるという事実である。一般的に、最も効果のある若者への就業支援策は教育であると言われているが、高学歴者ほど就職が見つからないと言う現実は何とも過酷である。大学の教育が悪いのか、卒業生を受け入れる側の企業の経営姿勢が悪いのか、とにかく、このミスマッチは、若者の向学心を限りなく萎えさせる。

MOOCは、そうした危機感をどう救うことができるのか? 一体、今、米国やEU,アジアや日本の大学では、MOOCとどう対処しようとしているのか?あるいは、MOOC推進を行う上で、関係者の方々は、どのような危機感を持っておられるのか? 私は、それらを知りたいと思って、昨日、ホテルオークラ神戸で開催されたオープンエデュケーションフォーラムに参加した。講師は放送大学で永年オープン教育に従事されてきた放送大学の山田恒夫先生と、もう一方は、米国在住20年、2008年にはMITで、今日のMOOCを予言された著書「Opening Up Education」を出版された飯吉透先生である。また、飯吉先生は、先述のように、現在、京都大学において、米国edX連合に参画され、日本だけでなく、世界のMOOC教育の推進に貢献されておられる。

この両先生から、大変、参考になるお話を伺った。放送大学の山田先生は日本でJMOOCを推進するお立場から、飯吉先生は、米国大学連合edXと共にMOOCを推進するお立場からのお話であったが、お二人とも活動する場は違うとは言え、基本的なお考えは、ほぼ同じであった。特に、飯吉先生は、永年、MITにおられて、常に大学世界ランキングの最上位に居るMITが、なぜ、今、大学存続の危機感を持つに至ったのかは、大変興味深い話であった。この話を伺えば、東大、京大、早稲田、慶応を含む、MITより世界大学ランキングで遥かに下位にいる日本の大学が、MOOCに対して冷ややかな目で見ている余裕など全くないことがわかる。

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