227 1年ぶりの中国(その2)

珠海から陸路で国境越。1時間半もの時間をかけて入出国手続きを終え、ようやく疲れ切った身体でマカオに入ることが出来た。観光客としてではなく、一般市民と一緒に国境越えするのも良い経験であった。そして、ここは、もうヨーロッパ、広州とは違い道路も空いている。車は香港と同じ、右ハンドルで、道路も左側通行。道路標識にはポルトガル語が併記されている。15分ほど走ったら、今晩泊まるホテルオークラがあるギャラクシーについた。もはや、ヨーロッパではない。まさにラスベガス、そのもの。そして、もう、カジノビジネスでは、とっくにラスベガスを抜いてマカオが世界一になったのだと聞く。

今回は、1981年からマカオでビジネスを始めた方からのご招待でやってきた。その方から、ランチを食べながらマカオの歴史を聞いた。2002年、中国共産党は、それまでマカオのカジノ王スタンレー・ホーが独占していたカジノビジネスを国際資本に開放した。それを受けて、ラスベガスからサンズが最初に280億円を投資して建てたカジノが2004年に完成したのだが、投資額全額を半年で回収したのをみるや、香港資本のギャラクシー、ラスベガスのベネチアン等が次々と大型カジノを建設した。丁度、昼食はベネチアンのレストランでとったのだが、2階の回廊に人工の河を作りゴンドラを浮かべた、ラスベガスの、あのベネチアンと全く同じ造りである。

その隣では、今、まさにエッフェル塔と凱旋門を備えたパリスが建設中であった。私は、米国駐在中に家族と一緒に何度か泊まったお気に入りのホテルが、このパリスだった。懐かしい。これに、ニューヨーク・ニューヨークやベラージオ、ルクソールが出来上がったら、もうラスベガスには行く必要がない。しかし、カジノの売り上げは、今年の3月から月間3千億円を超えて、今年は年間では4兆円を超えるのではないかと言っている。ラスベガスのカジノ売り上げが年間約7000億円だから、マカオは、既にラスベガスの5倍以上の売上規模になる。そして、ここのカジノ税は40%だから、マカオ政庁はカジノだけで年間1兆5千億円以上の税収を得ることになる。当然、マカオ市民は無税だし、しかも安い家賃で入れるマカオ市民専用の豪華高層公営住宅が次々と建設されている。

さらに、驚くことに、現在のカジノは最終計画の4分の一で、現在も、次々と新たなカジノが建設中である。一体、誰が、こんな巨大なカジノで賭け事をして遊ぶのだと思うだろう。私が、泊まったギャラクシーは、未だ新しく、それほど混雑していないが、隣のベネチアンは、平日なのに館内は立錐の余地もないほど満員である。もちろん、客の殆どは中国人である。そして、人々の注目を引くのは、やはりバカラである。裕福そうな中国の女性が3人ほど、バカラに賭けている。聞けば、ここのチップは1個100USドル、約1万円である。20個ほどのチップが、ほんの10秒ほどで消えて行く。凄いレートの賭けが、静かに淡々と行われている。私達には近寄りがたい、全くの別世界だ。

このカジノの規模が余りに急拡大しているので、ディーラーの養成が間に合わないのだという。これを補うには自動機しかない。つまりは、ゲーム機である。私が訪れた日は、丁度、このカジノ向けゲーム機の展示会だった。こんなに沢山の種類のゲーム機があるのを初めて知った。日本からもコナミが参加していた。中でも面白いのはゲーム用のチップのメーカーが色鮮やかな各種のチップを展示していたことだった。日本のマツイは、このチップの世界的なメーカーだという。ニッチな市場でも世界シェアを独占すれば、それは良いビジネスになる。思わず、マツイを応援したくなって、じっとチップを見ていたら、お姉さんが一種類1個ずつ10個ほど、「お土産にどうぞ」と私にくれた。

中国の人達が、特に賭け事が好きだと言う事もあるだろうが、世界基準から見ても、こんなに並はずれた規模でカジノが流行っているというのは、やはり世界のマネーが中国に集中している証拠である。お金が1箇所に集中していれば、足りないところが出てくるのは当たり前だ。それがヨーロッパなのだろう。特に、ヨーロッパは中国だけでなく、域内のドイツにも、お金を支払っているから、二重にお金が足りないことになる。トーマス・フリードマン著「フラット化する世界」は、もはや過去のものとなったのかも知れない。世界は、フラット化するどころか、どんどん2極化していくようにも見える。

せっかくだから、開催中のゲームショーを見て回った。私は、もともとゲームセンターには行ったことがないので、日本のコナミ以外に知っているメーカーは無かった。展示メーカーは、殆ど知らないブランドばかりである。ところがである。1社だけ、良く知っているブランドがあった。世界的なERPベンダーであるSAPである。アメリカや香港資本のカジノが、売上、利益などITを駆使してリアルタイムでマカオから本社に報告しているのである。本社は、競合するカジノから、どのように客を引き寄せるか、常に戦略を練る必要がある。このマカオでも、決してビジネスは楽ではない。カジノ間では熾烈な競争があり、それに勝ち抜くためにはITの力が必要なのだ。カジノも、博徒側から見るのと、経営者側から見るのでは全く違う景色が見えてくる。

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