8月29日から9月2日まで4日間の長期に渡り、東海道新幹線が運転中止した。私の記憶では、これほど長く、日本の基幹経路である東京―新大阪間がストップしたことは記憶にない。この東京―新大阪間の新幹線長期運休に対する海外からの旅行者の困惑は想像に絶するものがあるが、今回、国内のビジネス客からは大きな非難は見受けられなかった。中には北陸新幹線で代替し凌いだ方も少なからず居たようだが、多くの方々はリモートで打ち合わせを代替するなど、コロナ禍で培われた日本人ビジネスマンのITリテラシーが代替手段として役に立ったのだろう。
それにしても、今回の台風10号は前代未聞の動きをして日本社会を翻弄した。東西の高気圧に挟まれて、本来台風を動かすはずの偏西風は遥か北にあり、九州に停滞中の台風10号に対しては何の動きを与えることが出来なかった。その一方で、巨大なスケールを持つ台風10号の周辺雲が台風中心あった九州から1,000キロ以上も離れた東海地方を襲い線状降雨帯を形成し、東海道新幹線を運行中止に追い込んだ。今回の台風災害で、各TV放送局も、台風の現状報告はしてくれるのだが、台風が今後どのように動いていくのかについては詳しくは何も語ってくれなかった。どうも、台風に関する報道に関しては、気象庁の許しが得られなければ各TV局とも勝手に動向を推論することが許されないようである。
そこで役に立ったのが、欧州や米国の気象機関が発表する台風の動向予測である。日本と異なり欧米では10日後の台風の動向予測までTV放送することが認められている。今回、私には、それが非常に参考になった。例えば、アメリカ気象機関の予測シミュレーションでは、台風10号は九州を出た後、瀬戸内海に入ってから一旦九州寄りに戻っているのである。私はこのTV報道を見て、「今回の台風は、こんな風に迷走するのだ」とよく理解できた。もちろん、日本も含めて欧州も米国も10日間もの長期間の予測シミュレーションは結果的に予測が外れることも当たり前だ。台風の進路予測は、沢山の変動要素をベースにシミュレーションを行なっているので正確に予測することは難しい。
そうした前提条件を付しても、長期間の進路予測を報道する事には意味があると私は思う。時事刻々状況が変化するのであれば、そうした変化を反映した新たな予測を次々と公表すれば良い。そのように変動要素を含んだ予測でも、ビジネスや旅行で移動する方々には大変役に立つはずである。日本の台風情報は進路と進行距離を示しているが、これと合わせて欧米と同じように10日後くらいまでの進行シミュレーション情報を示して欲しい。もちろん、毎日台風の周辺状況は変化するので、その都度に新たなシミュレーション情報に更新するべきだろう。その結果が前日の予測シミュレーションと大きく異なる結果になっても全く構わない。台風の進行状況は、微妙な周辺環境によってかなり大きく変化するからだ。
今回の台風10号に関して、JR東海は、4日間の運休を行うなど、これまでにない慎重な運行体制を敷いた。その安全優先というポリシーは多くの利用客から支持されたようにも見える。今後、リニア新幹線が東京―名古屋間で運行を始めれば、今回のような静岡地区の豪雨による東海道新幹線の運休には大きな代替手段となる。しかし、殆どの路線が地下に埋設されるリニア新幹線は台風による耐性は極めて強いものの、地震に対する耐性は一体どうなのだろうかと思う。地震は台風と異なり、予測がつかず突然やってくる。事前に運休という体制も運用できない。リニア新幹線の地震に対する被害は、一体、どういうレベルなのだろうか? 私も、乗る前に、ぜひ、知っておきたいと思う。