正月を明けても、ウクライナやガザで悲惨な戦いが続いている。一方で、アメリカでは新たなコロナ変異株”JN.1”が大流行していて入院患者が一日6万人にも及んでいる。この”JN.1”株は、症状はそれほど深刻ではないものの中国やインドも含めて世界中で確認されており、従来のインフルエンザやこれまでのコロナ変異株に比べて感染能力が非常に大きいと言われているので、なんだか気味が悪い。一体、いつになったら私たちはコロナ禍から解放されるのだろうか?2020年より世界中の国々はコロナ禍で翻弄されてきた。それから3年経った2023年になって、このコロナ禍がいくらか癒えても世界はコロナ禍以前より大きく変わり、その多くが元に戻らないでいる。コロナ禍が終息しても、むしろ一層大きく変化しつつあるとも言えるだろう。そして、新しい年である2024年は、どのような年になるのだろうか?
まず、アメリカだ。アメリカはFRBの利上げの効果でインフレも安定化し、株価も史上最高値を更新しつつある。それでは来年のアメリカの経済は、これから一層良くなるのか?と言えば、そう簡単ではない。実は、アメリカの株価上昇は7大テック(アップル、アルファベット、アマゾン、メタ、マイクロソフト、テスラ、エヌビディア)の影響を大きく受けており、S&P500(日本の東証プライム以上の一流企業)の株価から、この7社を除いたS&P493の株価は殆ど上がっていない。つまり、アメリカの株価上昇は、この7大テックによるものだと言える。
しかし、アマゾンを除く、残りのビッグテック6社の従業員は極めて少なく、この7大テックが好況で従業員に高給を支払ったとしても、アメリカの労働者全体に占める割合は極めて低い。加えて、この7大テックの動向がコロナ禍以前とは全く異なってきた。その一つは従業員を大量解雇していることと、有力なスタートアップを買収する投資を殆ど行っていないということだ。コロナ禍が開けても、一向に7大テックは静観したままである。私は、こうした7大テックの動向はコロナ禍とは関係なく、新たな展開に備えているような気がする。つまり、オープンAIが提供するChatGPTに代表される生成AIの出現が影響しているのだ。
つまり、7大テックは、彼らを取り巻くビジネス環境が生成AIの出現によって大きく変わると考えているようだ。これまでの研究開発の方向が大きく変わるため、各社が抱えている開発者を入れ替えることを考えているように見える。今は、大きな投資をしないで市場の様子を静かに見ようと思っているのではないか? そうだとすると、2024年に7大テックにはたいした動きがなく、アメリカ主導の景気高揚に大きな期待ができない。
次に世界景気に大きな影響を与えるのは中国だ。2008年にアメリカで起きた金融大恐慌を救ったのも中国が行った4兆元にも及ぶ巨額の政府投資だった。しかし、今や、その中国が未曾有の不況に喘いでいる。恒大集団や碧桂園が苦しんでいる不動産大手の経営危機も不況の要素の一つではあるが、20%から30%に及ぶ中国の若者の失業率は不動産不況だけでは説明できない。ほんの数年前、アメリカの販売店で売られている日用品の殆どが「Made in China」だった。アメリカの輸入先は中国が圧倒的一位だったのだ。それが、今年、アメリカの輸入先はメキシコが一位で、2位がカナダ、中国は3位にまで下がってしまった。金額も前年比で30%近く減少している。
もちろん、この最大の要因はトランプ前大統領の対中関税の大幅な増加によるものだが、いきなりメキシコが中国の代役を務められるわけがない。つまり、これまで、アメリカに輸出していた中国企業がメキシコに巨大な投資をしてメキシコの工場からアメリカに輸出しているからだと考えた方が良い。こうした措置で、トランプが提唱した対中制裁は、結果的に、中国の企業やアメリカの消費者には殆ど影響を及ぼさなかった。しかし、中国の労働者は仕事をメキシコの労働者に奪われてしまったということになる。中国企業にとっても、給与水準が安いメキシコへ生産移転することで、利益率は高くなるのかも知れない。しかし、その結果、中国では大量の失業者が増えた。
本来中国の人々が古来より持っていたバイタリティーがあれば、こうした厳しい環境も難なく乗り越えられたはずである。しかし、今の中国の政権は、こうした民衆の力を悉く削いでいる。いや、削いでいるだけでなく、のし上がってきた民間企業を容赦なく叩いている。今の中国では、自分たちの力で特別頑張ってはいけない。大人しくして政府が言っていることを素直に聞いていることをすれば叩かれることもない。だから、“住宅を買わない”、“車を買わない”、“恋愛しない”、“結婚しない”、“子供を作らない”、“消費は低水準に徹する”という「寝そべり族」と呼ばれる多くの若者たちが親の脛を齧って生きている。この難局を乗り切るにはあまりにも元気が出ない社会の仕組みの中でこの「寝そべり族」は一種の社会抗議運動という側面も持つとも言われている。
こうした中国経済の悪化で最も大きな影響を受けているのが欧州、特にドイツだ。10年ほど前に、中国企業の工場を訪れて工場設備の殆どがドイツ製であることに驚かされた。ドイツは中国製造業の発展に大きく貢献してきた。ドイツの前首相であるメルケル女史が、頻繁に中国を訪問していたのも私たちの記憶に残っている。この度、ドイツのGDPが日本を抜いたと言われているが、このドイツの目覚ましい発展に中国経済がどれだけ貢献したのかは私たちの想像を遥かに超えるだろう。従って、現在の中国の不況は、今後、ドイツ経済に大きな影響を及ぼすことになる。ということは、EUの盟主であるドイツが大きな不況になるということが、EU全体の不況にも繋がっていくのかも知れない。
こうしてアメリカ、中国、欧州と世界中で景気動向が悪い方向に向かうことで、一番恐れる話は、それぞれの国で激化している右傾化である。いっとき、グローバル化による景気高揚で世界中の多くの人々が、その恩恵を受けた時代が懐かしく思えるほど、今や、世界中で移民や難民も排する自国優先主義を尊ぶ人々が増えている。アメリカのトランプ政権の復活を恐れる中で、欧州でも、南米でもアジアでも自国優先主義の政党が民衆の支持を高めつつある。それで、世界の不況が収まり景気高揚に繋がるのなら良いかも知れないが、おそらくは、その逆だろう。
こうして考えると、2024年は、どう考えても、世界中の人々が好景気に酔いしれる時代にはならない確率が高い。今後はインフレで貯金が目減りするから投資で増やさなくてはならない。そのために有難い施策を沢山込めた制度(新NISA)を作り出すことで支持率を上げたいという日本の政権。そうした誘いに乗って、これから株を買って果たして本当に利益が出るのだろうか? 良い結果を期待するには、少し、長い目で見る必要があるだろう。