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471  令和バブルの中身 

2023年7月2日 日曜日

コロナ禍が終息した後の日本は、まさにバブル状態だ。株価は30年ぶりの高騰を見せ、都内のタワーマンションの平均価格が1億円を超えてきた。そして、日本の個人金融資産が2,000兆円を超えたという。私が住む横浜の街でも、ドイツ製の高級車で溢れており、お金がある人には、どんどんお金が入ってくるのだなと羨ましくも思う。つい、先日までコロナ禍で喘いでいた、この国の経済はいつの間に、こんなにも復旧したのだろうか?

そして、都内に出かけると地下鉄には旅行姿の外国人が大勢乗っている。新幹線のグリーン車は外国人の方が多いくらいだ。為替が145円近い円安だからなのか? アジア人から見ても日本の物価は相当に安いのだろう。皆んな、満足そうにイキイキと話しながら歩いている。コロナ禍前に大勢いた中国人は未だ入ってきていないのに、こんな勢いならインバウンド需要もこれから前代未聞の勢いまでいくのだろう。一方で、大幅な物価高騰で賃上げ分をキャンセルされた多くの日本人の生活は決して楽になってはいない。毎日のように聞く強盗犯罪のニュースも、仕事を持っていない若者の闇バイトによって引き起こされている。

現在の日本経済は「よくなっているのか?」、それとも「そうではないのか?」、よくわからない。一方で、中国経済は未だにコロナ禍を脱却できていない。「中国はゼロ・コロナ政策の後遺症で苦しんでいる」という説もあるが、何やらもっと本質的な原因が内在しているのではないかと思う。このコロナ禍の3年間で世界のサプライチェーンが大きく変わってしまったのではないかと考えている。巨大な世界の製造基地だった中国が少しずつ世界のサプライチェーンから外れつつあるのかも知れない。そして、今や中国の代役を担いつつあるのが東南アジア諸国である。米国の対中国政策である、「デ・カップリング」から「デ・リスキングへ」の転換政策が実現しつつあるのかも知れない。

その上、中国経済の大躍進を支えた不動産バブルが崩壊した。中国の不動産バブルを支えたのは土地売却で財政を賄う地方政権だけではない。これまでの中国経済大躍進で大きな富を得た富裕層の転売ビジネスの舞台だった。しかし、景気後退により不動産の転売先がなくなれば不動産バブルが崩壊するのは当然だ。それでも彼ら中国の富裕層は、今後、現金で保有し続けるには不安を抱えるほどの巨大な資産を持っている。まずは、そうした溢れたマネーが東京のタワーマンション購入を目指したのだろう。一方、中国から移転してきた製造業で未曾有の景気高揚を実現した東南アジアの富裕層は、歴史的に見れば実態は中国人である。この中華系アジア人達も東京のタワーマンション・バブルに資金を移動させたと考えればある意味で納得できる。

そう考えれば、日本の株式市場の高騰も同じ構図が考えられる。現在、アメリカの投資ファンドが中国から急速に撤退しつつある。これまで安定的な金融資本の中継点であった香港への投資リスクは極めて大きくなったからだ。そして中国から引き上げた資金の行き先が、欧米市場では見つけられずに、仕方なく東京証券市場となったと考えられないだろうか。きっと、ある日、中国市場から資金を引き上げた欧米の投資家たちが、東京証券市場をよく見てみるとあまりに低すぎる評価の会社が沢山あったことに気がついたに違いない。その上、145円にも達する円安で、日本株はさらに安く見えることになる。東京証券取引所の株価高騰も東京のタワーマンションの高騰も、欧米や東南アジアの中華系投資家の東京への資金移動だと考えると極めて自然な流れである。

いずれにしても、もうした日本への投資は、日本経済には結果的に良いことと考えられる。こうした世界の潮流をいち早く見つけて日本株や東京のマンショに投資した日本人投資家も、この世界の流れで大きな利益を出したことだろう。しかし、こうした日本への資金の流れは今後も続くのだろうか? もっと、言えば、この流れをもっと長く続けるためには日本は何をしたら良いのだろうか?を考えないといけない。中国がアメリカに追いつき、近い将来アメリカを追い越そうとしている最大の要因は「製造業」の繁栄だと私は思っている。欧米、特にアメリカと英国は経済の発展を「金融業」に賭けてきた。「製造業」という「低賃金ほど有利な業態」は欧米には向かない、だから自分たちは「製造業」を支配する「金融業」で儲けるのだという金融市場主義経済に国家の発展を賭けてきた。

しかし、今や、AIやIoTの先端技術を駆使する「製造業」は、一昔前の低賃金業態から脱しつつある。一方で、「金融業」はAIを徹底的に駆使することで、従来の人間技を超えた仕組みで利益を出せる業態になりつつある。その上、アメリカが世界の金融業の頂点に建てた最大の「仕掛け」は世界経済のドル支配があった。その圧倒的なドル支配も、中国や中東、アジアの台頭で少しずつ劣化しつつある。「お金」を原料にして、何か加工すれば「お金」が増やせる魔法の仕組みとなってきた金融業は、近い将来デジタル技術の進展によって特別に儲かる業態ではなくなるだろう。そうした将来、経済で最も重要な仕組みは、食料を得るための「農林水産業」であり生活必需品を得る「製造業」と、それらを皆で上手に使いこなせる「サービス業」が中心となってくると考える方が自然である。

今、東京証券市場で高騰している銘柄は、売上高は決して巨額ではないが、世界シェアが高く、利益率の高い、ニッチ分野で世界的に活躍している「製造業」銘柄が多い。昔、ドイツの製造業の成功物語として「隠れたチャンピオン企業」という本を読んだことがある。第二次世界大戦後、ドイツはいち早く製造業を復活させたが、低賃金を武器に後から台頭した日本企業に悉く負かされてしまった。そこで、ドイツは中堅企業各社が大量製造・大量販売というジャンルではなくて、ニッチで利益率の高い分野で世界シェアを高くするための工夫を行った。決して世界的に有名なブランドではないが、その業界では誰もが知っている高付加価値製品で世界シェアを占める戦略で大成功したのだ。一方で、日本の製造業が得意だった高品質、低価格、大量生産という分野では、日本はもはや中国には勝てない。日本の株価をさらに上げることに貢献する企業は「隠れたチャンピオン企業」を目指すべきだろう。

そして、もう一つ最近驚いたことがある。世界の最先端分野における半導体製造業の圧倒的チャンピオンである台湾のTSMCが熊本に大規模な工場を建設中の中、さらにもう一つ増設の計画を立てているという話である。確かに、熊本は台湾に近い。そして、米国の対中政策も厳しくなる中で、台湾本土以外の保険をかけるという考えにも同意できるのだが、それにしても規模が大きすぎるのではないか?と思った。しかし、最近、「台湾は2019年以降台風が来なくなって雨が降らなくなり水資源で苦労している」という記事を見てTSMCの熊本移転政策を納得した。昨年、台湾では雨が降らなくなりTSMCに水を供給している貯水地が枯渇して操業停止に追い込まれたという話を聞いていたからだ。

確かに、今年も台風1号、2号、3号と初期の台風が全て沖縄から日本本土に急旋回して襲ってきている。6月初旬に次々と台風が襲ってくるというのは、これまで経験したことがないので、これも地球温暖化という気候変動が影響しているのかと想像はしていた。しかし、こうした気候変動で、元来亜熱帯の台湾に台風を向かわせなくなったのだとは知らなかった。農業だけでなく、多くの製造業も多量の綺麗な水を必要とする。今年の台風の動きがいつまで続くのか分からないが、こうした気候変動も日本の景気高揚に味方してくれるとすれば、私たち日本人は、こうした豊富な水資源を持っているという幸運を、なんとしても活かさなくてはならないだろう。