2020年春から始まったコロナ禍が3年の苦しみを経て、ようやく今少しずつ終息しようとしている。本当に、これから終息するのか未だハッキリしないが、世界的に見ると終息しつつあり、日本でも第8波の感染者数が明らかに減っている。老いも若きも、この3年間は本当に感染の影に怯え、皆が大変苦労してきた。かつて欧州で起きたペスト禍で社会が大きく変化し、その後、欧州が世界を制するきっかけとなったルネッサンスが起きた。私たちも、このコロナ禍で苦しむ中で、大きな社会の変化を自身の体験として味わった。
2008年に起きた世界的な金融恐慌であるリーマンショックの後、米国金融業界では「ニューノーマル」ということで、従来「当たり前」のこととされてきたことが、もはや「当たり前」ではなくなり、新たな「当たり前」に置き換わってしまった。その12年後に起きたコロナ禍は、金融業界だけに止まらず、あらゆる人々を苦しみの中に巻き込んだ。それでも、このコロナ禍で米国の株価は、つい最近FRBが公定歩合を上げるまで高騰し続けた。特に、デジタル業界のBig TechであるGAFAの株価は天井知らずの高騰を続けた。私の知り合いのベンチャーキャピタリストはコロナ禍が始まってすぐ所有株を売り払ったことに後悔し「売るんじゃなかった」と言っていた。
コロナ禍の中、仕事でも私事でも対面が許されない中で、世界中で、あらゆることのデジタル化が大きく進展した。例えば、ネット通販業界はこれまで10年間で10%の伸びを見せていたが、コロナ禍が始まって8週間で18%と驚異的に伸長した。コロナ禍で株が大きく高騰したのは、デジタル業界のBig Techに限定されていたと言っても決して過言ではない。さらに、仕事はオフィスに出かけなくても自宅でオンライン業務が出来るような社会に変わった。米国のオフィスは、現在も出社率は半分以下にとどまっている。こうした新たな「ニューノーマル」で人々は本当に幸せなのだろうか?
バイデン大統領は、2月7日の一般教書演説で米国の失業率は50年ぶりの低い水準まで来たと自慢したが、この失業者数には、もはや働くことを諦めた労働市場からの退場者は含まれていない。現在のアメリカの労働市場では半数近くに人が転職を考えており、このうちのかなりの数の労働者は転職する先が見つからず、むしろ自ら退職を選んでいる。日本と異なり、かなりの金額の助成金を得た人々が、もう暫く働かなくても良いと考えているのか、その実態はよくわからない。一説によれば、このコロナ禍でアメリカも社会のデジタル化が大きく進展した結果、求人案件とし高いデジタルスキルが求められており、その要求に見合うスキルを持っていない人たちは、もう早くリタイアしようというのだろうか。
さらに、この忌まわしいコロナ禍が終息を見せ始めている中で、これまで盛況だったネットフリックスのようなオンライン配信ビジネス急速に落ち込み始めている。家の中に籠っていることから外へ出る時間が増えると映画を見ている時間は減るので、ビジネスが低迷するのは当たり前のように思えるのだが、創業者が退任するほど深刻な打撃になるとまでは思っていなかったのだろう。また、コロナ禍の中で世界を風靡した仮想通貨交換ビジネスも破綻し始めている。コロナ禍で起きた景気低迷を救済しようと世界中の政府が低金利で巨額の貸出を続けた結果、いかがわしいバブル経済が高揚した。たまたまウクライナ戦争でエネルギーや食糧問題が顕在化し、その結果、インフレが高騰しFRBが金融引き締めにかかるとバブルは一気に破裂した。
そして、この2022年12月期にはGAFAをはじめとする米国のBig Techが皆揃って減益を発表し、一定数の従業員解雇に踏み切った。コロナ禍で一世を風靡したGAFAに何が起きているのだろうか?このGAFAの中では多くの収益金を広告事業から得ているので、米国の広告事業が変調をきたしていると考えるべきだろう。特に、米国でネット世代と言われている25歳以下のZ世代の影響が大きいと思われる。今、アメリカではベビーブーム世代がどんどんリタイアしていく中で、このZ世代の若者が消費者経済を牽引していると言われている。彼らZ世代は、もはやベビーブーマ世代とは異なりFacebookを使わずにSnapchatを中心に利用している。
そして、彼らZ世代はスマホで訴求するネット広告が大嫌いなのだ。彼らのスマホには広告を表示しない機能を持ったアプリが大人気だ。AppleのiPhoneでは利用者の情報を得るクッキー機能を無断で使えないようにしたことも広告業者にとっては非常に厄介なことになっている。確かに、私も含めて多くのスマホ利用者は頻繁に出現する広告表示を嫌う。また広告を見て購買行動に出ることは非常に稀である。こうした中で、多くの業者がネット広告に大きな期待を寄せなくなっている。コロナ禍の中で、多くの時間をスマホ操作に使った人の多くがネット広告に辟易していることは容易に想像できる。
さらに、コロナ禍でオンライン・リモート業務を行なっている中で、米国では、半数以上の労働者が転職を考えるようになった。日本でも、今や転職はごく普通のこととなっており、多くの企業が転職防止のための人事政策の大幅な転換を図っている。2022年12月22日の日経新聞では20代の転職者の年収増加が初めて起きるようになったと報じていた。つまり、この記事によれば、これまでは30-40代の転職者は年収増加が当たり前だったが、20代の転職者は年収が減っていたのが、最近は20代の転職者も年収増加に転じたというのである。これまでは、単に仕事が面白くないから転職したいと単純に考えていた20代の若者が、自分のキャリアを活かして年収増加を目指すようになったということである。
最近、大手IT企業が積極的に、しかも大幅に人事制度を変えているのは、仕事ができる人材をきちんと処遇して転職を防止するためである。もちろん、こうした大きな制度変更によって不満を持つ人も少しは出てくるかも知れない。しかし、企業側は、そうした差別化された人事制度に不満を持って辞める人が多少出てきても優秀な人材の流出が防止できれば、それでも良いと考えているのだろうと思われる。今や、日本も欧米と同じく大転職時代を迎えたのかと思われるのだが、また興味のあるニュースを見つけてしまった。つい先週、日本で最大規模の人材斡旋企業が減収になっているという新聞記事を見つけた。特に、アメリカで買収した転職専用サイトの利用が大幅に減っているのだという。一体、何が起きているのだろうか?
このコロナ禍の中で、多くの人々が、従来と異なる仕事のやり方を余儀なくされ、こうした働き方にうまく適合できる人もいれば、そうはうまく適応できない人も多くいるだろう。その上、コロナ禍でビジネスモデルが大きく変わり、しかもその中でデジタル技術が多用されるようになってきた。こうした大きな変化が2-3年で起きると、人々の心も傷つき病んでくる。多分、今年中に、このコロナ禍が終息を迎えるなかで、人々は、どのような心構えで仕事に立ち向かえば良いのか、今まで以上に悩み、考えなければならない。最近は、こんなことを考え、少しでもお役に立てたらと思いながら、デジタル化時代の働き方やリスキリングに関する、お話をさせて頂いている。