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451  オミクロン株の到来

2021年12月6日 月曜日

2021年11月28日にナミビアから入国した男性がオミクロン株に感染していることが判明して、とうとう日本もオミクロン株に巻き込まれた。今日現在わかっていることは、変異の数がデルタ株に比べても非常に大きく、感染力も空気感染ではないかと疑われるほど強い。救いは、どうやら、このオミクロン株はデルタ株に比べて重症になる確率は低くそうだと言うことだ。

それにしても、今日現在の日本の感染者数は、全国で131人、感染者数がゼロと言う都道府県が26もあるのは本当に素晴らしいことだ。ワクチン接種が進展したことも貢献しているとは思うが、ここまで感染が収束した一番の要因は第五波の中で多くの日本国民が感じた恐怖心ではないか。国民皆保険制度の中で、万が一病気になれば普通に医師の診断を受けられ重症になれば当然のことのように入院できた日本の医療環境が、今回の第五波では完全に崩壊した。政府も自宅療養を基本とすると言う声明を出して国民全体の顰蹙を買った。日本国民を、もはや自分で自身を守るしかないと言う境地にまで追い込んだことが、日本を世界でも稀なほどの驚くべき感染収束に追い込んだものと思われる。

そうした中で、引き続き3回目のブースター接種の議論がなされているが、そもそもこのオミクロン株に既存のワクチンが効くのか?との疑念が拭えない。ビオンテックもモデルナもオミクロン株には新たなワクチンが必要だと言明しており、その登場には少なくとも半年は待たないとダメそうだ。それでも、これまでに、このオミクロン株に感染した人は殆どが無症状か軽症で済んでいると言うのは朗報だ。だから、もはやこのオミクロン株は普通のインフルエンザと同じで怖くはないという意見もあるが、果たしてそれは本当だろうか?

第五波で多くの日本人が恐怖に陥った大きな要因は、重症化しても入院できず、自宅で死に至ることだった。もし、このオミクロン株が殆ど重症化しないということであれば、それほど恐れることはないのかも知れない。しかし、コロナの本当の恐ろしさは実は後遺症にある。今でも多くの方が後遺症で苦しんでいる。そして、その後遺症は心臓や肺だけでなく、脳や生殖器にまで及んでいる。高熱で苦しんだ多くの若い男性が、無精子症になっている事実は多くは伝えられていないが厳然とした事実である。そして、コロナ感染では、39度の熱が4日間続いても軽症の定義に入ることも忘れてはならない。本当にコロナは人類の滅亡を目論んでいるのだろうか?とも思われる。

最近言われ始めたコロナワクチンの副反応は、例えばファイザー、モデルナで心筋症になる確率は、10万人あたりで30人から50人である。つまり、副反応の確率は0.03%から0.05%ということになる。一方、コロナに感染して深刻な後遺症に悩む確率は20%から30%にまで及ぶと言われている。冷静に考えてみれば、ワクチンを打つリスクと打たないリスクの比較は明白である。よほどの事情がないかぎりワクチンを打たないという選択肢は考えられない。アメリカではワクチンを打つべきではないという主張をする人が多いようだが、何しろダーウインの進化論を信じない人たちと医学的な議論しても無益な論争でしかない。

日本でも、このコロナワクチンの是非をめぐる論争から出発して、HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン(いわゆる子宮頸がんワクチン)接種の推奨を復活する話が厚労省から出されたのは朗報である。何しろ先進国でHPVワクチンを推奨接種していない国は日本だけだからだ。かつてHPVワクチンの副反応をめぐって大きな論争になった。特に、HPVワクチン接種反対運動の先頭に立った高名な自治体の首長が二人いる。いずれの方も世界の事情には全く通じていないマルドメ(まるでドメスティック)-ポピュリストである。この二人が、どれだけ多くの女性たちの命を犠牲にしたか、その罪の大きさは計り知れない。

ところで、もう一つ世界の常識としてHPV(ヒトパピローマウイルス)は子宮頸がんだけでなく、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなど男女を問わず多くのがんの要因になることが知られている。アメリカの調査では、HPVによる男性の中咽頭がんは年間12,638人で女性の子宮頸がんの年間11,771人より多い。このため、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダではHPVワクチンを女性だけでなく男性にも接種するのが一般的となっている。ちなみにオーストラリアでは88%、アメリカでは64%の男性がHPVワクチンを接種している。

もはや、日本でも「HPVワクチン」を「子宮頸がんワクチン」と呼ぶのをやめるべきだ。こうした呼称にも、ジェンダーギャップにおける日本の後進性が滲み出ている。さて、今回のコロナ禍で、日本でもようやくワクチンの議論が活発化してきたわけだが、この「HPVワクチン」に関する世界での動向を見てみると、これまで日本で、どれだけワクチンの議論をまともにしてきたのだろうか?と大いに反省せざるを得ない。今更、日本のワクチン政策や日本の製薬企業のワクチンへの投資を言及する資格が日本のメデイアにはあるのか?と問いたくなる。

さて、話を再びオミクロン株に戻してみると。従来のワクチンがほとんど効かないのであれば、オミクロン株対応の新しいワクチンの開発が望まれる。これまでのワクチン開発体制を単に批判していても無益であり、国民全体がオミクロン株の感染対策に対して真剣に向き合う必要があるだろう。今から60年前の1960年、日本でワクチンに起因する大パニックを起こした歴史がある。それが小児麻痺を防止するポリオワクチンだった。1960年に5,600例の発症を起こした小児麻痺に対して、当時の古井喜実厚生大臣は「責任は全て私一人がとる」と言明し、超法規的措置をとって翌年の1961年1300万人分のポリオワクチンをソ連から緊急輸入した。その結果、1962年に日本の小児麻痺は、ほぼ根絶した。

この話には、二つの大きな教訓がある。一つは、ワクチンの導入は、多くの専門家が慎重に議論していたら、いつまでも普及しないということだ。古井喜実大臣の決断がなかったら、もっと多くの子供たちが小児麻痺の後遺症で苦しんだことだろう。日本でのその類の話は、ポリオワクチンやHPVワクチンに止まらない。海外の先進国で標準接種されているMMRワクチン(麻しん・ムンブス・風疹ワクチン)は、日本ではムンブスワクチンの副反応を恐れて、未だに標準接種には至っていない。

もう一つは、日本の小児麻痺を救ったのが「ソ連製」のワクチンだったことだ。今回ロシアで、未だにワクチン接種が進展しないのは、ロシアが独自に開発したコロナワクチン「スプートニク」が国民の信頼を全く得られていないからだ。かつて、ワクチンの先進国だった旧ソ連がロシアになって、どうしてこれほど衰退したのだろうか? 実は、ファイザーのmRNAワクチンはドイツのビオンテック製で、その開発者はハンガリーで旧ソ連の圧政からアメリカに逃れたカタリン・カリコ女史だった。一方、同じくmRNAワクチンを開発したモデルナの創業者も旧ソ連の圧政から逃れてアメリカに来たアルメニア難民の息子だった。つまり、今回のコロナ禍で世界中から圧倒的に支持されたファイザー、モデルナのmRNAワクチンを開発した功労者は、旧ソ連に系譜を持つ科学者だったということになる。

私が尊敬する感染症学者の北村義浩日本医科大学教授は、オミクロン株は他のCOVID-19変異ウイルスとの系譜が認められず、全く新しいウイルスと考えた方が良いとして「もしかしたら、COVID-19が動物に感染し、動物の中で独自の変異を遂げたのではないか?とも思われる」と述べられた。ひょっとしたらオミクロン株は、将来「COVID-21」と呼ばれる新たなウイルスになるのかも知れない。コロナウイルスの新たな変異はオミクロン株の後も続くと考えた方が良い。私たちは、これからも、事実を正しく知り、正しく恐れる必要があるだろう。