今年1月初旬に、東京都の感染者が2,500人、神奈川県でも1,000人近くになり、COVID-19の第三波のピークを迎えた時には、私も本当に怖かった。気のせいか、いつもより頻繁に救急車のサイレンが聞こえたような気がする。その後、緊急事態宣言が発令され感染拡大が鎮静化し、これは何とかなるかなと思ったが、既に、大阪府や宮城県で変異株による第四波の感染拡大が始まっている。
こうしたことは、既に昨年から、ある程度予測できたが、この第四波の拡大とワクチン接種が追いかけっことなって、少し時間はかかるが終息に向かっていくものと考えていた。しかし、ワクチンの供給量は信じられないほど少なく、73歳の私でも、今の横浜市の状況を見ていると、今年中に接種してもらえるかどうか全くわからない。さらに開催に踏切そうなオリンピックが、もっと致命的な第五波を起こすかも知れない。遅々として進まない、日本のワクチン接種にイライラしても不健康になるだけなので、もはや、居直って、長期的な籠城戦略に耐えるしかないと覚悟を決めた。
日本人のCOVID-19に対する感染防止の意識は世界でも高いものがあると言われており、実際に、感染者数は欧米に比べたら桁違いに少ない。TVで報道されるようにマスクも着けないで大騒ぎをしている欧米人の振る舞いを見ていると、さもありなんと思えるのだが、米国シリコンバレーで暮らしている友人たちの暮らし方を聞くと、日本人こそ、緩すぎるのではとも思えてしまう。彼らは、何ヶ月も続いたロックダウンにも耐えて、家から一歩も外へ出なかった。最近、二回目のワクチン接種を受けて、ようやく外出に踏み切ろうと思ったのだが、今度はアジア人に向けてのヘイト行動に怯えている。コロナは人々の心まで壊してしまったのだ。
日本人の感染者数が欧米に比べて少ないのは、決してファクターXなどというものではなく、単に、島国で、他国に比べて人々の往来が少なかっただけではないかと思えてくる。先月、山梨県の職員研修所からの依頼を受けて県の職員、約100名に対してオンラインの講演をさせて頂いた。研修所の方々はオンライン研修には、手慣れておられて大変スムーズに行われた。参加者は聴講中にチャットで逐次、質問をされ、講演終了後に主催者が代読する。このやり方だと質問も気兼ねなくできるので、大変活発な議論ができた。聴講者も地元の山梨県在住者だけでなく、多くの優秀な職員が勤務している東京事務所からも参加を頂いた。
山梨県は、クルーズ船ダイアモンド・プリンセスの重症者を受け入れた山梨医大の指導の下、長崎知事主導で独自の感染防止対策をとっているため、感染者数は日本の中でも極めて少ない。私は、県の職員の方に「山梨は首都圏にも距離的には近いのに、どうして、これほど感染者が少ないのですか?」と聞いてみた。その答えは、少し躊躇されながらも「県境封鎖ですかね」だった。その「県境封鎖」の詳しい意味については教えて頂けなかったが、従来から言われている通り、パンデミックの主要な要因が「移動」であることを改めて認識した。
その山梨県では、最近、首都圏からの流入が増えているという。山梨は、風光明媚でコロナ禍でも安全。週1−2回なら東京への通勤も苦ではない距離だ。移り住みたくなるのも当然だと言えるだろう。多分、移住者たちは長期戦略を立てている。リモートワークが当たり前になったシリコンバレーでも、テキサス州オースティンに移り住む人が増えている。オースティンはアメリカではシリコンバレーに次いで半導体企業が多い街である。しかし、不動産価格や家賃もシリコンバレーに比べたら比べ物にならないほど安い。もちろん、米中半導体戦争の勃発で、これからオースティンが、さらに発展するだろうというエンジニア達の長期的戦略も透けて見える。
富士通は昨年3月より研究職やシステムエンジニアを含む多くの従業員の出社を原則禁止するとともに、社内の会議室を全面使用禁止とした。職場感染のクラスターは会議室から発生すると言われているので、極めて賢明な施策と言えるだろう。さらに、昨年12月には在宅勤務の社員に対して会社にある私物を全て自宅に持ち帰るよう指示し、年明けから感染対策を考慮したオフィスの全面的なリノベーションを開始した。コロナ禍、及びコロナ後の働き方改革をコンサルテーションする立場として自ら実践しようという心意気を感じる。
もう1年以上も、一度も出社しないで在宅勤務を続ける社員に向けても、将来の「働く環境のあり方」を提示する必要があったかも知れない。いずれにしても、このコロナ禍は、もはや中途半端な施策で短期的に凌げば済むという状況ではない。経営者としても、コロナ禍が、今後、2−3年に及ぶことを覚悟した体制へと準備をすることが必要である。Googleは、コロナ禍が終息した後は、従来通りの勤務体制に戻すつもりのようだが、それにしても従来とは違う感染対策を考慮したオフィス環境にすべきだとして新しいビルを建設中だ。
今回、人類はmRNAワクチンという前代未聞のテクノロジーでCOVID-19を終息させようとしている。このことは、賞賛すべき科学の貢献と言えるが、何億年も生き続けてきたウイルスが、これで簡単に降参するとはとても思えない。既に、世界で1億人以上に感染を広げたCOVID-19ウイルスが、さらに強力な変異株を創出する可能性は極めて高い。それなのに、この日本では、これまで、地震・津波・洪水を意識した国土強靭化計画には多くの議員たちが活発に活動してきたが、感染症によるパンデミック対策を唱えた議員の姿は殆ど記憶にない。
IMFが発表した2021年度の経済予測も、殆どの先進国がコロナ禍を乗り越えて2020年度の落ちおみをカバーする5%以上という大幅な成長が期待されているのに、日本だけは2020年度の5%の落ち込みを補いきれない3.5%の成長に留められている。有事というのは、戦争や自然災害だけではない。今後の有事は、パンデミックだけではなく、エネルギーや食料も想定される。これだけグローバリズムが進展する中でも、有事の際には国境が意識され、お金では買えないものが出てくるのだということを、今回のCOVID-19禍で思い知らされた。