2020年5月 のアーカイブ

424  ポスト・コロナ時代に向けて (4)

2020年5月4日 月曜日

COVID-19の恐怖が染み付いてきたせいか、いろいろな所で異変が起きている。例えば、大型スーパーではスマホ決済可能なレジだけが混んでいる。皆さん、誰が触ったかわからない現金を自分の手で触れたくないからだ。私が、スマホ決済を嫌いだった理由は、銀行口座とスマホが紐づけられると詐欺に会う確率が極めて高くなると心配していたからに他ならない。しかし、PayPayではセブン銀行ATMで銀行口座から引き出した現金をスマホ内の口座にプレチャージできるのを知り、急遽、スマホ決済に参入することにした。

さて、COVID-19の影響で生活に苦しんでいる方々への10万円の特別定額給付金について、その手続きに関して大きな問題となっている。諸外国では、給付の発表から二日後には各人の口座に振り込まれたのに、日本では手続きの申込書が届くまで1ヶ月、それから支給されるまで、さらに1ヶ月かかるかも知れないからだ。私は、PCR検査の意図的な抑制策など、COVID-19に関する政府の諸施策については、依然として大きな不満を持っているが、この特別定額給付金の支給については国民の側にも一端の責任があると考えている。

2009年7月、経済評論家で国際公共政策センター理事長の田中直毅先生と一緒にインドを訪問した。その直前に設立されたインド固有識別番号庁(UIDAI)を訪れ、マンモハン・シン首相の特命で、同庁の総裁に任命されたナンダニ・ニレカニ氏から、お話を伺った。固有識別番号庁とはインド国民全員に背番号を付与するための組織であり、ニレカニ氏はインドの三大ITベンダーの一つであるインフォシスの共同創業者で、会長兼CEOを退任してUIDAIの総裁に就任した。UIDAIは、前月に発足したばかりで組織員はニレカニ氏を含めて3人しかいない小さな組織だった。

「シン首相は、私に、インド国民全員の固有識別番号(UID)制度を確立してほしいと命じられた。しかし、インドは世界最大の民主主義国家であり、国会議員も首相も選挙で選ばれる。国民は、その民主主義に大きな誇りを持っている。だから、誰しも、自分にUIDを付与され管理されることに大きな抵抗感を持つ。首相は、全員にUIDを付与するよう命じられたが、私は無理だと思っている。まず、UIDを持った方が便利で生活が豊になれると感じた人から応じてくれれば良い。大変、恥ずかしい話だが、インドの役所は腐敗している。インド政府が貧しい人々に向けて支給しているお金の殆どが役人たちにネコババされて途中で消滅し必要な人に届いていない。インドのある州では、政府が貧しい人々のために配布しているフードチケットが州の人口の3倍もあるという。UID制度によって貧しい人々に間違いなく政府の支援が届くよう、インドの社会福祉制度を根幹から変えなくてはならない。」とニレカニ総裁は私たちに熱く語られた。

その時、ニレカニ総裁が悩んでいたのは、UIDを担保するための生体認証をどうやって行うかだった。虹彩認識は高価で普及が難しいし、指紋は安価にできるが多数のインドの労働者は激しい作業で指紋が消滅している人が多いからだ。しかし、テクノロジーの進歩は社会制度の進展より遥かに早い。ニレカニ氏がUIDAIを設立してから8年たった、2017年には、この制度はアドハー(Aadhaar)として確立され、インド総人口の99%である11億6000万人の指紋、顔写真、虹彩が登録された。

今や、インドではUIDは銀行口座の開設やスマホのSIMカード登録には必須の手段となっている。インド政府から貧困層への支援金は、直接スマホ口座に振り込まれる。インドでは物乞いの人々までスマホを持っているので全く問題ない。シン首相がニレカニ氏にUIDの登録を急がせたのは、世界中でインドが最も遅れている国だったからだ。もちろん、日本を除いてという意味である。インドも含めて、欧米各国では、今回のCOVID-19禍で困っている方々への現金支給など、申請手続きなど全く必要がない。

インドとは好対照のアメリカでは、どうなっているのか? 20年前にアメリカに赴任した私の経験から言えば、アメリカに入国して最初の行うべき責務は社会保障番号(SSID)の登録である。運転免許証の申請も、銀行口座の開設もSSID無くしては出来ない。アメリカの国税庁である「アメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)」に所得申告する際にも、SSIDと銀行口座番号の登録が必須である。日本と異なり、アメリカでは、給与所得者のほぼ全員がIRSに所得申告をする。それは、アメリカの源泉徴収額が過剰であり、税務申告すれば、ほぼ全員に過重税額が申告銀行口座に還付されるからだ。

つまり、政府が、ほぼ国民全員の銀行口座を知っているので、今回のようなCOVID-19禍による支援金を支給する際の、国民側の申請手続きは一切不要である。しかも税務当局は所得申告額まで知っているので、政策によっては高額所得者を支給対象から外すことも簡単にできる。こんなことを言うと怒られそうだが、日本も、本来は国民全員に10万円を支給するより、困窮している人々への30万円支給の方が政策的には正しかったはずである。この政策が大きな非難を浴びたのは手続きの更なる大幅な遅れが予想されたからだ。

今回のCOVID-19禍で大幅に縮小されるか、あるいは破壊された業種・業態があり、しかも、それは、簡単には元に戻らないだろう。そこで働いていた人々の救済は、これから一体どうするのか? もはや、ベーシック・インカムに近い制度の導入しか考えられない。そのためには、日本においても、UID(マイナンバー)の適用分野を、今より一層拡大していくしか救われる道はないだろう。

423    ポスト・コロナ時代に向けて (3)

2020年5月3日 日曜日

COVID-19の感染が広がることによって、県外ナンバーの車に嫌がらせをする排他的行為が、日本中で起きている。これまで地域にとって、富をもたらす人々が、禍をもたらす人々へと明らかに認識が変わってしまったからだ。世界各地や日本の各地を訪れてみたいという知的な好奇心は誰しもあるものだが、訪れる土地の人々が歓迎してくれないとうまくいかない。当分の間、「移動」を伴う観光という生業は極めて難しくなってくるだろう。

このCOVID-19が瞬く間に世界中に広まり、夥しい数の感染者、犠牲者をだしたのも、多くの人々が世界中を瞬時に「移動」出来る様になったからだ。この大量「移動」こそが、パンデミック発生の元凶となった。それは国を超える「移動」だけでなく、大都市における公共交通を使った通勤・通学のための「移動」も含まれている。そのため感染拡大の防止策として、出入国制限、あるいはテレワークやWeb会議、オンライン授業によって「移動」を代替しようと試みている。

少なくとも日本では、この状態が、あと2−3ヶ月続き、一時収束したとしても秋には第二波が来ると言われている。世界的に見れば、COVID-19が発生する以前に戻るには、あと2-3年かかるだろう。この間に、人々が受けた心の傷は深く、地域振興のために、日本全国から、あるいは世界中から多くの観光客に来て欲しいというメンタリティーに簡単には戻れない。インバウンド景気というスローガンも、しばらくの間は、死語になるだろう。今後、飛行機や新幹線の利用がビジネス用途だけに限定されるとなれば、料金も必然的に高額になる。

今回、世界中の人々が自宅軟禁状態になった結果、原油が大量に余り、先物価格がマイナスとなった。世界中の「移動」に必要な原油の量が、いかに膨大かを思い知らされた。現在の二酸化炭素の発生の大半が「移動」によって生じていることの証でもある。現在の鎖国状態が、今後も続くとすれば懸案の低炭素化は一気に進展する。長期型投資で大きな成功を収めてきたバフェット氏もデルタ航空の筆頭株主を降りるだけでなく、他の全ての航空会社の株式も含めて売却したという。まさに世界は新たな常態に突入した。

私自身も、この2ヶ月の間に、社外取締役を務める3社において、取締役会が全てWeb会議になった。使用されるシステムはTeams , ZOOM , BlueJeans(Verizon)と、各社とも異なるが、操作方法は殆ど差がないので、直ぐに使えるのは便利である。使いこなしている内に、だんだん向上心が湧いてきて、PC標準装備のものでは満足できず、専用のWebカメラ、外付けスピーカ・マイクと顔を明るくするためのリングライトを購入した。

また、今回のCOVID-19騒動で、3月からは、一部を除いて全ての講演会が中止や延期となった。例外は、全社各拠点向けの社内講習会と、この度各大学で導入されつつあるオンライン授業である。ここでは、Web会議の画面にPowerPointベースの講演資料を投影しなければならない。このため講演資料を表示する、もう一台のPCのHDMI出力を変換してWeb会議用PCへUSB経由で入力できるビデオ変換機器も急遽購入した。こうした一連の周辺装置を購入したので、最早どんな要請があっても怖くない。自宅に居ながらにして何でも出来る自信がついた。

さらに、最近は、シリコンバレーの人達を交えたWeb会議も始めている。日本は朝方、シリコンバレーは夕方がお互いの共通タイムである。日本側も東京、大阪における、それぞれの自宅、シリコンバレー側も自宅から参加するのだが、結構、深い話まで出来ている。これまで数年、シリコンバレーのスタートアップを訪問し、お互いに自分の技術を披露しあって協業の可能性を探るというツアーを続けてきたが、今年は、こういう状況なので従来通りの形では実現が難しい。いっそ、ツアー自体もWebで行ったらどうかという話も出てきている。

本来は、直接会って、お互いに膝を突き合わせて、相手の息遣いを感じながら熱い議論をする方が良いに決まっている。しかし、協業の可能性という話は、うまく行く可能性の方が遥かに低い。そのために、長時間の移動と高額の経費を使うというのも少しもったいないという感じもする。こうしてWeb会議でシリコンバレーのスタートアップを多数訪問できれば、もっと多くの機会が増えるだろうし、協業の実現性も今よりも高まるに違いない。

さて、ビジネス世界を除いた「移動」の中心は、やはり観光である。私自身も、日本は47都道府県、世界は約50か国を訪れた。この旅から得られた知見や感動は計り知れない。これからの若い人たちにも、どんどん世界を見て欲しいし、リタイアしたシニア世代の方々もぜひ各地を訪れて楽しんで頂きたいと思う。しかし、COVID-19の感染禍は、世界中の人々の心を深く蝕んでいる。もう、しばらくの間は、他国や他地域からの訪問者を今まで通りに受け入れることができない。特にCOVID-19が中国発ということで、日本を含む東アジア人が歓迎されることを期待するのは極めて難しい。

それでは、ポスト・コロナ時代の観光業はどういう形に変わっていくだろうか? それはビジネスの世界がネットを使ったテレワークで凌いでいるように、観光もテレポーテーションを駆使するようになるだろう。つまり、ドラえもんの「どこでもドア」だ。実現方法は、もちろん、8K次世代VR(200度広角)しかない。せっかく、長時間、飛行機を乗り継いで、目的の場所に行ったのに、天気は最悪、あるいは想定外の混雑など、酷い経験をされたこともあるだろう。しかし、この8K次世代VRなら、最高の天気、最高の条件で撮影されたベストな映像がベースなので、実物以上に満足度は高いに違いない。

今後、観光業はコンテンツ提供業に変貌することになるだろう。あるいは、こうした観光地における名産品の物販、あるいは広告と抱き合わせになるかも知れない。8KVRによって訪れる観光客の人数が、従来の100倍、1,000倍になれば、これまでの観光業を凌ぐ、大規模なビジネスに成長する可能性は十分にある。ポスト・コロナ時代には、従来ビジネスとは大きなDisrupt(断絶)を引き起こすかも知れないが、決して暗い話ばかりではない。新たなチャンスに向けて、今から準備をしておこう。