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420   テレワークについて

2020年3月15日 日曜日

新型コロナウイルス感染が世界中に拡がり、あの愚鈍なTOPを抱えるWHOですら、ようやくパンデミック宣言をする事態になった。こうした情勢を踏まえて、この3月に入ってから、私も取締役会やアドバイザリーボードにTV会議で参加し、一部の講演をネット中継で代替させて頂き、テレワークなるものに頻繁に浸るようになった。それぞれ使用するアプリケーションが異なり、事前の接続テストやリハーサルをするので大変だが、毎日が新鮮でもある。

そうこうするうちに何度か経験をしてみたものの、やはり「これは便利で、これからはテレワークでやろう」という気には、どうもならない。事前にストーリーが決まっている会議ならテレワークでも良いだろうが、緊迫した議題を審議するには、皆の真剣な雰囲気が伝わる臨場感がないと意見を挟むタイミングを測るのも難しい。講演にしても、いつも聴衆の一人一人の顔を見ながら話をしている習慣からすると、やはり一人芝居では感情移入が難しい。

さらに、今までテレワークなどやったことのない中高年社員が、突然、明日からテレワークと言われても付いていけるのだろうか? 平日の昼間、普段はリタイアした老人と有閑マダムが少し居るだけで、殆ど空いているゴルフ練習場で、今、休日並の待ち行列ができているのを見るとテレワークに落ちこぼれた社員が暇を潰しに来ているとしか思えない。万が一、こんな状態でも会社が何の支障もなく運営されているとしたら、近い将来、コロナ不況とも相まって人員整理の嵐が来るのかも知れない。

一方で、テレワークは効率が良すぎて過剰労働になっているという人もいる。何人かのソフトウエアエンジニアを配下に抱えて、いわゆるTV会議システムなどではなくて、自宅で部下たちとビジネスチャットで同時接続してプロジェクトを進めている中間管理職たちである。普段は、問題を抱えた部下が順番に自分の机のところに指示を仰ぎにやってくるのだが、景色が見えないチャットでは、部下は前触れもなくやってくる。しかも、プロジェクトメンバーが全員同時接続しているので、他のメンバーの問い合わせに触発されて、次々と他のメンバーから問い合わせが続き、全く、休む間がないのだという。

こうして見ると、テレワークというのはIT関連のプロ達には有効な働き方と言えるのかも知れない。しかし、以下に述べるようにIBMやYahooの例を見ると、テレワークは一概に良いとも言えない。まず、IBMは、かつて、テレワークで在宅勤務を行う絶好の見本とされていた。そのIBMが、数年前だったと思うが、マーケティング部門や開発部門で在宅勤務を禁止したのである。また、Yahoo再建のためにGoogleからYahooのCEOに就任したマリッサ・メイヤーは、着任したその日に多くのYahoo社員が在宅勤務で出社していないのに激怒し、翌日、出社しない者はクビだと社員全員にメールを発信した。

メイヤー女史から見れば、大した用事がなくても全社員が出社してくるGoogleとの社風の違いが許せなかった。だからYahooは後続のGoogle に追い抜かれたのだと直感的に思ったのだ。さて、IBMもYahooも、なぜテレワークでの在宅勤務を禁止したのだろうか? それは、近距離で膝を突き合わせ、お互いの息遣いが感じられる距離で議論しないとイノベーションは生まれないと信じているからだ。つまり、彼らは、イノベーションは「共感による共創」によって起きると考えている。

こうした考え方は、今もシリコンバレーで共有されており、シリコンバレーの企業で在宅勤務を行なっている会社は希有である。私は、昨年秋も、シリコンバレーを訪問したが、サンフランシスコとサンノゼを結ぶ101号線は朝早くから通勤のため上りも下りも大渋滞である。そんな大渋滞の中で、毎日出社するGoogle社員を乗せた何十台もの大型バスが101号線の優先レーンを疾走する。多くの社員がテレワークで在宅勤務をしていたYahooとの違いは対照的である。

もちろん、今回のコロナ騒動の最中には、いくらイノベーション創出に有効だからと言っても「濃厚接触」状態は絶対に避けなければならない。テレワークは、こうした危機回避手段としては極めて有効である。今日の強大なアリババが存在するのはSARSで中国が大混乱している時に創立者のジャック・マーが全従業員にパソコンとモデムを配布し、テレワークによる在宅勤務で業務を継続したからである。もっとも、現在、ネット通販は受発注の全ての業務をコンピューターが自動処理するのでテレワークする従業員の存在も必要ない。

一方、日本の20倍の広大な国土を有するアメリカでのビジネス世界では、半世紀以上前からテレワークは必須だった。サンフランシスコとニューヨーク間は時差が3時間あり、移動は飛行機で5時間もかかる。全米の営業マンが一同に介して会議をするなど全く考えられない。また、全米労働者の3分の1を占めるフリーランサーも自分のオフィスを持たないから在宅勤務であるが、重要な打ち合わせは貸しオフィスで行う。つまり、アメリカでのテレワークは在宅勤務の手段というよりリモートオフィスの勤務手段という方が適切だ。

現在、日本の多くの会社の事務所では、社員は朝から夕方までパソコンの画面を睨めっこしながら黙々と仕事をこなしている。仕事中、隣の同僚とは殆ど会話もしない。だったら、何も満員電車に乗って苦労して会社まで来なくても自宅で仕事ができるのではないかと考えても不思議はない。そこで、テレワークで在宅勤務をしようという運動が東京オリンピックを控えて盛んに行われている。しかし、パソコンを用いた定型業務はソフトウエアロボット(R P A)によって、今後、少しずつではあるが、確実に消滅していく。そのことも、よく考えていく必要があるかも知れない。