12月26日、日本政府はIWC(国際捕鯨委員会)からの脱退を表明した。このことは世界中から驚愕を持って迎えられ、その後の日本国内メディアの論調を見ても、誰も支持していない点で一致しているのは、近年では珍しい。これまで6年間にわたり安部総理が命がけで努力を重ねてこられた「地球を俯瞰する外交」の成果が全て吹き飛んだ。自民党の中にも、国際派を自認する議員が沢山おられるのに、なぜ、このような愚行を許したのか、私には理解出来ない。
クジラを食べることは日本古来の食文化であるという主張は、私にも理解できる。実際、戦後の食糧難の中で、私達は鯨肉によって生きながらえてきた。しかし、今の日本は、イヌイットの人たちのように鯨を食べなければ生存が侵される事態に陥っているわけではない。そもそも「固有の食文化」には、どれだけの主張が許されるのだろうか? 一つの例として、隣国である韓国の犬を食べる食文化について考えてみたい。欧米人の間では、「犬を食べる」こと自体が話題にすることすら忌まわしいと考えられており、この「韓国の食文化」なるものが、どれだけ韓国と韓国人を貶めているか計り知れない。
ヨーロッパ人にとっての「犬」は、実は大恩人である。アフリカからヨーロッパ大陸に渡ってきた彼らの祖先は、1万年以上も前から犬と共同生活を行い、犬に狩猟を助けてもらっていた。彼らをヨーロッパの飢えと寒さから救ったのは犬だった。実際、犬との共同生活を行う習慣がなかったネアンデルタール人は、その飢えと寒さから絶滅したと言われている。もともと、犬の祖先であるオオカミは、人間を襲う習慣がなく、人間に対して親近感を持っていたと言われている。ローマの建国者がオオカミに育てられたと言い伝えられていることも、あながち無縁ではないだろう。
アフリカでは、つい最近までチンパンジーを含む猿を食べる、我々から見ると信じ難い食文化があった。彼らが、そこまで飢えていたのか知る由もないが、チンパンジーは森に住んでいるので、食べるものは、他にもあったような気がしないでもない。しかし、こうした猿を食べるという奇習で、結果として、彼らは、エイズ感染という大きな復讐を得ることになった。その結果、アフリカ大陸では、今でもエイズが猛威を振るっており、多くの命を奪っている。
欧米人は、クジラを食するという文化はなかったが、石油が発見される近年までの間、ランプの油を取るために、膨大な数のクジラを乱獲していた。この責任は重大であり、クジラを食する日本の食文化に対して、文句をつける方がおかしいという論調は、一見、正しいようにも見える。しかし、彼らはクジラに対する考え方が変わったのである。これは、クジラそのものより、同じ海洋哺乳類であるイルカを例にとって考えるとわかりやすい。
近年、イルカのIQはチンパンジーよりも高く、知力において人間に最も近い生物として意識されるようになった。日本では、イルカやクジラを魚の仲間として考えている点で、こうしたイルカの高い知能に関する意識が低い。昨年夏に江ノ島で開催されたヨットのプレ・オリンピックにおいて、競技者を接待するアトラクションとしてイルカショーを企画したら、大ブーイングで欧米の競技参加者からショー見学をボイコットされたという事実は、あまり大きく報道されなかった。
それでは、なぜ、イルカが人類の祖先に最も近いチンパンジーよりIQが高いのだろうか? それは体毛がないからだと言われている。皮膚は脳の原型であり、多数のセンサーと情報ネットワークが張り巡らされている。体毛がないと、その皮膚が、直接外界と接することができるので、知能が高度に発達するのではないかと言われている。人類とチンパンジーは、DNAでは、たった2%しか違わないが、体毛があると無いとでは大きく違う。イルカは、体毛がないことで、チンパンジーを超える知的能力を得たのであろう。
欧米人にとって、日本人がチンパンジーより知能が高いイルカを捕獲し食べることこそ、韓国人が犬を食べること以上に野蛮な行為だと考えている。クジラやシャチも、イルカと同じ海洋哺乳類であるが、あまりに大型で、イルカのように精密なIQ測定は行われていない。しかし、彼らの行動を観察していれば、多分、イルカと同様の高度な知能を有していることは容易に想像できる。IWC脱退を支持する人達は、IWCが「クジラ資源の保護と活用」よりも「クジラの捕獲禁止」を目指していると非難しているが、それは全く正しい。IWC加盟国の多くが、クジラを捕獲して食べることはダメだと言っている。
それでも、もともと肉食文化の欧米人が、コメを主食としてきた菜食主義の日本人に対して何を偉そうなことを言っているのかという反論もあるだろう。それは、尤もなことだが、最近、欧米ではビーガン(完全菜食主義者)の台頭が著しい。インドに多いベジタリアン(菜食主義者)とビーガンは、どこが違うのだろうか? ビーガンは動物の肉は食べないが、たんぱく質はきちんと摂るという点で大きく違う。大豆のような植物性たんぱく質をベースに人工肉を作って、今までと同じ食習慣を続けようというものである。彼らは、豆乳からヨーグルトまで作る。
このビーガンこそ、まさに、日本の寺院を原点とする精進料理である。日本には、こうした世界に誇れる先進的な食文化がある。日本の地域を活性化するための食文化としては、もっと、世界に愛されるものを選択すべきだろうと思う。