2018年7月 のアーカイブ

393 中国経済の懸念

2018年7月31日 火曜日

中国は、今や紛れもなく、堂々たる世界第2位の経済大国で、早晩、アメリカに追いつく日も見えて来た。もはや、中国と日本の国力を比較すること自体に意味がなくなっている。確かに、中国は日本にとって国防上の脅威かも知れないが、それ以上に日本経済にとって最も重要な国でもある。つまり、日本経済の持続性は中国の経済動向に大きく関わっていると言っても過言ではない。その中国経済が大きな転換期を迎えているような気がするのは私だけだろうか?

トランプ大統領は、全てが破茶滅茶で、およそロジックが破綻しているように見えるが、彼は大局的なセンスだけは抜群だと私には思われる。つまり、アメリカにとって大きな脅威は、もはやロシアではなくて中国だという認識である。ロシアは軍事的には強国かも知れないが、経済的には準破綻国家である。もはや腐敗し切った政権がロシア経済の再生に貢献できるとは全く思われない。これまでの世界の歴史の中で、政治が腐敗した国家で繁栄している国は存在しなかったからだ。モチベーションを失った国民が国家の再生に貢献することはあり得ない。

このトランプ大統領の中国敵視政策は、今後、益々、勢いを増して行くだろうし、トランプ失墜後の次期政権にも引き継がれるに違いない。日本はアメリカの属国だと非難するナショナリストは、アメリカの真の強大さが分かっていない。日本は永遠にアメリカと対等な地位に立てることはない。アメリカは、ドルという世界で唯一の国際通貨を持つが故に、世界経済における一切の決済権限を持っている。北朝鮮の金正恩がトランプ大統領に跪いたのも、全てアメリカの金融制裁の力である。そして、それは飛ぶ鳥を落とす勢いの中国にとっても例外ではない。

当初、ドルに代わる国際決済通貨を目指していた人民元は、今や見る影もない。人民元の自由化政策は、中国からアメリカへの巨額の資本逃避を招いたからだ。つまり、中国人自身が中国の政府を全く信用していない。中国人の若者の一番の夢は「中国から出て行くこと」だということからも容易に想像できる。仮想通貨を禁止するなど、人民元の管理を強化した結果が、大幅な人民元安を招くことになった。通貨安は一時的に輸出力を増すかも知れないが、究極的には国力を大きく削ぐことになる。

リーマンショック後の優等生と言われた中国は、莫大な額の景気刺激策で歪な経済発展をしてしまった。企業や個人の負債総額は、日本のバブル時の深刻さを遥かに超えている。三期目を確実にした習近平政権は、空虚な目標を取り下げて、実態経済の引き締めに動いているが、それは、所詮、大きな痛みを伴う改革でもある。そうした中で、世界最大数の大学卒業生に対して相応しい職は限られてきた。だから、日本に働きに来る中国人が激増しているのも理解できる。一方、世界でも最も若く50歳代でリタイアする人たちの年金の蓄積も未だ全く十分ではない。

そんなに、お先真っ暗とも見える中国でも、これまでも、今後とも、日本の重要な顧客であることには間違いない。ここ数年、中国に支えられて来た日本企業の数は星の数ほどある。しかし、中国企業への設備投資に貢献してきた日本企業の減益予想、株価下落が毎日報道されている。少なくとも、今後は、中国依存度が極端に大きい企業は間違いなくリスク銘柄になる。ならば、日本は、中国以外に、どの国にポートフォリオを拡大すべきか?それが大きな問題である。今や、BRICSは、それぞれ、全く、これまでの勢いがないからだ。中国以外のそれぞれの国は腐敗政治が国をダメにしているからだという。

日本は、アメリカを除く、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパなどの先進国、そして成長著しい、ベトナムを含むASEAN諸国と共に、次の世界経済の枠組みを真剣に議論しなければならない時代になって来た。アメリカと中国という二つの超大国を脇に置いて、その他の国々が密接に連携するという不思議な時代が、もう、すぐ近くにやって来ている。まさに、これまでの常識が通用しない時代の到来である。若い人が、真っ白から新しい考えで動かないと日本の未来はない。いつまでも、オジサンたちが、日本の政治や経済の中枢に居座っていてはいけないのだ。

392 なぜ、そんなに医者になりたいのか?

2018年7月5日 木曜日

今、文科省の科学技術・学術政策局長が、ご子息を東京医科大学に不正入学させた汚職問題で大きな話題になっているが、私は、そこまでして、なぜ、愛息を医者にさせたいと思う気持ちが全く理解できない。最近、開成、灘、栄光学園など、これまでの東大進学率で上位の有名進学校が揃って東大合格者を減らしているのは、他大学医学部への進学者が増えているからだという。どうして、そんなに、皆、医者になりたいのだろうか、私には全く理解できない。

私の末弟も、現役で東大理一に合格しながら、どうしても医者になりたいと東大を中退、東北大の医学部に進学し、めでたく医者になったが、結局、狭い医師界の旧習に妨げられ白河の関を越えることが出来なかった。生まれ故郷に帰って来たかった末弟は、現場の医師として生きることを断念し、大手生命保険会社の審査医になった。当時は、生命保険会社の審査医というのは、医者の落ちこぼれ的なポジションだったらしいが、現在では、憧れの職業としてランキングされ、希望しても滅多に成れるものではないという。それだけ、医師という職業が、繁盛している親の医院を継ぐでもなく、勤務医として働く限りは、労働環境として過酷な割に報酬には恵まれない辛い立場に追い込まれている。

かつて、医師は地域の名士であり、高額所得者として、庶民の憧れの的であった。しかし、今は、かなり事情が違っている。私の妻の実家は、かつて東北の豪商であり、長男が家の財産を次ぐ代わりに、弟たちを全員医師にさせた。その子供達が、現在、東北各地で医師として開業しているが、過疎化と少子高齢化で、親の代に比べて決して楽な生活ではない。そのせいか、その子供たちは、もはや誰も医師の道には進んではいない。医師というのは、よほど人道的な精神を持ち合わせていない限り勤まらない職業となった。決して、楽に、お金儲けできる商売では、もはやない。

私は、かつて東大受験時代に、東大の学生が主催する東大学力コンクールという模擬試験を受けていた。志望学部を理一(理学部、工学部)と書いて、時々だが、ベスト10に入ることがあったので、イタヅラ心に、ある時、志望校を理三(医学部)と書いて見たら、何と1位になったのには正直驚いた。当時は、医学部が特別難しいというわけではなかったのだ。それでも、私は医者になりたいとは思わなかった。人間の身体に手をかけることに自信がなかったからだ。私の末弟も、死体解剖の後は、1週間ほど食事が喉を通らなかったと言う。その東大学力コンクールの模擬テストで常にトップだったH君も、親が医師なのに、私と同じ電子工学科に進学してきたのにはビックリした。彼は間違いなく、理三(医学部)を受験してもトップ合格したはずである。

最近、日本経済新聞社が出した「財政破綻後 危機のシナリオ分析 その時、日本社会に何が起きるのか?」を読んだ。今、黒田日銀総裁が続けている異次元緩和が出口を見出せなくなった時、日本は間違いなく財政破綻するだろうと、この本を執筆している識者たちは全員揃って同じ論理を展開する。最大の問題は、多くの日本人が、その危機感を共有していないことだという。さて、その財政破綻後には何が起きるのか? 年金の問題、介護の問題、生活保護の問題とか、いくつか破綻する問題があるが、国民全員にとって、一番わかりやすい問題は医療費の問題だそうだ。

今でも、日本の国家予算は100兆円。医療費は軽く50兆円を超えているが、2030年には、確実に70兆円を超えるという。当然、国民皆保険制度は危機に陥るが、国家財政までもが破綻すれば、それを補填をする余裕などなくなる。つまり、現在の医療制度を日本は維持できなくなるかも知れない。そうなれば、富裕層以外の、多くの人々は、病気にかかっても病院にはいけなくなる。それで、多くの病院が破綻する。薬剤費も、今の価格を維持できなくなり、多くの薬局も、今のビジネスの継続が困難となる。当然、医師の報酬も、薬剤師の報酬も、今のレベルは維持できない。まず、医師の数という意味でも、現行の医師数を維持することは難しくなるだろう。

つまり、国家財政の破綻を見据えて日本の医療制度も抜本的な改革が迫られている。もし、医師という職業を高給取りのエリートとして考えているのなら、今からでも良いからやめた方が良い。文科省のエリート官僚が、どうして、隣の厚生労働省が抱える大きな問題を見抜けなかったのか私には全く理解できない。だからこそ、これほど、稚拙な過ちを犯したのだろう。むしろ、霞が関の官僚の方々に真剣に考えて頂きたいのは日本の財政破綻をどう防ぐかという大きな課題である。次の選挙のことだけしか考えない政権に対して忖度だけで仕事をしていたら日本は本当に地獄になる。