今年、人間ドックの歯科検診で、「70歳になっても、8本の親知らずを含めて32本の歯を保持している貴方は絶滅危惧種だ」と言われた。自分でも、どうして、このように丈夫な歯を維持できているのかについて、特別な自覚はない。最近、歯は健康維持と大きな相関があると言われているので、自身の体験について、少しばかり、ご紹介できればと思う。
小さい時は、一般の子供と同じく、特にデンタルケアに注意しているということはなかった。ただ、私を含めて男3人兄弟揃って、小さい時から歯が痛いということはなかったような気がする。原因と思われるうちの一つは、家が貧乏だったせいか、紙芝居を含めて駄菓子を買って食べるということは一切なかったことである。もう一つは、故郷である平塚が漁師町のせいか、毎日が、安価な魚中心の料理だった。つまり、糖分摂取が少なく、カルシウムの摂取は十分だったということが関係しているのかも知れない。
そのお陰か、初めて虫歯ができて歯医者に行ったのは20歳を過ぎてからだった。そうこうしている内に、会社員となり、何年か経って、定期健康診断の歯科検診で、次のような、実にショックなことを言われた。「貴方、歯は何で磨いていますか?」、「歯ブラシで磨いています」、「電動歯ブラシではないのですね? 電動歯ブラシは手の20倍の能力があります。ぜひ、電動歯ブラシで磨いてください」それ以降、Panasonicの電動歯ブラシを、今だに使い続けている。
次の転機は、20年前のアメリカへの転勤である。実は、アメリカ社会では、歯の健康状態は、極めて重要な社会的ステータスである。そのため、当時から、アメリカでは、多様なデンタルケア商品が数多く揃っていた。特に、私が心惹かれたのは歯間を清掃し歯垢を除去するフロスである。しかし、私は、このフロスをうまく使うことが出来なかった。その代わりに、私がアメリカで見出したのは、Y字型の歯間ブラシであった。
これは、実にうまく歯間を清掃できる。日本でも売られていた、ノコギリ型の歯間ブラシや、キリ型の歯間ブラシには、私は全く対応できなかった。その理由は、私の奥歯にある。糸だけのフロスや、ノコギリ型やキリ型の歯間ブラシでは、よほど大きな口を開けて器用に手を使わないと奥歯が上手く清掃できないのだ。しかも、私には「親知らず」だけでも8本の奥歯があり、普通の人より奥歯の比率が高いことにもよる。
日本に帰ってきてからは、東急ハンズで同じY字形の歯間ブラシを買っていたのだったが、輸入品で、あまり売れなかったのか、ある時から販売をやめてしまった。そこで、アメリカに出張するたびに、馴染みのTARGETに行って大量にY字型歯間ブラシを買い込んできた。ところが、嬉しいことに、3年ほど前から、日本でもSUNSTARがGUMブランドでY字型の歯間ブラシを売り出したのだ。最初は、それほど売れなかったようだが、最近は、着実に売れている。リピーターのファンが増えたのだ。日本もようやくアメリカなみのデンタルケア先進国になったということだろうか。
今、私は、朝と晩の2回、以下の4つのプロセスで歯磨きを行っている。まず、最初に、Y字型の歯間ブラシで歯垢を除去する。その後、電動ブラシに歯周病予防の歯磨きを付けて奥歯を中心に横方向に磨く。その後に、電動歯ブラシにステイン除去歯磨きを付けて前歯を中心に縦方向に磨く。それから口を水で嗽し、アルコールが入った除菌デンタルリンスを口に含んでグチュグチュと歯周病菌の殺菌を行う。こうして、毎朝、爽やかな1日が始まり、また毎晩、熟睡への誘いも完了する。
余計なお世話かもしれないが、昼休み、会社の洗面所で歯磨きをしている人達を見るにつけ、「この人達は、何をしているのかな?」と訝ってしまう。私が尊敬する歯科医の先生は、「最低1日1回歯磨きをすれば十分で、何度も歯磨きをすることは必ずしも良いことではない」と仰っている。また、「歯間ブラシで歯垢を除去することをキチンとやっていれば、本来、歯磨きなど必要ない」とも仰っている。それらが正しいとすれば、歯間ブラシも電動歯ブラシも使わず、昼休みまで、歯磨きしている人は、一体、何をしているのかな?と思う。
次に違和感があるのは、日本の「楊枝」である。私は小さい時から「楊枝」を使う習慣がなかった。虫歯がなかったので、食べ物が歯に詰まることがなかったからかも知れない。それに、食事が終わった後で、「楊枝」を使って歯を掃除している日本人の姿を欧米人は、どう思うだろうか?きっと、なんと無礼で野蛮な人達なのかと思うに違いない。さらに、歯科医に言わせると、「楊枝」で歯を掃除するのは歯茎をも傷めて、歯周病の原因にもなるので、絶対に、やめた方が良いと言う。
これまでの日本のデンタルケアの常識は、絶対に見直したほうが良い。それでも、最近の若い人達は、子供の時に矯正しているせいか、皆、欧米人並に歯並びが綺麗である。とても羨ましく、素晴らしいことだと思う。しかし、固いものを噛むことを嫌い流動性の高い食品を嗜好するらしく、顎が未発達なまま成人している人が増えていることが気になっている。ふわふわして、ふっくらしたパンより、固くジックリと噛まなければならないパンの方が遥かに健康的なことを小さい時からよく教えたほうが良いかも知れない。