2017年9月 のアーカイブ

373 バイオガス発電所の見学

2017年9月18日 月曜日

先週、私が社外取締役を務める日立造船が、秋田市の支援を受けて、本年8月から運用を開始したバイオガス発電所を見学に行った。ちなみに日立造船は、もはや造船事業から撤退しており、主力ビジネスであるゴミ焼却発電炉では世界一のシェアを有している。もともと、ゴミを焼却するという考え方は、土地が狭い日本と欧州にしかなく、米国を始めとして、世界のほとんどの国では、有り余った遊休地にゴミを埋設するという考え方が主流であった。

しかし、中国やインドをはじめとした、多くの人口を抱える新興国の生活水準が向上すると発生するゴミの量は飛躍的に増大し、しかも、人口は都市に集中するので、近隣に捨てられた膨大な量のゴミは深刻な環境問題を引き起こしている。ゴミ焼却発電炉は、新興国の環境問題を解決するだけでなく、ベース電源として安定した電力エネルギーを供給するので、まさに一石二鳥である。日立造船では、現在、中国やインド以外にも東南アジア、ロシア、中東、中南米からも多くの引き合いが来ている。

欧州は、環境先進国としてゴミ焼却発電という考え方を生み出したが、今や、その次のステップへと歩もうとしている。つまり、紙やプラスティック、金属などはリサイクルし、食品残渣の生ゴミだけを弁別収集して、それをメタン菌により発酵させたメタンガスを用いて、発電や熱源に役立てる考え方である。今回、見学した秋田のバイオガス発電所では、食品製造業や食品加工業から出る野菜クズ、加工残渣、不良品、消費期限切れ食品などの産業廃棄物や、ホテル、飲食店、スーパー、介護施設、病院などから排出される食品残渣などの事業系一般廃棄物を対象としている。1日の処理能力は50トン、発電能力は最大730KWhとなっている。

メタン菌を用いたバイオガス発電の仕組みは、次のようなものである。最初に、収集車から受け入れホッパに入れられた生ゴミから、選別装置により包装ビニールなど発酵不適物を除外する。その選別生ゴミは、巨大な発酵槽で役目を終えて返送された発酵液と混ぜられて混合液となる。この混合液を蒸気によって加熱・撹拌して発酵しやすい柔らかな可溶化液に変換させる。ここで、注目しないといけないのは、選別生ゴミを可溶化する際には、外部から水の供給なしに、リサイクルされた発酵液を用いていることである。メタン菌は35度から40度の環境で繁殖するが、この温度設定のための蒸気もガス発電機の排熱ガスによって作られた蒸気ボイラーから供給されている。つまり、このバイオガス発電設備は、正常に運転されているかぎり、生ゴミ以外の外部資源を一切使用しない。水も電気も蒸気も全て自身で生み出したものを利用している。

このドロドロにまで柔らかくなった可溶化液は、2棟の巨大なメタン発酵槽に入れられる。発酵槽に注入された可溶化液はメタン菌によって発酵・分解されメタンガスを発生させて18日間で役目を終えて発酵槽から排出される。そもそもメタン菌は嫌気性細菌で、空気に触れては役目を果たせないので、発酵槽は水で満たされている。そして、この秋田のバイオガス発電所の種となるメタン菌は、すぐ近くにある、秋田市の下水処理場で汚泥処理に使われていたものを転用している。メタン菌は弱い菌なので、遠距離を運搬することは好ましくなく、万が一の時にも近くから供給されることを期待している。

この発酵槽から最終的に出てくるのは、バイオガスと発酵液と汚泥である。まず、このバイオガスにはメタンガスだけでなく硫化水素も含まれているので、脱硫し、純粋なメタンガスだけを発電機に送る。発酵液の一部は混合槽・可溶化槽に戻されるが、その他は、膜分離によって浄化し、綺麗な水にして下水に放流している。残りの汚泥は乾燥させて堆肥とし、秋田名物じゅん菜農家に供給している。つまり、このバイオガス発電所では全く二次廃棄物を出さないエコシステムを形成している。

また、この発電所は巨大な球状のガスホルダにメタンガスを蓄積しているので、常に一定出力の電力を供給できるベース電源となっている。一般的に、ガス発電機は電力を発生するだけでなく、高温の蒸気を出力する。電力は電力線によって遠隔地に送電できるが、問題なのは熱源の利用方法である。その点、このバイオガス発電所は、この熱源を、メタン発酵を活性化させるための加熱処理に使い、発酵液から乾燥汚泥を作るための熱源にも利用し、自身で使い切ることができるメリットがある。

このバイオガス発電所の建設と運営は、日立造船が行なっているが、このエコシステム全体は、秋田市、秋田市の産廃業者、秋田市の食品加工業の密接な連携によって稼働している。発電所の立地も、秋田市の金属加工団地という周囲に住民が住んでいない地域で環境アセスメントの必要もなく順調に建設が進んだという恵まれた条件も整っていた。この金属加工団地から砂防林を10分ほど車で走ると、雄物川風力発電地域があり、多くの風力発電機が唸りを上げて回っている。日立造船も、この雄物川では、現在2基の風力発電機を建設、運営している。

それにしても、秋田市、秋田県は、日本でも秀でて環境問題に関心が高い地域である。何が、その要因なのか?私なりに考えてみた。そういえば、かつて秋田は日本で数少ない油田地帯だった。大学に鉱山学科があるのも秋田大学だけである。そうしたこともあり、秋田県民はエネルギー資源には関心が高いのだろう。もう一つは、秋田県にある小坂銅山を引き継いだDOWAホールディングスは日本屈指の金属リサイクル企業で「都市鉱山」の主要な担い手でもある。風力発電やバイオガス発電など、再生可能エネルギーに熱心な秋田県民の心意気に心から敬意を評したい。

372 北朝鮮の核攻撃について考えること

2017年9月7日 木曜日

今回、北朝鮮が声明に出した、社会インフラを完全に崩壊させる、高高度核爆発による電磁波パルス(EMP)攻撃が大きな話題になっているが、核開発競争の歴史において、それは特別に目新しいものではない。実は、アメリカとソ連は1960年代から、この高高度核爆発の効果に着眼して実際に実験まで行っていた。ただ、その発想は、北朝鮮とは全く異なるものであった。

アメリカは、ビキニ環礁で初めて行った水爆実験で、当初想定していないほどの大きな衝撃を受けた。爆心地から30キロも離れた監視センターは、堅固な放射線防護設備によって降りかかる放射能を1万分の1まで軽減し完璧な安全性を約束するものであったが、そこで観測された放射線量はほぼ致死量に匹敵する量のものだった。この実験で、アメリカの軍部は、すごい武器を開発したという以上に、大きな恐怖を感じ取った。もし、敵が同じ武器を持った時に、双方ともに、もはや一方的な勝利はありえない。お互いに、全滅するしかないということを悟った。

それ以降は、より高度な武器を開発する以上に、どうやって敵の攻撃を防ぐかということを真剣に考えた。この難題に光明を見出したのが高高度核爆発だった。敵のICBMを撹乱するための防御層を成層圏に作り出そうという考えである。一見すると、あまりに無茶な考えと思われるが、アメリカもソ連も実際に開発し、実験まで行なった。それも、ケネディ大統領とフルシチョフ第一書記の時代で、キューバ危機の真最中であった。

アメリカの大統領であったケネディは、核のボタンを押す寸前まで行ったと言われている。ところが、このキューバ危機の真最中に、アメリカは高高度核爆発の実験を2度も行なったのだ。同じく、ソ連もアメリカに負けじと、同じ期間に高高度核爆発を、アメリカと同じく2度も行なった。両首脳とも、核攻撃のボタンは遂に押すことはなかったが、高高度核爆発の実験ボタンは2度も押して居た。しかし、アメリカもソ連も、このやり方は、防御としてはあまりに危険で、しかも、本当に敵の攻撃を防ぐには、何百発もの核爆発を自国の上空で炸裂させなければならないので、非現実的だとして遂に断念した。実に賢明な考えである。

さらにアメリカの軍事研究組織であるARPAは、敵が高高度核爆発を行い、一酸化窒素(NO2)の巨大な雲を作り、その雲が長期間消えずに残った時に、敵のミサイルが感知できないのではないかと恐れた。しかし、それはシミュレーションの結果、その為には膨大な数のメガトン級の核爆発が必要であり、現実味がないとの結論が出てARPAは特に心配する必要はないとした。ソ連も、全く同じ結論を出したものと思われる。ただ、超微細加工の半導体をふんだんに使っている現代は、電磁波パルスには極めて脆弱である。敵の攻撃に対する防御網を撹乱させられるというより社会インフラが徹底的に破壊される恐れがある。やはり雷サージと同じようなシールド対策が必要である。

次にアメリカとソ連が考えたのは迎撃ミサイルを撹乱する5個から6個のデコイを搭載した多核弾頭ミサイルである。このプログラムは「ペネトレーション・エイド(防衛網突破装置)」と名付けられた。早速、アメリカは、今から50年以上も前の1962年に、ニューメキシコ州とマーシャル群島で実証実験を行い、期待以上の効果が発揮された。これで、個別誘導複数目標核弾頭(MIRV)という新種の水素爆弾が誕生した。もちろん、ソ連も、これにすぐに追随し、熾烈な核開発競争は、ますます勝者なき戦いとなった。

次に、開発されるのが指向性エネルギー・ビームによってICBMを撃ち落とす計画だ。ビームの正体は、レーザーを伴う電磁波か、電子か陽子を伴う、荷電粒子のどちらかである。この開発計画は「プロジェクト・シーソー」と呼ばれ、1960年から15年間ARPAによって続けられ、1974年にアメリカ原子力委員会に引き継がれて、今も、全く公開されていない最高の機密情報である。こうして見ると、今、メディアで騒がれている北朝鮮の核ミサイル開発は、アメリカとソ連では、半世紀以上も前から開発が進められているものばかりである。我々は、どれほど高度な軍事技術も50年も経てば世界一の最貧国すら実現できるようになってしまうという現実認識を新たに確認しなければならない。

結局、アメリカとソ連の熾烈な核開発競争は、どちらにも勝算を見いだせることにはならなかった。そして、ソ連を崩壊させたのは、アメリカの核攻撃ではなくて、破綻した経済状況に辛酸を舐めた国民の怒りだった。それでも、私たちは、アメリカとソ連の首脳たちの賢明な判断にどれだけ救われたかわからない。金正恩も、自身の体制維持を望むならば、自制こそが救われる唯一の道である。しかし、その核のボタンを押す権利を持った金正恩が、万が一、狂気の沙汰に及んだ時、犠牲になるのは彼だけに止まらない。世界は阿鼻叫喚を極めることになる。何とか思い止まって欲しいと心から願っている。

(参考文献) 「ペンタゴンの頭脳」 アニー・ジェイコブセン著