2014年8月 のアーカイブ

278  いよいよ到来したデング熱

2014年8月30日 土曜日

70年ぶりに国内感染が発生したデング熱。地球温暖化の進展とともに、マラリアやデング熱が、この日本にも、いずれ到来すると思われたが、やはりやって来た。今回の国内感染は決して偶然のイタズラではない。もともとマラリアやデング熱は、熱帯、亜熱帯の地域では、ごく普通の伝染病である。これらの地域から多くの訪問者が日本を訪れていながら、こうした国内感染が発生しなかったのは、日本の気候が亜熱帯や熱帯ではなくて温帯だからだった。

私は、今から7年前、第一次安部内閣の時代に、安倍総理の経済随行団としてインドネシア、インドを訪れる機会があった。随行団の結団式で私たちに渡されたのは、虫除けスプレーと電気蚊取り線香だった。インドやインドネシアでは、デング熱に罹る危険性があり、宿舎では寝る前に必ず身体全体に虫除けスプレーを吹きかけ、枕元には電気蚊取り線香を付けて寝るようにとの指導があった。そして、私用で街を歩く時にも半袖、半ズボンは絶対に禁止とのことだった。確かに、暑い熱帯でありながら現地の方々は長袖、長ズボンの服装で街を歩いている。

インドネシアのジャカルタでは、自由行動が許されたので、富士通インドネシアのスタッフと会食をする機会を得ることが出来た。そこで、驚きの話を聞くことになる。1年前に日本からジャカルタに赴任した富士通の駐在員は、この1年間に3回もデング熱に罹ったと言う。いずれも毎回、40℃近い高熱と筋肉痛で1週間近く苦しめられたというのだが、それでも、彼は、笑みを浮かべて、「あと1回の辛抱です」と言う。デング熱には4種類のウイルスがあり、あと一回罹れば、全てのデング熱の免疫を得られるからだと言う。

彼は、若く健康体なので、このような試練も、笑って済まされるが、日本国内の幼児や高齢者がデング熱に罹ると、そう簡単に済まされる話ではないだろう。最近の経験したことのない激しい豪雨も、日本が熱帯化した証拠である。このことは、デング熱だけに留まらず、沖縄や九州を皮切りに日本の南部からマラリアが深刻な伝染病になってくると思われる。ところで、マラリアもデング熱も、いずれも蚊を媒介とする伝染病であるが、同じ東南アジアでも、全く事情が異なる国がある。

それは、ベトナムである。今から、15年前、ベトナムのホーチミンを訪れた時のことである。夕方になると、多くの若い男女のカップルがバイクに乗って宵闇の郊外に繰り出して行く。微笑ましい光景ではあるが、私は心配になって、現地の方に尋ねてみた。「彼らはデート中に、蚊に刺されたりしないのですか?」。すると驚きの答えが帰ってきた。「ベトナムには蚊なんていません。ベトナム戦争の枯れ葉剤で殆どの木が枯れてしまいました。それから、木が生えなくなりました。その結果、太陽の強い紫外線で蚊を含む虫達が育たなくなりました。ほら、ホーチミンの空には鳥も飛んでないでしょ。彼らの餌になる、虫が居ないからですよ」。

「ベトナム戦争から30年経っても、まだ、その爪痕が残っているのか」という驚きと、「虫が生きられない酷い環境でも、人間だけは生きられるのだ」という驚愕である。私たち人間が、何とか生きていられるから、まだ自然は大丈夫だと思ったら、それはとんでもない大間違いだ。人間はゴキブリと同様、生物の中で、環境の変化に対する耐久力がずば抜けて強い生物だと思った方が良い。昔、地下深くの鉱山に入る鉱夫達がカナリヤを連れて入坑したのは、まずカナリヤが人間より先に有毒ガスの犠牲になるからだ。

良質のウイスキーを産出する英国で、南欧でしか育たなかったブドウが栽培でき、良質のワインが生産出来るようになった。今、東北山形では温暖な四国や南紀でしか採れなかったミカンの栽培を始めようとしており、山形名産のサクランボを将来北海道で生産することを計画している。農業を営む人たちは、もはや地球温暖化は避けられないものと考え、それにどう適応しようかと考えている。さて、一般の人々は、農業従事者ほどの鋭い感性を持って、この地球温暖化に対処しようといているのだろうか?

最近、新聞やテレビでは、日本海での津波防災の議論で盛り上がっている。確かに、東日本大震災で生じた想定外の大津波は大きな災害をもたらした。しかし、こうした未曾有の大災害は1000年に一度のことである。1000年に一度の津波をどう防ぐかを議論する人たちは居ても、じわじわと進展する地球温暖化によって生じる、1000年後の海面上昇はどれだけになるか、その議論は一切ない。地震や大津波は起きるかも知れないし、起きないかも知れない。しかし、地球温暖化による海面上昇は少しずつではあるが着実に必ず起きる。

そうした地球温暖化を利用して大きな利益と得ようと着々と計画を進めている人たちも居る。それが北極海の利用である。一つは北極海光ファイバーケーブルであり、もう一つは北極海航路である。北極海を利用して、ヨーロッパから日本を経由してカナダまで敷設されようとしている光ファイバーケーブルは非常に大きな意味がある。陸上を走るネットワークケーブルは、どこかの国の施政権がある土地の上に敷設されるので、盗聴される恐れがある。しかし、北極海を巡る海底ケーブルはロシアもアメリカも中国の領土を経由することもないので極めて安全である。

もう一つ、北極海航路は世界の物流を大きく変える。スエズ運河やパナマ運河の位置づけも大きく変わるし、日本でも、太平洋沿岸と日本海沿岸の価値と位置づけが大きく変わる。実際、北極海光ケーブルの中継基地となるであろう小樽にICT業界の熱い視線を集めている。小樽は、気温が低いという利点も合わせて、日本有数のデータセンター基地となるだろう。70年ぶりに日本でデング熱の国内感染が発生したことは、日本だけでなく、世界が大きく変わることの前触れでもある。

277   ITを駆使したレタス工場

2014年8月23日 土曜日

故郷、平塚江南高校の後輩で、富士通の人事部長も務められた今井幸治さんの案内で、今井さんが、今、情熱を注いでいる会津若松市のレタス工場を見学させて頂いた。会津若松市の半導体工場は、富士通がIBMと世界で互角に戦えた高性能コンピューターのコア部品、世界初のLSIプロセッサを世に送り出した、富士通にとっての最重要製造拠点であった。

私が前回、この会津若松の工場を訪れたのは、東日本大震災が起きた2011年の6月、大震災から3ヶ月後の時だった。東日本大震災は、沿岸部の津波被害はよく知られているが、内陸部の被害も大きかったことは意外に知られていない。同じ福島でも沿岸から遠く離れた、この会津若松にある富士通の半導体工場の地震被害も甚大であった。半導体を製造する多くのガラス容器が、全て破壊されたのだ。

未曾有の大災害にも関わらず、この会津工場の従業員達の必死の苦労で、ようやく製造設備が、ほぼ現状復帰を果たすことが出来た一ヶ月後の4月11日。福島県浜通を震源地とするM7.2、震度6強の激しい余震で、せっかく復旧した製造設備は、再び破壊し尽くされたという。「本当に心が折れました」と工場長が語っていたが、それにもめげずに再び工場全員で復旧作業を続けて5月末には正常な操業に戻したのだ。

そうした未曾有の大震災からの復旧に向けての工場全員の懸命な努力にも関わらず、その後の、世界の半導体業界の大きな流れに抗することは叶わず、会津工場としては窒化ガリウム(GaN)を素材とするパワー半導体に大きな期待を残し、これまで主流だったシリコン半導体は縮小方向に向かっている。このGaNチップはタバコの箱サイズもある現在のACアダプターを爪の先ほどの小さなICチップに置き換える夢のプロジェクトであるが、安価に大量に生産するには、もう少し時間がかかる。それが出来れば、ACアダプターは装置の中に組み込まれるだけでなく、AC-DC変換効率が良いので社会全体としても大きな節電効果が出るので、早く量産されることを皆が望んでいる。

現在、会津工場としては製造設備の3分の2が遊休状態となっている。巨額の設備投資をして建てられた半導体工場は、休業状態で維持するのにも、壊して現状復帰するにしても、これまた巨額の費用が必要である。特に、完璧な空調設備と僅かな塵も許さない大規模なクリーンルームは、その高価な設備を活かした有効な利用方法はなかなか見つからなかった。そこで、考えられたのが人工透析患者向けの低カリウム野菜の栽培であった。この試みは富士通会津工場と取引関係にあった地元の企業が昔からフランチャイズ方式で一般農家と協業を試みていたが、一般農家では外界と遮断する設備を作るのが難しいということで実現していなかった。

こうした中で、今井さん達が、考え悩んでいるより「とにかくやってみよう」ということで低カリウムレタス栽培事業を始めたわけである。ここで、低カリウム野菜の意義について簡単に説明すると、人工透析を受けている腎臓病患者にとって高カリウム症は、不整脈や心筋梗塞など、命の危険を伴う深刻な病である。健常者は、接種したカリウムの90%は代謝によって体外に排出するが腎臓機能が弱まった患者さんは排出されずに体内に蓄積されて高カリウム症になりやすい。このため、カリウムを多く含む殆どの野菜が、少なくとも生では食べられないということになる。

日本は世界でも人工透析患者が特に多いことで知られている。現在は、日本全体で40万人おられるのだが、人工透析は、一人当たり年間500万円の医療費がかかり、日本全体では2兆円にもなる。そして、まだまだ、日本には人工透析患者予備軍が沢山存在している。その理由は、腎臓病は糖尿病をこじらせた病気だと言うことである。日本が世界的に見て異常なほど糖尿病患者が多いのは、米、うどん、そばなどの炭水化物を主食とする「和食」のせいである。和食は決して健康食ではない。しかし、既に人工透析患者になられた方に、今更、和食は駄目ですよと言ったところでもう遅い。せめて、健康に良いとされる野菜だけは十分に摂って頂きたいというのが低カリウム野菜の栽培の目的である。

しかし、低カリウムレタスの栽培は決して簡単なものではない。なぜなら、殆ど全ての農作物は3大肥料要素と言われる窒素、リン酸、カリウムのどれが欠けても生育しないからである。レタスも例外ではなく、カリウムが欠乏すると全く生育しない。したがって、発芽から収穫できる大きさになるまでの数十日間はカリウムを含む栽培液で生育をするしかない。その後で、「カリウム抜き」をするのである。植物も人間と同じく摂取したカリウムの90%は代謝によって体外に排出する。この代謝作用を利用して、ある時期からカリウムを代替する。つまり、レタスがカリウムと間違えるナトリウムなど別な成分に栽培液を変えることによって「カリウム抜き」が実現する。

こうした栽培プロセスにおける、日射条件、温度、湿度、CO2濃度、栽培液中のカリウム濃度のコントロールを最適化することによって美味しい低カリウムレタスが出来る。これらは、コンピューターの力を借りずにしては出来ない。コンピューターが、工場の隅々まで24時間監視して自動制御して栽培は行われる。この結果、工場の従業員は半導体の時とは異なり、日中8時間勤務で帰宅出来ることになった。

そして、この半導体工場のクリーンルームで栽培された低カリウムレタスには、想定していなかった多くの利点が生まれた。一つは、高いレベルで低カリウム化することによりレタス特有の苦みがなくなったということである。この低カリウムレタスは実に甘いのである。これは野菜が嫌いな子供達には絶好である。そして、そのまま美味しく食べられるので、お酒の肴にもなりそうである。

もう一つは、ハイレベルのクルーンルームで栽培されたため、殆ど無菌状態だということ。一般の食品テストで行われる細菌測定では測定不能なほどの無菌状態である。これが及ぼす効果は絶大で、時間が経っても、全く傷まないということである。常温で2週間、冷蔵庫では3ヶ月以上経っても収穫時と状態がかわらない。一般的に生鮮野菜は流通過程で3分の一ほどだめになり、購入されて家庭の中で、さらに3分の一ほどだめになる。せっかく収穫された生鮮野菜は最終的に半分以上が廃棄されてしまう。従って、このクリーンルームで栽培されたレタスは画期的な流通革命を起こすことになり、中国や東南アジアの富裕層にまで十分に鮮度を保って直送できるはずだ。

こうして見ると、なんだか全てうまく言っているように聞こえるかもしれないが、農業分野への参入はそう簡単なものではない。特に、コスト面では、まだまだ大きな課題を抱えている。特に、クリーンルームを維持するには空調に使う電力費用が半端ではない。半導体事業を苦しめた、日本のインフラコスト高は、ここでも大きなネックとなっている。こうしたコスト高を乗り越える生産効率を、今後とも追求していかなければならないだろうし、野菜よりもっと付加価値の高い、例えば「薬草」のような事業領域を狙わなければならないかも知れない。

それでも、このレタス工場の見学は大変盛況である。私が見学させて頂いた日も、遠く九州から来られた富士通のパートナーの方々が多数来られていた。九州から関西空港経由で福島空港、そこから会津若松までバスで乗り継がれるという大変な苦労をされて来られている。その熱心な、ご見学の様子を見ていると、「これは単にレタス工場だけを見に来ているのではない」と私には思われた。

皆さん、もはや「ITサービス」だけでは事業が成り立たなくなっていることに既に感づいている。「ITサービス」は既に誰でも提供できるコモディティとなっており、この「ITサービス」を手段として、何が出来るかという「ソリューション」を提供しないと会社が持たない時代になっているからだ。そして、その「ソリューション」を提供するためには、自ら苦労して実践してみることによって初めてコンサルテーションも実現できることも知っている。だからこそ、レタス栽培まで手を出した富士通の工場にまで、わざわざ遠方から見学に来られたのであろう。

276 最新鋭ゴミ焼却発電プラントを見学

2014年8月20日 水曜日

私が社外取締役を勤める日立造船はゴミ焼却発電プラントに関して、欧州のトップメーカーであるイノバ社(本社スイス)を完全子会社化することによって、文字通り世界のトップベンダーとなった。日本や欧州のように国土が狭い地域ではゴミは焼却するのが当たり前となっているが、アメリカを含む世界の他の地域では、その広い国土を利用してゴミは埋設処理するのが一般的であった。

しかし、地球温暖化問題を契機として、埋設された生ゴミは二酸化炭素より遥かに温室効果が高いメタンガスを発生させる恐れがある一方、むしろゴミを燃料とすることによって発電を行えば、効率の良いバイオマス発電として大きな二酸化炭素削減効果があることが分かってきた。特に、中国は人口の都市集中と生活レベルの向上によって大都市におけるゴミ処理問題は大変深刻な課題となっており大規模なゴミ焼却発電プラントが次々と建設されている。

この中国に続いて大規模なゴミ焼却発電プラントを計画しているのがインドであり、これらゴミ処理分野での二つの超大国に続いて、これからゴミ焼却発電は先進国から途上国へと広がり世界的ブームになりつつある。日本でも、このゴミ焼却発電は大きなトレンドになっている。もし、日本中のゴミ焼却炉が全て発電すれば、その規模は原発6基分にも相当する。しかも、ゴミ焼却発電は、天候に左右される太陽光や風力と違い、24時間365日安定的に発電出来るベース電源となる。

こんな良い話はないはずなのだが、日本にはゴミ処理に関しては、各自治体ごとに処理を完結しなければならないという規制があり、発電に適した適正な規模に達しないという大きな問題がある。平成の大合併によって、自治体の規模は拡大されたが、それでもゴミ処理施設は自分たちの近隣には造らせないという住民エゴによって一カ所に集約することは、なかなか困難である。

それには、従来、ゴミ処理施設が、汚い、臭いだけでなく、有害な物質を含むかもしれない排煙や汚水、焼却灰などを産出するなど、住民から嫌われる要素を沢山抱えていたからに他ならない。それで、今回、内閣府から環境モデル都市に推薦されている松山市と、日立造船が、昨年5月に稼働させた最新鋭のゴミ焼却発電プラントである「松山市西クリーンセンター」を見学させてもらうことにした。

この松山市のゴミ焼却発電プラントは、松山空港に近い松山港に面した工業団地にある。建物は、まだ出来たばかりで新しく、ゴミ焼却炉というより港湾倉庫のように見える。見学者は入り口で、まず靴を脱がされてスリッパで見学通路を回って行く。床はピカピカに磨かれ、本当に奇麗で心地よい。まず、ゴミ収集車がゴミをピットに搬入するプラットフォームに案内された。8カ所の入り口にバックしてゴミ収集車が入り、荷台を上げてピット内にゴミを投入し終わってプラットフォームを出て行くと、駐車した場所には、投入し損ねたゴミの屑と漏れ出した液が残った。その後を、作業員の方が、ゴミを拾い上げ、モップで床を奇麗に磨いてピカピカに清掃するのである。市民が見学に来られた時に、「ゴミ焼却場は本当に奇麗な所だった」との印象を抱いてもらうためだそうである。

一時が万事で、この「クリーンセンター」と名乗るゴミ焼却場は、本当に文字通り「クリーン」である。ごみピットに蓄えられたゴミは5tのゴミ・クレーンで炉に投入されるまえに何度も撹拌されてほぐされる。一人で、このクレーンを運転する操作員の動作は、まるでUFOキャッチャーゲームの達人ではないかと思われるほどの見事さである。そして、いよいよゴミは焼却炉へと投入されていく。この焼却炉では1000℃近い高温でダイオキシンはおろか、あらゆる臭気成分も熱分解してしまう。だから、このゴミ焼却炉は臭わないのだ。

ゴミを燃やした、その熱で作られた400℃の高温蒸気がタービンを回して発電する。一日420トンのゴミを焼却して、6,600kWの電力を発生させる。その中からゴミ焼却炉自身が使用する2500kWを差し引いた電力は電力会社へ売電している。当然、この電力はグリーンな電力であるバイオマス発電なので、FIT制度が続く、当分の間は高値で買い取られる。

ゴミを焼却した後に残るのは、排ガスと焼却灰である。このうち排ガスについては濾過集塵機や触媒反応塔を介して、窒素酸化物、硫黄酸化物、ばいじんなど有害物質を全て除去して外部には一切だすことはない。そして、同じく有害物質を含んでいる可能性がある焼却灰については、まず鉄成分と銅成分を取り除かれた後、炭素棒に高圧をかけて発生させた3000℃にも上る高温プラズマで火山の溶岩流のように溶融させる。それを急激に冷やすと、ガラス化して黒曜石のような奇麗な石(スラグ)になる。こうした頑丈な固形物になれば、もう有害物質が含まれていても土壌を汚染したりする心配は全くなくなる。このスラグはアスファルト舗装の骨材として使われ、りっぱにリサイクルされる。

もう一つ、この焼却炉では、タービンを回す蒸気として、あるいは排煙や溶融した灰を冷却するために大量の水を使う。この水も薬剤で無害化したあと濾過装置や活性炭吸着装置及び膜処理装置を通過させて、また循環しているので、この施設から一滴の水も放出はしない。一昔前は、濾過して奇麗にしたということで水は川や海に放流していたそうだが、今は、全く外部には出すことはない。

素人なので、うまく説明出来ていないが、このゴミ焼却発電プラントは超高温処理、超高圧処理をこなす高度な稼働技術を必要とする立派な化学工場である。しかも、このプラントは鉄の溶鉱炉と同じく、一度冷やした炉を再び高温にまで到達させるのは時間的にも費用的にも無駄であるため24時間365日の運転が必要となる。こうした焼却炉の運転・保守作業は、焼却炉を設計・製造した技術を保有した人たちでないと無理である。実際、日立造船は松山市から、むこう20年間の運転・保守作業を請け負っている。

建屋内には、原発ほど複雑ではないが多くの計器類と炉内で燃える映像を表示したオペレーションセンターがあり、常時3名の監視員が見張っている。この方達も一日12時間勤務の変則2交代で従事している。そして、日立造船本社では全国のゴミ焼却発電プラントで使われている全計器類と焼却炉モニター画面を大阪築港工場の中央監視センターでリモート監視できるようにしている。現場で何が起きているか、あるいは起きつつあるかを中央監視センターでも24時間監視しているのだ。

一般的に、モノを作る、あるいは電気を作るという動脈系の産業については世の中の関心が高いが、廃棄物を処理すると言った静脈系の産業に関しては、あまり関心が高くない。しかし、世の中のシステムは、動脈系と静脈系と相まって一つの生態系として動いている。しかも、近年、その静脈系の技術も、どんどん高度化しているので、決して見逃す訳には行かない。ものづくり大国と言われた日本のステータスは、中国、韓国に押されて、どんどん凋落するばかりだが、動脈系ばかりでなく、この静脈系にまで注目した時に、日本の活躍する道は、まだまだ多く残されているような気がする。