2014年4月 のアーカイブ

269 韓国フェリー遭難事故を考える

2014年4月30日 水曜日

今日のTVニュースにて、韓国フェリー事故で遭難した高校生が撮ったビデオを視て、胸が締め付けられるほど心が痛んだのは私だけではないだろう。これから夢多き将来がある高校生が400人近くも無駄に命を奪われたことは何とも許しがたい。先々週、米国出張中に多くの米国TVニュース番組が、この事故にかなりの時間を割いていることに驚いた。世界中が、この韓国発のニュースに大きな衝撃を受けたに違いない。韓国では、既に首相が責任を取って辞任し、朴大統領にまで責任追及が及び始めている。しかし、私には、この事件の根本原因は首相や大統領にあるとは思えない。つまり、その本質を考えるときに韓国社会が既に崩壊しつつあるとしか思えないのである。

先々週、シリコンバレーを訪問した時に、多くの人が言っていたことは「シリコンバレーは、もはやコリアンタウンとなった」と言うことだった。確かに、サムソンがシリコンバレーに巨大は開発拠点を築いたことにも関係するだろうが、サムソンの研究員だけで、これほど多くの韓国人がシリコンバレーに流入するとは思えない。自分の力に自信を持つ資質や能力の高い韓国人がアメリカでの夢の実現に賭けて、もはや壊れつつある祖国を捨ててアメリカに脱出してきたとしか私には思えないのである。

韓国は世界で一番大学進学率の高い国である。80%を超える若者が大学への進学を果たし立派な成績で卒業するが、そうした努力に相応しい職を得るのは相当に難しいようである。これまで、韓国は、いつも日本を目指して国民全体が頑張ってきた。その結果、とうとう、日本が抱える課題までも全て追い抜いてしまったのだ。自殺率、離婚率、自己破産率、そして少子化率までも日本を追い越してしまった。このように努力しても報われない社会では必ずモラルハザードが起きる。そうした文化は国中に広く蔓延しているので、決して、あのフェリーの船長だけを追及すれば済むと言う簡単な問題ではないだろう。

現実主義者で親日派だった李明博大統領が、突然、政権末期に反日主義者になったことに驚いた方も多いと思うが、深刻な国内問題に悩んだ大統領が退任後、その責任の追及から免れるためのカードは強力な反日政策しかないと思ったのかも知れない。強硬な外交姿勢と取る政権は常に深刻な国内問題を抱えていて外交カードを国内問題のはけ口として利用する。今の中国の政権も全く同じスタンスだと思った方が良い。

韓国はサムソン、現代、LGといった財閥グループがGDPの過半を占めている異常なほどの寡占社会である。しかも、この3大財閥がグローバルに活躍する資金の殆どを国内市場から調達している。そして、世界一のシェアを誇るサムソンの携帯電話事業の製造拠点は韓国からベトナムへ移転した。そのお蔭でベトナムは世界最大の携帯電話製造国となった。つまり、多くの韓国国民はサムソンの繁栄の恩恵を全く受けていない。このたび、サムソンが製造をベトナムに移転したと同様、研究開発も米国に移したとすれば韓国社会はますます空洞化し疲弊することになるだろう。

さて、この韓国が抱える問題を、私達日本は対岸の火事として静観している余裕があるのだろうか? 一見、20年以上も低迷化していた経済が活況を呈して、長く続いたデノミから脱却したように見える好調な日本経済。その謎は、東北の被災地を訪れたら直ぐにわかる。これだけ莫大な公共事業費が使われていたら、日本国内の景気循環が良くならないほうがおかしいと言わざるを得ない。そのかわり、私たちは莫大な借金を将来世代に引き継がせている。

今の、韓国では、中国と同様に深刻な貧富の格差が生じている。これこそがモラルハザードを起す大きな要因となっている。日本では、未だ、それほど深刻な貧富の格差が起きているとは思わないが、もっと大きな格差は、世代間格差である。私たちの世代の繁栄は将来世代から収奪しているものだと言うことをもっと深刻に受け止めるべきである。だからこそ、今の多くの若者が将来に夢を描くことが出来ないでいる。これは、将来、必ずモラルハザードを引き起こす。今後、有能な日本の若者は韓国の若者と同じように祖国を捨ててアメリカに向かうだろう。

今回の韓国のフェリー遭難事故は、我々日本にとって、決して他人事ではない。

 

268 施政権と領有権の違い

2014年4月24日 木曜日

本日の日米首脳会談にてオバマ大統領が「日米安保条約第5条の適用範囲としてアメリカは尖閣諸島を守る」と宣言したことは、日本にとって大きな成果であった。しかし、こうした領土紛争に関してアメリカの態度は常に全くぶれていないことに注目したい。

オバマ大統領が話した内容を英語でチェックしてみると、日本の施政権配下(Japan’s administration)にある尖閣諸島(Senkaku ilands)をアメリカは守ると言っていることに注目したい。これは、まさに日米安保条約第5条で記述していることと全く矛盾しないが、ここで私たちが意識しないといけないのはアメリカ合衆国として、施政権(Administrative Power)と領有権(Sovereign Power)を、はっきり区別しているということである。

アメリカは英国の植民地から独立して以来、原住民であるネイティブアメリカン(俗に言うアメリカンインデアン)から武力でその領土を奪ってきた。従って、アメリカには歴史的見地から見た領有権(Sovereign Power)の存在を一切認めていない。アメリカは現在の実行支配領域だけを国家の領土とみなしている。それは、歴史的見地からの領有権を認めた瞬間にアメリカ合衆国の存在の正当性が失われるからである。

第二次世界大戦後、アメリカは沖縄を実行支配下においたが、この時でもアメリカは沖縄の領有権(Sovereign Power)を日本から奪ったとは考えていない。アメリカは沖縄の施政権(Administrative Power)を日本から奪ったのであって、アメリカにとっての沖縄返還とは、この施政権を日本に変換したに過ぎない。ここでもアメリカは尖閣諸島を含む沖縄に対する日本の領有権(Sovereign Power)については一切言及していない。

それでも、尖閣諸島を巡る日中の抗争が激しくなってからもアメリカの主要メデイアは、尖閣諸島をIlandsではなくRocksと呼んできた。つまり、これは島ではなくて岩であると言うのである。Senkakuが日中どちらの領土であろうとも、この岩を守るために若いアメリカ人の血を流すなどとんでもないと言ってきた。

同時に、これまで日本に集団的自衛権の行使を迫ってきたアメリカの日米安保関連族議員が、最近、一切集団的自衛権の話をしなくなったことにも注目したい。アメリカの世論が日本の保守派の強行姿勢には、もはや、ついていけないと言い出したのである。アメリカは日本の極端なナショナリズムのために集団的自衛権を行使させられるのは、もうごめんだと言っている。その意味でも、今回、オバマ大統領がSenkaku Ilandsと表現したことは、今の大方のアメリカの世論を考えると、相当に踏み込んでいると評価すべきである。

この背景には、アメリカ政府の中国の積極的な海洋進出に対する大きな懸念がある。こうした中国の攻勢に対しても、アメリカはもはや単独で対抗できる力を持っていない。この点でも、アメリカは日本に大きな期待をしている。日本人は、日本がそれだけの軍事力を持っていることを、もっと自覚すべきである。このたび、中国が進水させた空母「遼寧」はロシアから購入した中古品である。もちろん、中国は自国の最新鋭の技術を駆使した航空母艦を現在開発中であるが、日本は既に遼寧に負けない自国製の立派な空母を持っている。中国や韓国が指摘するように、このたび日本の海上自衛隊が進水させた最新鋭護衛艦「いずも」は誰が見ても立派な空母である。

さて、今回の日米首脳会談におけるオバマ大統領の声明をもっと深読みすると、日本は単に喜んでばかりはいられない。日米安保条約第5条と同じ文言が米韓安保条約第5条にも書いてある。この条約の内容に従えば、米国は竹島に実行支配権を持っている韓国に対して、もし日本が竹島に何らかの行為を行えば、米韓安保条約を適用下において日本と戦うということになる。そして、万が一、中国が武力によって尖閣を実行支配下におくようなことになれば、もはや日本には施政権がないわけだから、アメリカは尖閣諸島を守る必要はなくなることになる。

今回の、日米首脳会談におけるオバマ大統領の声明の内容にについて、この施政権(Administrative Power)と領有権(Sovereign Power)の違いをしっかり理解しておく必要がある。日本のマスメディアが丁寧に解説してくれないので、生意気にも世界的にはごく常識的なことを敢えてお話させて頂いたことをお許し願いたい。

 

267  デジタル・ラーニング (その2)

2014年4月22日 火曜日

大規模オンライン公開講座(MOOC)の草分けと言えば、何と言ってもサルマン・カーン率いるカーン・アカデミーが現在でも圧倒的な地位を誇っている。ビル・ゲイツ財団とGoogleの強力な資金援助の元で、相変わらず無料の講座を続けているが、その手法は、当初のYouTubeビデオの単純集合から抜け出して最先端のテクノロジーを駆使するようになっている。

そうした慈善事業をビジネスにしようと起業したのが、スタンフォード大学のコンピュータ・サイエンス出身の教授たちによって創設されたコーセラCoursera)とユダシティー(Udacity)である。このたび、私達は、そのスタンフォード大学のデジタル・ラーニングフォーラムの教授たちと多くの実りある議論が出来た。彼らが、オンラインのデジタル・ラーニングをビジネスにしようとした動機は、このままでは大学が崩壊するという危機感からであった。高等教育は国や社会にとって欠くべからざる人材を育成する上で重要ではあるものの、年々費用が高騰し続けている。

一方、国家や地方財政は、今以上に高等教育に予算を割くことが出来なくなっているし、私立大学も授業料の値上げ既に一杯一杯だ。カーンアカデミーのような慈善事業も、寄付金が枯渇すればもはや成立しない。何とか、この難題を民間の力で効率よく進められないかというのが、彼らが設定したテーマであった。その転換点が2012年だったと言う。米国、シリコンバレーを中心に、この2012年に、二つの大きな変化が起きた。

一つは、多くのコンピュータ・サイエンスの研究者が、教育分野に注目し始めたということである。ロボット、人工知能、自然言語処理、データサイエンス、コンピュータ・セキュリティと言った、あらゆる分野のコンピュータ・サイエンティストが教育分野に集まってきた。もう一つは、この年を境にして、多くのファンドに教育産業に対して投資をしようという機運が現れたことだと言う。今や、Ed-Tech(教育テクノロジー)に投資ポートフォリオを持たないベンチャーキャピタルファンドにお金は集まらないことにまでなっている。

もともと、大学の教授や研究者たちの、第一義の目的は「研究」であった。「教育」は、その次で、「まあ、仕方がないからやるか!」と言った程度の動機づけしかなかった教授や研究者が殆どだった。しかし、ある時から、特にコンピュータ・サイエンスの研究者達にとって「教育」は第一級の研究対象となった。そして研究対象が足元にあり、勝手知ったる自分の庭の中でいろいろな実験が出来る。しかも、こうした研究に投資ファンドからお金が付くようになった。うまくやれば、自分も起業家として創業できる。これではやる気がでるのは当たり前だ。

つまり、コンピュータ・サイエンスを最大限使い、教育の最大効率化を図ろうとするのが「デジタル・ラーニング」である。当然、MOOCも、このデジタル・ラーニングの研究対象に入る。無料か?有料か?と言うのは二次的な問題にしか過ぎない。お金を取るにしても、オンライン授業や講義に、取るだけの価値がなくてはならない。そして、その価値とは授業を終了したことが社会的に認知され、自分が望む職を得たり、あるいは昇給、昇進できなければ、授業料を支払う意味がない。

そのことに早くから目をつけたUdemy社は、企業向けの特定分野のスキル教育に事業をフォーカスした。Dennis Yang President & COOは私たちのインタビューに自信を持って答えてくれた。「企業価値は人的資本(Human Capital)で決まるから企業は教育に惜しみなく金を使う。但し、教育の分野は企業にとって役に立つスキルに限られている。それでも、その分野はプログラミングから交渉術まで、実に幅広い。今、Udemyの顧客はアメリカの代表的な大手企業である。ここまで来ればコンテンツは自動的に集まってくる。毎月、1000本以上のコンテンツが応募されるので、我々は、慎重に評価し、それを望む企業に提供している。」Udemyは、GEのジャック・ウエルチを始めとする著名なアメリカの経営者を宣伝用教員として使い、Udemyにコンテンツを提供してきた多くの大学の先生たちに年収1億円以上の収入をもたらしたと宣伝しているのは、実に巧みな経営手法である。

こうしてシリコンバレーでは、多くのスタートアップが、今、教育産業として起業している。確かに、あらゆる産業のなかで、雁字搦めの規制で教育と医療は最も遅れた分野だったかも知れない。だからこそ、成長余力があると見たのだろう。そして、この教育産業に参入するのはスタートアップだけでなく、ベンチャーキャピタルまでもが参加し始めてきている。スポーツカー志向の電気自動車であるステラモーターへの投資で大儲けしたドレイパーキャピタルは、とうとうシリコンバレーに大学まで作ってしまった。この大学は8週間で授業料は9000ドル。ここで、ドレイパーファンドは、自分達が投資すべき起業家を育てようというのである。

大学が人材育成機関として困難な立場に追い込まれるほどに、その隙間で新たな教育事業を起こそうという人達が増えてくる。そんな中で、衝撃的なニュースが走った。サンノゼ州立大学ではユダシティーのMOOCを授業の一部として採用していたが、このほど、あまりにドロップアウト率が高いので、今後はMOOCを使わない方針を決定したと言う。これを受けてユダシティーもMOOC事業から撤退し、Udemyのように特定の顧客企業へスキル教育を主体としたサービス提供を行う事業モデルに転換したというのである。

元々、MOOCはドロップアウト率が高く、これを補うために従来型の授業も交えて行うべきだと言われてきたが、そうした補完授業を可能とする大学で、MOOCの高いドロップアウト率が改善されなかったということには、それぞれの立場から、いろいろな意見がある。それはMOOCの宿命で仕方がないのだという意見もある中で、それを何とか防げないかという研究に着手されている先生にも、このたびはお会いした。コンピュータ・サイエンスは、こうした人間の学習意欲や向上心まで分析して、その答えを見つけようとしている。「デジタル・ラーニング」は、人間の深層心理まで含めて研究対象としているのだ。