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176   技術で勝てる日本が、事業で負け続ける

2012年10月1日 月曜日

本日、経団連の産業政策部会で、ご講演頂いた妹尾堅一郎先生の元々の著作は「技術で勝てる日本が事業で負ける」である。先生は、講演の冒頭で、「もう何度も同じ話をしても、日本の企業は何の反省もなく負け続けるので、次に本を書くときには、『負け続ける』という題にするのだ」と仰っていた。つまり、日本の経営者は『1980年代の日本の成功モデル』から未だに脱却できていないと言うのである。

1980年代に先進国である欧米各国を相手にして日本が産業競争に勝ってきたモデルは基本的に『同じものを安く大量生産するという新興国モデル』だから、日本が先進国の仲間入りをしたら、当然、日本は新興国に、その王座を奪われるというのである。真に、もっともな話で、現実に、毎日、日本の経済新聞を賑わしているのは、まさに、その話題である。

妹尾先生は、少なくとも産業政策において、『経済成長』という言葉は、もはや日本の産業界には似つかわしくないと言う。つまり『成長』とは、事業スケールの拡大を意味しているわけだが、新興国の産業モデルを依然として踏襲し、新興国と競って、スケール拡大競争をすること自体がナンセンスだと言う。私も全く、同意見である。先進国である日本に相応しい事業はスケール志向ではなく、質的深化を追求した『発展』志向の事業モデルでなくてはならない。

私は、東京で日本を代表する大企業の経営者の方々と、お話をしていると「大変だ!大変だ!」という話にしかならないが、地方での講演会の後の懇親会で、地域の中堅企業の経営者の方々とお話すると、この難しい世の中を上手に立ち回って居られる方が少なくない。ご自身で直接関われる範囲内で、しっかりグローバルにビジネスを展開されている。やはり、世界の市場に日本企業が活躍できる機会は、まだまだあるのだ。

もちろん、苦戦されている中小企業の方々も多いわけだが、その苦労の程をいろいろ伺うと、これは政府が少々支援したところで、本当に、将来、生き残れるのだろうかと疑問に感じざるを得ない。つまり、しっかりした中堅企業は、政治がどうあろうと、世界の景気がどうだろうと、盤石な経営基盤を持って会社を運営されている。政治が悪いとか、為替がどうだとか、世界経済がどうだとか、所詮、経営手腕のなさを他人のせいにしているだけではないかとも思えなくない。

愚かな政治家も、円高も、欧州経済危機も、中国経済の減速も、何もかも、全て含めて、今の日本の経営者が置かれた環境条件と考えるべきだろう。妹尾先生は、日本は優秀な技術の使い道を間違えているというのである。その一つとして、TVを挙げた。もう、これから若い人達はTVを見ない。TVコンテンツも、TVでは見ないのだと言う。

私も中国の若者から同じ話を聞いた。私と中国に同行して頂いた中国人研究者は、日本でも中国でも度々TVに出ている超有名人である。私は、中国の大学で学生達に尋ねた。「この人知っているでしょう?CCTVに、よく出演しているでしょ?」と聞くと。「知らない」と学生は答える。「どうして?」とまた問い直すと。「CCTVは全く見ない。そもそも、今の学生はTVを見ない。皆、見るのはYouTubeだけだよ!」と答える。そうなのだ、TV受像機、そのものが将来の基幹産業にはなりえないのだ。

妹尾先生が仰る、7つの「ものづくり神話」というのが面白い。1)技術力優位=事業競争力の優位の神話。2)国内競争での勝利が海外輸出へと結びつくという神話。3)自前主義、抱え込み主義、摺合せ垂直統合型優位の神話。4)高品質優位の神話。5)製造業=モノづくりの神話。6)知財権大量取得優位の神話。7)国際標準降臨の神話。の7つである。

特に、数万件の特許を保有している日本のパナソニックやSONYやシャープが、たった700件の特許しか持っていないAppleに、どうして、こんなに大きな差をつけられたのか?と迫る。特許は、新興国に技術を開示して、開発の手助けをすることにしかならないと言うのである。液晶もDVDもブルーレイディスクも、日本は特許開示によって、10年以内にシェアを失った。今や、中国が特許の出願件数では世界一になったが、この考え方こそが、新興国モデルだという。特許は数だけ出せば良いと言うものではない。確かにそうかもしれない。私が、富士通に入社した時も、1年間、毎日IBMの特許を読むことが日課だった。もちろん教育のためである。特許を読むことが技術者にとって、一番良い勉強なのだ。

さあ、それじゃあ、「日本のものづくり」は、どうしたら良いのかである。妹尾先生は、「まず、全て自身で作ろうと思うな」と仰る。新興国で安く作れる部品はどんどん利用したらよい。「これからの商品は、部品が装置全体の品質を決めることにはならない」という。むしろ、品質は装置全体を制御するソフトウエアが握ることになる。ここに、モノづくりの本質があると言う。自動車という最終加工品の世界ではトヨタが世界一になった。しかし、自動車を制御するソフトウエアの世界ではBOSCHが世界の覇権を握った。メルセデスのベンツから、タタのナノまで、BOSCHのソフトで自動車は動く。将来、トヨタとBOSCHのどちらが強いのかは明らかだと妹尾先生は言う。

本日発売された週刊東洋経済に妹尾堅一郎先生が連載記事「新ビジネス発想塾」の中で、現在の小学生が大人になって就く仕事のうち、今後新しく生まれる職業は、どの位の割合か?について書かれている。米国での未来学者の予測によれば、これが何と65%だと言うのである。つまり、新たに出現する職種が3分の2ということは、これを裏返して言えば、今の職業の3分の2は消えるということだ。15年から20年後に、職業について、これだけ変革が行われるとすれば、企業の業態としても、今の事業形態が、そのまま続くわけがないと妹尾先生は仰るのである。ある業種は、もはや絶滅危惧業種だとすれば、それを官民こぞって救済するなど考えない方が良いというのである。

全く、そのとおり。先進国に相応しい、業種、業態があるはずだ。新興国と真っ向勝負で戦うことなど所詮意味がないし、国民全体が疲れるだけだ。そして、その先進国に相応しい業種、業態の鍵を握っているのは、地域発の元気な中堅・中小企業ではないかと私は信じている。東京や大阪に本社を持つ大企業は、もう一度、原点に戻って考え直した方が良い。世界の産業生態系が、もう、がらっと変わってしまっているのだから。「ウチは違うよ、ウチだけは大丈夫」は、もはや、これからは通用しない。