2012年10月 のアーカイブ

182  海外移転と空洞化

2012年10月31日 水曜日

昨日、経団連産業政策部会にて東大の新宅純二郎教授から「日本企業の海外生産と日本経済」という題で講演をして頂いた。先日読んだ松島大輔著「空洞化のウソ」を読んで感動したが、新宅先生は、その松島氏の論調を10年間に及ぶものづくり研究から支えている。松島氏は、東大経済学部を卒業後、経産省に入省し、ハーバード大に留学の後、インドに4年駐在、現在はタイ政府の経済政策顧問としてタイに在住している。霞が関でなく、現場からアジアに進出した日系企業を眺めているぶんだけ迫力がある。新宅先生も、日本やアジアのものづくり現場を10年間も回り歩いて出された研究成果だけに大変説得力がある。

松島氏も新宅先生も、日本企業が製造拠点を海外に移転することによって、日本での雇用が減ったり、日本からの輸出が減少したりすることには必ずしもならないのだと主張する。確かに、日本の産業全体を見れば、製造業の海外移転は進んでいる。円高や税制など5重苦、6重苦といわれる日本の産業立地条件の中で衰退していく企業も増えている。しかし、そうした衰退業種、衰退企業は、いずれ、そうなる運命ではなかったのか?と言われるのだ。こうした日本の状況の中で、しぶとく生き残っている企業、あるいは伸びている企業は、積極的に海外に生産をシフトし、海外市場を攻めている。

そうした成長企業を、個別に分析すると、日本国内の拠点もしっかり残っており、日本国内の雇用も減らしていない。むしろ増やしているところも少なくない。また、日本国内の製造分担を、より付加価値の高い部分に絞っているので、利益率も高まっていると言われるのだ。例えば、日本の自動車産業は1995年以降、円高の影響で海外生産を大幅に拡大し、2001年まで輸出の伸びは完全に止まった。しかし、輸出が減少することはなかった。さらに、米国現地生産によって、米国市場でのシェアを拡大し、プレゼンスを高めた結果、日本で製造する高級車の輸出が拡大し、2008年のリーマンショック直前には、2001年の輸出額の2倍まで成長することができた。

他の産業においても、海外への製造シフトにより、製品全体のコストの中での日本生産分の割合は減少するが、トータルコストが減るので売り上げが拡大し、結果的に、日本生産の絶対量が増大するという正のフィードバックループが生じている。さらに、各国の産業政策により現地調達比率を拡大させられているが、よく中身を見てみると一次調達品の現地化比率は70%となっていても、二次調達や三次調達まで含めて見てみると、トータルでは日本からの輸入総額は70%にも及ぶと言う例もある。

2000年代、日本からの輸出先は欧米から中国、台湾、韓国、香港といった東アジアへシフトした。そして、その勢いはさらに増している。そして、その中身は、85%が産業材(資本財50%、原料35%)となっている。つまり、日本の輸出品目は、もはや自動車や家電も含めて完成品ではなくなった。付加価値の低いアセンブリを海外に出しても、付加価値の高い設備用品や基幹部品は、しっかり日本に残している。とかく、マスメディアは完成品に目を向けがちなので、「パナソニックやSONY、シャープがTVで、サムソン、LGに負け、日本企業はもうだめだ」と煽動的に書いているが、多くの日本企業は、そんなことは既に経営戦略にとっくに織り込み済みである。韓国の輸出が増えれば増えるほどに、対日貿易赤字が増えていくというカラクリは、そうした状況にある。

産業材輸出品として、どんなものが、どこへ輸出されているかと言えば、IC関連では、ウエハー、エッチング機、ステッパーは台湾、韓国向けが60%から70%、液晶では偏光板、ガラスが韓国、台湾、中国向けで80%。鉄鋼でも、熱間圧延コイルでは、韓国、中国向けで70%と言った具合である。例えば、ボールベアリングでは中国製の鉄鋼製品を使うと加工が大変で、かえってコストが高くなるということが起きている。今後、中国が、韓国や台湾に追随し、高度な産業に向かう時に、こうした日本製造の精密基幹部品を日本から輸入しないでサプライチェーン全体を賄うことは極めて難しいと思われる。

それは、それで、大変好ましいことなのだが、新宅先生は、なぜ、日本でしか出来ないのかが未だ良くわかっていないことが、逆に、非常に心配であると言う。製造業において、デジタル化がどんどん進行する中で、部品点数は少なくなり、集積度も増した。その結果、アセンブリは極めて簡単となり、どこでも出来るようになったが、やはり、精密基幹部品の製造はアナログに頼っているところが多い。そうした暗黙知の世界が、日本に未だ残っているとして、さて、この先、いつまで、日本に残せるか?である。さらに、困ったことには、そうしたアナログ技術を保持しているところには中小企業が多い。後継者の育成も、うまく出来ていない。政府の産業政策も、そうした微細な点に注目しているとは思えない。

新宅先生は、結論として、今後の、日本での製造業強化は、徹底的に生産財(素材、中核部品、工作機械、検査設備)に集中すべきであると言う。そして、技術力を持った中小企業を支援し、彼らが海外進出することを支援すべきだと主張する。消費財産業としては、日本が先進国であるシルバー市場、医療機器や介護ビジネスに力点を置くべきだと仰る。良い例が、ユニチャームの大人向け紙おむつで、日本でダントツで、これからアジア展開を目指しているが、たぶん、世界のヒット商品になるだろうと言う。

講演が終わった後、新宅先生と部会メンバーとの質疑応答のなかで、大変面白いやりとりがあったので、ここでご紹介したい。部会メンバー「日本企業は現地拠点の責任者を、なかなか現地人に任せられないという欠点がありますが、どうしたら良いのでしょうか?」という質問である。新宅先生の答えは、「同じテーマで米国でも、欧州でも議論があります。アメリカでは、現地に派遣したアメリカ人幹部が現地に馴染めなくてアメリカに帰国するケースが多く悩んでいる。それで、外からは、経営を現地人に任せているように見えるが、実体は本国からコントロールしているケースが多い。逆に、欧州は、殆ど、欧州の本社から現地に責任者を派遣していて、かなりうまくいっている。殆どの欧州企業は、現地人に経営を任せてはいない。欧州企業は現地に責任者を派遣するときの選考基準をビジネス遂行能力よりも、現地に対する適合能力にしている。だから、当然、インドに派遣するに適した人材と、中国に派遣するに適した人材は本質的に違う。」だった。初めて聞いたはなしだったが、極めて興味深く、そして面白い。

181 ブラジルの現在と未来

2012年10月26日 金曜日

昨日、経団連会館で行われたシンポジウム「ブラジルの現在と未来」を聴講した。マルコス・ガウヴォン駐日ブラジル大使とJETROの二宮中南米課長が講師で、ブラジルの状況を丁寧に解説して下さった。

さて、私は、今年6月Rio+20に参加するために、初めてブラジルを訪れた。訪れた場所がブラジル経済の中心地であるサンパウロではなく、どちらかと言えば観光地であるリオデジャネイロだったせいもあるだろうが、今を時めくBRICsの中でも、人口(2億人)と資源(エネルギー、食糧、水)においてダントツの優位性をもつ国の勢いというものが感じられなかった。むしろ、ブラジルの町並みは、中国やインドで見られるアジア特有の喧騒さよりも、ヨーロッパの静けさを漂わせていた。

昨年、日本の銀行の窓口で、競ってレアル建ての債券を買い求めていた人達は、一体どうなったのだろうか? 2011年8月の、12.5%の金利で1.5レアル/USドルは、今は、7.25%金利で2.0レアル/USドルに下がっている。リーマンショックで一度は打ちのめされたブラジルやインド、中国の経済は、その旺盛な国内需要に喚起され、見事に甦ったと思ったら、欧州経済危機を契機に、また大きな下降局面に悩んでいる。しかし、昨日の話を聞く限り、ブラジル経済の停滞は、中国のそれとは、どうも全く背景も様相も違うようである。

1999年から2003年まで続いた第二期カルドーソ政権は、アジアに端を発する世界経済危機への対応に追われたが、その成果を出すには至らなかった。その後、2003年にブラジル史上初めて誕生したルーラ左派政権は、政策的にはカルドーソ政権の方針を継続し、その開花を結実させ、見事に収穫することが出来た。左派でありながら、社会保障政策は大きく変えたが、前政権の経済政策は全く変えなかったというのが見事な手腕である。

その結果、8年間続いたルーラ政権時代は、マクロ経済の安定化を実現し、ハイパーインフレからの脱却、中間層の拡大と消費市場の確立に成功した。しかし、リーマンショック後の世界同時不況は、当然、ブラジル経済にも大きな影響を及ぼし、年率5%以上を続けていた経済成長が、2009年には突然マイナス成長となった。ルーラ第二期政権は終盤を迎えていたが、この危機に見事に対処し、翌2010年には年率で7.5%成長という驚異的な回復を見せて、子飼いであるルセフ政権に見事に引き継いだ。

この結果が、昨年、2011年に起きたブラジルブームの引き金である。しかし、今から考えると、この経済刺激策が2011年後半からのブラジル経済の失速に繋がっている。景気刺激策の反動による経済の失速と言う点では、丁度、中国の4兆元の景気刺激策と、外観的には全く同じ様相を呈しているが、中身をよく見ると、やはり大きく違う。それでも、過度のダイエットは必ずリバウンドを招くという教訓はブラジルや中国の経済政策で繰り返されている。

さて、中国とブラジルの経済の違いを見ていくと、中国はGDPの7割近くがインフラ投資・設備投資及び輸出によって支えられている。一方、ブラジルのGDPは6割が個人消費支出依存でありアメリカ型経済となっている。2009年にマイナス成長した時でさえ、個人消費支出の伸びは3.9%もあった。逆に、インフラ投資や製造業、牧畜業は二桁のマイナス成長となっていた。ここで、ルーラ第二期政権が行った景気刺激策は、個人消費の伸びを牽引する消費税減税などの措置であった。

この結果、2010年の国内景気は絶好調、レアル高で輸入価格も下落し、個人消費はさらに伸び、伸長率は7%にも達した。その個人消費も自動車などの耐久消費財に偏ったため、いわば需要の先取りをしてしまった。2011年後半からの景気減速は、こうした耐久消費財の大幅な減速によるものだ。同じく、日本でも、エコカー減税、家電エコポイントで一時的に耐久消費財の需要を喚起したが、結局は、単なる需要の先取りにしかならなかった。消費インセンティブによる景気刺激策は結局、後の反動が怖い。現在のブラジルの経済減速の一時的な要因となっている。

しかし、それでも消費経済に支えられた経済は健全である。景気減速にも関わらず、ブラジルの名目賃金は上昇の一途をたどり、失業率も順調に下がっている。だから、ブラジルでは国民の間で景気減速に対する表立った不満は出ていない。そこが、インフラ投資と設備投資への過剰な依存をしている中国経済との大きな違いでもある。国の経済をインフラ投資と設備投資で支えた中国は、地方政府の莫大な借金と、国有企業の過剰設備、及び生産在庫と、そこへ貸し出した銀行の巨額の不良債権によって身動きが取れなくなっている。今は、中国政府が発表をやめた貧富の格差を表すジニ係数も、もはや0.5を超えたとも言われており、国民の不満は爆発寸前である。

一方、逆にブラジルは、ハイパーインフレ時代の名残で、これまでインフラ投資は、殆ど行われてこなかった。未舗装率は国道で20%、州道で50%、市道では、なんと85%にも及ぶ。ブラジル政府は、今後10年間で道路や鉄道で5兆円規模のインフラ投資を計画している。しかしながら、これまでブラジル投資の主人公であった欧州が金融危機で、欧州からブラジルへの資金投入は必ずしもうまくいっていない。その欧州の代わりに、今、ブラジル投資の主人公に躍り出たのは中国である。石油ではシノペックが、電力配電網では国家電網が大型投資を開始し、ニオブなど希少資源の買収にも積極的である。当然、インフラ建設にも中国が得意な分野で資金供給と合わせて一気に参入してくるだろう。

結論から言えば、新興国(BRIC)の経済減速のなかで、ブラジルだけは、少し様相が違う。今後、世界経済の牽引役になる可能性がBRICの中で最も高いということだ。人件費も新興国の中では圧倒的に高いが、だからこそ逆に消費力がある。猫の目のように変わる税制は、確かにやる気を削ぐ面もあるが、中長期的にはBRICの中では最も有望なビジネス対象国である。そして、今後のブラジル市場での日本の競合相手は、中国、韓国であり、価格競争で勝ち抜くことは、もはや極めて困難だと思った方が良い。ブラジルが、日本に求めていることを的確に読み、それに応えていく必要があるだろう。

今、ブラジルで最も成長している産業は教育、特に英語塾だと言う。この国は、いよいよ外に向けて本格的な活動を始動する。そうなった時に、人口と資源と言う底力がある分だけ楽しみな展開がありそうだ。我々は、もっとブラジル市場に目を向ける必要があるだろう。

180 米大統領選挙

2012年10月23日 火曜日

いよいよ、来月11月6日に米国大統領選挙が行われる。オバマの再選か、それともロムニーが破るか、両者のTVリベートは白熱を帯びてきており、事前の予想を裏切り接戦の様相を呈してきた。アメリカ国民が、大統領選挙で、最も気にするのは外交問題でも社会保障問題でもなく、やはり経済問題である。私が毎週取っているBusinessWeek 10月15日号では、この大統領選挙特集として、オバマ大統領が正式に就任した2009年1月から今日までアメリカがどう変化したかを議論ではなく写真と数値で表している。こうした纏め方は、極めて客観的で判り易い。

結論から言えば、第二次世界大戦後アメリカ経済は誰が大統領になろうと全く関係なく一定の成長を遂げてきた。これを裏返せば、アメリカビジネスの経営者達は、アメリカの政治には全く期待しないで、あらゆる世界の変化をポジティブに利用してきたと言えるかも知れない。丁度、政府の失政によって矛盾が出れば、それを巧みに突いてヘッジファンドがしこたま儲けるように。但し、さすがに2008年に起きたリーマンショックの落ち込み分マイナス8.5%分だけは、未だにカバーしきれていないが、その後のアメリカ経済は順調な回復を見せている。このリーマンショックの要因もクリントン大統領時代からのグリーンスパンFRB議長がもたらした経済運営の失策から起きているので、オバマ大統領の責任とは言い難い。

実際、2009年1月からの、この4年間で、アメリカの企業は$1.7T(136兆円)ものキャッシュを貯めこんだ。そのTOPはアップルの$117B(9.4兆円)である。株価もS&P500-stock indexで見るとオバマ大統領就任直後の2009年3月における676.53から2012年9月現在では1440.67と、ほぼ倍になっている。つまり、ロムニー共和党大統領候補が言うのとは異なり、オバマ大統領は結果的にアメリカの経済運営で大きな失敗はしていない。しかし、一方、926の企業に投入した総額$604B(48兆円)の救済金は、ファニーメイ、フレデリーマック、AIG,GM、GMAC,クライスラーなどから、未だに$174B(14兆円)が未返済金として残っている。

マクロ経済的にみれば、オバマ大統領は米国経済運営において大きな失敗はしていないということになる。ところが、国民生活の視点からみると、この4年間は苦難の歴史であった。アメリカの平均家庭の収入は2009年1月の$50,590から2012年8月の$50,678と少しも増えていない。しかし、この4年間でアメリカの平均家計消費は8.2%減った。アメリカ経済の大半が消費によって支えられているので、この落ち込みが米国国内経済に影響を与えないわけがない。アメリカ国民は収入が増えない中、将来に不安を覚えて貯蓄を増やしたのである。

そして、インフレは着実に進行していた。特に食料品は野菜・穀物の5%値上がりから肉・乳製品の10%値上がりは、エンゲル係数の高い貧困層の生活を直撃する。貧困家庭では、もはや一日3食をファーストフードで取るのが当たり前となっているので、アメリカの生活に困窮している人々が住む地域では生鮮食料品を売る店が全くなくなったという現象も起きている。インフレは食料品だけにとどまらず、アパレルや家庭雑貨まで平均して5%から10%の値上がりとなっている。日本では平均家庭収入が1999年の655万円から2009年までの10年間で548万円と、ほぼ100万円減ったものの、デフレで物価も同時に下がっている。さて、日本とアメリカのと、どちらが良いかは難しい判断だ。

さて、こうしたインフレの中、大幅に値下がりしたものがある。それは不動産価格である。BusinessWeekの記事は、ラスベガス郊外の瀟洒な住宅街を空から撮った写真を掲載し、その1軒1軒にコメントをつけている。リーマンショック前に25万ドル前後で販売されていたプール付きの立派な住宅の殆どが、今は買い手がローンを支払えずに、抵当権流れで8万ドル前後で販売されているが、それでも買い手がつかないでいる。幾ら安いからと言って、殆どが空き家になったゴーストタウンに住みたいと思う人は居ないのだろう。

2009年ガロンあたり$1.27だった灯油価格も、今は、$3.80と高騰しているが、消費者のエネルギーに対する支払は2%減少し、米国でのトータルエネルギー消費量は7%も減っている。節約知らずだった米国民が、これだけ節約するのは、よほど生活が苦しいからであろう。2010年以降、AppleのiPadはアメリカだけで3,500万台以上売れた。ジョブスが生み出した革命的なイノベーションともてはやされているが、実は、消費者はTabletが好きだからでも何でもなくてiPadの$500という価格が、パソコンの平均価格$700より安かっただけだと、このBusinessWeekは述べている。もし、本当にそうだとすると、このたびグーグルが出したNexus7は、$198で、ほぼiPadと同様に使える(私が使用した感想)ので、今後Appleは苦境に陥ることになるかも知れない。

さらに、この4年間で最も売り上げを伸ばしたのはコンドームだと言う。2008年から2011年の3年間で23%増と、これだけ飛躍的に伸びた商品は他に例を見ない。生活難の家庭が子供を安易に産むことに慎重になっている証拠ではないかと評論家は言う。確かに、これまで、一般的に出生率は収入の少ない家庭ほど高かった。同じように、この4年間で20%以上売り上げを伸ばしているものがある。それは銃だ。米国最大の銃メーカーであるS&Wは2009年以降、23%も売り上げを伸ばし、$412Mと過去最高の売り上げとなった。それでも、この4年間に銃による殺人事件は10%減っているので、購入者は次第に悪化する治安に対応しようと防御のために銃を買い求める中間層、富裕層ではないかと言われている。

さて、失業率はオバマ大統領が就任した2009年1月の8.3%から、一時2009年10月には10%まで上昇した。総額$700B にも及ぶ米国史上最大の景気刺激策は、直接大きな改善には結びつかないまま、今日現在は、8.9%に高止まりしている。今後10年間で$150Bのお金をかけて、トータル500万人の雇用を生み出すと、華々しくぶち上げられたグリーン・エネルギープロジェクトも、4年たった今日現在、225,000人の新たな雇用しか生み出せなかった。あと6年間で675,000人位は行くのかも知れないが、残りの4、325,000人の雇用は計画倒れである。その計画の中には、$2.8BをかけたR&Dプロジェクトで3,231人の雇用しか生み出さなかったし、$296Mもの費用をかけたエネルギー効率家電インセンティブプログラムでは、たった2人の雇用しか生み出せなかった。

こうして、このBusinessWeekの記事を読んだ結果、わかったことは、アメリカの経済は政治には影響されずに、独自の論理で動いている。そして、多くのアメリカ企業は、低迷するアメリカ市場とは無関係にグローバル市場を相手に、グローバル拠点の人材を使って活動しており、業績はすこぶる好調であるが、それがアメリカ国内の雇用を生むことと、アメリカ国民の所得を豊かにすることにはなっていないことが判る。そして、もし、こうした好業績のアメリカ企業に対してアメリカ政府が課税強化でもしようものなら、アメリカ企業は、その本社機能をアメリカから外へ出してしまうであろう。グローバル化の進展とは、国内政治が制御出来ることを極めて限定する。つまりは、今回の大統領選挙が、どちらに転ぼうとも、アメリカ国民の苦悩が当分続くことは間違いなさそうだ。