2012年7月 のアーカイブ

153  先行逃げ切り

2012年7月10日 火曜日

昨日、NHKのクローズアップ現代で、今年のロンドン五輪代表に選ばれた 藤原新選手が取り上げられていた。不振の日本のマラソン界にあって久しぶ りの期待を抱かせる選手である。私は、今年の東京マラソンで初めて藤原選 手を見たが、その一途な走りっぷりに感動したとともに、これまで所属して いた実業団を飛び出して一人で挑戦していることを知り一層感銘を受けた。 つまり退路を断ちきってまでして、自身の主張を貫くべくオリンピックに向 けて進んでいる、その姿勢にである。

今年の正月も、私の会社も出場する元旦の実業団駅伝を見た。いつもは、い い加減に見ているのに、今年はなぜか第一区から真剣に見てしまった。毎年、 第一区は、あのようにスローペースで駆け引きだけのレースをしていたのだ ろうか? とにかく、走者全員が塊となって第二区に襷を渡す直前数百メー トルまで、誰も抜け出そうとしないのである。それも酷く遅いペースで走っ ているのにだ。あんまり腹が立ったので、そこでTVを消してしまった。こ れは明らかにスポーツマンの試合ではない。「こんなことをやっているから、 日本の男子長距離界は世界から脱落したのだ」と一人で息巻いていた。

そして、今年の4月29日、普段はさっぱり見ることのない競馬をTV観戦した。 丁度良いことに天皇賞レースが始まるところだった。私は、競馬などやった ことがない。父親の仕事が競輪・競馬事業だったことも関係していたかも知 れない。私の父親は賭け事が大嫌いで、それが見込まれて、永年市役所の事 業課長をやっていた。市役所を退職後は、日本自転車振興会に「天上り」し、 あの世界選手権10連覇を成し遂げた中野浩一選手と仲良くなって、世界選手 権帰りの中野選手から欧州土産など頂いたりしているのだ。私は、その息子 なのだが競輪・競馬には最初から全く興味がない。

だから、天皇賞を息子と一緒にTV観戦していても予備知識が全くないので 、どの馬が勝つなど知るわけがない。ただ、解説者はオルフェーブルが圧倒 的な人気でオッズも130円、今日のレースはオルフェーブルの勝ちは決まっ ていて、どのようにして勝つかが興味の焦点であるという。そんなもんかと 思って見ていると、肝心のオルフェーブルはスタート直後からずっと後ろか ら3番目に居る。残り1000メートルの地点で、18頭中14番人気のビートブラッ クが猛然とスピードを上げて、2位以下を数馬身離してきた。

一緒に見ていた息子に、「これオルフェーブルは勝てないよ」と言うと息子 は、「いや、競馬は、これからだ」と言う。私は、アメリカに3年間駐在中、 単身赴任で暇だったせいもあるが、サンフランシスコ競馬をTVでよく見て いた。もちろん、馬の名前も知らないが、競争馬が走る様子は美しい。見て いるだけで気持ちが良い。そしてアメリカの競馬は日本とは流儀が全く違う。 殆どのレースが「先行逃げ切り」で「駆け引きなし」の「スピードレース」 なのだ。だから、アメリカ競馬は素人が見ていてもわかりやすい。

さて、今年の天皇賞は大番狂わせでダントツ人気のオルフェーブルが11着。 18頭中14番人気だったビートブラックが2位に4馬身差をつけて圧倒的な 勝利。まさに、今年の天皇賞はアメリカ競馬だった。振り返ってみると、 最近のマラソンはまさに「駆け引きなし」の「スピードレース」である。 優勝するランナー(大抵外国人)は、最初からペースメーカーと共に先頭 を走り、後ろも見ずに、どんどん先行逃げ切りスタイルで最後まで後続にス キを与えない。もう、現代の長距離走に「駆け引き」は通用しないのだ。

藤原選手が所属していた実業団を退団したのも、その練習方針だったとい う。最初から最後までペースを崩さず、スピードを追い求める。つまり、 もはや世界の長距離レースは短距離レースの延長線上になった。そうでな ければ、もはや世界では勝てない。藤原選手は、そう思った。そして、 たった一人で、その方針で練習を積み、今年の東京マラソンで素晴らしい 結果を出した。あの市民ランナーとして有名な、同じく一人で練習を積 んでいる川内 優輝選手も藤原選手と全く同じ方針だと言う。

さて、ここで話は大きく変わる。「先行逃げ切り」って競馬やマラソンだけだろ うか? まさに、ビジネスの世界が、そうではないか? 競合他社が、 何をやっているか?きょろきょろ周囲を見回している内に、あっと気が付 くと、先頭から、もうトンデモナイ距離を離されている。もはや、とても 追い付かない。ビジネスの世界が、そうなっていないだろうか? 永い経 験を積んだ先輩たちの教訓を、そのまま聞いて言うとおりにすることはない。 世界は、大きく変化しているのだから、どうするべきかは、今、世界を直 視し、世界と競争している現役が一番良く知っている。スポーツの世界も ビジネスの世界も全く同じである。

152 復興の取組と課題

2012年7月4日 水曜日

去る7月2日経団連の産業復興部会において、掲題の内容で、末松副大臣から ご説明を頂いた。平野大臣を始め、復興庁の方々は、皆、本当に頑張ってお られると思う。しかし、事態は、決して順調に推移していない。これを批判 するのは簡単で、誰にでも出来る。そして、批判したところで、何も進展に 寄与はしない。

原発問題にしても、永年、日本の原子力行政に密接に携わってきた自民党が、 たまたま、今回の大震災に遭遇した民主党を批判する立場にはない。むしろ、 この国難に、自民党は、これまでの知見を活かして、民主党政権に対して、 助言と指導を行うべきであった。国民は、こうした事態を、しっかり見ている。 自民党の長期政権に嫌気がさして、国民は期待を持って民主党に政権を渡し たはずなのに、当の民主党には、さっぱり統治能力がなく、一方、経験豊かな はずの自民党は、民主党の不手際を、些細なことまであげつらう。

私は、別に民主党政権や霞が関官僚の味方をするわけではないが、「当事者 以外は、全員評論家」という日本のメディアへの登場人物達には、落胆せざ るを得ない。そして、本当に心ある人達や、組織は、政治や役人に対して、 批判や評論をするよりも、実際に被災地に行き、自分たちで出来ることを着 実にやっている。私の会社も、IT業界の一員として、本業であるITで何が貢 献出来るか?という命題を自問自答しながら、災害発生直後から、やれるこ とをやってきた。

後で予算が付いたものも多少はあるが、現在の所は、その活動の殆どはボラ ンティアである。それでも、会社としても、個人的にボランティアとして 参加した個人も、この大惨事の中で多くのことを学ぶことが出来た。いざと 言う時には、ITという仕組みの中で、何が重要で、何が本当に役に立つのか? ということを。

そして、全てのインフラが破壊された中では、これまで改革を拒んできた、 既得権すらも同時に破壊された。このことは、禍転じて福となす千載一遇の チャンスである。本来あるべき医療サービスの在り方、個人情報の利用方法 など、究極の限界状態に追い込まれなければ分からないことが沢山わかった。

三陸沿岸の多くの個人診療所が津波で流され、高齢者が長期的に治療を受け ている投薬情報も同じく流された。避難所の高齢者に、「あなたは、これま でどんな薬を飲んでいましたか?」と聞いても答えられるわけがない。しかし、 この被災者への投薬情報は健康保険の支払機関には存在したのだ。存在したのに 、個人情報保護という名目で被災者支援に使われることはなかった。個人情 報保護と言う法律は、本来助かるべき被災者の命も奪う可能性を持っている。

そして、8500億円と言う巨額の予算未執行が、今、問題となっている。その理由の 第一は被災地市町村における圧倒的な人材不足である。全国の市町村から、 相当な人数の応援をもらっても、やはり地元のことは地元に永年暮らした人 でなければわからない。そして、第二の理由は、地元工事単価の急騰で、 災害復旧工事の入札が成立しないことである。被災地から少し離れた地域 では、人手も余っているし、工事単価の急騰も起きていない。調達は被災 地優先という論理も理解できるが、復興を時間と費用面で 最適化するには、どういう方策が良いかもっと議論が必要である。

メディアは、政権や官僚の批判をするよりも、現地で起きている矛盾や、 これまでの制度や考え方が復興の妨げになっていることを、もっと報道す べきである。私達は県や市町村と一緒に多くの個人データベースを構築す ることをお手伝いしてきた。子供やお年寄りの心のケアの問題は、被災地を外 から俯瞰しただけでは見えない大きな問題である。また、殆ど壊れかけた 自宅で避難生活を送っている人々は、行政も実体を把握出来ていなかった が、今回の調査でかなり深刻なことも分かってきた。

街のインフラ復興という包括的な問題もさることながら、被災者個人の 個々のケースに応じた救済方法を個別に行うには、こうした個人情報を 多くのステークホルダーと共有しなくてはならない。復興庁は、こうした 事情も把握しており、復興特区を、将来あるべき社会制度を設計する登竜 門にしたいと考えている。

私達の会社は、この被災地救済のために、数々のクラウドシステムを構築 した。この点についても、復興庁から多くのヒアリングを受けている。 このシステムは、最初に誰が発案したのか? 現地の要望は、どのように 吸い上げたのか? そのシステム構築には、どのくらいの工数と時間がかかった のか?など、かなり微細に質問を受けている。復興庁は、私たちが構築し たクラウドシステムを、さらに被災地全体に横展開したいと考えている。

政治家や官僚をいくら批判しても、事態は何も改善されない。彼らは、 どうしたら、もっと良い方法があるのかを常に模索しているのだ。だから、 我々は、どんどん提案すればよい。彼らは、自分たちの裁量で出来るこ となら喜んで我々の提案を採用してくれる。そう、誰だって、国ために 、国民のために役に立ちたいと思っている。しかし、未曽有の大災害に 直面して、どうしたら良いか分からないで右往左往しているのが実態だ。

そういうことは、如何に優秀な大学を出ても、どんなに深く法律を勉強 してもわかることではない。だから、我々がどんどん教えてあげれば良い。 それで、社会は、どんどんよくなるはずだ。今回も私は、末松副大臣に 対して個人情報保護に関する被災特区への特別適用をお願いしたが、そ の検討に対しての支援を快諾して頂いた。政治家も官僚も、皆、話せば わかる人達である。