ブラジルは、3大資源であるエネルギー、水、食糧のいずれもについて、将来長期に渡って自給できる能力を持つため、BRICsの中で最も高い持続性を持った国と言える。一方で、この4カ国の中では、最も発展途上にある途上国とも言えるかもしれない。なにしろ、私が一番驚いたのは、世界中の国々の中で、中国を除いて、これほど英語が通じない国は他にないだろう。ホテルのフロント以外、タクシーやレストラン、ショッピングモールでも、全くと言って良いほど英語が通じない。もちろん、20年ぶりに開催された地球サミット、Rio+20会場でも同様である。
リオデジャネイロ(広域)は、サンパウロと並んで、人口2000万人以上を抱えるブラジルきっての大都市である。しかも、風光明媚な観光資源を沢山保有する世界的な観光都市でもある。それなのに、どうして、これほど英語が全く通じないのだろうかと落胆する。最近、日本ではミャンマー詣でが盛んで、各日本企業とも競ってミャンマーへの投資を計画していると聞く。その有力な根拠としてミャンマー国民の高い英語力に魅力を感じるからだという。既に、中国の人件費高騰に悩まされ、ベトナムやインドネシアでも賃上げのストライキで悩まされている日本企業はミャンマーへの移転を考える時に、従業員に英語で教育出来るというメリットは計り知れないからだ。
一般的に大国と言われる国の国民は英語教育に無関心だと言われる。中国が、その典型であり、経済大国と言われた日本も同様である。その意味では、ブラジルは疑いもなく「大国」であり、これまで何も英語教育に熱心になる必要も感じなかったのかも知れない。しかし、ブラジル国民の英語力の低さに関しては、必ずしも大国意識だけではないような気がするのだ。
近年、ブラジルが世界から注目されるほどの経済成長を遂げることができたのは、豊かな食糧生産や鉱物資源だけではない。航空機製造技術や深海油田採掘技術といったハイテク分野でもブラジルは世界の注目を浴びるようになったからである。しかし、そのハイテク分野に従事する高級エンジニアの殆どは、ここ10数年前より欧州からブラジルに移住したドイツ語圏住民だと言われている。今回も、首都ブラジリアがあるブラジルの北部では、ドイツ語とイタリア語が多く話されているという噂を耳にした。実際、そうなのだろう。近年のブラジルの高度経済成長を支えたのは、ブラジル建国以来、長らく住んできたポルトガル語系市民ではなく、実はドイツ語系やイタリア語系市民だったのだ。
先日、読んだ「グローバルに活躍する隠れたチャンピオン企業」にも、不思議なことが書かれていた。世界中に輸出で活躍する隠れたチャンピオン企業の殆どはドイツ語系で残りがイタリア系で、特に新興国市場で目覚ましい活躍しているが、ブラジルだけは例外で、彼らはブラジル市場には全く注目していない。しかし、今、ブラジル国内で最も活躍している中堅企業は、実はドイツ系企業であると書いてあった。これは一体、何を意味するか?である。
実は、ブラジルは長い間、ハイパーインフレーションで苦しんでいて、工業製品の輸入関税を高くし、国内に投資した外国籍企業が獲得した利益の国外への持ち出しも禁止してきたのだ。だから、グローバルに活躍するドイツ企業やイタリア企業は輸出先としてのブラジル市場は断念する代わりに、ブラジルに根付いてブラジルに再投資するブラジル企業として成長する道を選んだ。しかし、その従業員としてブラジルに長く住むポルトガル語系市民を選ばず、故郷から移民を希望するハイテク人材を従業員採用として優先していったのであろう。つまり、ポルトガル語系市民はブラジルの成長分野からおいていかれたのである。
リオデジャネイロやサンパウロといったブラジル南部の旧来の都市で、国民の英語力が低いと言うのは、単に英語力だけに留まらないのかも知れない。資源大国ブラジルで、今、最も必要とされているのは、きっと人材投資(高度人材育成)なのだろう。人材育成の分野で日本がブラジルに対して果たせる役割は決して小さくないはずだ。