2012年6月 のアーカイブ

148 ブラジル旅行記 (その2)

2012年6月25日 月曜日

ブラジルは、3大資源であるエネルギー、水、食糧のいずれもについて、将来長期に渡って自給できる能力を持つため、BRICsの中で最も高い持続性を持った国と言える。一方で、この4カ国の中では、最も発展途上にある途上国とも言えるかもしれない。なにしろ、私が一番驚いたのは、世界中の国々の中で、中国を除いて、これほど英語が通じない国は他にないだろう。ホテルのフロント以外、タクシーやレストラン、ショッピングモールでも、全くと言って良いほど英語が通じない。もちろん、20年ぶりに開催された地球サミット、Rio+20会場でも同様である。

リオデジャネイロ(広域)は、サンパウロと並んで、人口2000万人以上を抱えるブラジルきっての大都市である。しかも、風光明媚な観光資源を沢山保有する世界的な観光都市でもある。それなのに、どうして、これほど英語が全く通じないのだろうかと落胆する。最近、日本ではミャンマー詣でが盛んで、各日本企業とも競ってミャンマーへの投資を計画していると聞く。その有力な根拠としてミャンマー国民の高い英語力に魅力を感じるからだという。既に、中国の人件費高騰に悩まされ、ベトナムやインドネシアでも賃上げのストライキで悩まされている日本企業はミャンマーへの移転を考える時に、従業員に英語で教育出来るというメリットは計り知れないからだ。

一般的に大国と言われる国の国民は英語教育に無関心だと言われる。中国が、その典型であり、経済大国と言われた日本も同様である。その意味では、ブラジルは疑いもなく「大国」であり、これまで何も英語教育に熱心になる必要も感じなかったのかも知れない。しかし、ブラジル国民の英語力の低さに関しては、必ずしも大国意識だけではないような気がするのだ。

近年、ブラジルが世界から注目されるほどの経済成長を遂げることができたのは、豊かな食糧生産や鉱物資源だけではない。航空機製造技術や深海油田採掘技術といったハイテク分野でもブラジルは世界の注目を浴びるようになったからである。しかし、そのハイテク分野に従事する高級エンジニアの殆どは、ここ10数年前より欧州からブラジルに移住したドイツ語圏住民だと言われている。今回も、首都ブラジリアがあるブラジルの北部では、ドイツ語とイタリア語が多く話されているという噂を耳にした。実際、そうなのだろう。近年のブラジルの高度経済成長を支えたのは、ブラジル建国以来、長らく住んできたポルトガル語系市民ではなく、実はドイツ語系やイタリア語系市民だったのだ。

先日、読んだ「グローバルに活躍する隠れたチャンピオン企業」にも、不思議なことが書かれていた。世界中に輸出で活躍する隠れたチャンピオン企業の殆どはドイツ語系で残りがイタリア系で、特に新興国市場で目覚ましい活躍しているが、ブラジルだけは例外で、彼らはブラジル市場には全く注目していない。しかし、今、ブラジル国内で最も活躍している中堅企業は、実はドイツ系企業であると書いてあった。これは一体、何を意味するか?である。

実は、ブラジルは長い間、ハイパーインフレーションで苦しんでいて、工業製品の輸入関税を高くし、国内に投資した外国籍企業が獲得した利益の国外への持ち出しも禁止してきたのだ。だから、グローバルに活躍するドイツ企業やイタリア企業は輸出先としてのブラジル市場は断念する代わりに、ブラジルに根付いてブラジルに再投資するブラジル企業として成長する道を選んだ。しかし、その従業員としてブラジルに長く住むポルトガル語系市民を選ばず、故郷から移民を希望するハイテク人材を従業員採用として優先していったのであろう。つまり、ポルトガル語系市民はブラジルの成長分野からおいていかれたのである。

リオデジャネイロやサンパウロといったブラジル南部の旧来の都市で、国民の英語力が低いと言うのは、単に英語力だけに留まらないのかも知れない。資源大国ブラジルで、今、最も必要とされているのは、きっと人材投資(高度人材育成)なのだろう。人材育成の分野で日本がブラジルに対して果たせる役割は決して小さくないはずだ。

147 ブラジル旅行記 (その1)

2012年6月24日 日曜日

初めてブラジルを訪れるというのに、知ったかぶりをして何を言うかと叱られそうだが、私自身、初めて訪れて知った事がたくさんあるので、やはり書く意味はあるに違いない。やはり、ブラジルは遠い国。これからはBRICsだと、マスコミに踊らされてブラジルの通貨レアルに投資して大損をした方も少なくはないはずだ。

今回、同じ会社から何人か、同じリオデジャネイロで開催されるRio+20に行ったのだが、他の皆はアメリカ経由で、ドバイ経由は私だけだった。私は、以前、総務副大臣に同行し、カタール、UAEを訪問する際に、ドバイを利用する機会を得て、ブラジルに行くならドバイ経由だと確信していたので、今回も躊躇なくドバイ経由にした。

大体、NY経由では成田からリオまでトータル45時間かかるが、ドバイ経由なら28時間で行く。飛行時間もさることながら、乗換時間が全然違う。今や、アメリカは9.11NY同時多発テロ以来、乗換えをするだけでも一旦入国審査を受けて再出国するよう規制を変えたからだ。一方、ドバイは手荷物検査を受けるだけで到着ラウンジから直接出発ラウンジに行ける。そして、お手持ちの地球儀で東京からリオデジャネイロまで紐で辿って見られたら良い。紐の途中にドバイがあることがわかる。つまり、飛行ルートに全く無駄がないのだ。

私が、初めてドバイに行った時には、エミレーツ航空は関西国際空港と中部国際空港からしかなかった。特に、中部国際空港からは、名古屋地区に住んでおられる多くの日系ブラジル人の方々がドバイ経由でブラジルに帰国されていた。これは、単に近いというわけだけではない、もう一つ別な理由があった。日本とブラジルも相互にビザが必要だが、ブラジルとアメリカ間も相互の訪問にビザが必要だ。そして、米国は単に経由するだけでも入出国処理が必要なので、ブラジル国籍だと米国ビザの入手が必要となる。つまり、一般のブラジル人では、そう簡単には米国ビザは入手できないので、つまりアメリカ経由で帰国することはあり得ないというわけだ。

さて、今回リオに行くと言えば、必ず「大丈夫なの?」と心配して下さる方が沢山いた。かつて、当社のTOPもリオやサンパウロに行く時には数人ものSPを雇い、防弾車をチャーターする位の備えはしたものだ。しかし、今回のリオは全く安全だった。何しろ、世界100カ国からも首脳が集まる大会議の開催なので、ブラジル政府も警備には国の威信をかけていたに違いない。私のホテルの周辺にも、一体何十人の武装警察がいたかわからない。これは、多分、普段のリオではない。2014年にサッカーW杯、2016年に五輪と立て続けに国際的な大イベントが続いているので、この2012年のRio+20で失敗すると先がないからだ。

その話を裏付けるように、こんな話が真面目に伝わってくる。今回のRio+20で、警察は、丘の上のスラムに住むマフィアと裏取引をした。期間中、警察は丘の上のスラムで一切の麻薬取締を行わないので、その代わりにマフィアは絶対に下の街には出てくるな!という取引である。実際に、Rio+20期間中には、丘の上で、麻薬が入荷した合図としての花火が一日に何回も上がった。普段は、一日に一回か2回だと言うから、まさに、この期間中には、それこそ1年分の取引が行われたのではないか?とも言える。

夜に見上げる丘の上のスラムは美しい。宝石で散りばめられた王冠のようだ。しかし、昼間、車で走り抜けたときの、この丘の上のスラムの怖さは半端ではなかった。鬱蒼とした森の中で昼間でも暗いスラムの家々は、本当に人が住んでいるのかと思う程汚い。時々、人が歩いている姿を見ると、やはり、ここには人が住んでいるんだと思う。車の運転手はライトを付けっぱなしにして、デコボコ道を猛スピードで疾走する。ここで、エンジンが故障でもして、一旦止まったら大変だ。ギャングに捕まって下の街には帰れなくなると私達を脅す。そうなんだ。やはり、これが本当のリオだ。

平日は、世界の他の都市と何ら変わらない全く安全そうに見えるリオのビジネス街も、日曜日に一人で歩こうものなら必ずギャングに捕まって金銭を奪われるという。特に怖いのは、非番の警察官で、後で面が割れることを恐れて、襲った相手は必ず殺すという。もちろん、これは半分冗談で、いかに警察官の給料が安いかという訴えらしいのだが、全てが冗談とはとても思えない。警察も、軍事警察、市民警察、民間警察と何種類もあるようだが、一様に強力な拳銃や自動小銃で身構えている。やはり、ここは怖い街だ。

リオと言えば、我々の業界では、IBMがスマートシティーのショーケースとした街として有名だ。IBMのプロモーションビデオを見ていると、スマートシティーとは、このようにして実現できるんだと思える。社会インフラのシステム制御としても全てが完璧のように見える。実際に、素晴らしいシステムで、ほぼ完璧に出来上がっているに違いない。だから、IBMは、東日本大震災の復興計画に対して、このリオデジャネイロで実現したスマートシティーを必ず大成功したショーケースとして出してくる。

しかし、リオを訪れて、リオで生活する市民を見て、この街の地下に高度に制御されたインフラが眠っているとは、とても思えない。毎日、海岸通で起きる通勤時の酷い渋滞。丘の上の怖い怖いスラム街と海外沿いのプライベートビーチ付きの瀟洒なコンドミニアムの対比。まさに貧困と格差。そして、世界中の誰もが心配する治安上の課題。これらは、スマートシティープロジェクトによって、一切何も解決されてはいない。

スマートシティープロジェクトの実現によって、どれだけエネルギー効率が上がったのか、あるいは、どれだけCO2排出が減ったのかも大事だが。それはそれとして、それが一体、住民にとってどのような福音をもたらしたのか? 最終的には、そこが問われているのではないか? 今回のRio+20が後世に、どのような評価になるのか、想像もつかないが、環境問題を追求するだけのための環境運動では、世界は、もはや誰も動かない。それが、人々の幸せにどう貢献するのか?雇用はどうなるのか? 衣食住は大丈夫なのか? そこが担保されないまま、環境問題だけ議論しても世界は誰もついて来ない。そして、それは決してIBMのスマートシティーだけの問題ではない。

146 グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業

2012年6月5日 火曜日

この題名の本はハーマン・サイモン教授の著作(原題: Hidden Champions of the 21st Century)で、私が、 常々持論としている、「日本の再生は、地域に存在する 中堅・中小企業によってしか成されない」という説を、 まさに実例から証明してくれている本である。

戦後、日本の製造業は、「高い品質で価格が安ければ、世 界中、どこでも売れる」という信念で、大量生産によって 規模の経済合理性を追求しシェアを高めてきた。そのやり 方が、今や通用しなくなっている。半導体、液晶、TVと かつて日本の輸出産業の花形だった事業が、デジタル化に よって品質では大きな差異がなくなり、むしろ圧倒的な規 模と価格によって競争力を失った。

これは、もはや元に戻せるものではない。生産規模では、 日本の大企業の製造工場も、中国、韓国、台湾の巨大企業 の工場に比べれば、もはや町工場のようなものとなった。 大量生産は規模の経済学で勝ち負けが決まる。

一方、現在の欧州経済危機はドイツの一人勝ちが、究極の 原因とされている。ドイツのGDPあたりの輸出比率は5 0%近くにも及び、中国、韓国の40%台を大きく凌ぐ。 対して、日本のGDP当たりの輸出比率は、たった18% でしかない。今後、半導体、液晶、TVの生産縮小で、さ らに低下するであろう。ちなみに、国民一人当たりの輸出 額はドイツが16,000ドル、日本が5,000ドルとドイツは日本 の3倍もある。

既に1,000兆円もの財政赤字を累積し、必死に内需拡大を 目指した政策は結局徒労となり、もはや新たな内需拡大策 など、財政的にも取りえない事態になった、今の日本で産 業の振興策は輸出しかありえない。国家が強力に支援し、 国策として競争力を享受している中国や、韓国と違って、 エネルギーコストも人件費もインフラコストも日本とは、 そう変わらないドイツが何故、そのように輸出競争力が あるのだろうか?

そのテーマに対しては、当社のドイツ出身のシュルツ上席 主任研究員が以前から、ドイツの輸出競争力の主体はドイ ツの各地域に存在する中堅・中小企業であると説いてきた。 この本の著者であるサイモン教授もシュルツ研究員の著作 を数多く引用している。私も、シュルツ研究員の発表成果 を最初に聴いたときには、大きな衝撃を受けた。

なぜなら、こうした話題は、これまでの日本の産業政策が 全く注目していない点だったからだ。この本の冒頭に推薦 の辞を書かれている経産省から産業革新機構に出向された 西山圭太執行役員も絶賛しておられるが、私も経産省時代 の西山産業再生課長とは何度かお話をしたことがあるが、 この本のような話題を、お互いに一度もしたことがない。

つまり、ドイツの輸出額の大半が、こうした隠れたチャン ピオン企業、即ち、グローバル市場で活躍する中堅・中小 企業によって担われている。私達、多くの日本人や日本企 業が、こうした優秀なドイツの中堅・中小企業を良く知ら なかった背景は、彼らが「隠れたチャンピオン企業」だっ たからだ。しかも、彼らは意図的に隠れていた。なんと、 マーケティングの基礎理論とは全く逆の行動を取っている。

そればかりではない。この本に記述されている「隠れた チャンピオン企業に共通した特徴」のキーポイントだけ を以下に抜き出して見た。「なるほど!」と思うところも 沢山あるが、「えー?」と思うところがさらに沢山ある。 これまでの経営の教科書に書いてあることと全く逆のこと が沢山あるではないか。

こうした企業が都会ではなくて、地方に多くあると言うの も良く理解できる。彼らは生き馬の目を抜く俊敏な時間で は動いていない。もっと、10年、30年先を見てゆっく りとした時間で動いている。世界中の顧客とじっくりと話 が出来るのもニッチ市場で、顧客の数が多くないからだ。 価格には左右されない市場で、モノに付随したサービスも 含めたロングライフな顧客との関係を築いている。

それに、もっと驚くのはアウトソーシングをしないという 点だ。販売も代理店は使わない直接販売。研究開発も自前。 戦略的提携もしない。製造治具は全て自分で作る。ビジネ スモデルは「村の鍛冶屋」と全く変わらないが、違うのは 世界中の顧客を相手にしたグローバル市場を相手にしてい ることだ。それも、いきなり世界の100ヶ国と商売でき たわけではない。自身の規模に応じて、毎年2-3か国ずつ 販路を拡大し、10年、20年かけて数十か国にまで販路 を広げてきた。

もちろん、途中で失敗もあっただろう。それを忍耐強く、 一か国ずつ丁寧に販路を増やしてきたのである。従って、 大きな借金もしていない。「経営はスピードだ!」という 経営の教科書も随分見たような気がするが、そのスピード 経営の結果は一体どうだったのだろうか?

以下に、私が、この本から抜き出したメモを添付するので、 一読頂ければ幸いである。そして、この本は日本の産業再 生のバイブルともなる本とも言え、お手元に置かれるべく、 ぜひ、ご購入されることをお勧めしたい。

□隠れたチャンピオン企業の60%はドイツ語圏

□経営陣の注目度が低いほど企業は長期的に成功する

□世間の話題になれば無名でいる努力が水の泡

□一般には知られていないが顧客の間では有名

□成功する企業家には大胆なビジョンがある

□限られた市場で1番を狙う

□CEO在任期間、市場リード期間とも最低20年間

□絶対的世界シェアは平均30%

□2位とのシェアの差は2倍以上

□過去10年間で売り上げは2倍以上に伸びた

□4半期決算より世代を超えた持続性を追求

□一般市場を自身がリーダーとなるニッチ市場に変える

□海外子会社は平均24社と会社規模に比べて多い

□ニッチ市場は顧客も少数、グローバル化に苦労しない

□1社の平均輸出額は3億ドル、10年前は1億ドル

□新興国市場では中国、ロシア、インドに注力

□ブラジルには、今は関心なし、しかし

□ドイツの海外子会社が最も多いのはラテンアメリカ

□グローバル化の勝者は中国とドイツ。

□中国は消費財で、ドイツは生産財で

□直接販売が80%、仲介販売は20%に過ぎない

□CEOは世界中の顧客と面談し顧客の全てを知っている

□顧客の85%が保守契約を結んでいる

□売上高研究開発費率は一般企業の3倍、絶対額は少ない

□従業員一人あたりの特許出願数は大企業の5倍

□特許1件当たりの出願費用は大企業の5分の一

□資金調達は戦略上の制約にはなっていない

□垂直統合比率は高く、アウトソーシング比率は少ない

□製造工具や組み立て機器は自前製造

□戦略提携は出来るだけしない

□従業員の病欠率は極めて少ない

□従業員の退職率も極めて少ない

□若くして経営者に、リーダも若いうちになる

□日本の隠れたチャンピオン企業はどうなのか?

長期的戦略より短期的効率を重視

企業規模がドイツ企業の2倍(大きすぎる)

国内では寡占だがグローバルでは低シェア

言語も含めて企業文化がグローバルでない

みんな都市に集中、ドイツでは地方に分散