これは長崎出版から出されている本の題名で井上芳保氏が編者と なって、近藤誠、浜六郎、村岡潔、松本光正氏らの 専門医の著述をまとめたものである。読後の感想としては、正直 言って大変なショックであった。
昨日、社会保障と税の一体改革として消費税増税案が衆議院を 通過したが、もともとのきっかけの一つとして、高齢者向け医療 費の歯止めなき増大がある。この本に拠れば、こうした高齢者 医療を含む成人病医療そのものが全くの無駄であるばかりか、 その予防策としての検診すらも単に無駄というより、むしろ害だ というのである。
もちろん、私自身は医学の専門家ではないので、この本の著述が 正しいのかどうか検証できる能力は全くない。また、個人的にも 毎年、一泊二日の人間ドックを受けているし、血圧降下剤も定期 的に服用しているし、前立腺がんの早期発見に対して放射線治療 も受けた。ある意味で、この本が指摘している無駄なことばかり をしてきたわけだが、この本を読んで、これまでの生き方を、こ れから180度変えて行こうとまでは全く思っていない。
ただ、一つだけ全面的に合意できることがある。それは、加齢と いうのは避けられないことで、年を取れば若い時と同じようにと はいかないということである。動脈硬化は起きるし、高血圧や高 脂血症、骨粗しょう症も程度の差こそあれ、加齢と共に誰しも起 きることは避けられない。これを病気と言うなら、高齢になるこ と、そのものが病である。しかも、加齢が根本原因ならば、どん な治療を施しても、この「高齢という病」は治るわけがない。・ ・・・それについては何となく、そうだなと同意せざるを得ない。
この本の中で、私がショックを受けたエッセンスだけを以下にご紹介したい。 もちろん、これらの説に私が全面的に同意しているわけではない。 ただ、これらの指摘が、もし真実であるならば、我々は医療という ものに対して、もっと真剣に考え直さなければならないと思うし、 天井知らずの医療費の増大に、もしかすると歯止めがかけられる 可能性があるかもしれないと思えるからだ。
1.近藤 誠 医師
★ なぜ、診断被曝の危険性が見過ごされているのか
原発事故より怖いCT検査
胸部CT1回で10ミリシーベルト
とりあえず、念のためとCT検査
8-9割のCT検査は不要
これらは、何となくそうかなと思える。私の主治医もCT検査 は、そう頻繁に受けるべきでないと言っている。
★ CTによる、がん検診に意味はない
CT検査で発見される大半のがんは「がんもどき」
「がんもどき」は治療しなくても問題ない
本当のがんは初期の段階で転移済、治療は不可能
これって、本当かな?と思う。もし、本当だったらとんでもなくショック。ぜひ、専門家の間で、公明正大に公開議論して頂きたい。
2.浜 六郎 医師
★ 「虫歯予防にフッ素」はなぜ危険か
効果も必要性もない
過剰摂取の危険性
深刻な急性中毒
発がん率が13%増
もう、既に殆どの歯磨きには入っている 今更、言われたってとんでもなく遅い。
3.村岡 潔 医師
★ 「生活習慣病」の正体を探る
なぜ生活習慣が病気の元にされたのか
メタボリックシンドロームのミステリー
死に至る生活習慣病としての がん、心疾患、脳血管障害、糖尿病の全てを防止しても、余命は平均で2-3年しか伸びないと言う。つまり、対投資効果が殆どないということらしい。経済学的にはなるほどと思う。
4.松本 光正 医師
★ 「検診病」にならないために
数値よりも自分の身体の感覚を大事に
加齢と言うのは仕方がない
身体は合目的的に反応する
発熱はウイルスを殺すため
下痢は毒素を排出するため
高血圧は血管の血流を確保するため
健康診断を受ける人は短命
日本ほどコレステロールを気にする国はない
脳梗塞は降圧剤を飲む人が2倍かかりやすい
高血圧で人は死なない、脳梗塞は医者が作る
メタボリックシンドロームは馬鹿馬鹿しい
骨粗しょう症薬で骨はどんどんダメになる
レントゲン検査は最悪の健康診断
がんは早く発見しても意味はない
ちょっと、あまりに強烈過ぎて付いていけない。頭がクラクラして、何ともコメントできない。 ただ、高齢化で血管が詰まっているから血圧を高くして流れやすくしているのだという論理は、技術者としては納得できる。血圧を下げれば、流れが悪くなるから詰まって脳梗塞になるのだと言われれば、それもそうかなと思ってしまう。
その他、この本では、抗うつ剤の過剰投与が自殺を招くとも書いてある。 それも、そうかなとも思う。本来、うつの人は自殺をする元気すらない。 それを、一大決心をさせるのは抗うつ剤の効果だと言われれば、それは 説得力がある。
改めて、私は、この本に書いてあることが全て正しいなどと思っているわけではないと申し上げる。 そして、今日から、従来の生活をがらっと変えようとも思ってはいない。脱メタボを目指して 毎日1万歩のウォーキングは続けるつもりだし、これからも降圧剤も毎日飲み続けるし、 人間ドックだって、これからも毎年一回は受け続けるつもりである。 それでも、これまであたりまえと言われてきた論理とは全く違う説があって、結構、それが 説得力があるように書いてあると、こういうことを公の場で、専門家同士が、私達素人が 分かるようにきちんと議論して欲しいと思うのは私だけだろうか。
日本の医療費は、このまま増大を続けていったら、あと何年かしてGDPを超えてしまうかも知れない。 特に、高齢者医療について、最低限度健康な生活を送るためには、何が必要か、よく議論しないと 、検査漬け、薬漬けで、患者はどんどん健康を害していくということにならないのか?皆で議論して みる必要がある。いずれにしても、秦の始皇帝が探し求めた不老長寿の薬など、この世には存在しない。 西安を訪れた時に、始皇帝は、もし、この不老長寿の薬さえ飲まなければ、もっと長生きできたのにという話を聞いたことがある。