2012年6月 のアーカイブ

151   健康不安と過剰医療の時代

2012年6月28日 木曜日

これは長崎出版から出されている本の題名で井上芳保氏が編者と なって、近藤誠、浜六郎、村岡潔、松本光正氏らの 専門医の著述をまとめたものである。読後の感想としては、正直 言って大変なショックであった。

昨日、社会保障と税の一体改革として消費税増税案が衆議院を 通過したが、もともとのきっかけの一つとして、高齢者向け医療 費の歯止めなき増大がある。この本に拠れば、こうした高齢者 医療を含む成人病医療そのものが全くの無駄であるばかりか、 その予防策としての検診すらも単に無駄というより、むしろ害だ というのである。

もちろん、私自身は医学の専門家ではないので、この本の著述が 正しいのかどうか検証できる能力は全くない。また、個人的にも 毎年、一泊二日の人間ドックを受けているし、血圧降下剤も定期 的に服用しているし、前立腺がんの早期発見に対して放射線治療 も受けた。ある意味で、この本が指摘している無駄なことばかり をしてきたわけだが、この本を読んで、これまでの生き方を、こ れから180度変えて行こうとまでは全く思っていない。

ただ、一つだけ全面的に合意できることがある。それは、加齢と いうのは避けられないことで、年を取れば若い時と同じようにと はいかないということである。動脈硬化は起きるし、高血圧や高 脂血症、骨粗しょう症も程度の差こそあれ、加齢と共に誰しも起 きることは避けられない。これを病気と言うなら、高齢になるこ と、そのものが病である。しかも、加齢が根本原因ならば、どん な治療を施しても、この「高齢という病」は治るわけがない。・ ・・・それについては何となく、そうだなと同意せざるを得ない。

この本の中で、私がショックを受けたエッセンスだけを以下にご紹介したい。 もちろん、これらの説に私が全面的に同意しているわけではない。 ただ、これらの指摘が、もし真実であるならば、我々は医療という ものに対して、もっと真剣に考え直さなければならないと思うし、 天井知らずの医療費の増大に、もしかすると歯止めがかけられる 可能性があるかもしれないと思えるからだ。

1.近藤 誠 医師

★ なぜ、診断被曝の危険性が見過ごされているのか

原発事故より怖いCT検査

胸部CT1回で10ミリシーベルト

とりあえず、念のためとCT検査

8-9割のCT検査は不要

これらは、何となくそうかなと思える。私の主治医もCT検査 は、そう頻繁に受けるべきでないと言っている。

★ CTによる、がん検診に意味はない

CT検査で発見される大半のがんは「がんもどき」

「がんもどき」は治療しなくても問題ない

本当のがんは初期の段階で転移済、治療は不可能

これって、本当かな?と思う。もし、本当だったらとんでもなくショック。ぜひ、専門家の間で、公明正大に公開議論して頂きたい。

2.浜 六郎 医師

★ 「虫歯予防にフッ素」はなぜ危険か

効果も必要性もない

過剰摂取の危険性

深刻な急性中毒

発がん率が13%増

もう、既に殆どの歯磨きには入っている  今更、言われたってとんでもなく遅い。

3.村岡 潔 医師

★ 「生活習慣病」の正体を探る

なぜ生活習慣が病気の元にされたのか

メタボリックシンドロームのミステリー

死に至る生活習慣病としての がん、心疾患、脳血管障害、糖尿病の全てを防止しても、余命は平均で2-3年しか伸びないと言う。つまり、対投資効果が殆どないということらしい。経済学的にはなるほどと思う。

4.松本 光正 医師

★ 「検診病」にならないために

数値よりも自分の身体の感覚を大事に

加齢と言うのは仕方がない

身体は合目的的に反応する

発熱はウイルスを殺すため

下痢は毒素を排出するため

高血圧は血管の血流を確保するため

健康診断を受ける人は短命

日本ほどコレステロールを気にする国はない

脳梗塞は降圧剤を飲む人が2倍かかりやすい

高血圧で人は死なない、脳梗塞は医者が作る

メタボリックシンドロームは馬鹿馬鹿しい

骨粗しょう症薬で骨はどんどんダメになる

レントゲン検査は最悪の健康診断

がんは早く発見しても意味はない

ちょっと、あまりに強烈過ぎて付いていけない。頭がクラクラして、何ともコメントできない。 ただ、高齢化で血管が詰まっているから血圧を高くして流れやすくしているのだという論理は、技術者としては納得できる。血圧を下げれば、流れが悪くなるから詰まって脳梗塞になるのだと言われれば、それもそうかなと思ってしまう。

その他、この本では、抗うつ剤の過剰投与が自殺を招くとも書いてある。 それも、そうかなとも思う。本来、うつの人は自殺をする元気すらない。 それを、一大決心をさせるのは抗うつ剤の効果だと言われれば、それは 説得力がある。

改めて、私は、この本に書いてあることが全て正しいなどと思っているわけではないと申し上げる。 そして、今日から、従来の生活をがらっと変えようとも思ってはいない。脱メタボを目指して 毎日1万歩のウォーキングは続けるつもりだし、これからも降圧剤も毎日飲み続けるし、 人間ドックだって、これからも毎年一回は受け続けるつもりである。 それでも、これまであたりまえと言われてきた論理とは全く違う説があって、結構、それが 説得力があるように書いてあると、こういうことを公の場で、専門家同士が、私達素人が 分かるようにきちんと議論して欲しいと思うのは私だけだろうか。

日本の医療費は、このまま増大を続けていったら、あと何年かしてGDPを超えてしまうかも知れない。 特に、高齢者医療について、最低限度健康な生活を送るためには、何が必要か、よく議論しないと 、検査漬け、薬漬けで、患者はどんどん健康を害していくということにならないのか?皆で議論して みる必要がある。いずれにしても、秦の始皇帝が探し求めた不老長寿の薬など、この世には存在しない。 西安を訪れた時に、始皇帝は、もし、この不老長寿の薬さえ飲まなければ、もっと長生きできたのにという話を聞いたことがある。

 

150   ブラジル旅行記   (その4)

2012年6月27日 水曜日

リオの6月は南半球だから真冬にあたるが、平均気温は26度、昼間は30度近くにも なるが、朝晩は16度近くまで下がり過ごしやすい。あの有名なリオのカーニバルが開 かれる1月は、ちょうど真夏になるが、それでも34度くらいで、その暑さは日本の夏 とそれほど変わらない。ドバイやムンバイのように、気温が50度まで上がるようなこ とはない。緯度は、丁度南回帰線上で、北半球で言えば台北くらいと思えばよい。 雨も適度に降り、極度の乾燥地帯でもなく、極めて過ごしやすい気候である。

その上、ブラジルは石炭、石油、鉄鉱石などの鉱物資源にも恵まれ、適度な降雨もあり 緑も多い。広大な耕作地にも恵まれ、食料の心配をすることもない。極度に地下水に 依存したアメリカの農業が、いずれオガララ帯水層に蓄積された化石水が枯渇すると 同時にだめになったときに、世界の穀倉地帯は、このブラジルとロシアしか残されてい ない。中国の農業も、今や、殆どが化石水に依存することになった。こうして考えると、 まさに、21世紀に世界の超大国となる資格は、資源という観点から見れば、中国より も、このブラジルの方が遥かに可能性が高い。

にも関わらず、ブラジルの評価が、それほどに高くないのは、私は、やはりブラジルの 治安の問題が非常に大きいと思う。治安の問題が大きいと、駐在員を現地に送るにして も二の足を踏む。結果として投資に対して消極的にならざるを得ない。この治安の問題 さえ解決されれば、ブラジルは21世紀の真の超大国になることは間違いないだろう。

ブラジルにおける治安を危うくしている最大の要因はファヴェーラ(ブラジル特有のス ラム街)である。一般的に欧米では上流階級者や富裕層ほど高い所に住む。ところが、 リオデジャネイロでは丘の上にファヴェーラがある。そして、リオではファヴェーラの 人口は、総人口の4分の1とも言われている。ブラジル政府は近年、不法占拠者として 、このファヴェーラを強制的に撤去し、その跡地に公営の集合住宅を建てている。この 旧ファヴェーラから追われた人々は、さらに山奥に、もっと巨大で、さらに恐ろしいフ ァヴェーラを築いてしまった。政府の意に反してファヴェーラは拡大の一途をたどって いる。そして、私たちは、意にそぐわず、その巨大な山奥のファヴェーラに足を踏 み入れてしまった。

3日間の国連のグローバルコンパクトのコンファレンスが終了したあと、3日間の本会 議の間に1日だけ空きがあったので、皆で、リオの観光ツアーに行くことにした。特に 予定もしていなかったので、ホテルに置いてあったパンフレットのいちばん上のメニュ ーを申し込んだ。マイクロバスで7時間、料金は270レアルであった。翌朝、オンボ ロのマイクロバスがホテルの玄関にやってきた。参加者は10人ほど、全員、Rio+20の ために世界中からやってきた人たちである。日本人、韓国人、アフリカ人で白人が 居ないのがちょっと気になったが、いつものように「まあいいか!」という調子で気軽 に出発した。後で分かったのだが、欧米人たちは知っていたのだ、このバスツアーの危 険さを。

だから決して「まあいいか!」では済まなかった。まず、何も差し置いて、リオ最大の 観光スポットであるコルコバードの丘に向かうのだが、この丘に向かうには、一般的に はダウンタウンから登山電車に乗っていくらしい。ところが、このオンボロバスツアー は電車の料金が高いせいなのか混んでいるせいなのかわからないが、バスで険しい山道 を直接登ってコルコバートの丘に向かうのだった。当然、先述のファヴェーラの中を通 って行く。昼でも薄暗い鬱蒼とした森の中に、ファヴェーラはあった。汚い、本当に酷 いバラックだ。中には、大昔に建てられたお金持ちの邸宅のような建物もある。しかし 、今や朽ち果てた、その建物の中に何家族か同居しているようでもある。本当に人が住 んで居るのかとも思われるが、時折、人影が見える。

山道は舗装もされていないので、デコボコである。その道を昼間なのにライトを点けて バスは全速力で疾走する。ときおり、木陰の間から、眼下にリオの街が垣間見えるのだ が、一旦停止もせずに、運転手はひたすら疾走する。とにかく、流石にガイドさんだけ は英語を話すが、一度止まったら大変危険な目に合うから目的地までは一切止まらない と警告する。とんでもないバスに乗ってしまったと後悔しても、もう遅い。しかし、お蔭様 でリオ最大の、しかも最も怖いファヴェーラの実態をこの目で見ることが出来た。人間 万事塞翁が馬である。

ブラジル最大の観光地であるリオで、これほど英語が通じないということは、他の都市 では想像もつかないほどだ。なにしろ、きちんとしたイタリアンレストランで「ワイン リストを下さい」と言っても一切通じないのだから、他の単語などは全くだめである。 これはきっと英語力だけにとどまらないように思う。若い人たちがファヴェーラに入ら ないで済む方策、そして若い人がファヴェーラから抜け出す方策は、きっと「教育」 だ。麻薬取引以外の職業に就くための職業教育が絶対に必要である。

そして、日本以外で、専門職として技能を身に着けるには英語は絶対的な基本である。 例えば、コンピュータ技術の解説書は世界中で日本語と英語しか存在しない。つまり 日本以外では、英語が出来ないと専門技術は一切身につかないというのが常識である。 ブラジルがもっと成長するためには、その貧困と格差の問題を乗り越えるには、若い人 達にきちんとした英語教育を施さないとだめだ。逆に言えば、英語教育だけで、ブラジ ルのあらゆる問題が大きく前進し、解決されると思われる。この大きな可能性を秘めた 21世紀の超大国が、本当の意味で超大国になるために一番必要なことは、英語教育を 含めた人的資源の開発である。

149 ブラジル旅行記 (その3)

2012年6月26日 火曜日

今から20年前の1992年、ブラジルのリオデジャネイロで開催された 「環境と開発に関する国際連合会議」(俗称:地球サミット)は 世界172ヶ国から首脳を招き、各国のNGO、NPO含めて4万人が集結する 国連史上最大の会議となった。そして、この会議で歴史的な「リオ宣言」 が採択され、今日の環境問題の骨格をなす「気候変動枠組条約」と 「生物多様性条約」が提起された。

その10年後、今度は南アフリカのヨハネスブルグで、この地球サミット の第二回目が開催され、最終的には、「ヨハネスブルグ宣言」が採択さ れたのだが、もはや、既にこの時期から先進国と開発途上国との格差を 巡る対立問題が顕在化し、実質的には何の進展も見られなかった。この会議 の事を批判する人々は、「Rio+10ではなく、Rio-10だった」と辛らつな 表現を隠さない。

そして、今年、2012年は、このヨハネスブルグの地球サミットの経験 から、先進国、途上国共に共感できるための、下記の3つのアジェンダ を組んで成功に万全を期した。即ち、第一番目は人口爆発と資源制約の 問題、第二は貧困と格差の問題、そして、三番目は幸福度の定義に関す る問題であった。1992年に大成功を収めた地球サミットの開催地である、 リオに再び戻って、Rio+20として世界の環境問題を、もう一度問い直そ うという国連の懸命の努力にも関わらず、今回、結果的には歴史の残る ような成果は一つも出せなかった。

リオで20年前を知る人の話を聞くと、まず街の様子が全く違うのだと 言う。20年前のリオの市街地の空き地と言う空き地が、NGO、NPOの人た ちが設営したテントで溢れかえったというのである。それに比べれば、 まず本会議の前に現れる、こうした市民団体の勢いのなさが、この会議 の成功に大きく影響するのではないかと言っていた。

さて、なぜ多くの環境活動に関わるNGO、NPOは、今回、このRio+20に参 加しないのだろうか?いや、参加しないのではなくて、参加できないの だ。世界のNGO、NPOの活動は寄付金の依存するところが大きいわけだが、 こうした社会貢献活動への寄付金は、その殆どが金融セクターから出さ れている。特に、地球温暖化防止に伴うCO2削減運動に関して、金融 セクターは高い関心を持っていた。CO2を新たな通貨とした金融取引 の可能性に期待したからである。その金融セクターが、今や米国だけで なく欧州までもがボロボロになってしまったので寄付金どころではない。 多数のNGO、NPOは、リオに来たいのに、お金がなくて来れなかった。

日本の野田総理は、国会運営上からも参加は無理だと思われていたが、 直前になってオバマ大統領、メルケル首相といった欧米経済の主人公が 欠席となると、もう会議は締まらなくなる。もともと、先進国と途上国 の対立があるなかで、この2大巨頭が出席しないとなれば、もう何とし ても合意を纏めるのだと言う切迫感はなくなった。深刻な欧州経済危機 の中、環境問題どころではないメルケル首相が欠席を決めたのは理解で きるとしても、アメリカのオバマ大統領の欠席はなぜなのだろうか?

アメリカは今年、大統領選挙の年である。そして、オバマ大統領が 先頭に立って推進している「アメリカ製造業の復活」は、どうも順調に 進んでいるように見える。その最大の原因は、もちろんシェールガスで ある。今や、アメリカはエネルギーコストが最も安い国の一つとなった。 このためエネルギーコスト依存度の高い業種から、目覚ましい速度で 復活を遂げている。しかし、このシェールガスについては、欧州は将来 地下水を汚染すると言う環境問題から開発を避けている。当然、アメリ カでも、この危惧はあり、一部に採掘反対運動が起きている。この最中 に、下手にRio+20で、このシェールガス問題を取り上げられたりしたら、 まさにオバマ大統領の選挙戦に大いに響くというわけだ。

そして、一番驚いたのが、ブータンから提案された「幸福度の再定義」 である。爆発する人口に対して絶対的に不足する資源問題を解決するに は、GDPに代わってGNHを政策目標にしよう と言うブータンの提案は、先進国の中では一定の評価もあったと思う。 しかし、途上国は全く納得しない。自分たちの生活レベルを先進国 並みに向上するには、絶対的なGDP成長を政策目標にしないとダメだと いう強い信念があり、ブータンの提案にはこぞって猛反対をした。

翻って欧州に戻ってみれば、このたびの欧州経済危機は何もしなくても 電力需要、ガソリン需要は大幅に下げる。スペインなどは若者の50% が失業しているわけだから、エネルギーを消費する場所すらない。日本 だって、現在の景気低迷が続けば、2030年までに、黙っていても、 13%の電力需要は減ると言われていた。現在、円高や電力コスト高騰 で、国内産業の空洞化は一層加速しているので、さらに電力需要は減る。 環境問題の観点からすれば経済危機は、まさに好ましい環境とも言える。 こここそが環境問題のパラドクスである。

従って、単に省エネ、CO2削減が出来れば全てよしというのは、環境 問題だけに関わっている人たちの論理であって、地球上の70億人の人 類の生命を守るには何がベストか?という議論は、そう単純ではない。 あのチェルノブイリに設定された広大な立入禁止区域は、今や、動植物 の楽園となっていると聞く。環境を汚す最大の要因は、人類の存在そのものであり、 人類が毎日生活していること、それ自体が環境破壊だと言うことを示している。

だから、我々は、「人類の幸せの追及」と「環境破壊の防止」とを、 上手に折り合いをつけていかなければならない。企業も利潤の追求をし ていかない限り事業の継続はできない。だからこそ、環境活動は単に CSR活動として行っていくだけでは持続性がない。環境活動を本業の 中で、利潤を得る活動と一体化して追求していかない限り、きっと長続 きしないだろう。

欧州経済危機は、これから世界経済に大きな影響を与えざるを得ない。 そして地球温暖化のせいだと思われる、荒くれだった異常気象は世界の 食料を間違いなく大きな危機に陥れる。こうした人類存亡の機に際し、 より現実的なレベルで環境問題を話し合う場が、この「Rio+20」の反省 の上にたって、いち早く設定されることを願う。