2012年4月 のアーカイブ

133 日本の総合商社成功のカギは?

2012年4月13日 金曜日

日本の輸出を担ってきた自動車とエレクトロニクス、とりわけTVを 主力製品とするエレクトロニクス業界が大変な苦境に陥っている。 一方、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅といった 日本の総合商社は、今、まさに我が世の春を謳歌するがごとく巨額の 利益を生み出している。厳しいグローバル競争の中で、こうした総合 商社復権の秘密は、一体どこにあるのだろうかを考えてみたい。

さて、この総合商社という業態は日本だけのもので、欧米を初めアジ ア諸国にも見当たらない。しかし、この日本特有の業態である総合商 社こそが、戦後日本の目覚ましい経済発展を支えてきた。これを見た 欧米の企業家達が、この日本の総合商社を真似て起業したが、 いずれも失敗して撤退していった。そうしているうちに1960年代に入り、 日本が本格的な高度成長期に入ると、実力を付けた大手製造業の連中 は、これまで海外への輸出取引を仲介してもらっていた総合商社を 頼らずに自身で行うようになった。即ち、商社斜陽論が台頭してくる。

さて、1970年代に入り、湾岸戦争の勃発で起きたオイルショック時代 では、商社の買占め批判が起きて、社会の商社への風当たりは強くな るなかで、いよいよ日本経済は高度成長の終焉を迎えることになる。 1980年代に入っては円高、土地の高騰から生じたバブル経済となり、 これも商社には何の利益ももたらさず、商社冬の時代と言われるよう になった。

1990年に入ると、そのバブルでさえも崩壊、世の中は、どんどん不景 気が拡大するなかで、効率化を目指した各企業は、仲介業務そのもの が無駄として排除するようになり、『 Middlemen will die 』とまで 言われるようになる。加えて、冒頭に述べた、総合商社という業態が 日本以外では存在しないため、もともと世の中には必要のない存在で はなかったのでは?という『総合商社の存在懐疑論』まで出てくるよ うになる。

例えば、総合商社の業界No1である三菱商事の場合に、その傘下に ある海外子会社約600社のTOPは8割以上が現地人であるのに対して、 三菱商事本体には、海外支店も含めてExecutiveには、殆ど外国人が 居ないのだと言う。その理由は連結子会社は、それぞれ業態がきちん と定義付けられるのに対して、親会社である総合商社を定義するもの が存在しない。一般に外国人に対して雇用契約の中で、会社の業務を きちんと定義付けて説明する必要があるのだが、総合商社はそれが出 来ないからだという。

だから、商社から日本政府に対する最大の要望は『商社法』なるもの を定めて「定款をきちんと決めないと商社とは認めない」と言うよう な法律は絶対に作らないで欲しいということだ。それだけ、日本の総 合商社は時代時代の変化に応じて業態を変化させてきた。さらに、彼らは 市場や顧客の要請に応じて、今でも業態を変化させ続けている。今の、日本 の総合商社の最大の強みは、自らの業態を厳密には定義しないで、日 々変化させられる力、その能力が、この不確実性の時代にあって、毎年数 千億円にも及ぶ純利益を稼ぎ出す力の源泉になったのだと言う。

さて総合商社は、どうして、そんなに利益を稼げるのだろうか?もう少し、 掘り下げてみよう。その秘密は原料(川上)から商品(川下)までの サプライチェーン(バリューチェーン)の全てに関わるからだと言う。 石油の例で言えば油田の採掘からガソリンの小売りまで全てのチェー ンに関わると言うことである。それはコングロマリットではないかと 指摘があるが、それが違うのだと言う。つまり、このバリューチェーンの 全てに何らかの形で関わるのだが、顧客企業の強いところには弱い関 わり、顧客が弱い所で強い関わり、つまり自らのリスクを取ってコミ ットを行ってまで顧客を助けるのだという。

そして、この顧客企業との関わり方は、従来の商社の機能である仲介 取引だけでなく、金融支援、自らの責任による投資、物流、さらに 情報提供まで含む幅広い支援である。とりわけサプライチェーンの最 終段階である小売りには必ず何らかの関わりを持つことにしていると 言う。それは、小売りに関わって初めて市場を詳細に知ることになる からだと言う。市場(川下)を知らないで原料(川上)の開発は絶対 に出来ない。市場の変化を素早く汲み取っているからこそ、次の時代 の原料の開発に巨額の投資を行うことが出来る。

今の総合商社の業態を、敢えて他の業態と比較するならば、例えば、 コンサルファームは顧客から直接具体的なニーズを受けて、その専門 機能を用いて知識とノウハウを提供するが、それは一回限りのコンサル テーションであり、最終結果に対するリスクは取らない。投資ファンド は自らの投資基準に合う案件を見つけると買収し、その知識とノウハウ を用いて事業再建を行い短期的なリスクは取るが、企業価値が上がると さっさと売却して利益を得る。それに対して、総合商社は顧客や業界 の暗黙のニーズを発掘して知識とノウハウを用いて顧客企業へ金融面 でのリスクを取って自らコミットを行うなかで、成功報酬として取引 手数料や配当の受け取りで長期的な利益を得ていく業態と言える。

実は、総合商社は間接比率が非常に大きい会社で間接部門費用だけで 30%近くに及ぶ。普通の会社なら大幅なリストラが必要な間接比率 である。しかし、総合商社では巨額の投資案件を緻密に精査するため には、それだけの間接要員は絶対に必要なのである。そして、各社員 は高給取りであると同時にプロフェッショナルである。チームとして ではなく個人として巨額の投資案件にコミットして責任も取る。だか ら、どの投資案件も最終的には高率のリターンを生むの で間接比率が高いことが総合商社のデメリットにはなっていない。

確かに、カメレオンのように業態を器用に変えていく日本の総合商社 とは世界が真似できない素晴らしい仕組みを持つ業態ではあるが、も ちろん運が良かったということもある。日本の総合商社が利益を急速 に伸ばしたのは2004年からである。一体、その年から世界では何が起 きたかである。

第二次世界大戦後、世界経済の平均成長率は年率3%で何十年も続い て来た。ところが、2004年のアテネオリンピックを終え、次の北京 オリンピックに向けてブラジル、中国、ロシア、インドと言ったBRICs の目覚ましい台頭が始まり、世界経済の平均成長率は突然年率5%に まで上昇したのだった。これまで、年成長率3%に整合してきた世界 の資源(エネルギーや鉱物、食料)の供給体制が変調をきたしたのだ。 需要が急速に膨張しても供給が追い付かない。まず最初に起こるのは 資源価格の高騰である。

次に世界が望んだのが資源を安定的に確保し、物流、販売まで責任を とり、そしてコミットできる業態を持つ総合商社の存在だったのだ。 日本の総合商社は時代の要請に素早く適合できるカメレオン能力を、 商社不要論まで唱えられた、永く続いた不幸な冬の時代に着々と蓄 えていたのだった。

やはり、真の『成功者』とは常に変化し続けられる 適応能力とバリューチェーンの上流と下流にまで密着できる現場力と、 自らが巨額のリスクを取る責任力があって初めて成れるものなのか も知れない。これはコンサルファームでもある当社にとっても全く 耳の痛い話ばっかりである。

132 岡田副総理との懇談

2012年4月10日 火曜日

昨晩、田中直毅さん主催の勉強会に参加。数名の著名経済人と共に、 岡田副総理と2時間に亘って懇談をさせて頂いた。岡田さんのような 政治家は、私にとって初めてのタイプで大変感銘を受けたので、そ の一端をご紹介したい。会談の冒頭に、田中直毅さんが述べられた オープニングの、次の言葉が、その後の岡田副総理のお話を予言さ せるものであった。

このまま政治が大きな決断をしなければ、日本は間違いなくギリ シャのように財政破綻する。その影響で、日本では3種類の人々に 色分けされることになる。まず、第一分類は、このデフォルトに逆 張りをして、大儲けする人達である。しかし、残念ながら、こうし た器用な芸当が出来る日本人は殆どいないと思われる。第二分類は、 日本国債、日本株式、円預金を全て、より安全な形に資産移動して いて、日本がデフォルトしても個人的には全く影響を受けない人々 である。日本の超富裕層は、既にこうした資産移動を完了している と言われているので、彼らは、政府が消費税を上げようと上げまい とただ静観して見ているだけである。

第三分類は、日本がデフォルトに陥り、円安からインフレとなって 苦しむ人々である。年金生活者はもちろん、給与生活者も物価が上 がるほどに給料が上がらないので生活は困窮することになる。借金 をしている人でさえ、給料が上がらないので元金は実質目減りする ことはなく、むしろ利息が上がるので住宅ローンなどの多額の借金 を返済できなくなり自己破産するケースも出てくるだろう。そして 、一番皮肉なことは、日本が財政破たんして一番困窮する人々の多 くが消費税を上げることに反対しているというのが現実である。

この後で、岡田副総理のお話が始まったわけだが、この方の話は、 本当に全く面白くも何ともない。政治家であるのに夢も希望も語ら ない。冷静に厳しい現実を淡々と語り、それに対処する、ご自身 の決意を述べるだけである。私達、話を聞きに来た聴衆に対して 全く媚びない。こんなに淡泊で冷徹な政治家が居るのかと思うほどである。

しかし、私達のような民間企業が倒産の憂き目に陥った時の、 CFO(最高財務責任者)の立場になられる方としては、まさに 適任である。会社の経理や財務を預かるCFOが、社員のご機嫌 をとっていたら会社は潰れる。社長に対しても、社員全員から嫌 われるような決断を迫るのもCFOの役目である。根拠に乏しく ふわふわした投資計画を拒否するのもCFOの役目である。この 日本が、倒産寸前の企業だとして、岡田副総理が、そのCFOだ とすれば、昨晩の岡田副総理のお話は全て納得がいく。

例えば、韓国のようにインフラ商談を官民一体で推進して欲しい という経済界の要望に対しても、「韓国の大統領が輸出原発の6 0年間保証を国が行うと宣言していることを、羨ましいと思うの ですか?私は、危ういと思います。60年後の国民や政権に、そ のリスクを押し付けるようなことは私は出来ない。」と仰った。 なるほど、言われてみれば、全く納得する話である。

私も、「税と社会保障の一体化政策で悩まれている問題に関して は、共通番号を早期に導入して、全体システムとして動かさないと 効率的な弱者対策は出来ない。また低所得者への消費税の還付や、 消費税の確実な納付に関して韓国は大変進んでおり、電子政府 に関して韓国からもっと学ぶべきではないか?」と進言したの だが、「38度線を抱えている韓国民の安全保障意識を日本に 求めても無理だ。我々はグリーンカードの導入を焦ったことで 大失敗をした。日本国民は、年金問題など、共通番号がないこ とで大きな損失を蒙っても、未だに共通番号導入反対の動きが ある。今回は、確実に導入を行うために、ぜひとも慎重に進め て行きたい。」との回答。なるほど、全く仰るとおりである。

岡田副総理は、私達、経済人に対して厳しいだけでなく、 全てに厳しい。公務員の総人件費20%削減には並々ならぬ 決意をお持ちである。先ほど人事院の65歳までの定年延長案 を真っ向から反対された。「民間企業の殆どが60歳で一度 定年とし退職金を支払い、それ以降は1年ごとの別契約で、 65歳まで逐次更新としているのに、公務員だけ65歳まで 一律に定年を伸ばすなんてとんでもない!」全く仰るとおりである。

そして、今、大きな議論になっている大飯原発再開問題に関し ては、次のようにコメントされた。「政府としては原発再開を 支援するために出来るだけのことはする。関西電力の原発依 存度は極端に大きいので、福井県の原発が再開されない場合 の関西経済に与える影響は計り知れないからだ。それでも、 3県の知事が皆さん反対されるのを無視して運転再開を強行す ることを政府が容認することは出来ない。運転再開には、あ くまで地元の理解が必要である。」地域の問題は、地域の意 思で判断すべきで政府が介入すべきでないと突き放している。

この問題で、大阪市の橋下市長も反対されていることに触れて、 「先週、関西に行ってきたが、橋下さんは、府知事時代から、 市長の現在に至るまで、関西経済界(関経連)とは全く会話 されていないようですね。それで、よく(府政、市政が)出 来るなと思いましたね。」

確かに、国や地方自治体が巨額の資金を出して経済活性化を していた時代はとっくの昔に去った。今や、国も地方もお金 が全くないのだから、民間資金を如何に有効に活用して経済 の活性化を図るしか方策がない。そのための規制緩和なり、 支援立法措置なりをするのが政治の役目である。それもこれ も『全く会話がない』のでは、やりようがない。大阪都構想 に浮かれている中で、関西経済圏の地盤沈下は原発再開問題 も絡んで、一層悪化するのではないかと危惧される。

そして、岡田副総理は野党に対しても大変厳しい。「民主党 が2つに分裂していると非難されるが、自民党は4分5裂で 、一体誰と交渉してよいのかすらわからない。本音は、民主 党政権の時に消費税問題を片づけて欲しいと思っているのだ ろうに」と、この方は、誰に対しても一切媚びない。だから 、永田町ではあまり人気もないのだろう。

昨晩の岡田副総理との懇談会は、税と社会保障、及び行政改 革という、現在の岡田副総理の担務の関連に終始したが、 最後に経済界からの要望は、エネルギー問題に集中した。 エネルギー問題は、現在の経済界の最大の悩みである。もっと ハッキリ言えば、日本の経済界の首脳は、もう半分以上は諦 めている。特に電力のコスト問題と安定供給の問題である。 「これが早急に解決されないなら、もう皆、日本から出て行 きますよ!」と言っているのだ。電力コストは企業活動の持 続性に最も重要な要因である。昨日参加した各経営者たちは、 岡田副総理に対して電力政策の早期決断を促していた。

131 21世紀のエネルギー安全保障政策

2012年4月6日 金曜日

4月3,4日の両日に行われた日本・EU BRTの中で、前IEA事務局長の 田中伸男氏に『21世紀のエネルギー安全保障政策』という演題で講演をして 頂いた。日本の経済人だけでなく、EUの政・官・財界の方たちも田中氏の 解説には感心して聴いておられた。もちろん、私もその一人であり、その田 中氏講演の一部を皆様にご紹介したい。

ちなみにIEAとは石油を消費する先進国の同盟で、石油を生産する途上国の 同盟OPECとは対極の関係にある国際機関である。以前、ダボス会議にて田中さ んとお会いしたときに、自身の最大のミッションは中国にIEAに加入して もらうことだと話しておられた。これからの議論にも含まれるが世界最大 の石油消費国となる中国が加盟していないIEAはあまりに中途半端である。 しかし、中国はIEAは先進国の集まりであり、中国は未だ途上国なのだから IEAに入る資格がないと固辞し続けている。中国は、地球温暖化対策を意識 し、少なくともエネルギー問題に関しては、しばらくの間、途上国の側に居 たいのだろう。

さて、田中さんは、このエネルギーの安全保障の問題に関して、日本を含む 世界が、どのような不確実性を抱えているかについて判り易く論じられた。 不確実性の第一は『アジアの成長』である。2035年に向けて、日本や欧 米が自動車保有台数を減らすのに対して、中国を含むアジア、インド、中東 は大幅に自動車の保有台数を増やしていく。それに伴い、2035年に向け て、日本や欧米が石油輸入量を大幅に減らしていくのに対して、中国を含む アジアは大幅に石油や天然ガスの輸入量を増やす。中国は、2035年には アメリカを抜いて、世界最大の石油輸入国となる。

第二の不確実性は、中東の政治体制、とりわけイランのホルムズ海峡封鎖は どんどんリアリティを増している。世界的なエネルギー需要からみると、こ の海峡の封鎖で石油の20%、天然ガスの30%が影響を受ける。とりわけ、 日本は石油の85%、天然ガスの20%が影響を受け、これに原発の再稼働 が見送られると深刻なエネルギー不足、電力不足が生じ、日本経済に大打撃 を与えることになる。特に、アメリカは自国のシェールガス増産の影響で、 従来に比べて大幅に中東依存度を減らしているので、イランに対して強硬姿 勢を崩さない構えで、ホルムズ海峡封鎖は一層現実的になっている。

第三の不確実性は、シェールガス革命が世界のエネルギー需給に、どのよう な変化をもたらすかである。2035年で見ると、やはり天然ガス生産量の 第一位は、ロシアで、これは不動である。ロシアに肉薄した第二位に上がってく るのはアメリカで、やはりシェールガスはアメリカのエネルギー需給に一番 大きな影響を与えることになる。中国もシェールガス革命の恩恵を受けて 2035年にはイランやカタールを抜いて世界第三位の天然ガス産出国になる。 しかし、2035年の中国の天然ガス需要は、現在の5倍にまで伸びるので、 自国のシェールガス産出が大幅に伸びても全く足りず、天然ガスの輸入量は 現在の20倍にまで伸びる。

第四は、ロシアの役割に関する不確実性である。ロシアは、シェールガス革 命の恩恵も受け、2035年にはアメリカと並んで、現在以上に天然ガス 生産超大国になるが、これまでのように欧州市場の需要家は、ロシアの旺盛な生産能力を 使いきれない。従って、ロシアは天然ガスビジネスの焦点を中国や日本など 東に向けて転換してくるだろう。

第五の不確実性は、福島第一原発事故が世界の原発開発に及ぼす影響である。 途上国、新興国での原発開発は殆ど影響を受けないと思われるが、先進国で は原発依存度を減らしてくる国が増えるだろう。特に、脱原発を宣言した ドイツは、その代替として天然ガスに大幅に依存せざるを得ない。原発が、 これからの世界のエネルギー問題に与える影響は極めて大きいと思われる ので、日本においても冷静な判断が望まれる。福島第二や、女川など、大震 災の時には、福島第一とほぼ同じ災害を受けながら、何ら問題を生じなかっ たことを良く見極めると、福島第一原発事故は、明らかに未然に防ぐことが 出来た人災であったと考えることが出来る。

第六の不確実性は、再生可能エネルギーと電力グリッドの問題である。 欧州は多国間の電力相互融通が極めて大規模に行われており、こうした観点 から見ると、日本の9電力会社の相互間の電力供給融通は余りにも貧弱である。 今後は、欧州とアフリカ間、ASEANにおける大規模な国際間電力相互供 給体制の整備が始まっており、日本においても9電力会社間は当然のことと して韓国やロシアを含む多国間相互電力供給グリッドの整備を検討していく 必要がある。再生可能エネルギーは電力買取制度(FIT)によって一時的には促進されるだ ろうが電力コストの大幅な上昇によって経済的な負担は大きいことを覚悟 すべきである。従って、再生可能エネルギーの推進だけでなく、電力グリッ ドの大幅な整備と体制変革が同時に行われなくてはならない。

最後に、エネルギー問題における最大の不確実性はOn-Off-On- Offと猫の目のように変わる各国政府のエネルギー政策である。ドイツもスペイン も、かつて高額のFITによって太陽光発電が目覚ましく普及した が、今や、両国政府は、その経済的負担に耐え切れなくなってFIT政策 を大幅に見直しせざるを得なくなった。そのため、両国とも太陽光発電設備投資は殆ど行われ なくなり、また、これを見た世界各国も多額の投資を必要とする太陽光発 電には、皆、二の足を踏んでいる。その結果、中国を含む世界中の太陽電池メーカーが深刻 な過剰在庫問題に陥っている。こうした政策の一貫性の欠如が、再生可能 エネルギーへの投資意欲を一層鈍らせる。

田中さんは、自分は何十年も海外で働いてきたので、多くの日本人からは、 『あの人は外人だから、日本のことが、よく分かっていない』と言われ るそうだ。だから、何を言っても責められることがない。その分だけ、自分が正 しいと思っていることを正々堂々と言えるのだと仰っておられました。 こうして聞いてみると、確かに田中さんが言っておられることは、殆どが 正論で、しかも、世界中のエネルギー政策の失敗も沢山見て来ているので、 大変参考になることが多かったように思う。