2012年2月 のアーカイブ

120 地域起点で日本再生

2012年2月29日 水曜日

この「地域起点で日本再生」は、私が今月、青森、仙台、福島の各地で講演を してきたテーマである。別に、地方の方々向けに受けようと、わざわざ作ったテーマでも 何でもない。本気で、そのように思っている。その本気が伝わっているからこそ、 聴衆の方々も真剣に聴いて下さっているに違いない。今日は、これから福島(郡山)に向かう 前に、なぜ、私が、そう思うかについて少し語ってみたい。

一つは、これから日本は大企業の力だけによって再生することは難しいように 思っている。経団連の産業政策部会長をさせて頂き、日本を代表する大企業の 方々の戦略を聞かせて頂いて、さらに、その思いを強くしている。実際、今の 日本の企業は金余り状態にある。メディアでは、困っている企業の話は、頻繁 に報道されるが、儲かっている会社の話はあまり出ない。儲かっている人たちは ダンマリを決め込んでいるからだ。

日本の企業の余剰流動性預金は何と200兆円もあると言われている。そして、その なかで、いわゆる大企業の余剰現金は30%の60兆円しかない。残りの140兆円は、 中堅、中小の企業群が保有している。ただ、これは反面、大きな問題でもある。つまり 大企業は積極的に成長市場である海外に投資しているので、余剰資金を沢山持ってい ない。一方、中堅、中小企業は余剰資金の投資先を見つけられないのだ。海外は 、ちょっと怖くて出ていけない。確かに、大企業でさえ手を焼いている新興国市 場など下手に出ていこうものなら大やけどをする。しかし、投資余力と言う意味では 中堅、中小企業の方が遥かに高い可能性を持っている。

そして、これまで日本を支えてきた巨大エレクトロニクス企業の困窮は目を覆う ばかりである。省電力を謳うエコ製品の振興政策により、需要の先取りをした反 動とは言え、不調なのは国内市場だけではない。DRAM、液晶、TVという 従来、日本が得意としてきた安くて品質の良い製品を大量生産するという産業 領域では、韓国、台湾、中国との戦いで勝算を見出すことは困難のように見える。 日本を代表する消費者向けエレクトロニクス企業であった、パナソニック、SONY、 東芝、日立、シャープといった企業は、世界レベルでも巨大企業であった。これ だけの巨大企業が日本に集中していたというだけでも本当はミステリーだった。

ところが、中国やインドなど人口が巨大な新興国の中間層が伸長してくると、 「巨大企業」規模の定義が変化した。中国山東省の青島で見た、ハイアールの 工場の巨大さは驚くばかりである。とにかく地平線の彼方まで工場の敷地が 続いていると思えるほど巨大である。冷蔵庫の生産でも、年間数千万台を出荷 するという。1日10万台以上製造する勘定になる。こうなると、日本の大企業も もはや「大企業」ではない、「中小企業」である。その上、デジタル革命は、製品の品質 バラつきを極端になくしてしまった。要は、誰が設計しても、誰が組み立てても 同じような品質のものが大量に出来てしまう。

一方、欧州経済危機の中で一人勝ちのドイツはGDP当たりの輸出比率は50% 近くあり、日本の3倍以上であるが、このドイツ経済を支えている輸出企業の 大半は中堅、中小企業である。彼らは、最先端のR&Dには投資しない、身の丈に あったR&D投資しかしない。そして、狙う市場は、台湾や韓国が目もくれない ニッチな市場である。しかし、世界シェアは60%以上、だから利益率も極めて 高く50%の利益率など普通である。つまり、東アジアの国々と血眼になって レッドオーシャン市場で戦うという無駄なことをやめたのだ。

イタリアも同様である。イタリアは先進国のなかで日本に対して貿易黒字を誇る 数少ない国である。彼らは、さすがローマ帝国の末裔、「大量生産」そのものを 馬鹿にしているのだ。そんなことは、帝国の末裔がする仕事ではないと言う。 そして、イタリアの各都市はローマを経由しないで、世界市場に直結したビジネス を独自に行っている。イタリア人はローマにある政府など眼中にない。7%の利率 に近づいたイタリア国債を心配している人がいるが、そんな心配は無用である。 イタリアの地下経済は統計に出ている、つまり納税対象になっている地上経済の 2倍の規模を誇っている。だから、イタリア人にしてみれば、誰が首相になって も全く関係ない。

日本だって同様である。各地域に素晴らしい臥龍企業が多数あることは、東日本大震災 の直後に世界のサプライチェーンが止まったことが既に証明している。こうした臥龍 企業は、何も東京なんて気にしないでイタリアのように世界市場で直接勝負すれ ば良い。ところが、例えば東北地方で優れた技術を持った臥龍企業は、大企業の 下請けとして薄利のビジネスを強いられてきた。いつも東京の大企業を向いているのだ。 これまでは、それで良かった。日本の大企業が世界で活躍するのを、ひたすら後追 いしていれば良かったからだ。ところが、その親方の大企業が躓いたら、臥龍企業 でさえ一たまりもない。だからこそ臥龍企業は、その高い技術力を武器にして 、自ら世界市場に打って出る時が来た。

もう一つ、私が懸念していることは、日本の成長を妨げている、数多くの規制で ある。これらの規制は、既得権者の利益を保全してきたのだろうが、その利益に しても国内市場の低迷で、従来のような旨みは既にない。だから、規制は一方的 に日本の成長を阻んでいるものと言える。一昨年、昨年と内閣府の規制改革制度 分科会に参加してみて分かったことは、霞が関の官僚は、それほど規制の保持に 拘っているわけではないということだ。日本には、大変便利な局長通達や課長通 達など超法規的とも思える規制緩和手段がある。これを使えば、法改正などしな くてもかなりの規制は事実上、無力化することが出来る。

ところがである。この規制で苦しんでいる業者が一番困っているのは、霞が関の 官僚ではなくて、規制の許認可権を持つ地方自治体の首長である。彼らは極めて 保守的で、霞が関が大丈夫だと言っても頑として譲らない。想像逞しくして 考えると、その規制除外を許したことを後世に批判されることを恐れているのか 、あるいは、特定業者と癒着していることを疑われるのが怖いのか、ということ なのかも知れない。でも、それで地域の発展が阻害されるのは余りにも勿体ない。

首長一人の判断に委ねることは難しいのであれば、地域の住民を巻き込んで協議会 でも作り、住民主体で規制緩和、構造改革を実行すべきである。国の借金が1000兆円 を超えそうな今、国にはもはや、お金がない。まさに日本の再生は、霞が関から地方 に降りてくるものではなくて、地域の首長が地域の再生のために、自らのリスクを とって規制を撤廃するために率先して働かなければ、地域の再生はあり得ない。ひいて は日本全体の再生もあり得ない。今後とも、そのことを日本各地で訴え続けていきたい。 来月は被災こそ免れたが事実無根の風評被害に苦しんでいる山形に行く。

119 三陸沿岸の被災地を巡って

2012年2月25日 土曜日

先週、車で仙台から東北自動車道を通って一関まで行き、そこから沿岸部に向かった。1時間半ほど走って、最初に訪れた三陸沿岸部の被災地は陸前高田市だった。そこから大船渡市、釜石市、大槌町へと沿岸部に沿って被災地を回って行った。帰りは、大槌町から一度釜石市へ戻り、そこから山の中を2時間近く走って盛岡市に到着。盛岡から東北新幹線で東京まで帰って来た。

最初に、巡回ルートの話をしたかったのは、仙台や盛岡など東北地方の中核都市から三陸沿岸の被災地は、あまりに遠いということだ。当社でも、三陸沿岸部の被災地支援のためには、海岸部に何らかの拠点を設置しないと手厚い支援は無理だという認識が高まっている。実際、一関から陸前高田、釜石から盛岡を結ぶ東西の道路脇には、三陸沿岸部に向かうボランティアのための食堂や雑貨屋が何軒も営業している。一時は、こうした店舗も賑わったのかもしれないが、殆どのボランティアが引き上げた今は、そうした店舗も閑散としている。

震災直後に石巻を訪れた時に感じたことは、土埃と魚の腐った匂いと多数のダンプカーが引き起こす喧騒だった。停電で光らなくなった信号の交差点にはトラック渋滞を交通整理する警官とパトカーが沢山居た。ボランティアの方々の姿も多数見られて、とにかく、被災現場では異様な活気があった。しかし、今回訪れた各地は、ガレキは既に整理されて海岸線近くの一時保管場所に運ばれていた。その結果、海岸部は広々とした荒涼たる空地になっている。海岸線近くの土地は沈降して、海水に浸っている。そして、この海岸部の広大な平地にはトラックもダンプも人の姿も殆ど見られない。

しかし、こうした海岸部の土地の向こうに見える海や半島、そして島々は昔と何も変わっていない。その景観は、あの忌まわしい大津波が襲って来たのが嘘のような美しさである。大震災から、もうすぐ1年経つ今、こうした景色を見ていると「風評より風化が怖い」と言う被災地の方々の懸念は良く理解できる。もともと、この三陸沿岸部は美しく豊かな町だったのだ。

それでも、陸前高田の一本松を見た時には何とも哀しくなった。ガレキが、うず高く積まれた山の向こうに、たった一人で孤高に立っている一本松。7万本の中から選ばれた松なのに、選ばれた恍惚さや誇らしさは全く見えなかった。そう、彼の仲間が京都の大文字焼きに参加するのを断られたことを思い出した。そう言えば、この一本松の周囲に積まれているガレキも日本中から受け入れを拒否されている。結局、TVで熱く「絆」などと言っている人たちも、所詮、自分達に関わらない範囲で協力するというリップサービスにしか過ぎない。そうした日本人の意地悪な性格を、この高田の松原跡地に展開する構図が語っている。

釜石。少し高台にある新日鉄の威容は、やはり凄い。全く被災していない。震災後、新日鉄釜石事業所は、総発電能力の半分近くの20万キロW近くを東北電力に提供した。これは岩手県の家庭電力需要の40%近くになると言う。つまり、新日鉄釜石が総力を出せば岩手県の全家庭の電力需要を賄えることになる。日本の製鉄会社とは凄い実力があるものだ。さらに、この釜石市の特徴は市街地の建物の殆どが鉄骨で作られていることだ。さすが、新日鉄がお膝元にあるせいか、市民は鉄骨で住宅や店舗を作っていた。こうした鉄骨住宅の骨組みが津波の後にも多数無事に残っている。1階が津波に壊されたまま、2階で暮らしている家が沢山ある。釜石だけで見られる大きな特徴である。

最後の大槌は一番悲惨な被害を受けた町だ。大津波は大槌の町役場だけでなく指揮をとっていた町長の命までも飲み込んでしまった。しかし、木造プレハブで作られた仮設町役場は活気があった。建物が小さいだけに全てが凝縮されている。よく大きい政府とか小さい政府とか言うが大槌町は明らかに小さい町役場である。でも、行政とは本来、こういうものではないかとも思った。ホテルのロビーのような豪華な役場の玄関の方が異常ではないか?と、そう思うのは私だけではないだろう。しかし、この何もかも津波に流された大槌町で、しっかり残ったものがあった。大槌湾にぽっかり浮かぶ小さな島、蓬莱島である。ひょっこりひょうたん島のモデルと言われる、この島は、島の上にある社のようなものまで、しっかり残っている。

釜石では、コンクリートの巨大な防波堤が無残に壊されて、バラバラになって横たわっているのに、大槌町の、この小さな社を載せた小さな可愛い島は、しっかり、そして、しなやかに津波の力に耐えて残っている。どういう街づくりをするか、各地の被災状況をじっくり観察して考えるのも重要だと思うし、何よりも、どうしたいか?という住民の気持ちが一番大事であることは言うまでもない。

118 放射線による、がん治療

2012年2月23日 木曜日

 

今夜は人間ドック入院初日の晩である。明日に一部の検査が残っているが、主要な検査は今日殆ど終了した。昨年から指摘を受けている心臓の冠動脈一部石灰化を除けば、他は全く問題がないようだ。4年前に、このドックで前立腺がんが見つかって、今、冠動脈の問題を指摘されているので、まことに畏れ多いことであるが、天皇陛下の後追いをしているようでもある。私にとって、陛下の存在は、まさに健康に生きるための素晴らしい目標となっている。

さて、その前立腺がんは、今日もPSAが0.1と、ほぼ心配ない状態までに落ち着いたが、4年前のPSAは4.2で、正常と異常のギリギリであり、 触診でも、超音波でも、CTもMRIでも外観上では全く異常は見つからなかった。それでも、医師である弟が、「大物政治家や、著名な経済人は、その値でもキチンと治療をしている。いずれPSAがもっと高くなるとがん細胞は確実に見つかる。」と言うので私も躊躇なく治療開始を決断した。

かつて、私が尊敬するインテルのアンディグローブCEOが前立腺がんになった時、彼は、未だ始まったばかりのインターネットを使って最善の治療法を見つけたと言う。それを参考にして、インターネットは勿論、医学専門書や複数の専門医の意見を参考にして私が決めたのが放射線治療だった。この時、放射線に関しても随分勉強したつもりであるが、これは自分に対処するための知見であり、福島県で被災された方々に放射線の助言や指導を行うなどは、もってのほかだと思っている。しかし、それにつけても毎日、メディアが報じている放射線の知識は余りに一方的である。

結論から言えば、私は放射線治療が最善のがん治療法だと思っている。アメリカではがん治療の7割に放射線治療を用いているのに対して日本は3割に留まっている。私の主治医は「残念なことに日本人は放射線を殺人光線だと思っていますからね」と言う。何が残念かと言えば、そのために助かる命が無為に失われているからだ。私の放射線治療は小線源と言う放射線を帯びた金属の針を患部に永久挿入する内部被曝手法と複数の角度から患部に放射線を浴びせる外部被曝手法の両方を用いたが、この外部被曝の総量は5,000ミリシーベルトにも及んだと、つい最近、知って驚いた。しかし、これでも日本は少ない方で、アメリカでは10,000~15,000ミリシーベルト浴びせて完治させることを狙っている。

そもそも何で放射線が、がん治療に効くかと言えば、がん細胞は正常細胞に比べて異常増殖するので頻繁に細胞分裂を行うからだ。一般に細胞は細胞分裂を行う時は甲殻類が殻を脱ぐ時と同じで放射線に対して脆弱性が高い。特に、がん細胞は放射線によってコピーミスしたDNAの欠損を復旧することが出来ないので死んでしまう。一方、正常細胞も分裂している時は放射線によりDNA欠損を起こすが、がん細胞と異なり殆どが24時間以内に復旧する。DNAの二重螺旋は、欠損を修復するための冗長情報を保全するためにある。近年、放射線によるDNA欠損を観測するのにショウジョウハエが用いられてきたが、ショウジョウハエはDNA修復機能が著しく脆弱な特殊な生物であることが最近知られてきた。

幼児や子供は成長のための新陳代謝が激しいので大人より頻繁に細胞分裂を起こしているので放射線に対する脆弱性が高いと言われており、その脆弱性は年齢の3乗から4乗に反比例すると言われている。従って、今回の放射線汚染については、まず子供を最優先に守るべきである。大人は、過度に放射能汚染を心配する位なら、むしろ喫煙の方により神経を使うべきである。成人してからも、放射線に対して異常な潔癖性を保ちたいのであれば、がんを発症した時には決定的に有効な治療法を失うことになる。

福島第一原発事故は本当に不幸な出来事であった。放射能汚染については、常に最新の情報を共有し、細心の注意を払うべきであり、特に子供に対しては、いくら注意しても注意しすぎるということはないだろう。しかし、この過度の放射線に対する恐怖心からがん治療に対して放射線治療を敬遠することだけは、ないようにして頂きたい。そして、放射能を理由に無根拠な差別は絶対に謹んで頂きたい。野球人生の最後に巨人軍で活躍された張本勲さんは巨人軍を退団するまで被爆者であることを長い間隠されていた。一方、宇宙で130ミリシーベルトもの被曝をされた後、無事健康で立派な女の子を出産された、山崎直子宇宙飛行士の科学者としての見識と勇気には拍手喝采を送りたい。