2012年1月 のアーカイブ

107 日本の政治ジャーナリストって何?

2012年1月5日 木曜日

私の講演の80%は、富士通が各地域で開くTOPフォーラムと称する勉強会だ。 地元の、お役所、企業、学校のイグゼクティブにお集まり頂き、お話をさせて 頂く貴重な機会である。たいてい、私と、もう一人社外の講師の方と、ペアで 講演することが多い。そして、私は、必ず、その講師の方の講演を聞かせて頂く ことにしている。やはり、自身の業界以外の方のお話を伺うのは、自分の視野を 広げるのに大変役立つものである。しかし、90%以上の方のお話に感動する 一方で、一部の方の、お話には、残念ながら、今日は聞いていて時間の無駄だっ たなと思うことも時々はある。

今日、お話する方とは、昨年末に長崎でご一緒だった、高名な政治ジャーナリス トの方である。実名をあげるのは問題なので、ここでは仮にG氏としておこう。 実は、私はG氏の講演には、大きな期待をしていたのだ。TVにも良く出演され るし、いつも冷静でまともな意見を述べられる。外観もハンサムで品の良い方で ある。永年、永田町で政治部記者をされていた割には、ギラギラしたところが 全くない。G氏を選んだ事務局の判断に間違いはないし、むしろ、ご多忙の中で 良くご都合をつけて来て頂いたと感謝するほどであった。

当日、このTOPフォーラムに来られていたお客様も私と全く同じ期待を抱かれ ていたに違いないのだが、お聞きになっていたお顔を拝見するに、私と同じ落胆 の様子が見て取れた。それは、一体、なぜなのだろうか?

G氏の話は、私たちが新聞やTVの報道では窺い知れない永田町の裏話が中心で あった。民主党、特に、小沢さん、輿石さん、仙谷さんなどの与党幹部連中と、 野党である自民党の幹部連中の間の話であった。G氏は、それらの話を、まさに 信長、秀吉、家康が活躍した戦国時代の国盗物語よろしく、楽しそうに語るのだ。 それが、聴衆にはさっぱり面白くない。もう、日本国民は政局の話にはウンザリ しているのだ。「誰が首相になっても良い。要は、この国を何とかしてくれ!」 国民の気持ちはそういうことだろう。

しかし、40年近く、永田町という狭い地域で政治部記者をやっていると、世の 中が見えなくなるのだろうか。一般大衆の気持ちから大きく乖離してしまっている。 日本の新聞やTVでの政治関連の報道は、記者クラブに所属する政治部記者が、 定期的に開催される記者会見から行われている。いわゆる政府の公式見解が記事 の主題である。そういう意味で、日本の新聞報道は、こと政治問題に関する限り は、北朝鮮の報道と、報道スタンスにおいては、そう大差がない。だから、有能な 新聞記者は、新聞に書けない記事をアルバイトで週刊誌に投稿している。日本で は週刊誌は、何を言っても良いことになっているし、署名記事にはなっていない から誰が書いたかわからない。匿名記事は責任追及がなされないから安全だ。 そして、政治部記者にとっては、よい小遣い稼ぎである。

そうした新聞に書けない裏話をメモにしておいて、講演会のネタにも使えると いうわけだ。昔、池田勇人首相や田中角栄首相など、日本が高度経済成長を成し 遂げていた時代には、こうした政治の裏話は、きっと面白かったに違いない。 当時の政治家は、随分と危ない橋も渡っただろうが、記者達に天下国家を論じて 語る様は、ダイナミックでスケールも大きかったに違いない。それが、小沢グル ープにおける幹部連中の裏話など聞いていても、さっぱり面白くないのは当たり前だ。

それより、むしろ今の政治部記者連中は、政治家の隙を狙って、オフレコでの失 言を耳を澄まして聞いている。語る方のスケールも小さくなったように聞く方の スケールも小さくなった。日本の政治が、永田町と霞が関という小さな領域だけで 通用する矮小な論理で行われているからこそ、「政治ジャーナリスト」の話が さっぱり面白くないのだ。講演が面白くないのは、決して政治ジャーナリストG氏のせいではない。

106 2012年の世界経済はどうなるのか?

2012年1月2日 月曜日

2011年12月26日発行のBUSINESS WEEKを見て、私は大きなショックを受けた。これまで世界経済を牽引してきた中国経済が異変をきたすというのである。その兆候は次の3つ。まず最初は、昨年10月の欧州から中国への発注が、9月に比べて22%も減少したことだ。これまで欧州の消費者は、経済合理性から自国の製品よりもMADE IN CHINAを選んできた。欧州経済危機により、人々の生活は苦しくなっているから、本来ならMADE IN CHINAは、一層もて囃されるはずだったが、何しろ、今の欧州には貿易決済に使う外貨(ドル)がない。そして中国も出来れば日々目減りするユーロで代金を受け取りたくもない。

第二は、中国のミリオネア(富裕層)の60%が、真剣に海外移住を考えているか、既に実行に移しているということだ。彼らは、もう中国経済の成長力を見限ったのだろうか? あるいは、今年交代する新政権が、是非とも、取り組まなければならない大命題が、「汚職による不正蓄財の防止」と「格差の是正」にあることを知っているからだろうか? 政府が、これらの問題に真剣に取り組まないと、中国も、何時、北アフリカになるかわからない。そうだとすると、もはや、富裕層達には、これまでのような「旨み」が期待できないので、国外脱出を決めたのだろうか?  どちらにしても、今の中国を精力的に牽引してきた富裕層が一斉に国外に脱出することで莫大な富が中国から失われるに違いない。もはや、既に失われているという話もあるが。

第三は、今年1月ー3月の中国の貿易収支が$28B(2兆円)の赤字になるということだ。 2008年には年間$300Bの黒字を出した中国の輸出競争力は、どうなったのだろうか? 多分、中国の競争力の問題ではなくて、中国が輸出していた相手国側の経済事情によるものであろう。アメリカも欧州も、そしてブラジルやロシアなどの新興国までが、中国から大量にMADE IN CHINAを輸入するだけの余裕資金を持ち合わせていない。それにしても、世界の貿易収支の黒字を、ほぼ独占していた中国が赤字に陥るというのは、大きな異変である。

もちろん、中国政府も、ただ手をこまねいているだけではなく、40兆円規模の国費を投じて1、000万戸の低所得者向け住宅(保障住宅)を建設して、内需振興による中国経済の活性化を図ろうとしている。 しかし、このために中国は、さらに大量の鉄鉱石などの建築素材を輸入しなければならない。そして、とどまる所を知らない中国の生活レベルの向上は、さらに大量の食糧とエネルギーを必要とし、ここでも輸入は、さらに増加する。これまで、世界の外貨準備を一手に溜め込んできた中国が、今後、一気に外貨不足に陥ることも、決してあり得ない話ではない。

2011年アメリカで最も読まれた本の題名は「大停滞」だった。この本の著者タイラー・コーエンは、高度経済成長の後には必ず「大停滞」が来るのだと言う。もはや、アメリカも欧州も、これからは「日本の失われた20年」を嘲笑することは出来ないのだと彼は断言する。さらに、今後、中国もブラジルもロシアも、未だ完全に先進国の仲間入りをする前に、日本が経験したのと同じ「大停滞」に陥るのだと言う。つまり、高度経済成長とは「果実の先取り」によって実現されているもので、この成果の後には必ず、「大停滞」がやってくるのだそうだ。

我々日本は、そうとは知らずに、何とかすれば、この「大停滞」から抜け出せないかと、20年間も、もがき続けて来た。この「失われた20年」の間に、将来世代に莫大な借金を背負わせることにより、辻褄を合わせようとして来たのだった。つまり、世代間の所得移転によって、存在もしない「内需の振興」を追い求めてきた。70年代に怒りをぶちまけた、我々全共闘世代とは違い、今の若い世代は大人たちが、自分たちの将来の所得を蝕んでいることに大きな怒りを覚えることはなかった。もちろん、いつも政局だけを話題にして政策論争をひたすら隠してきたメディアの責任もあるだろう。

この2012年には、もっと冷静に「大停滞」の時代に真っ正面から向き合い、企業人としてよりも、むしろ市民として、何をするべきかを明確にする必要がある。次の選挙のことしか考えていない政治家には、もはや大きな期待は出来ない。現実を冷静に見つめ、あり得ない夢を見ることはやめよう。もう株価は、昔のように、そう勢いよくは上がらない。株や債券に投資しても、もはや、大きな儲けは期待出来そうにない。だから、年金の運用も、今までのような利回りは全く期待できない。

そういう時代に、世の中に受け入れられるビジネスとは、人々が本心から願っていることを具現化する、リアルなビジネスである。つまり、世界経済の動向を考えること以上に、まず自分の身の回りに起きていることを真剣に考えることが重要ではなかろうか。