2011年9月 のアーカイブ

81 アジアビジネスサミット

2011年9月30日 金曜日

昨日、経団連会館で行われた第二回アジアビジネスサミットに参加した。ランチタイムには玄葉外相、枝野経産相、夕方の記者会見とパーティには野田総理大臣も参加された。私は、この会議には昨年の第一回に引き続き、経団連・産業政策部会長として経団連メンバーとして参加させて頂いている。

この会議は、日本、中国、インド、韓国、台湾、フィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアと、経済成長という視点からは、日本を除いて、世界から注目されている国々の経済団体のTOPが参加する会議で、昨年に引き続き日本で第二回目が開催された。

昨年も同様だったが、一般的な国際会議と少し違う様相を見せている。第一は、暗い話題がないということだ。殆どの参加国の経済が成長途上にあることで、全てが前向きの議論に終始する。そして、二番目はアジアの各国にとっては、かつての目標であり、先達でもあった、アメリカや欧州の国々が参加していないことにある。だから、皆、少しも臆することなく伸び伸びと意見を述べられる雰囲気にある。さらに、第三番目は、これは私の個人的な感想だが、日本が参加各国から信頼され、リーダーシップを期待されていたことだ。

誰が見ても、アジアの大国は、日本を抜いて、今や世界第二の経済大国になった中国である。その中国が、現在、東シナ海から南シナ海へと覇権を確立するための軍備拡張を行っていることに対する、アジア各国の恐怖感があるのだろうか。中国を牽制し、中国にリーダーシップを取らせないために、日本に「頑張れ」とエールを送っているようにも見える。中国の代表も、そうした会議の雰囲気を意識してか、極めて友好的な意見に終始していた。

いずれにしても、従来、ある意味で頼りにしてきた、米国や欧州の経済・財政危機は、例えば、ドルやユーロという決済通貨の乱高下で、アジア各国に大きな影響を与えている。特に、最近は、ASEANと東アジア、インドを含む域内の経済が活性化されている中で、欧米経済の混乱に巻き込まれたくないという意識が強くなってきている。1997年に起きたアジア経済危機の再来は、もう二度と御免蒙るというわけだ。そして、1997年当時と大きく違うのは、アジア各国が、合わせると莫大な外貨準備高を保有しているということにある。

こうした中で、少なくともアジア域内だけでも、ドルやユーロに左右されない、独自の決済手段を持ちたいという願望が各国から上がってきた。そして、その通貨とは、特定の国の通貨である人民元や円、ウオンではなくて、これらをバスケットした仮想通貨(ECUもどき)のものにしたらどうかという提案もあった。一方、この提案に対しては、ECUから発展したユーロが財政問題から危機を迎えているなかで、特に日本の金融界からは慎重論が出ていたが、何か、良い案を模索するという点では、皆、一致している。

そして、この会議の最大の目的は域内の経済連携促進にあり、皆が想定している当面の目標はASEAN+3(日本、中国、韓国)であり、ASEAN+6(日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド)であり、決して、TPPではない。しかし、アジア諸国は、アメリカ依存度が非常に高い日本が、TPPも出来ないのであれば、ASEAN+3も+6も無理だろうと懸念しているのである。会議中も、「日本はなぜTPPを円滑に進められない?」という質問が多くあり、大変奇妙な光景であったが、TPPを一番推進している経団連の米倉会長が、「大震災の影響で検討が遅れている」と日本政府を弁護することになった。

農業問題は欧米の先進国も全て同じ問題を抱えているが、国内の補助金で解決を図っている。先進国中で農業に補助金を出していない国は一つもない。つまり、農業問題は国内問題であって国際間で交渉する問題ではなくなっているのだ。日本の農業生産額は、たかだか五兆円であり、GDPのたった1%である。だから農業問題がどうでも良いと言っているわけではなく、残りの99%の産業が農業を手厚く支援したほうが、トータルとして日本の全産業で受ける恩恵は遥かに大きいものとなる。農業団体や農業議員がTPPを初めFTAやEPAなどの経済連携に対して反対しているのは、政府が直接補助金行政を行うと、自分たちの存在価値が希薄になるからだと考えられなくもない。農業を若い後継者達に魅力ある職場として環境整備するには、どのような補助金政策にするか、国民皆で議論すればよい。少なくとも、現在の戸別補償制度はそうなってはいない。

次に、アジアの人々が日本に対して高い関心を持っていたのが、今回の福島第一原発事故であった。アジア各国の経済団体から発表されたエネルギー政策は、表立っては、再生可能エネルギーを最大限利用するという方針が示されたものの、「脱原発」、「減原発」の話は全く出なかった。当たり前である。年率で10%近い電力需要の拡大をこなすには、当面は原子力発電以外の解はない。それだけに、アジア諸国は、高い技術力を持った日本が、あれほど酷い原発事故を起こしてしまったことに大きなショックを受けている。だからこそ、現実に事故を体験した日本に頼って、事故を起こさない原子力発電所建設の指導をしてもらいたいと願っているのだ。

そのほか、いろいろな議論がなされた中で、私が一番興味を持ったのは中国国際貿易促進委員会の干平副会長の次の言葉だった。つまり、「中国では社会インフラとはコネクティビティと同じ意味に考えている。道路や鉄道、港湾や空港は人と物のコネクティビティ。通信インフラは、情報のコネクティビティ。金融インフラはサービスのコネクティビティ。そして、経済連携という仕組みは、これら全ての共通インフラであり、人や物やサービスや情報といった全てのコネクティビティに貢献する。」さすが、中国の政策立案能力は世界一である。政策の中身の思想が綺麗に整理されている。

来年、第三回目のアジアビジネスサミットはタイのバンコクで開催されることが決まった。まさに、「アジアの時代」が到来してきた。せっかく、アジア諸国から大きな期待をされている日本が「コネクティビティ」を妨げるような役割を担うことがないよう、日本国内でのもっと成熟した議論を望みたい。

80 低迷する株式市場

2011年9月26日 月曜日

本日の日経平均終値は、欧州のソブリン危機を反映して、8374円と2009年4月以来の安値を記録した。世界経済の行く末を案じてだろうが、日本の株式市場は、何の理由につけても下げている。1989年12月29日に38,915円の最高値を付けた日経平均は、1990年の年明けから、今日まで20年間下げ続けている。もっとも、2000年3月31日には、米国発のITバブルに便乗して20,337円まで上げたし、2007年6月29日には、同じく米国の住宅バブルにも便乗して18,138円というピークを記録したこともある。でも、こうした米国経済への便乗も、所詮、便乗である分だけの値上がりしか出来なかった。一方、下げるときは、米国と同じ率で大幅に下げるものだから、日米の株価格差は広がるばかりである。

さて、NYダウに比べて日経平均が見劣りするように見えるが、それは仕方がない。日経平均が日本を代表する225社の平均なのに対して、NYダウは米国の超一流企業30社の平均だからだ。30社は常に入れ替えられ、ついこの間にはGMとAIGもNYダウから脱落した。長年保持し続けているのはGEただ1社だけだ。そして30社のうち、インテル、マイクロソフト、シスコの3社はNYSEではなくて、新興市場であるNASDAQから選ばれている。だから、日経225など、世界で一流のNYダウ30には敵うわけがない。

そのNYSEにしろ、NASDAQにしろ、いずれも、株式市場の本質的な存在価値に悩んでいる。つまり、人々が投資したくなるような優良企業は、皆、潤沢な現金を保有しており、株式市場から資金を調達する必要がない。むしろ、低迷する株価に業を煮やして、潤沢な余剰資金で自社株を買い取っている。自社株買いは、発行株式の希少化により株高を誘発するから、株主にも、そして、多額のストックオプションを配布される企業経営者にとっても好都合なので歓迎されている。しかし、よく考えてみると、株式市場は本来を企業が資金を調達する場であって、企業が資金を還元する場ではない。

そして、優良企業が増資によって株式市場から資金を調達することも最近は殆どなくなった。多くの優良企業は潤沢な現金を持っているのと、もう一つは、コンプライアンスが厳しい株式市場から資金を調達しなくても、銀行金利が安いので、必要なときは、銀行から低利な資金が簡単に調達できることもある。そして、株式市場の一番大事な役割でもあった、新興企業の新規上場が殆どなくなったことも、アメリカの株式市場の存在感を弱めている。新規上場(IPO)が大きく減った理由は、アメリカのストックオプション税制の改定である。起業家は、IPOで得た利益の大半を税金で取られるくらいなら、大手企業に売却して節税できる方を選ぶからだ。こうして、アメリカの株主は、将来成長する可能性のある有力企業の株を買うことが出来なくなった。だから株式市場の低迷は必然である。

こうしたアメリカの株式市場の悩みを、日本の株式市場はそっくり受け継いでいる。増資も、新規上場も殆どなくなった。それに加えて、昨今の長期株安市況である。日本の株価が絶頂期を少し過ぎた1990年3月における、日本の個人金融資産は総額で982兆円。現金預金が448兆円で46%、それに対して、株式は299兆円で30%を占めていた。それから20年後の2011年6月における、日本の個人金融資産は、なんと1,490兆円にまで膨らんでいる。まるで、20年間の日本の景気低迷、株式市場の凋落が嘘のようである。その中で、現金預金は828兆円まで増加し全資産の56%にまで上昇した。一方、株式は189兆円と100兆円以上も減ったので全資産に占める割合は13%までに低下した。それでも、13%もあるではないかと思われるかも知れないが、個人資産家は生株から株式投信へ移行させているので、個人金融資産の中で生株の占める割合は、一けた台の%と極めて希少となった。

こうした個人の金融資産ポートフォリオに関する現在の姿について、大手証券会社の経営幹部は極めて賢明な策だと評価する。これほど長期にデフレが続き、しかも最近は超円高である。銀行金利は殆どゼロだとしても、実質的な運用益は、他のどの運用よりも現金預金が優れていると言うのだ。これが、証券会社の経営TOPが言うことかと全く驚くしかない。さらに株式売買手数料の相次ぐ値下げという環境下にあって、証券会社は株式の売買仲介益には、もはや期待できなくなっている。むしろ、各社ともに、従来の株式の売買だけに留まらず、現金預金の運用も含めて公社債、国債、株式投信と幅広く、個人資産家の運用コンサルタントとして生き延びようとしている。

その証券会社の経営幹部が警鐘を鳴らすのは、個人資産の大半を占める現預金が日本の銀行を通じて、日本国債の購入にあてられている現状にある。近い将来、日本が国家債務破綻になったとき、これらの個人金融資産はどうなるのか? 銀行にはもはや現金はない。すべて日本国債を購入しているからだ。そうでなくても、円は暴落し、最も安全なはずの円ベースの現金預金が大きく価値を毀損する事態にならないか? 証券会社の経営TOPは、このことを心配していたのだ。この心配は決して杞憂ではない。2030年にデフォルトになるかも知れないと言われている日本の国家債務危機は、東日本大震災の影響で、その時期は10年早まったと言われている。欧州やアメリカを見れば、国家の財政危機は必ず金融危機に繋がっていく。現政権及び与党も野党の議員の方々も、次の選挙のことしか考えておられないとしたら、ますます日本を危うい道に導くことになるだろう。

79 Robert・Reich著 「余震:AfterShock」

2011年9月16日 金曜日

久ぶりに読み応えのある本に巡り合った。昨日も茨城県沖を震源とする地震があり、東京では震度3であった。3.11大震災の余震は、未だ相当続くだろう。同じ連動型のスマトラ島沖大地震でも余震は5年も続いたらしい。さて、今日、ご紹介する本の題名の「余震」は、あの米国発世界恐慌を引き起こしたリーマンショックの余震である。スマトラ沖大地震と同様に、3年経った、今でも余震は続いている。むしろ、その連鎖は欧州にまで飛び火し、世界中を大連鎖に巻き込んでいる。著者、Reich氏はUCバークレイの教授であるが、クリントン政権の労働長官を務め、オバマ大統領まで三代の政権に関わっている。このReich教授は、リーマンショック後の余震は、今後ともアメリカ経済を苦しめると予想する。なぜなら、その根本原因である貧富の格差を是正しない限り、アメリカ経済は立ち直らないという。そして、その格差を縮める政策はオバマ大統領に至ってすら微塵も見られないというわけだ。

私がよく講演で使わせて頂いている、Thomas Picketty & Emmanuel Saez両氏が作成した最上位1%の富裕層の所得が国民総所得に占める割合のグラフを、この著者も用いている。このグラフによれば、大恐慌が起きる前の年である1928年と、リーマンショックが起きる前の年の2007年が、ともに米国の最上位1%の富裕層がアメリカ中の富の25%近くを占め、貧富の格差が極大だったことを示している。つまり著者は、この2つの大恐慌は、いずれも貧富の格差拡大がもたらしたものだと主張する。(私も常々、講演で同じことを言っている。)

さて、一昨日、WSJはアメリカの家計所得が3年連続減少し、ついに1996年のレベルにまで戻ったと報じている。そういえば、1997-2000年まではITバブルで、それが弾けたと思ったら、今度は、2002年から2007年まで住宅バブルが引き継いだ。結局、アメリカ経済の成長とは人為的なバブルによって引き起こされた虚構の繁栄だったのだ。

それでは、なぜ貧富の格差が拡大すると経済が破綻するかである。それは、例えば年収数百億円もの所得を得るお金持ちは、いくら浪費をしても使いきれないから消費に回るお金はホンの僅かの割合でしかない。一方、益々、貧乏になった庶民は、消費を手控えるから、世の中の経済が回らなくなるというわけだ。そして、もっと性質が悪いのは、大富豪たちは、消費にお金を回すどころか、もっと、お金を稼ごうとして、成長著しい米国の外の途上国へと投資を回すから、ますます米国内に、お金は回らない。例えば、米国政府がAIG救済のために投じた税金は、AIGにお金を貸していたゴールドマン・サックスに、そのまま還流し、ゴールドマンは、それを金利が安い米国内には投資しないで、金利の高い海外の新興国に投資するという具合で、結局、金融救済と言う名目で出費された国民の税金はウォール街の博打打ちに利用されただけだったというわけである。

それでは、オバマ大統領が金融支援に税金$7000億ドルも使っても米国の経済が立ち直るわけがない。1929年に起きた米国発の大恐慌から米国が復活できたのは、第二次世界大戦だった。欧州や日本の工場が全て焼け落ちて、世界で工場と言える設備は米国にしか残らなかったからだ。そのため、戦後、世界の工場と化した米国は未曾有の復活を遂げた。あまりに工場が繁忙だったために、労働者の賃金は上昇し、健全な中間層が拡大して、貧富の格差は著しく縮まった。この膨大な中間層の消費が米国経済を益々押し上げたのだった。

2008年11月、バラク・オバマが次期大統領に選任されたときに、ボルカー元FRB議長はオバマに対して、「今回の恐慌は、米国の人々が自分の収入以上の生活を続けてきたことが根本問題だ」と語ったのに対して、クリントン政権で経済諮問委員長だったタイソンは、「本当の問題は、人々の収入が増えていないことなんです」と語った。Reich教授は、タイソンの言っていることが正しく、中間層の収入を増加させることが米国経済を復活させる唯一の解であると述べている。さすが、クリントン政権の元労働長官だ。

さて、それでは貧富の格差が著しい中国について、Reich教授はどう見ているのだろうか? 教授は、中国の最近の経済発展のスピードに中国の人々の消費支出の伸びが追いついていないと言う。むしろ中国の家計所得が国内総生産(GDP)に占める割合が下がり続けているのに、企業の投資額はどんどん増えているという。具体的には、1999年、中国の個人消費はGDP比で50%あったものが、2009年には35%まで下がっている。一方、企業への投資額は35%から44%にまで増加していると言う。中国企業は増加する収益を従業員に分配するのではなく、逆に新工場、新設備、技術開発費に投資しており、労働分配率は下がり続けていると言う。さらに、中国は、リーマンショック後の不況対策として2009年5850億ドルもの途方もない大型政府支出を行い国内経済を刺激したが、これもインフラや生産設備能力の増強に使われて、中国の過剰生産設備が、より一層過剰になっただけだったと言う。

もともと、多くの中国人は退職後の社会保障が脆弱なので、貯蓄性向が強い。つまり、アメリカのように贅沢な消費行動をしないのだ。したがって、中国国内の過剰生産設備は海外に向かわざるを得ない。その行先が米国であり、欧州であった。その米国・欧州の消費者が購買するための、お金が無くなったのだから、深刻である。むしろ米国は収入が減った自国の消費者の代わりに、中国の消費者に米国製品を買って欲しいのだ。ところが、中国の消費者は、急成長し発展する経済の正当な分け前を手にしていない。ある意味で、米国と中国は同じデッドロックに陥っているとも言える。

最後に、Reich教授は、「人間の幸せは収入に比例しない」。だから、富裕層は、そんなに貪欲に富を増やそうと考えないで、もっと格差をなくし、中間層を増やす努力をしないと、結局、米国も中国も双方ともに手詰まりになって世界経済は破綻し、富裕層が溜め込んだ富でさえ泡と消えることになると警告しているのだ。この話は、米国と中国だけの話ではない。日本も、全く同様だと思った方が良い。やはり資本主義も大きな変質を遂げつつあるのかも知れない。私には、「自由主義」、「市場原理主義」だけで、社会や経済が自律的に落ち着くべき先に収斂するようには、どうも思えない。