2011年7月 のアーカイブ

67 久しぶりに聞く「小泉節」に感動

2011年7月27日 水曜日

昨日、国際公共政策研究センター(CIPPS:田中直毅理事長)主催、「震災後の日本経済を展望する」というテーマのパネル討論会を聴かせて頂いた。パネル登壇者は極めて豪華で、小泉元首相、今井新日鉄名誉会長、奥田トヨタ自動車相談役、御手洗キャノン会長、秋山関西電力顧問、中村パナソニック会長、佐々木東芝社長と電力供給問題の世界的権威であるスタンフォード大学のウォラック教授の8名だった。当日の聴衆は、数百ある席を埋め尽くし、モデレーターは、田中直毅理事長が務められた。

そして、焦点となるのは、福島第一原発の事故からくる電力供給問題で、今後の日本経済がどうなるか?ということになる。最初の講演は関西電力の社長、会長を務められ、関西経済連合会の会長も歴任された秋山さんから口火を切られて討論会がスタートした。秋山さんが用意されたPowerPointで作られた資料は、緻密でわかり易く、大変良くできた資料だった。多分、関西電力の本社企画部門が総力を上げて作られたものであろうと推察できる。ところが、内容が決定的にまずかった。大方の聴衆も、当の関西電力が、こうした傲慢な考えでは、今後、原発がある地元の説得は全く無理だと思ったに違いない。秋山さんの講演を、隣りの席で聞いておられた、パナソニックの中村会長の落胆したお顔が印象的だった。

確かに、関西電力は、総電力出力の48%を原発が占めている極めて原発依存の高い電力会社である。万が一、今後、原発が使えないようになると関西地区の電力供給は破綻をきたし、関西の経済はとんでもない酷い状況になることは間違いない。だから、今回、福島第一で事故を起こした東京電力に対しても「何をやっていたんだ」という腹立たしい気持ちも良く分かる。東電は、元々、海抜35mもあった福島第一の敷地を海水の供給を容易にするため25mも削り取ってしまったのだから。同様の標高でも削り取らなかった、女川原発は、今回の津波でも何ともない。福島第一さえ、こんな事故を起こさなかったら、関西電力は、こんな苦しみに遭遇することはなかったのだ。そして、菅首相の突然のストレステスト発言。関西電力にして見れば、一連の状況は、ハラワタが煮えくりかえることばっかりだという苛立ちも、私には良く解る。

しかし、放射能汚染の人体に与える影響の解説を電力会社から聞きたいと思っている人は、今の日本には、まず居ない。それを、秋山さんは、とうとうと次のような趣旨の演説をされたのだ。第一点は、「現在議論されている微量の放射能汚染は人体に全く影響がない」。第二点は、「広島、長崎での被爆者で、被爆によるガンの発生率は極めて少なかった。」第三点目が極めつけで、「間違いで放射能汚染された台湾のマンションの住民はガンになる発生頻度が極めて少なかった。だから、放射能は健康に良いとも言える。」という過激な内容だった。確かに、秋山さんの論理は、学術的には正しいのかも知れない。しかし、それを当事者である電力会社のTOPが言う話では全くない。

次に秋山さんの講演は、以下の二つの過ちを言った。一つは、電力の品質はIT機器のためにあるというのである。「数ミリ秒の電力瞬断でも、サーバーやパソコンの動作異常をきたし、データ破壊につながる恐れがある」という。これは全くの嘘である。今や、どこの小さな事業所でもサーバーは、バッテリー搭載の瞬断防止装置で守られており、企業のパソコンは省スペースの観点から、大体ノートPCが導入されている。ご存知のように、ノートPCはバッテリーが搭載されていて、1時間や2時間の停電では全く問題ない。そして、現在のIT機器は、日本より遥かに電力品質が悪いグローバル市場で全く問題ないように作られている。電力会社のプレゼンとしては、内容が、あまりにも、お粗末である。

最後に、秋山さんは、発電と送配電の分離は、あのカルフォルニア大停電のような大事故を招くので絶対に許してはならないと述べた。この秋山さんの論理に対しては、スタンフォード大学のウォラック教授は猛烈に反発した。「カルフォルニア大停電が起きた時に、電力供給量は最大需要を大幅に上回る量があった。あの事故は、カルフォルニア州政府の規制の過ちである。後から札を入れる業者は下値でしか入札出来ない仕組みにしたので、発電会社が損失を出さないよう供給をやめたからだ。今は、そうした欠陥規制を改めたので、もう二度とカルフォルニアで、あのような大停電は起きない。むしろ、発電と送配電が分離しているがゆえに、動的な料金体系が導入可能であり市場メカニズムの働きでピーク電力需要の抑制が可能となるメリットの方が遥かに大きい」と真っ向から関西電力の理論に反論した。

モデレーターの田中直毅さんは、この秋山さんの話を聞いて、もう関西地区経済は相当深刻にならざるを得ないと思ったのか、中村会長に対して、「パナソニックは製造拠点を関西地区から移しますか?」と質問した。さすが、中村さんである。「その質問には、今は、答えられません。」と応じたのである。中村さんは「工場を関西地区から他地域へは絶対に移さない」という言質を取られるのを回避した。そして、その後の中村会長の講演は見事だった。「パナソニックは2018年には、家電の比率を今の40%から、30%に引き下げる。代わりに、エネルギー関連製品の比率を、今の30%から40%に上げる。パナソニックは家電の会社からエネルギーの会社に変貌する。創電、節電、省電をモットーとする製品に集中する。家電製品も効率の良い直流駆動のものに変える。パナホーム(家)も直流配電の仕組みを取り入れる。そのために、三洋電機と松下電工を完全子会社にした。そして松下電器自身もパナソニックと名前を変えた。」何と感動的な話であろう。主力事業を変えられる会社こそが何世紀も持続出来る会社である。

最後のトリは、小泉元首相であった。小泉さんは、私の席のすぐ前に座られて、最初の秋山さんの講演からずっと目を瞑って熱心に聞いておられた。以下、その骨子である。「産業界の人達が言う原子力発電の重要性はよく解る。でも、福島第一原発の事故で何もかも変わった。もう国民感情は、新たな原発の新設は認めないだろう。今、稼働している原発の更新だって、かなり難しいだろう。菅総理は解散して、脱原発で総選挙をやるつもりだろう。でも、そんなんで勝てる訳がない。自民党だって基本方針は、もはや、脱原発、減原発だ。日本は、アメリカや中国と違って国土が狭い。だから、原発は難しい。」久しぶりに聞いた小泉節である。いつも過激であるが、分かりやすい。

さらに、「今度の大震災直後に、米国は14隻の航空母艦や戦艦で日本を守ってくれた。だから、自衛隊が救助活動に専念出来た。さらに、18,000人の海兵隊が救助活動に参加してくれた。やはり、米国は、大変、ありがたい同盟国だ。それでも、米軍基地はいやだというのだろう。原発問題も米軍基地問題も同じだ。国として絶対に必要だけれども、自分の近くには嫌だというわけだ。だから、私は、昔から、巨大なメガフロートを作ろうと言っている。沖縄の米軍基地もメガフロートでやりたかった。でも、沖縄の建設業界が猛反対してダメになった。メガフロートに風力発電や太陽熱発電とかやれば良いんだよ。日本は海洋国なんだから、もっと海を利用しようよ。航空母艦を作るんじゃなくて、世界一巨大なメガフロートを作って日本を活性化しよう。」この人の話を聞いていると何だか元気が出てくるようだ。

66 Day of Empire (最強国の条件)

2011年7月23日 土曜日

この「Day of Empire」は、あの「タイガーマザー」に育てられた中国移民の子、エイミー・チュアが書いた、「タイガーマザー」に続く、第二作の原題である。これは直訳すれば「帝国の時代」とでも訳すのだろうか、ところが今回の日本訳の題名は「最強国の条件」となっている。原題からは想像も付かないが、訳者である徳川宗家第19代当主 徳川家広氏が考え抜いて付けられた労作に違いない。エイミーは、ローマ帝国、ペルシャ帝国、モンゴル帝国、唐、スペイン帝国、オランダ、大英帝国、アメリカと、その時代の最強国と言われる国の栄枯盛衰の原因となった共通点をあぶり出している。

その共通点を、エイミーは「寛容さ」だという。どの帝国も「寛容さ」で卓越した力を獲得してから繁栄を極めたのだと言う。そして、その「寛容さ」とは、人種、宗教、出自に関する「寛容さ」である。ローマ帝国では、属州の貧民の子でも皇帝になれた。唐の時代には貴族階級からの登用をやめて科挙という公平な選抜制度によって選ばれた官僚が国を治めた。スペインは、欧州全域でユダヤ人を迫害していた時に、スペイン国内でのユダヤ人の経済活動を許した。もともと、イスラム教との同居をしていたスペインではユダヤ教に対してもアレルギーが一切なかったからである。そのスペインがキリスト教以外の他の宗教を厳しく弾圧するようになった、その「不寛容さ」から衰退が始まったというのである。そのスペインの代わりに勃興したのが宗教的な拘りがなかったオランダや英国であった。

ところが「寛容さ」も度が過ぎると、帝国内に大きな混乱を招くというのである。ローマ帝国ではゲルマン民族の反乱で衰退が始まった。つまり、エイミーが言いたいことは、帝国の勃興は全て「寛容さ」から始まるのだが、その「寛容さ」も度が過ぎると、国の中から大きな混乱が始まる。そして、それを怖れて、今度は「不寛容さ」が強くなって来ると、今度は本格的に帝国の衰退が始まるというのである。移民が興した国である、アメリカ。その、人種、宗教、出自の多様性がアメリカの強さの源泉であった。しかし、9.11テロ事件以降、アメリカには「不寛容さ」が台頭し始めた。それが、今日のアメリカの苦境に結びついているとエイミーは主張する。アメリカの大学を最優秀の成績で卒業した留学生達が、今日のアメリカの繁栄を築いてきたのに、今や、その最優秀の学生の殆どが母国に帰国してしまうからだ。そして、この本の中には一切述べられていないが、エイミーはきっと、最近の中国の「不寛容さ」を密かに批判しているのかも知れない。

さて、今日、ノルウェーで恐ろしいテロ事件が起きた。犯人は極右のノルウェー人だと言う。もともと、ノルウェーは「寛容さ」に富んだ国であった。今やノルウェーでは、アフリカからの移民が1割を占めるまでになっている。それは、スエーデン、フィンランドも全く同じである。高福祉高負担政策を取る北欧の国々は、高齢化社会になると共に就業人口比率がどんどん減少し、税を負担する人々が居なくなってしまった。その代用として、アフリカからの移民を積極的に受け入れたのである。多分、最初はアフリカからの移民には低賃金の肉体労働を主体にやらせようとしたのかも知れない。しかし、当然のことながらアフリカ人にも優秀な人達は数多く居る。そして、キチンとした教育を受ければ、元々、居住していた北欧の人々に遜色があるはずがない。その結果、アフリカ移民に職を奪われた北欧の人々に大きな不満が講じ極端なナショナリズムに走る人達が居ても全くおかしくはない。

今や、欧州全体が移民問題で揺れている。一昨年、イタリアのラクイラで行われたG8サミットで秘密裏に行われた最大の議題は移民問題だった。もともと、EUには英国とアイルランドを除く、各国間で自由に国境を移動できるシェンゲン協定という先進的な合意がある。そのシェンゲン協定を、今まさに、見直そうというのである。スペインやイタリア経由で不法入国するアフリカからの難民が止まらないからだ。ドイツやフランスの不満は、スペインやイタリアが真面目に国境警備をやっていないということである。特にジブラルタル海峡は小さな小舟でアフリカからスペインに簡単に渡ることが出来る。ちょっとした嵐が起きると、ジブラルタル海峡のスペイン側の海岸には数百のアフリカ人の死体が打ち上げられるという。

さらに、欧州は南欧の国家債務危機から始まった新たな経済危機で揺れている。欧州全体の失業率は高止まったままである。当然、北欧にも、その波は押し寄せている。一方、ジャスミン革命で揺れる北アフリカから欧州を目指して地中海を渡る不法難民は、益々増加の一途を辿っている。さらに、スペインやイタリアから上陸したアフリカからの難民は、欧州でも際立って高い失業率のスペインやイタリアに職を求めても無理だということは良く知っている。彼らは、シェンゲン協定を駆使して、まさに「寛容さ」に富んだ北欧まで北上するのである。しかし、今回のテロ事件でノルウェーの「寛容さ」も「不寛容さ」に変化するかも知れない。犯人は極右の狂気じみたノルウェー人であっても、その考え方に共鳴するノルウェー人は決して少なくないからだ。

振り返って、この日本について考えてみると、この北欧の問題は決して対岸の火事ではない。高齢化社会が進展し、就業人口比率が減少するなかで、増加する一方の社会保障費の負担を一体誰がするのか?である。この北欧の問題を見る時に、移民という安易な政策が必ずしも最適解になりそうもないということを私たちは学ばなければならない。しかし、もともと移民が創り上げたアメリカで、移民に対して「不寛容さ」を強めたことが、アメリカの国力をどんどん弱めていることにも注目しなければならない。エイミーが言う、度がすぎない「寛容さ」こそが一番の最適解なのかもしれない。そういう意味で、我々は、このノルウェーのテロの問題に注目していく必要があるだろう。

65 スマートフォンが変えるインターネット

2011年7月22日 金曜日

とうとうベライゾンがATTに引き続いてスマートフォンの料金体系を従量制に変えた。もはや、いくらでも使い放題というわけにはいかなくなったのだろう。やはり、スマートフォンは、ガラ携帯(ガラパゴス携帯:従来の日本型多機能携帯電話)の画面を大きくしてボタンを無くしただけでは済まない。私も、社給携帯はガラ携帯を使っているが、個人所有はスマートフォンに切り替えた。本音を言えば、電話としての使い勝手は、ガラ携帯の方が遥かに良いからだ。そして、個人所有とは言え、スマートフォンも自社品のREGZA Phone(ドコモのAndroid)を購入している。最初に驚いたのは、電池寿命の短さだ。1日保つのがやっとである。元来、携帯電話のヘビーユーザーではないのに、何故、このように電池が無くなるかと思えば、要は、スマートフォンが自分一人で勝手に通信しまくっているからだ。

そうした身勝手なスマートフォンの恐ろしさを経験したのは、スマートフォンを持参してローマで開かれた国際会議に参加した4日間だった。確かに、ローマに居る間中、ドコモからの警告メッセージが頻繁に来た。ドコモと契約しているキャリアに切り替えるよう、私に盛んにメールで促すのである。しかし、そのキャリアの名前のメニューは出ないし、先ほども述べたように、元々、私は携帯電話のヘビーユーザーではない。国際ローミング料金も大したことはないだろうと、たかを括っていた。しかし、出張から帰るとドコモからハガキが来ていて、「貴方の海外での料金は5万円です。これは月末の請求に含まれるので了承してください。」との通知を受け取った。たった、4日、それも殆ど使わないのに5万円である。これは、日本国内の固定料金である「かけホーダイ」のほぼ1年分に相当する。これ以来、私は海外出張には絶対にスマートフォンは持参しないようにしている。海外でこそ、ガラ携帯で十分だからだ。

さて、私が持っているREGZA Phoneには、ワンセグが付いているが、これはガラ携帯の名残でもある。ワンセグTV放送は、青森で3,11大震災に被災し携帯電話の通信が全て途絶えた時に大変役立った。一方、iPhoneをはじめとする海外製のスマートフォンにはワンセグはついていない。最近の若い人は、もともとTVを見ないし、その変わりYouTubeなどの動画サイトを利用しているので、ワンセグなどついていなくても全く問題が無いのだという。ところが、これこそが大問題を引き起こすのである。

大震災後に福島第一原発の事故が起きた後、日本に在住していた多くの中国人が帰国した。ある携帯電話のヘビーユーザーであった中国人は、こよなくiPhoneを愛していた。日本で彼がいつも使っていたアプリケーションはYouTubeなどの動画サイトだった。中国に避難のために一時帰国している間、暇だったこともあって、日本で居る時以上に動画サイトで楽しむ時間も長かったに違いない。そして、彼は、1ヶ月間の電話代請求書を見て、余りに驚き腰が立たなくなった。何と、1ヶ月の電話料金は8,000万円だったからだ。これでは、まともに請求されたら、殆どの人は破産してしまう。幸いなことに、3000名の要員を抱えるソフトバンクのサポートデスクは仙台にあり、震災で被災し、今回は、顧客に使い過ぎの警告を与えることが出来なかったとして、ソフトバンクは、その請求を断念した。

この話から想像できることは、中国のキャリアもソフトバンクも、海外ローミング料金に関して、それほど不当な請求をするはずがないから、この中国人は実態として、8,000万円に相当する通信量を一ヶ月で使ったのだと思われる。そうすると、8,000万円に相当する通信費を固定料金で数千円で済ますことが出来る制度は、顧客側から見ると大変有り難い話だが、キャリアから見たら大変な逸失利益である。つまり、殆どの加入者が、この中国人のような使い方をしていたら、キャリアは、もはや経営が持続できないということになる。ATTに引き続いてベライゾンもスマートフォンの料金体系を従量制に変えたということの背景がここにある。

私たちは、インターネットは使い放題、極端な言い方をすれば、通信料は殆どタダ同然だと思ってきた。ところが、スマートフォンの普及で、動画サイトなどを多用するヘビーな通信量を使うということになると、通信インフラの資源も無限ではないから、やはり限界が来る。そして、この動きは間違いなくモバイル系だけでなく、固定系にもやってくる。最近のアメリカ人は、これまでの商業放送としてのTVは、もはや見ないと言う。インターネットを使ったApple TVやGoogle TVを観るというわけだ。あれだけ全米に数多くあったDVDレンタルSHOPも全て倒産し、インターネットで配信するようになったわけだが、これもいずれ、固定通信インフラの限界にぶち当たるだろう。「地球の資源は有限、しかし、インターネットは無限。」という神話が、今、まさに崩れ去ろうとしている。さて、これで、世の中がどう変わるか? 皆で、頭がキリキリするまで考えてみよう。