457    いつまで続くか、この憂鬱な毎日が

2022年5月15日

昨秋、「2022年 再起動する社会」という本を生まれて初めて上梓した。2022年の半ばになれば、2年半に及ぶコロナ禍もようやく先が見えてきて久しぶりに今までの普通の生活が少しずつ戻ってくるだろうという希望が見えてきたからだ。もちろん、全てが今まで通りではなく、この2年半で変化した新たな暮らし方に沿って私たちの生活も大きく進化すると考えてきた。今年になってから、そういう話を講演として既に何度かさせて頂いている。

しかし、今年2月24日から始まったロシアのウクライナ侵攻は、コロナ禍以上に、この先の私たちの生活を見えづらくしてきている。最近、著名な芸能人が自殺に追い込まれているのも、こうした困難な状況と全く無縁ではないだろう。主要国によるロシアへの制裁で苦しむのはロシアだけではない。天然ガス、石油、小麦など生きていく上で必要不可欠なものが次々と値上がりしていけば、世界中の庶民の生活がますます苦しくなるだろう。

特に、日本の通貨である「円」がどんどん下がっていることも、こうした憂鬱さが加速し、ますます気後れしていく。1998年私がアメリカに赴任した時にも一ドル140円近くまで円安が進行して車を買うのに両親からの借金を殆ど使ってしまい、さて、これからどうするかと不安になったが、今、日本中の会社から海外に派遣されている駐在員も、金銭的な問題で、これからますます悩ましくなっていくだろう。

一体、私たちはこれから何を目指して生きていけば良いのか、じっくり考えていかなければならない。ただ、今日の日経新聞でも2021年度の東証プライム市場に上場する企業の多くが最高益を出していることにも注目しなければならない。このコロナ禍の中で多くの企業がデジタルで大きな革新を遂げている。もちろん、こうしたデジタル変革の中で職を失った人々も多く、日本社会全体としては国民の中で一体感を失いつつあることにも留意する必要があるだろう。

私たちは、こうした社会の大きなデジタル変化に対応できるよう常に学んでいかなければばらないわけだが、そうした環境が多くの国民に提供できているかについて、よく考えていく必要がある。現在、IT企業や多くのデジタル技術者を抱える企業が日常的な人材流出に悩んでいる。各企業とも高額の報酬を提供することでデジタル人材の中途採用を積極的に進めており、これに対応して転職する人材がどんどん増加しているからだ。

こうした若年層の転職活動が活発になってから既に2−3年経っているわけだが、彼らが既に次の職場に転職している例も目立ちつつある。新卒一括採用が標準となっている日本社会で、欧米のようにキャリア採用が一般化するまでには未だ時間がかかるのは致し方ないと思うが、2−3年で次々と転職を繰り返す人達が増えてくると、それが転職する人材と受け入れる会社の体制とどちらに問題があるのかをよく見極めなくてはならない。

私自身も、3回ほど転職することを考えた時期があったが、さて他社で自分をどのように評価してくれるものか? 一体、自分には、どれだけの価値があるのだろうか?と考えているうちに良い年になってしまったような気がする。それでも、他社で役に立つ技量とはどんなものかと、いろいろ勉強したことが役員になってから少しは役に立ったような気もしている。それでも、当時の会社組織の中では勉強すると言っても日常的にそうした機会が与えられているわけでもないので、機会があれば外に出て多くの方と話をしてみることが多かった。

しかし、今のようなコロナ禍では、そうした外部との接触機会も少なくなっているのではないかと危惧している。オンラインで幅広く会議できると言っても、それは日常的に話をしているサークルの中に限定されるだろうし、今まで全く知らない世界の方々と話をするという機会はなかなか見つけづらいだろう。ロシアとウクライナの戦いは暫く続くかもしれないが、せめてコロナ禍に関しては、今までに学んだことを活かして普通の生活で可能な対処方法をとって、これまでの生き方に戻りたいと考えている。お陰様で、今月は、あと3回ほど講演の予定が入っている。さあ、もう少し気合を入れて頑張ろう。

456 プーチンとロシア人

2022年4月8日

毎日、ウクライナから発せられるニュースを見て怒りというよりも絶望という感じになっている。聞けば、こうしたプーチンとロシア人の残忍さは、今回のウクライナが初めてではなく、チェチェン紛争やシリア内紛でも全く同じ類の残忍な行為が繰り返されてきたという。こんなことを繰り返していたら、そのうち人類は滅びるのではないかと危惧せざるを得ない。プーチンという個人はヒットラーと同じ狂気の支配者だとしても、そのプーチンに何の疑いもなく従うロシア人の国民性はどこから来ているのだろうかと色々と考えてみた。

ロシア人の祖先は北欧のルーシー族だと言われているが、一般的にはスラブ民族と呼ばれている。そして、この「スラブ」という言葉は「奴隷」を表す「Slave」が語源だというのだから驚く。確かに、帝政ロシア時代のロシア国民は「農奴」と呼ばれている。他の欧米諸国についても中世の庶民の暮らしは決して楽ではなかったはずだが、奴隷とは呼ばれてはいない。このことを検証するためには、ロシア史上で「タタールのくびき」と表現される歴史について見ていかなければならない。13世紀前半、モンゴル帝国はロシア全域を破壊し尽くして隷属させた。そして、このモンゴル皇帝によるロシアの支配は250年にわたって続くことになる。

元来、モンゴル人は人口が少ないので、そのロシア支配はロシア人貴族を傘下に置いた間接支配を行った。つまり、ロシア人支配階級はモンゴル帝国の徴税官に成り下がったわけである。彼らはモンゴルが指示する人頭税を収めるだけでなく、自らの富の蓄積を目指して支配下にあるロシア国民に対して過酷な徴税を行なったことは容易に想像がつく。まさに「農奴」という言葉が相応しい奴隷状態だったのだろう。ロシアがタタール(モンゴル)支配から抜け脱してロシア帝国を建設するのは、17世紀後半になってからだった。これほど長い間、奴隷のように苦しんだロシア国民は、今度は、晴れてロシア皇帝の正式な「奴隷」となった。極寒の中で生き抜く我慢強いロシア国民で無ければ到底耐えられないことだ。

1917年世界で初めて共産党宣言が発せられてレーニンによってソビエト連邦が成立するとロシア国民は帝政時代の暗黒時代からようやく抜け出すことができるように思われた。しかし、レーニンの後を継いだスターリンは集団農場という制度によって再びロシア国民を奴隷化した。その結果、農民の労働意欲は低下し、ロシアの穀倉地帯といわれたウクライナで深刻な飢饉が起きて、膨大な数の農民が餓死した。つまり、ソビエト連邦という社会主義国家になってすらロシアの農民は依然として「農奴」のままだった。ちなみに、レーニンは純粋なロシア人ではなくユダヤ系だといわれており、スターリンも純粋なロシア人ではなくジョージア人である。

1991年ソビエト連邦が崩壊した後に、ロシアの支配階級に君臨したのはソ連時代の高級官僚や諜報機関の幹部だった。彼らは、ソ連崩壊のどさくさ紛れに国有財産を私物化して新興財閥オリガルヒを形成した。多くのロシア国民は、またもやプーチン大統領の取り巻きであるシロヴィキや新興財閥オリガルヒの「奴隷」として大きな苦痛を味合うことになった。グーグルの創立者の一人で、未だにGoogleの親会社であるアルファベットの16%の株を保有するセルゲイ・ブリンは6歳の時に両親と共にロシアから米国へ移り住んだ。父は、ロシアからアメリカに渡ってメリーランド大学の数学の教授、母はNASAの研究員をしている。こうして、これまでにロシアから多くの優秀な頭脳がどんどん流出した。現在のロシア経済が低迷から抜け出せないのも国民を奴隷扱いして大事にしないからだ。

今、ロシアに奴隷状態で残っている人たちはロシアが好きだから残っているのではない。出ていく術が見つからないからだ。ロシアの多くの若者が自殺やアルコール中毒、薬物中毒や不慮の事故で亡くなっている。ロシアに居ること自体が絶望なのだ。13世紀から、なんと800年間にもわたってロシア国民は「奴隷」で居続けている。アメリカのラストベルトでも全く同じような絶望に満ちている。そんな人々が熱烈に支持するのがトランプでありプーチンなのだ。第一次世界大戦に敗北して巨額の賠償金を課せられて低迷を続けたドイツでもヒットラーは英雄になった。絶望を目の前にして、その突破口として大衆が渇望するのがプーチンやヒットラーやトランプといった独裁者たちである。

何とも皮肉なことではないか。ロシア国民に言わせれば「自分達は世界から同情を勝っているウクライナ人より遥かに不幸だ」と不満をぶちまけている。彼らはプロパガンダに騙されているフリをしているだけで、そんなに馬鹿ではない。多くのロシア人兵士が戦場で戦死していることが分かれば話は違ってくる。チェチェンでもアフガニスタンでも国内の反戦運動がきっかけでプーチンは兵を引いた。この戦争の幕引きは、結局、ロシア国民が「奴隷」から「人間」へと目覚めることしか救われる道がない。

 

 

455. アレクシェービッチ氏の怒り

2022年3月19日

(NHKニュースからの抜粋です)

ベラルーシの作家、アレクシェービッチ氏はウクライナ人の母とベラルーシ人の父のもと、ウクライナで生まれ育ちました。代表作に第二次世界大戦に従軍した女性たちの証言をまとめた「戦争は女の顔をしていない」のほか、「ボタン穴から見た戦争」「アフガン帰還兵の証言」など、国家に翻弄されてきた旧ソビエト諸国に暮らす人々の感情や記憶を聞き取り、著述したほか、2015年にはチェルノブイリ原発事故の被害者を取り上げた作品「チェルノブイリの祈り」などが高く評価され、ノーベル文学賞を受賞しました。

(以下、NHK記者からの質問への答え)

アレクシェービッチ氏

「誰も想像できませんでした。手に負えないナショナリズムが、ファシズムへとゆっくりと堕落していくようなものが、ロシアからやってくるとは」

アレクシェービッチ氏

「ほとんど眠れません。子どもの頃はずっとウクライナで過ごしました。そして夏になるたびに、おばあちゃんのところへ行っていました。今は私たちの村もおそらく爆撃されていると思います。私の親戚は今でもそこにいます。とにかく全く考えられないことです。自国(ベラルーシ)の政権のせいで、自分たちのことを侵略者の仲間だと感じ、なおさらつらいです。本当につらい。自分がベラルーシ人だと言うことを恥ずかしく思うのは初めてです」

アレクシェービッチ氏

「私は『なぜ黙っているのですか』と言わずにはいられませんでした。恐ろしいことはソビエトの時代が残っていることです。それは作りの悪い家や道路だけではなく、堕落した知識人が残るのです」

アレクシェービッチ氏

「90年代の変革について、市民は何が起きているのかほとんど理解できていませんでした。その後貧困が始まった時、すべてはゴルバチョフ(元大統領)や民主主義者のせいだと思うに至ったのです。プーチンはそのことを考慮に入れ巨額の資金をプロパガンダに投じました。そして多くの人々が彼を支持するようになりました。私たちが取り組まないといけないのは、この過半数を占めるプーチンの支持者と向き合うことであり、話をしないといけないのです。制裁が始まり、ロシアは大きな試練に遭うことになります。すでにルーブルは下落していますし、おそらく貧困が待ち受けているでしょう」

アレクシェービッチ氏

「ソビエト崩壊後、真の民主主義国家を作ったけれど、発展した経済もないし、家も道路も無い。足りないものばかり。それは西側のせいでしょうか。西側が私たちの代わりにすべてを作るべきだったのでしょうか。70年余り、ソビエト時代の思想の下で暮らし、その思想に何百万人もの人々を放り込み、残ったのは集団墓地と血の海だけだったとしたら、そんなにすぐに変わることはできません。どこからか美しい家やすばらしい思想や立派な工場を持ってくることなどできません。それは無理です。そのためには時間かけて準備し、真剣に取り組まなければなりません。強い艦隊や新型の爆撃機、それに新型の戦車などを使うのは、最も原始的で時代遅れなやり方です。つまり、彼は未来へと進めなかった人間なのです。彼が私たちを連れて行こうとする先は彼が理解できる場所、つまり過去なのです」

アレクシェービッチ氏

「彼は偉大なロシアを復活させたいのです。彼にはそうでないほかの世界など考えられないのでしょう。ロシアは、偉大なソビエト連邦が崩壊した時に感じた屈辱に耐えることができなかった」

アレクシェービッチ氏

「ウクライナが勝てば、プーチンはロシア国内で大きな問題を抱えることになるでしょう。そうなればもちろん、ルカシェンコも同じことになります。ウクライナの人々は今、自分たちの未来のために戦っているだけでなく、ヨーロッパのため、ウクライナの周辺の国々の民主主義のためにも戦っているのだと言うことができます。ですから、多くのベラルーシ人がプーチンと戦うために、それをなんと呼べばいいか…外国の土地へ向かいました。ウクライナ軍の部隊には多くのベラルーシ人がいます。なぜなら、ウクライナこそが未来への道を切り開いてくれると、皆が理解しているからです」

アレクシェービッチ氏

「私たちははっきりと自覚しないといけないのは、もし皆で団結しなければ、私たちはせん滅させられてしまうということです。今、プーチンの暴挙を前にして、皆が団結しています。闇はあらゆる所、あらゆる方角から迫ってきますが、どの国にも明るい側にいる人がいて、対抗しようとしているのです。私は自分がやるべきことをやるだけです。ただ座って「戦争と平和」を書いているわけではありません。何が起きているかを理解しようと努めています。人々の話を聴き、それについて書こうとしています。何が人を人でなくすか、何が人を人たらしめるかを。自分のすべき小さなことをやるべきです。私にとってとても大事なことばがあります。『誰もあなたに耳を傾けようとしない暗い時代はある。声を上げるのをやめたくなる。しかし声を上げなければ悲しみが生まれる。だから声を上げ続けなければならない』」