444 マスクと手洗いだけで大丈夫?

2021年5月3日

中国に進出している日系の百貨店で、コロナ禍で一番売れた商品はメガネだという。相手のマスクから漏れて出る飛沫は、自身のマスクによって口から侵入することはある程度防げるかも知れないが、目から侵入することには無防備である。そのため、コロナ患者に相対する医療関係者はマスクだけでなく、目からのウイルス侵入を防ぐために必ずフェイスガードを着けている。確かに、中国の武漢で、最初に新型コロナウイルスで亡くなった医師も眼科医だった。

よくマスクの代わりに透明なプラスチック製のフェースガードをつけている人を見かけるが、あれは大きな間違いである。フェースガードはマスクの代わりにはならない。フェースガードは、マスクでは覆うことが出来ない目から感染することを防止するためである。外出する時な終始マスクをしていて、外食もしていないのに、一体どこで感染したのだろうと不思議に思っている方こそ、目からウイルスが侵入した可能性が高い。

私は、当初、コロナウイルスが目から侵入するのを防ぐために、花粉防止用のゴーグルを購入して着けてみたが、何とも、ものものしくて不自然だった。今では、外出する時には、必ずメガネを着けている。若い時は、近眼と乱視だったのだが、歳をとって老眼と重なり、今では本を読む時以外は全くメガネが要らなくなった。それでも、眼科医からは白内障の症状があると言われているので、紫外線とブルーライトを遮断する透明のサングラスをかけている。なぜ、透明かと言えば、色の濃いメガネは瞳孔を大きく開き紫外線の遮断効果が減少すると言われているからだ。今回のコロナ禍で、この透明サングラスが外出時には離せないものとなった。

コンタクトレンズを常用している、多くの若い中国人が日系の百貨店でコロナ感染防止用に洒落た日本製のメガネを購入している。福井県鯖江市は高級メガネフレームの世界的大産地だ。これが、中国の日系百貨店に於いて、コロナ禍でのベストセラーだというのだから驚きだ。確かに、コンタクトレンズは、手で挿入するし、その手にウイルスが付着していたらと考えると本当は恐ろしい。こんなニュースを報じている、日本のメディアがあっただろうか? コンタクトレンズ業界は大スポンサーだから、ご機嫌を損ねるわけにはいかないのだろう。

実は、中国では未だ完全にコロナ禍が収束しているわけではない。上海や北京のような大都市で、時々、一定数の感染者が判明しているのだ。しかし、その度に、短期のロックダウンを行い、1,000万人規模の大規模なPCR検査(もちろんプール検査)を行い、無症状感染者を徹底的に炙り出している。彼らは、彼らなりに地道で継続的な努力を重ねている。「なにしろ、中国は、強権社会だからね」と言ってしまえば、それで終わってしまうが、本当に、それで良いのだろうか?

443   COVID-19対策は長期戦の覚悟

2021年4月6日

今年1月初旬に、東京都の感染者が2,500人、神奈川県でも1,000人近くになり、COVID-19の第三波のピークを迎えた時には、私も本当に怖かった。気のせいか、いつもより頻繁に救急車のサイレンが聞こえたような気がする。その後、緊急事態宣言が発令され感染拡大が鎮静化し、これは何とかなるかなと思ったが、既に、大阪府や宮城県で変異株による第四波の感染拡大が始まっている。

こうしたことは、既に昨年から、ある程度予測できたが、この第四波の拡大とワクチン接種が追いかけっことなって、少し時間はかかるが終息に向かっていくものと考えていた。しかし、ワクチンの供給量は信じられないほど少なく、73歳の私でも、今の横浜市の状況を見ていると、今年中に接種してもらえるかどうか全くわからない。さらに開催に踏切そうなオリンピックが、もっと致命的な第五波を起こすかも知れない。遅々として進まない、日本のワクチン接種にイライラしても不健康になるだけなので、もはや、居直って、長期的な籠城戦略に耐えるしかないと覚悟を決めた。

日本人のCOVID-19に対する感染防止の意識は世界でも高いものがあると言われており、実際に、感染者数は欧米に比べたら桁違いに少ない。TVで報道されるようにマスクも着けないで大騒ぎをしている欧米人の振る舞いを見ていると、さもありなんと思えるのだが、米国シリコンバレーで暮らしている友人たちの暮らし方を聞くと、日本人こそ、緩すぎるのではとも思えてしまう。彼らは、何ヶ月も続いたロックダウンにも耐えて、家から一歩も外へ出なかった。最近、二回目のワクチン接種を受けて、ようやく外出に踏み切ろうと思ったのだが、今度はアジア人に向けてのヘイト行動に怯えている。コロナは人々の心まで壊してしまったのだ。

日本人の感染者数が欧米に比べて少ないのは、決してファクターXなどというものではなく、単に、島国で、他国に比べて人々の往来が少なかっただけではないかと思えてくる。先月、山梨県の職員研修所からの依頼を受けて県の職員、約100名に対してオンラインの講演をさせて頂いた。研修所の方々はオンライン研修には、手慣れておられて大変スムーズに行われた。参加者は聴講中にチャットで逐次、質問をされ、講演終了後に主催者が代読する。このやり方だと質問も気兼ねなくできるので、大変活発な議論ができた。聴講者も地元の山梨県在住者だけでなく、多くの優秀な職員が勤務している東京事務所からも参加を頂いた。

山梨県は、クルーズ船ダイアモンド・プリンセスの重症者を受け入れた山梨医大の指導の下、長崎知事主導で独自の感染防止対策をとっているため、感染者数は日本の中でも極めて少ない。私は、県の職員の方に「山梨は首都圏にも距離的には近いのに、どうして、これほど感染者が少ないのですか?」と聞いてみた。その答えは、少し躊躇されながらも「県境封鎖ですかね」だった。その「県境封鎖」の詳しい意味については教えて頂けなかったが、従来から言われている通り、パンデミックの主要な要因が「移動」であることを改めて認識した。

その山梨県では、最近、首都圏からの流入が増えているという。山梨は、風光明媚でコロナ禍でも安全。週1−2回なら東京への通勤も苦ではない距離だ。移り住みたくなるのも当然だと言えるだろう。多分、移住者たちは長期戦略を立てている。リモートワークが当たり前になったシリコンバレーでも、テキサス州オースティンに移り住む人が増えている。オースティンはアメリカではシリコンバレーに次いで半導体企業が多い街である。しかし、不動産価格や家賃もシリコンバレーに比べたら比べ物にならないほど安い。もちろん、米中半導体戦争の勃発で、これからオースティンが、さらに発展するだろうというエンジニア達の長期的戦略も透けて見える。

富士通は昨年3月より研究職やシステムエンジニアを含む多くの従業員の出社を原則禁止するとともに、社内の会議室を全面使用禁止とした。職場感染のクラスターは会議室から発生すると言われているので、極めて賢明な施策と言えるだろう。さらに、昨年12月には在宅勤務の社員に対して会社にある私物を全て自宅に持ち帰るよう指示し、年明けから感染対策を考慮したオフィスの全面的なリノベーションを開始した。コロナ禍、及びコロナ後の働き方改革をコンサルテーションする立場として自ら実践しようという心意気を感じる。

もう1年以上も、一度も出社しないで在宅勤務を続ける社員に向けても、将来の「働く環境のあり方」を提示する必要があったかも知れない。いずれにしても、このコロナ禍は、もはや中途半端な施策で短期的に凌げば済むという状況ではない。経営者としても、コロナ禍が、今後、2−3年に及ぶことを覚悟した体制へと準備をすることが必要である。Googleは、コロナ禍が終息した後は、従来通りの勤務体制に戻すつもりのようだが、それにしても従来とは違う感染対策を考慮したオフィス環境にすべきだとして新しいビルを建設中だ。

今回、人類はmRNAワクチンという前代未聞のテクノロジーでCOVID-19を終息させようとしている。このことは、賞賛すべき科学の貢献と言えるが、何億年も生き続けてきたウイルスが、これで簡単に降参するとはとても思えない。既に、世界で1億人以上に感染を広げたCOVID-19ウイルスが、さらに強力な変異株を創出する可能性は極めて高い。それなのに、この日本では、これまで、地震・津波・洪水を意識した国土強靭化計画には多くの議員たちが活発に活動してきたが、感染症によるパンデミック対策を唱えた議員の姿は殆ど記憶にない。

IMFが発表した2021年度の経済予測も、殆どの先進国がコロナ禍を乗り越えて2020年度の落ちおみをカバーする5%以上という大幅な成長が期待されているのに、日本だけは2020年度の5%の落ち込みを補いきれない3.5%の成長に留められている。有事というのは、戦争や自然災害だけではない。今後の有事は、パンデミックだけではなく、エネルギーや食料も想定される。これだけグローバリズムが進展する中でも、有事の際には国境が意識され、お金では買えないものが出てくるのだということを、今回のCOVID-19禍で思い知らされた。

442    あれから10年

2021年3月2日

2011年3月11日に起きた東日本大震災。大津波と原発事故で、文字通り東日本全体が恐怖に慄いた。それは、都市直下型で火災が中心の阪神淡路大震災から16年も経っていなかった。それから10年も経たないうちに、今度は、世界を震撼させているパンデミック(COVID-19)の中で、日本中が不安に陥っている。私も、今年こそは久しぶりに石巻に行って10年目の慰霊祭に出席したいと思っていたが、今まさに変異ウイルスの台頭が心配される中で、ご迷惑をかけてはいけないと中止した。

どうして、私たちは、短い一生の中で、何度もこれほどの大惨事に遭遇するのだろう。まさに、「起きてほしくないと思っていることは、必ず起きる」。岩手県陸前高田市にある「津波伝承館」は、「かもめの玉子」の製造発売元である、さいとう製菓の工場敷地の中にある。震災発生時に副社長だった齊藤さんが、避難するときに撮影したビデオ映像を投影しながら、齊藤さん自ら解説をする。大船渡湾を急襲する津波の凄さもさることながら、私が一番驚いたのは、多くの人々が津波をそれほど恐れていなかったことである。

齊藤さんが、私財を投じて作られた、この「津波伝承館」は、津波の本当の怖さを次の世代に伝えたいという思いからだった。一番印象的だった映像は、ちょっとした小高い場所から津波を眺めている若いカップルの姿だった。齊藤さんが、山の上から大声を出して「上がって来い」という指示に対して、二人とも笑顔で振り返りながら眺め続けている。この後、この若い二人は津波に飲まれて亡くなったそうである。歴史の目撃者として津波を眺め続けていたかった気持ちをわからないでもないが、彼らは津波を本当に怖いと感じなかったのだ。

「釜石の奇跡」を起こした東大教授で日本災害学会会長の片田敏孝先生の講演を聞いた時に、子供たちの素直さにゾクゾクするほど感動するとともに、大人たちの怠慢さには怒りさえ覚えた。当時、群馬大学教授だった片田先生は、釜石市の大人たちを対象として津波に対する防災意識を浸透させるつもりで何年も努力されたが、一向に関心が得られなかった。それで、釜石市の教育委員会に働きかけて釜石市の小中学校の生徒を対象に8年間も啓蒙活動を続けられた。それが「津波てんでんこ」で、「津波が起きたら、まず、自分だけは高いところへ逃げろ」という考え方である。その結果、大人には多くの犠牲者が出たにも関わらず、当日、病気で休んでいた子供一人を除いて、釜石市の全ての小中学校の生徒が助かった。

同じような話が、ニューオリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」でも起きている。犠牲者の多くが老人だったが、彼らは逃げられなかったのではなく、逃げなかったのだ。多くの老人が「一緒に逃げよう」という家族からの誘いも断った理由は、「自分が生きてきた長い人生の間で、そんなことは一度もなかったので、逃げる必要はない」ということだった。彼らが、起きて欲しくない、起きるはずがないと思っていることは、実際には起きるのだ。

一方で、多くの犠牲者を出した石巻市の大川小学校に行って驚いた。北上川の河畔に立つ大川小学校は、とてもモダンな作りで、ここに通っていた小学生たちがおくった毎日の楽しい学校生活が偲ばれる。しかし、この小学校の校庭は数十メートルの高さを有する小山に隣接しているのだ。津波が襲って来るという情報を得て、すぐさま、この裏山に子供たちを登らせれば、間違いなく全員助かったはずである。しかし、先生方は、突然のことに思考回路を失ってしまったのだろうか、目の前の北上川に架かる長い橋を渡って向こう岸に行くことを目指して生徒たちを引率した。

その結果、生徒たちは、この長い橋を渡り切る前に津波に襲われて命を落としたのだ。石巻は大昔から、何度も津波の被害には遭っている。私の曽祖母、祖母とも、この石巻で生まれ育って、東京に出てきている。それで、私は小さい時から、三陸地方を襲った大津波の話を、この二人から何度も聞いている。その石巻で、津波が来たら、この大川小学校では、どういう行動を取るべきか事前に何も決めていなかったとすれば、大川小学校の先生方だけでなく石巻市教育委員会を含めた市の行政全般に関して問われることになるだろう。

さて、この東日本大震災から10年経った。大震災とは全く性質が異なるものの、COVID-19が起こしたパンデミックにおいて、この大震災で得た教訓を私たちは活かせたのだろうか。つまり、「起きて欲しくないと思ったことは必ず起きる」という教訓である。私は、このところ、トランプ大統領側近達の回顧録なるものを何冊か読んでいる。その中で、2020年1月4日のトランプ大統領は電話で習近平総書記にCOVID-19について尋ねている。習近平総書記は、具体的なことは何も答えていないが、2020年1月10日に、中国はCOVID-19の全ゲノム情報をアメリカに送っていた。ファイザーやモデルナを始めとするアメリカの製薬メーカーは、その翌日の1月11日にはCOVID-19 RNAワクチンの開発を始めている。

その当時の日本の状況を思い出してみよう。多分、武漢を含めた中国全土からの春節をめぐる大量の観光客を迎えて、日本中がインバウンド景気に沸いていた。まさか、武漢で発生したCOVID-19が世界を蔓延させるパンデミックを起こすだろうなどと誰も考えていなかっただろう。ここで思い出すのが、インテルを世界最大の半導体メーカーに押し上げたアンディ・グローブの著書「パラノイアだけが生き残る」である。パラノイアとは「極度に病的な心配性」という意味である。

「会社の経営者や国の指導者は、パラノイアでないと生き残れない」とグローブは、この本の中で言っている。今日は、3月2日。これから、緊急事態宣言を解除するかどうかの3月7日を迎える。首都圏では感染者の減少が止まり続けている。神戸では感染者の15%が変異ウイルスだともいう。WHOは本日、世界は感染拡大に反転したとの声明を出した。まさに「起きて欲しくないと思ったことは必ず起きる」という前提に立てば、日本でも第四波の兆しが見えてきているとも言える。私は、今や、外出する時は、必ず二重マスクにするなど従来以上に警戒を強めている。