146 グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業

この題名の本はハーマン・サイモン教授の著作(原題: Hidden Champions of the 21st Century)で、私が、 常々持論としている、「日本の再生は、地域に存在する 中堅・中小企業によってしか成されない」という説を、 まさに実例から証明してくれている本である。

戦後、日本の製造業は、「高い品質で価格が安ければ、世 界中、どこでも売れる」という信念で、大量生産によって 規模の経済合理性を追求しシェアを高めてきた。そのやり 方が、今や通用しなくなっている。半導体、液晶、TVと かつて日本の輸出産業の花形だった事業が、デジタル化に よって品質では大きな差異がなくなり、むしろ圧倒的な規 模と価格によって競争力を失った。

これは、もはや元に戻せるものではない。生産規模では、 日本の大企業の製造工場も、中国、韓国、台湾の巨大企業 の工場に比べれば、もはや町工場のようなものとなった。 大量生産は規模の経済学で勝ち負けが決まる。

一方、現在の欧州経済危機はドイツの一人勝ちが、究極の 原因とされている。ドイツのGDPあたりの輸出比率は5 0%近くにも及び、中国、韓国の40%台を大きく凌ぐ。 対して、日本のGDP当たりの輸出比率は、たった18% でしかない。今後、半導体、液晶、TVの生産縮小で、さ らに低下するであろう。ちなみに、国民一人当たりの輸出 額はドイツが16,000ドル、日本が5,000ドルとドイツは日本 の3倍もある。

既に1,000兆円もの財政赤字を累積し、必死に内需拡大を 目指した政策は結局徒労となり、もはや新たな内需拡大策 など、財政的にも取りえない事態になった、今の日本で産 業の振興策は輸出しかありえない。国家が強力に支援し、 国策として競争力を享受している中国や、韓国と違って、 エネルギーコストも人件費もインフラコストも日本とは、 そう変わらないドイツが何故、そのように輸出競争力が あるのだろうか?

そのテーマに対しては、当社のドイツ出身のシュルツ上席 主任研究員が以前から、ドイツの輸出競争力の主体はドイ ツの各地域に存在する中堅・中小企業であると説いてきた。 この本の著者であるサイモン教授もシュルツ研究員の著作 を数多く引用している。私も、シュルツ研究員の発表成果 を最初に聴いたときには、大きな衝撃を受けた。

なぜなら、こうした話題は、これまでの日本の産業政策が 全く注目していない点だったからだ。この本の冒頭に推薦 の辞を書かれている経産省から産業革新機構に出向された 西山圭太執行役員も絶賛しておられるが、私も経産省時代 の西山産業再生課長とは何度かお話をしたことがあるが、 この本のような話題を、お互いに一度もしたことがない。

つまり、ドイツの輸出額の大半が、こうした隠れたチャン ピオン企業、即ち、グローバル市場で活躍する中堅・中小 企業によって担われている。私達、多くの日本人や日本企 業が、こうした優秀なドイツの中堅・中小企業を良く知ら なかった背景は、彼らが「隠れたチャンピオン企業」だっ たからだ。しかも、彼らは意図的に隠れていた。なんと、 マーケティングの基礎理論とは全く逆の行動を取っている。

そればかりではない。この本に記述されている「隠れた チャンピオン企業に共通した特徴」のキーポイントだけ を以下に抜き出して見た。「なるほど!」と思うところも 沢山あるが、「えー?」と思うところがさらに沢山ある。 これまでの経営の教科書に書いてあることと全く逆のこと が沢山あるではないか。

こうした企業が都会ではなくて、地方に多くあると言うの も良く理解できる。彼らは生き馬の目を抜く俊敏な時間で は動いていない。もっと、10年、30年先を見てゆっく りとした時間で動いている。世界中の顧客とじっくりと話 が出来るのもニッチ市場で、顧客の数が多くないからだ。 価格には左右されない市場で、モノに付随したサービスも 含めたロングライフな顧客との関係を築いている。

それに、もっと驚くのはアウトソーシングをしないという 点だ。販売も代理店は使わない直接販売。研究開発も自前。 戦略的提携もしない。製造治具は全て自分で作る。ビジネ スモデルは「村の鍛冶屋」と全く変わらないが、違うのは 世界中の顧客を相手にしたグローバル市場を相手にしてい ることだ。それも、いきなり世界の100ヶ国と商売でき たわけではない。自身の規模に応じて、毎年2-3か国ずつ 販路を拡大し、10年、20年かけて数十か国にまで販路 を広げてきた。

もちろん、途中で失敗もあっただろう。それを忍耐強く、 一か国ずつ丁寧に販路を増やしてきたのである。従って、 大きな借金もしていない。「経営はスピードだ!」という 経営の教科書も随分見たような気がするが、そのスピード 経営の結果は一体どうだったのだろうか?

以下に、私が、この本から抜き出したメモを添付するので、 一読頂ければ幸いである。そして、この本は日本の産業再 生のバイブルともなる本とも言え、お手元に置かれるべく、 ぜひ、ご購入されることをお勧めしたい。

□隠れたチャンピオン企業の60%はドイツ語圏

□経営陣の注目度が低いほど企業は長期的に成功する

□世間の話題になれば無名でいる努力が水の泡

□一般には知られていないが顧客の間では有名

□成功する企業家には大胆なビジョンがある

□限られた市場で1番を狙う

□CEO在任期間、市場リード期間とも最低20年間

□絶対的世界シェアは平均30%

□2位とのシェアの差は2倍以上

□過去10年間で売り上げは2倍以上に伸びた

□4半期決算より世代を超えた持続性を追求

□一般市場を自身がリーダーとなるニッチ市場に変える

□海外子会社は平均24社と会社規模に比べて多い

□ニッチ市場は顧客も少数、グローバル化に苦労しない

□1社の平均輸出額は3億ドル、10年前は1億ドル

□新興国市場では中国、ロシア、インドに注力

□ブラジルには、今は関心なし、しかし

□ドイツの海外子会社が最も多いのはラテンアメリカ

□グローバル化の勝者は中国とドイツ。

□中国は消費財で、ドイツは生産財で

□直接販売が80%、仲介販売は20%に過ぎない

□CEOは世界中の顧客と面談し顧客の全てを知っている

□顧客の85%が保守契約を結んでいる

□売上高研究開発費率は一般企業の3倍、絶対額は少ない

□従業員一人あたりの特許出願数は大企業の5倍

□特許1件当たりの出願費用は大企業の5分の一

□資金調達は戦略上の制約にはなっていない

□垂直統合比率は高く、アウトソーシング比率は少ない

□製造工具や組み立て機器は自前製造

□戦略提携は出来るだけしない

□従業員の病欠率は極めて少ない

□従業員の退職率も極めて少ない

□若くして経営者に、リーダも若いうちになる

□日本の隠れたチャンピオン企業はどうなのか?

長期的戦略より短期的効率を重視

企業規模がドイツ企業の2倍(大きすぎる)

国内では寡占だがグローバルでは低シェア

言語も含めて企業文化がグローバルでない

みんな都市に集中、ドイツでは地方に分散

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