145 変貌しつつある日本企業

昨日も、私が司会を務めさせて頂いている経団連産業政策部会が 経団連会館で開催された。この部会は、日本の26業種の代表 企業の戦略担当役員で構成され、政府に対して日本の産業政策を 答申するための組織である。部会長の私はともかくとして、流石 、日本を代表する企業の戦略家たちのご意見は大変貴重なものが ある。あの3月11日以前は、電力業界からは東京電力の西沢常務 (当時の役職、現社長)が常時この部会に参加され、いつも 貴重なご意見を頂戴していたのだった。

その3月11日の大震災直後に開かれた2011年3月18日の部会では、 それまで1年間議論してきた結果である政府への提言書の最終 審議が行われた。時の菅総理大臣宛に出す資料であるが、この時 、部会のメンバー全員一致で、この提言書を破棄することが決め られた。理由は、「もはや今までの日本ではない。全ての前提条 件を変えて考え直さないとダメだ。」ということである。

さて、さすれば、この部会は、いつから、どのように再開するか ?という議論になった。ともかく、部会のメンバー各社の個社の 経営戦略をやり直さなければならないので、まずは、そちらが最 優先で、政府への政策提言の答申案作成は、その後だということ になった。

そして7カ月間の休会を決めた。これは、極めて合理的なやりかた だったと今でも自負している。しかし、その後の7カ月間には、 東日本大震災を追い打ちするように、タイの大洪水、ヨーロッパ の財政危機からくる対ドル、対ユーロの猛烈な円高と、これまで の経営戦略、事業戦略の根本から見直さざるを得ないような激震 が次々と起きてしまった。

そして、昨年9月から毎月3社ずつ、昨日までの足かけ9カ月間に わたり、合計26社の戦略担当役員が直接語られる形で、新たな 事業戦略、経営戦略のご説明を頂いた。それが、昨日、ようやく 完了したわけである。私は、この部会を大震災まえから取りま とめさせて頂いてきたわけだが、明らかにメンバー各社の姿勢 が、この大震災を契機に大きく変わったと思わざるを得なかった。

とにかく、各社とも、見直された事業戦略/経営戦略を極めて ご丁寧に説明されるのだ。そして、ご説明が終わった後の質疑 応答でも、私が「ご回答されにくい質問には、無理に、お答え 頂かなくて結構です」と申し上げているにも関わらず、かなり 立ち入った質問に対しても、各社ともに実に丁寧にお答え頂い たことには、感動すら覚えたものである。「日本の各企業は一 体どうなったんだろう。何が起きたんだろう?」と私なりに、 いろいろ考えてみた。

これほどに、個社の戦略を丁寧に説明して頂ける背景には、各 社とも、この世界の激変に対して、やはり確固たる自信を失っ ているのではないかと私は推論する。そして、もう一つは「も はや日本と言う小さいパイの中でお互いに疑心暗鬼になって、 同士討ちや探り合いをしている場合ではない」という危機感も 醸成されたに違いない。この部会の中で、自社の戦略を丁寧に 説明して、むしろ厳しい批評を受けたい、あるいは土足で立ち 入ってきたような質問にも、丁寧に答えることによって、自社 の戦略のレビューが出来るのではないか。そう考えておられる としか思えない、この9カ月間のやりとりだった。

9カ月間、26社の事業戦略・経営戦略をお聞きして、思ったこ とは、各社とも悩んでいる課題が、まさに共通しているという ことである。それと、もはや政府に期待しても実現してもらえ そうもないことは早々に諦めて、自身で何とかするしかないな と腹を括ったとも言える。まず公助は期待できないから、自助 で何とかするという決意である。その上で、こうして同じ苦しみを 持つ日本企業同士が何とか一緒に問題解決に動けないかという 共助の心が芽生えてきたとも言える。

つまり結論から言えば、各社とも日本から脱出すべきか? 日本に留まるべきか?という悩みは一切なくなった。コスト が競争力に大きく影響する事業は、もはや日本では出来ない ということである。そうした前提での課題は、やはり人材育成 である。特にグローバル人材であり、この人材には当然日本人 だけでなく外国人も含まれる。

さらに、経営陣そのもののグローバル化は、各社とももっと深 刻な課題となっている。経営陣が全員日本人で、日本語だけで 会議運営を行うのでは、グローバル経営など全く不可能だから だ。こうした観点から政府に提言すべき政策提言はかなり出て くるが、これは産業政策と言うよりも、むしろ教育政策や労働 政策も含まれる。

そして、やはり、日本から出せない、あるいは出ていけない 事業は各社とも当然のことながら相当量ある。この部分の 競争力をどうするかという課題もかなり大きい。この部分を きちんとやらないと国内の雇用は大変深刻な状況となり、 日本と言うベース基盤が崩壊してしまっては、日本企業の存 続もあり得ない。

その答えとして、よく議論されることが、サービス業の拡大 、とくに介護や医療産業の育成と言われるが、私は、この議 論には必ずしも賛成できない。従来と異なり、サービス業は 、もはや雇用を吸収する産業ではなくなっている。世界で一 番サービス業が発達しているアメリカを見てみると、就業人 口は増えるより、むしろ減っている。つまり、従来の人手に よるサービスが、どんどんIT化され無人化されているから である。

そして介護や医療産業は、誰がその支払いをするかという 根本的な課題がある。これらの産業は、支払能力で上限が あり、売上や雇用は、その範囲を絶対に超えることは出来な いという制限がある。そう考えると、やはり雇用の確保という 意味では「生産し、輸出して富を生み出す事業」、それは、 農業や林業、水産業と並んで、ものづくりという製造業を 国内で行うしかないと考えるべきだ。

そして、その国内立地でも国際競争力が見込まれる製造業 に対して、規制緩和や税制優遇を要請する、あらたな産業 政策の提言を行っていかなければならないと思っている。 今回、大震災と言う未曽有の不幸を経験して、そうした知 恵だしを皆で考えて行こうと言う風土が出来たように思う。 来月以降、会員各社の方々と、こうした有意義な議論を一 緒に進めて行きたいと思っている。

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