143 ハルビン旅行記 (その2)

731部隊跡地資料館を見学して、相当に落ち込んだ後、重工業都市ハルビンが誇るハルビン電機グル―プ傘下のタービン工場を見学した。工場と言っても、このタービン製造の工場敷地の景観はまるで大学のキャンパスのように美しい。工場建屋間には広い道路が縦横に走っており道路の両側には街路樹が整然と植えられている。「どうして、この工場は、こんなに綺麗なんですか?」という私の質問に対して、タービン工場幹部は「ソ連が自国のタービン工場と全く同じものを、ここハルビンに建設したんですよ」と答えた。そうなのだ。ソ連国境に接する、ここハルビンの町は、ソ連が中国の近代化を支援する最初の入口となったのだ。

私は、タービンの製造工場を初めて見た。一般的に加工工場は、部品を組み上げて製品を作るものだが、このタービンについては羽の部分は除いて回転軸については大きな鋼鉄の塊を削りだして作るのだ。巨大な鉄の塊を扱う工場は、まさに男の職場と言えるのだが、工員さんの半数は女性であった。確かに何十トンもの重量を持つ鉄の塊は、いくら頑健な男であっても自分の手で持ち上げられるものではない。そして研削マシンはもちろん自動加工機である。それを繊細に操るのは、むしろ女性の方が向いているのかも知れない。

そして、この工場は本当に清潔で綺麗である。工員さんは、自動機を遠くで見守りながら常に職場の周囲を一所懸命清掃をしている。だから、工場の中にはチリ一つ落ちていない。重工業製造業という業種の性格もあるだろうが、工場内の時間は非常にゆっくりと流れている。同じ中国でも、民間運営の中小企業と、こうした国営大企業とはゆとりの面でも随分違うように見える。

私は、日本メーカーのタービン工場を見学したわけではないが、こんなに沢山のタービンが同時並行で製造されている工場はあるのだろうか?と思う。小は5万キロワットから大は100万キロワットまで、私たちが見せて頂いただけで100本以上のタービンが同時に製造されている。今、中国市場は全世界のタービン市場の40%近くを占めている。その中国市場を中国の3大メーカー(ハルビン、上海、東方)が独占していることを考えると、このハルビン・タービンは少なくとも世界市場の10%近いシェアを持っていることになる。

もっと具体的に言えば、現在のハルビン・タービン工場の製造量は、年間2000万キロワットとのこと。しかし、3年前のピーク時は3000万キロワットだったので、やはりピーク時からは相当落ち込んでいることは間違いない。しかし、2000万キロ、3000万キロとは何と凄いレベルのことを言っているのだろう。東京電力を除く日本の電力会社1社分のタービンを、このハルビン・タービンは毎年製造していることになる。青島の家電大手ハイアール社の工場の規模を見たときもそうだった。何しろ、ハイアールの工場は地平線まで広がっているのだから。もはや日本企業は、規模で中国企業と競うのは無理だと思った方が良い。新日鉄・住金の事例のように日本国内の一位・二位・三位の大合併というような抜本的なM&A戦略の検討が必要となろう。

さらに、私はタービンの専門家でも何でもないので、タービン製造というより、この工場に、どんな製造設備が使われているのかに興味がわいた。どの製造現場にも、最新技術を用いた超臨界、超超臨界タービン製造のために、真新しい最新設備が導入されている。後ほど、ハルビン工業大学の先生曰く「中国の工場は設備一流、技術は二流、製品は三流」とは、まさに謙遜されてのことと額面通りは受け取れないが、どうも「設備一流」だけは本当のようだ。中国の国営大企業は製造設備には惜しみなく投資を行うように見える。そして、その製造設備の殆どはドイツ製で、残りがイタリア製である。それも、誰もが知っている有名な大企業の製品ではない。たぶん、タービン業界では名が通った会社なのだろうが私は一度も聞いたことがない。

これなんだと私はハタと思った。このドイツやイタリアの設備メーカーこそが、最近、大変気に入った著作「グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業」の中で記述されているエクセレントカンパニーの典型である。好調なドイツ経済を支えるグローバル・ニッチ企業は世間の人が名も知らぬ隠れた企業なのだ。もはや日本企業も、企業規模で中国企業や韓国企業と競う時代ではない。今の日本の社会構造では、コストで戦っても中国や韓国、台湾に勝ち目は全くない。むしろ、私たち日本企業が学ぶべきは、ドイツやイタリアの隠れたグローバル企業、グローバル・ニッチを目指す企業なのだと、このハルビン・タービン工場を見学して感じた私の結論である。これこそが日本が目指すべき産業構造の大転換なのではないだろうか。

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