12.世界のエネルギー・リーダー達 

福島第一原子力発電所の事故は、安定収束に向けて、未だに解決の道を見出せないでいる。しかし幸いなことに、大気中の放射能濃度を示すモニターの値は、3月16日早朝のピーク時の3分の一以下になり、この2-3日は安定状態を保っている。関係者の捨て身の努力のお陰だと心から感謝したい。相変わらずマスコミは、炉心を水で冷やすことと、溢れた水が土壌や海水に漏れることの両方を解決すべしと無理難題を言っている。ここは、まずは炉心を冷やすことが唯一最大の目的ではないのかと思うのは私だけだろうか。課題の優先順位を明確にしないと、収束を一層遅らせることになる。そして、これほど難しい原子力発電所を、かなりの無理をしてまで作らざるを得なかったのは、やはり日本を含めて世界全体が抱えているエネルギー問題がいかに深刻であるかを物語っている。今日は、このエネルギー問題に関して世界のリーダー達がどんなことを言っているのかについてご紹介したい。

昨年まで毎年参加していた、スイスで開かれるダボス会議。そこで、エネルギーの専門家として必ずパネルディスカッションに登場するのは、英国の石油メジャーであるBPのTony Hayward CEOと、米国の電力会社 Duke Energy社のJames E. Rogers CEOだった。この二人は、エネルギー業界のCEOとしては珍しく地球温暖化防止のために過激な論戦を張る低炭素化推進者であった。特にHayward氏は、「BPは、今後、脱石油を目指すエネルギー企業となる。」と宣言するほど過激な発言をしてきた。これは全く驚くに値する。だってBPは世界で五本の指に入る巨大石油メジャーである。このBPが石油から他のエネルギーへ積極的に転換するというのだから、やはり驚きである。実際、Hayward CEOは、まず積極的に石油から天然ガスへの転換を図っていた。もちろん、風力発電や太陽熱発電などの自然代替エネルギーにも巨額の投資を続けてきた。そして、米国カルフォルニア州では、CCS(CO2を吸収・固定化して地下に貯蔵)を装備した大規模な石炭火力発電所の建設まで企画した。そのように世界から尊敬を集めていたHayward氏も、事故には勝てないものである。昨年のメキシコ湾の海底油田の火災事故の責任を取って退任した。もう、あの爽やかな笑顔でアグレッシブな論戦を張る姿を見ることができないのは本当に残念である。

そして、Duke Energy社のRogers CEOもHayward氏に負けず劣らず過激な論者である。私は、一昨年、ダボス会議中に開かれたパネル討論付きディナーに招かれた。招待してくれたのは世界最大の半導体製造装置メーカーであるアプライドマテリアルのMichael Splinter CEOだった。Splinter氏は、アプライドマテリアルのCEOに就任する前は、Intel社のグローバル営業のTOPであり、私が富士通でパソコン事業の責任者だったときからの付き合いである。さて、その日のパネルの登壇者は、ホストであるSplinter氏とRogers氏と、もう一人は、あの「フラット化する世界」の著者であるトーマス・フリードマン氏だった。なにしろ、この3人は、アメリカ人だから構わないのだろうが、何と1時間以上も、当時のアメリカ政府、ブッシュ政権のエネルギー政策を目茶苦茶にこき下ろし続けたのである。

特に、Rogers氏の批判の矛先は、ブッシュ政権だけに留まらず、アメリカの電力業界全体にまで波及していった。「大体、アメリカの電力業界なんて環境問題など全く考えていない。安い石炭を今までどおりに焚いて電気を作り続けることを、これから何百年も続けるつもりなのだ。もう、私はアメリカの電力業界から脱退したいくらいだ。」と言われた。これを聞いて、私がちょっと心配になったのは、やはり、アメリカでは、このRogers氏の方が少し異端で、いずれアメリカの電力業界から放逐されてしまうのではないかということだった。しかし先週、嬉しいニュースが飛び込んできた。Rogers氏率いるDuke Energy社は、同業の米プログレス・エナジーを137億ドル(約1兆1400億円)で買収し、サザン社を抜いて米国最大の電力会社となったのだ。

さて、話は変わるが、一昨年のコペンハーゲンで開催されたCOP15は残念ながら、うまく行かなかった。このCOP15の議長だったデンマークのエネルギー担当兼環境大臣、コニー・ヘデゴー女史は、このCOP15が成功すればデンマークの首相になるとも言われていたのだが、途中で議長までも退場せざるを得なかったのは、さぞかし無念だったろう。私は、そのヘデゴー氏から、COP15に先立つこと6ヶ月前の地球温暖化防止に向けたビジネスサミットに招待された。世界のビジネスリーダー800人がコペンハーゲンに集まって、地球温暖化防止に向けてCO2削減のための行動を起こすことを誓ったのだ。そのビジネスサミットへ行く前に、私は渋谷代官山のデンマーク大使館に招待され、ヘデゴー大臣とTV会議で事前の打ち合わせを行った。この辺までは、ヘデゴー大臣は緻密な根回しをしていたように見えた。なにしろ、私が同席させて頂いた日本側の相手は、小池百合子元環境大臣だったからだ。そのとき、小池さんとヘデゴー女史は、ともに、環境大臣経験者で女性の総理大臣候補という点で共通していたのだった。お二人は旧知の仲のようで、TV会議で親しく話されていた。

その事前のビジネスサミットは、本番のCOP15とは異なり大成功だった。ヘデゴー大臣も、その成功でかなりの自信を持たれたに違いない。潘基文国連事務総長、ゴア元米国副大統領、IPCCのパチャウリ氏を始め、先述のBPのHayward CEO、Duke Energy社のRogers CEOも参加されていたが、ここで、これから述べる、世界を代表する二人のエネルギー・リーダーに会うことが出来た。まず最初の一人は、デンマークが誇る世界最大の風力発電機メーカーであるベスタス社のDitlev Engel CEOだ。このビジネスサミットのディナーで隣の席になったのは私にとっては大変幸運だった。いろいろ興味のある話を聞くことができた。

まず第一点目は、なぜデンマークは風力発電に注力したか?である。デンマークは北海油田を保有しており、未だ豊かな埋蔵量も残っている。そして石油の輸出国でもある。エネルギー問題では全く困っていない。それでもユカタン半島で吹き続けある強い風を利用した風力発電をビジネスに出来たらデンマークの産業振興に役立つと考えたからだそうだ。そして、二点目は、風任せの風力を既存の電力網に総電力量の17%も取り込むのには、ITの力を使い尽くして10年の歳月を要したというのである。まさにスマートグリッドのはしりである。ちなみに、デンマークはIT利用に関する競争力で3年連続世界一に輝いている。つまり、風力発電機というハードだけ作っても役に立たないわけで、それを活用する運用技術、ソフトウエアが一緒にあって初めてエネルギーシステムとして一人前だと言うわけだ。最後の3点目が一番ショックなことだった。Engel氏は、自ら日本中をくまなく回って風力発電の適地を探したらしい。その結果、日本は北海道と東北の一部を除いて風力発電には適さないという結論を得たと私に語ってくれた。

次に、このビジネスサミットで会ったエネルギー・リーダーはインド最大の電力会社であるTata PowerのAnil Kumar Sardana CEOだった。このSardana氏が語ってくれたことは、私にとっては、まさに目から鱗で大きな発想の転換点を与えてくれた。

 「インドには、未だ電気を利用できない人々が5億人も居る。私達、電力会社の最大の使命は、インド国民全員が平等に電気を使える環境を整備することだ。だから、インドは、これからCO2をどれだけ減らすかという議論には残念ながら参加できない。しかし、どれだけ効率的に、そしてCO2を出来るだけ発生させない電力の作り方を開発しなくてはならない。インドは、未だ貧しい。だから先進国の真似をしてコストがべらぼうに高い太陽光発電を導入することなど絶対にできない。そして、インドは広大な国でもある。今、電気を使えない人々が住む地域に対して、これから送電線を張り巡らす費用などどこからも出てこない。その答えは、ローカルグリッドであり、アグリマス発電だ。出来るだけ送電線を張らない地産地消のシステムを作る。そして発電の原料は豊富にある牛の糞だ。よくアグリマス発電は原料のエネルギー密度が低いので運搬コストが高く採算が合わないと言われるがインドではそのような心配は要らない。朝飯前に、皆で牛の糞を拾いに行けば、タダで幾らでも集まるからだ。」

 素晴らしい。何と豊かな発想だろう。世界中の皆が、こうした発想をすれば、人類の未来はもっともっと豊かになるだろうに。

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