81 アジアビジネスサミット

昨日、経団連会館で行われた第二回アジアビジネスサミットに参加した。ランチタイムには玄葉外相、枝野経産相、夕方の記者会見とパーティには野田総理大臣も参加された。私は、この会議には昨年の第一回に引き続き、経団連・産業政策部会長として経団連メンバーとして参加させて頂いている。

この会議は、日本、中国、インド、韓国、台湾、フィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアと、経済成長という視点からは、日本を除いて、世界から注目されている国々の経済団体のTOPが参加する会議で、昨年に引き続き日本で第二回目が開催された。

昨年も同様だったが、一般的な国際会議と少し違う様相を見せている。第一は、暗い話題がないということだ。殆どの参加国の経済が成長途上にあることで、全てが前向きの議論に終始する。そして、二番目はアジアの各国にとっては、かつての目標であり、先達でもあった、アメリカや欧州の国々が参加していないことにある。だから、皆、少しも臆することなく伸び伸びと意見を述べられる雰囲気にある。さらに、第三番目は、これは私の個人的な感想だが、日本が参加各国から信頼され、リーダーシップを期待されていたことだ。

誰が見ても、アジアの大国は、日本を抜いて、今や世界第二の経済大国になった中国である。その中国が、現在、東シナ海から南シナ海へと覇権を確立するための軍備拡張を行っていることに対する、アジア各国の恐怖感があるのだろうか。中国を牽制し、中国にリーダーシップを取らせないために、日本に「頑張れ」とエールを送っているようにも見える。中国の代表も、そうした会議の雰囲気を意識してか、極めて友好的な意見に終始していた。

いずれにしても、従来、ある意味で頼りにしてきた、米国や欧州の経済・財政危機は、例えば、ドルやユーロという決済通貨の乱高下で、アジア各国に大きな影響を与えている。特に、最近は、ASEANと東アジア、インドを含む域内の経済が活性化されている中で、欧米経済の混乱に巻き込まれたくないという意識が強くなってきている。1997年に起きたアジア経済危機の再来は、もう二度と御免蒙るというわけだ。そして、1997年当時と大きく違うのは、アジア各国が、合わせると莫大な外貨準備高を保有しているということにある。

こうした中で、少なくともアジア域内だけでも、ドルやユーロに左右されない、独自の決済手段を持ちたいという願望が各国から上がってきた。そして、その通貨とは、特定の国の通貨である人民元や円、ウオンではなくて、これらをバスケットした仮想通貨(ECUもどき)のものにしたらどうかという提案もあった。一方、この提案に対しては、ECUから発展したユーロが財政問題から危機を迎えているなかで、特に日本の金融界からは慎重論が出ていたが、何か、良い案を模索するという点では、皆、一致している。

そして、この会議の最大の目的は域内の経済連携促進にあり、皆が想定している当面の目標はASEAN+3(日本、中国、韓国)であり、ASEAN+6(日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド)であり、決して、TPPではない。しかし、アジア諸国は、アメリカ依存度が非常に高い日本が、TPPも出来ないのであれば、ASEAN+3も+6も無理だろうと懸念しているのである。会議中も、「日本はなぜTPPを円滑に進められない?」という質問が多くあり、大変奇妙な光景であったが、TPPを一番推進している経団連の米倉会長が、「大震災の影響で検討が遅れている」と日本政府を弁護することになった。

農業問題は欧米の先進国も全て同じ問題を抱えているが、国内の補助金で解決を図っている。先進国中で農業に補助金を出していない国は一つもない。つまり、農業問題は国内問題であって国際間で交渉する問題ではなくなっているのだ。日本の農業生産額は、たかだか五兆円であり、GDPのたった1%である。だから農業問題がどうでも良いと言っているわけではなく、残りの99%の産業が農業を手厚く支援したほうが、トータルとして日本の全産業で受ける恩恵は遥かに大きいものとなる。農業団体や農業議員がTPPを初めFTAやEPAなどの経済連携に対して反対しているのは、政府が直接補助金行政を行うと、自分たちの存在価値が希薄になるからだと考えられなくもない。農業を若い後継者達に魅力ある職場として環境整備するには、どのような補助金政策にするか、国民皆で議論すればよい。少なくとも、現在の戸別補償制度はそうなってはいない。

次に、アジアの人々が日本に対して高い関心を持っていたのが、今回の福島第一原発事故であった。アジア各国の経済団体から発表されたエネルギー政策は、表立っては、再生可能エネルギーを最大限利用するという方針が示されたものの、「脱原発」、「減原発」の話は全く出なかった。当たり前である。年率で10%近い電力需要の拡大をこなすには、当面は原子力発電以外の解はない。それだけに、アジア諸国は、高い技術力を持った日本が、あれほど酷い原発事故を起こしてしまったことに大きなショックを受けている。だからこそ、現実に事故を体験した日本に頼って、事故を起こさない原子力発電所建設の指導をしてもらいたいと願っているのだ。

そのほか、いろいろな議論がなされた中で、私が一番興味を持ったのは中国国際貿易促進委員会の干平副会長の次の言葉だった。つまり、「中国では社会インフラとはコネクティビティと同じ意味に考えている。道路や鉄道、港湾や空港は人と物のコネクティビティ。通信インフラは、情報のコネクティビティ。金融インフラはサービスのコネクティビティ。そして、経済連携という仕組みは、これら全ての共通インフラであり、人や物やサービスや情報といった全てのコネクティビティに貢献する。」さすが、中国の政策立案能力は世界一である。政策の中身の思想が綺麗に整理されている。

来年、第三回目のアジアビジネスサミットはタイのバンコクで開催されることが決まった。まさに、「アジアの時代」が到来してきた。せっかく、アジア諸国から大きな期待をされている日本が「コネクティビティ」を妨げるような役割を担うことがないよう、日本国内でのもっと成熟した議論を望みたい。

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